数学C / 平面ベクトル

平面ベクトル ★ 基礎の問題 全12問

教科書レベル。定義・公式の確認と基本操作

難易度: ★ 基礎·★★ 標準·★★★ 応用·★★★★ 難関·実戦編·最難関編

  1. ベクトルの大きさ
  2. ベクトルの和
  3. ベクトルの実数倍と差
  4. 内積(成分)
  5. 内積(定義)
  6. なす角
  7. 平行条件
  8. 垂直条件
  9. 内分点の位置ベクトル
  10. 単位ベクトル
  11. 三角形の重心
  12. ベクトルの大きさ(負の成分)

問1ベクトルの大きさ

★ 基礎ベクトルの大きさ

問題

ベクトル の大きさ を求めよ。

ヒントを見る

ベクトルの大きさは、成分がつくる直角三角形の斜辺。三平方で出す。

解答・解説

方針

ベクトルの大きさは成分の 乗の和の平方根。。三平方の定理と同じ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) ベクトル を、矢印として描いてみよう。

原点から、右へ 、上へ 進んだ点への矢印だ。この矢印の長さを求めたい。

横に 、縦に の直角三角形ができる。 矢印はその斜辺である。斜辺の長さは三平方の定理で求まる。

ベクトルの大きさとは要するに矢印の長さ。 そして矢印の長さは成分を 辺とする直角三角形の斜辺だ。

新しい公式のように見えるが、中身は中学で習った三平方の定理そのものである。

「ベクトルの大きさ 成分から作る直角三角形の斜辺」。この単元の計算はすべて、この見方をもとにしている。

公式ベクトルの大きさ ()

成分の 乗の和の平方根。

xyOa(3,4)
ベクトル(3,4)の大きさは √(3²+4²)=5

まとめ:ベクトルの大きさは「原点から成分の点までの距離」= 三平方の定理。 の大きさは (-- の直角三角形)。矢印の長さを表す。

発展。 「距離」を測る方法は つではない。

ふだん使っている はユークリッド距離と呼ばれる。だが、別の測り方もある。

マンハッタン距離。

なら 。

なぜ「マンハッタン」か。 碁盤の目のような街(ニューヨークのマンハッタン)では、斜めに突っ切れないからだ。

東へ ブロック、北へ ブロック進むには、必ず ブロック歩く。 直線距離の ではない。タクシーで移動するときの実際の距離は、こちらである。

チェビシェフ距離。

なら 。

チェスの王(キング)の移動回数だ。 斜めにも マス動けるので、 回で着く。

つの距離を並べてみよう。

どれも「距離」として、きちんとした性質をもっている。

距離の公理。

① 、等号は のとき

② (対称性)

③ (三角不等式)

この つを満たせば、何でも「距離」と呼んでよい。では、なぜユークリッド距離が特別なのか。回転しても変わらないからだ。

座標軸を 回転させても、 の値は変わらない。

マンハッタン距離は変わってしまう(斜めの道が使えるかどうかで、話が変わる)。「回転で不変」という性質は、物理法則を表すときに大事になる。

空間に「特別な方向」はない。 どの向きから見ても、物理法則は同じ形をしている。その要請に応える距離がユークリッド距離である。

そして、この「回転不変性」こそが内積という概念を生む。次の問題から、内積を扱っていく。

答

別解

答えが という整数になる理由(ピタゴラス数)。

この問題の答えはきれいな整数 になった。だが、これは特別なことだ。たとえば なら

無理数になる。 割り切れない。 なら 、 なら で、どれも無理数だ。

成分が整数でも、大きさはほとんどの場合、無理数になる。 の はたまたま整数になった例である。この幸運な組み合わせを、ピタゴラス数という。

他にもある。

辺がすべて整数になる直角三角形は、無限に存在する。

問題を作る人はたいていこの組み合わせを使う。 答えがきれいになるからだ。 と を覚えておくと、計算がぐっと楽になる。

さて、大きさの意味を、もう一段深く考えよう。

これは「原点から点 までの距離」でもある。そして、 点 、 の距離は

「 点間の距離」と「ベクトルの大きさ」は、同じものだ。さらに、複素数でも同じ式が出てくる。

複素数の絶対値もまったく同じ計算。座標平面の距離、ベクトルの大きさ、複素数の絶対値の つが、 つの式で結ばれている。

すべての根っこにあるのは、三平方の定理だ。 年前のピタゴラスの定理がいまも数学のいたるところで働いている。

ポイント

  • (三平方の定理)。
  • の大きさは 。

よくある間違い

  • 乗を忘れて としてしまう。各成分を 乗してから足す
  • を としてしまう。
  • 成分をそのまま足して とする。大きさは斜辺の長さで、 辺の和ではない

問2ベクトルの和

★ 基礎ベクトルの和

問題

、 のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

ベクトルの足し算は成分ごとに足すだけ。

解答・解説

方針

ベクトルの和は成分ごとに足す。。図では の終点から をつなぐ(または平行四辺形の対角線)。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) ベクトルの和は、成分ごとに足すだけだ。

成分どうし、 成分どうしを、それぞれ独立に足す。横の動きと縦の動きは互いに干渉しない。この計算が図では何を意味するのか。

つの見方がある。

① 継ぎ足し(三角形則)

