気体の熱力学の解説
文: KOSNiZ·最終更新: 2026年9月2日
気体の熱力学は、使う式が実質2本しかない単元です。理想気体の状態方程式 と、熱力学第1法則 です。それなのに難しく感じるのは、この2本を「どの変化で・どの量が0になるか」という条件と組み合わせて運用する必要があるからです。この記事では、その運用のしかたを整理します。
状態方程式の使い方
ボイルの法則、シャルルの法則、ボイル・シャルルの法則は、すべて状態方程式の特別な場合です。温度が一定なら が一定、圧力が一定なら が一定、というだけのことで、覚えるのは の1本で足ります。
ここで最初の関門が、温度を絶対温度 K で扱うことです。27℃ は 300 K、0℃ は 273 K で、シャルルの法則で「温度が2倍」と言えば絶対温度が2倍という意味です。シャルルの法則とボイル・シャルルの法則で、℃ を K に直してから式に入れる手順を体に入れてください。
もう1つ、気体の量の感覚として「1 mol は 0℃・1気圧で約 22.4 L、常温なら約 25 L」を持っておくと、状態方程式から物質量を求めるのような問題で桁の間違いに気づけます。
第1法則の運用
熱力学第1法則 は、「気体に与えた熱 は、内部エネルギーの増加 と、気体が外へした仕事 に分かれる」という収支の式です。単原子分子の理想気体では なので、 は温度変化だけで決まります。
4つの変化で、それぞれ何が0になるかを整理すると次のようになります。
| 変化 | 0になる量 | 残る関係 |
|---|---|---|
| 定積変化 | ||
| 定圧変化 | なし | |
| 等温変化 | ||
| 断熱変化 |
基礎の定積変化から断熱変化までの4問は、この表を1行ずつ確かめる問題です。とくに断熱変化で「仕事をした分だけ温度が下がる」(断熱膨張で冷える)という関係は、この単元の理解度を測る目安になります。
仕事 は、P-Vグラフで曲線の下の面積として読めます。P-V グラフと仕事で面積の読み方を確認したうえで、標準の長方形サイクルの正味の仕事に進むと、「サイクルが囲む面積 = 1周で外へした正味の仕事」という見方が身につきます。
つまずきやすいところ
最も多い誤りは、 の符号です。このサイトでは「気体が外へした仕事」を とし、圧縮されたときは とします。教科書によっては「気体がされた仕事」で書くものもあるので、どちらの流儀で式を立てているかを最初に確認してください。
次に多いのが、定圧変化で ・・ の配分を取り違えることです。単原子分子なら になります。標準の定圧変化のエネルギー配分でこの比を確かめてください。モル比熱の関係 (マイヤーの関係)も、この配分から出てきます。
熱効率の計算では、「サイクル全体で吸収した熱」と「放出した熱」を区別する必要があります。効率は で、分母は吸熱した過程の熱だけの合計です。熱機関の熱効率と応用の長方形サイクルの熱効率で、各過程の の符号を1つずつ確認する手順を練習してください。
学習の順序
基礎12問の前半(ボイル・シャルル・状態方程式)は数学的には比例の計算で、ここで絶対温度と単位の扱いを固めます。中盤の分子の平均運動エネルギー と内部エネルギー は、「温度とは分子の運動エネルギーのことだ」という物理の要点です。後半が第1法則の4変化とP-Vグラフです。
標準12問には、水銀柱と気柱、二乗平均速度、2つの容器の接続、モル比熱、断熱圧縮、熱気球、熱効率が入ります。熱気球の原理は、密度 が温度に反比例することを浮力に結びつける問題で、状態方程式の応用範囲の広さがわかります。
応用8問には、気体分子運動論による圧力の導出、断熱自由膨張、ばね付きピストン、温度の異なる気体の混合、仕事の経路依存性、三角形サイクルの熱効率を置きました。気体分子運動論(圧力の導出)は、力積・往復回数・力・圧力・等方性の5段階で圧力の式を導く問題で、入試の記述で最も出る導出です。
入試での出方
入試では、P-Vグラフ上のサイクル(長方形・三角形・等温と断熱の組合せ)で、各過程の ・・ を表にして熱効率を求める問題が定番です。もう1つの定番が、ピストンで仕切られたシリンダーで、力のつり合いと状態方程式を連立させる問題です。最難関編には、カルノーサイクル、2室に仕切られたピストン、大気圧の高度分布、断熱変化の式 一定の導出など、この単元を深く理解するための題材を集めました。
ピストンの問題の立て方
サイクルと並んで頻出なのが、シリンダーとピストンの問題です。この型は、状態方程式だけでは解けず、ピストンにはたらく力のつり合いを組み合わせます。
手順は決まっています。まずピストンに着目して、気体の圧力による力 、大気圧による力 、ピストンの重さ 、ばねや外力があればその力を書き出し、つり合いの式から気体の圧力を求めます。次に、その圧力を状態方程式に入れて、体積や温度を求めます。鉛直に立てたシリンダーなら 、逆さにすれば で、「圧力を先に確定させる」のが順序です。
応用の鉛直シリンダーの向きと気柱は、この2通りの圧力で気柱の長さがどう変わるかを求める問題です。ばね付きピストンの加熱では、圧力がピストンの位置とともに変わるので、P-Vグラフが直線になり、仕事が台形の面積として求まります。最難関編のピストンで仕切られた2室は、両側の気体の圧力が共通であることを使って、「決まる側」から順に解く問題です。
関連する単元
物理基礎の「熱とエネルギー」で学んだ熱量と比熱、熱効率の考え方が前提です。ピストンのつり合いは力学の「力と運動の法則」、ばね付きピストンは「単振動」とつながります。音速と比熱比の関係(最難関編)は波動の単元との橋渡しになります。