の終点に、 の始点をつなぐ。 出発点から最終地点への矢印が和である。

「右に 、上に 進んでから、右に 、下に 進む」 → 結局「右に 、上に 」

② 平行四辺形則

と を、同じ点から出る 辺として平行四辺形を作る。 その対角線が和になる。どちらの見方でも、答えは同じ。

「成分では独立に足す。図では継ぎ足す。」 この つを結びつけておこう。

公式ベクトルの和 (成分ごとに足す)

xyOaba+b
a=(1,2), b=(3,-1)。a+b=(4,1)(a の終点から b をつなぐ)

まとめ:ベクトルの和は成分ごとに足すだけ。図で見ると、 の終点に をつなぐと の終点にたどりつく(または つを 辺とする平行四辺形の対角線)。

発展。 ベクトルの和は「移動の合成」だった。この考え方は物理のあらゆる場面で使われる。

力の合成。

物体に、 つの力が同時にはたらいている。

物体はどちらに動くか。

答えは和のベクトル の向き。

つの力は、まるで つの力( 合力)がはたらいているのと同じ効果をもつ。この事実を力の平行四辺形則という。

当たり前に見えるだろうか。 だが、これは実験的に確かめられた物理法則である。

数学的な必然ではなく、自然界がそのようにできていることを、ニュートンたちが発見した。同じ合成が速度でも起こる。

川を渡る船を考えよう。

船の速度(静水中): 、つまり真北へ速さ

川の流れ: 、つまり東へ速さ

実際の船の動きは和のベクトル。

船は北東方向へ、速さ で進む。「まっすぐ北を向いているのに、東へ流される」のは、川を泳いだことがあれば体で知っている現象だ。この計算ができると、実用的な問題が解ける。

「川の流れが東へ のとき、真北に着くには、どちらを向いて漕げばよいか?」求める船の速度を とすると、和が真北になればよい。

つまり、西へ の成分をもつように、やや西向きに漕ぐ。

流れに逆らって、あらかじめ上流を向く。船乗りが経験的に知っていたこの技術が、ベクトルの引き算で説明できる。そして、この「合成と分解」は、あらゆる工学の基礎になっている。

  • 飛行機: 推力・揚力・重力・抗力の つのベクトルの釣り合い
  • 建築: 建物にかかる力の分解(垂直方向・水平方向)
  • ロボット: 関節の動きを合成して、手先の位置を制御

「ばらばらの量を、独立した成分に分けて、それぞれ足す」この単純なルールが、多くの工学の設計に使われている。

答

別解

ベクトルの和を「移動の合成」として体感する。ベクトルを「移動の指示」だと思ってみよう。

この つの移動を、続けて行う。

まず、東へ 、北へ 。 出発点から見て、 の位置にいる。

次に、東へ 、南へ 。 そこからさらに動く。

最終的な位置は?

  • 東西方向: (東へ )
  • 南北方向: (北へ )

本解と同じ

この見方で、大事なことが つ分かる。

① 順番を入れかえてもいい。

先に ( 東 南)、次に ( 東 北)と動いても、

同じ地点 に着く。

移動は、順番を入れかえても結果が同じ。 これが交換法則の意味だ。(図で言えば、平行四辺形の 通りの辿り方。)

② 「東西」と「南北」は、混ざらない。

どれだけ東へ動いても、北への移動量は変わらない。この独立性が「成分ごとに計算する」ことの根拠になっている。さて、大きさについて確かめておこう。

足したベクトルの大きさ()は、 つの大きさの和()より小さい。

これを三角不等式という。

理由は明快だ。

「まっすぐ行く距離()は、遠回りする距離()以下」

寄り道するより、直行するほうが短い。 当たり前だ。

等号が成り立つのは、 と が同じ向きのとき。 寄り道が寄り道になっていない場合だ。「三角形の 辺の和は、残りの 辺より大きい」

中学の図形で習ったこの定理がベクトルでもそのまま成り立つ。

ポイント

  • 。
  • 図では終点をつなぐ(平行四辺形の対角線)。

よくある間違い

  • 成分で とすべきところを、マイナスを見落として としてしまう
  • 成分と 成分を混ぜて足してしまう。成分ごとに、独立して計算する
  • 和の大きさを だと思い込む。 は、和のベクトルの成分から計算し直す

問3ベクトルの実数倍と差

★ 基礎実数倍

問題

、 のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

まず実数倍(各成分に掛ける)を先に処理し、それから成分ごとの引き算。

解答・解説

方針

実数倍は各成分を定数倍、差は成分ごとに引く。 を求めてから を引く。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) は、 つの操作の組み合わせだ。

① 実数倍: を 倍する

各成分を 倍するだけ。 向きはそのまま、長さが 倍になる。

② 差: そこから を引く

成分ごとに引く。 成分は となる。マイナスの引き算に注意。

ベクトルの演算はすべて成分ごとに独立して行う。

足す、引く、定数倍するのどれも、 成分と 成分を別々に処理するだけだ。

図で言えば、 を 倍に伸ばし、そこから の分だけ逆向きに進む。「引く 逆向きに足す」と読み替えると、図が描きやすくなる。

公式実数倍 、差

① 実数倍を計算する。 。

② 差をとる。

xyO2a−b2a−b
2a=(2,4) の終点に −b=(−3,1) をつなぐと 2a−b=(−1,5)

まとめ:実数倍は各成分を定数倍、差は成分ごとに引く。 の符号処理に注意。ベクトルの計算は「成分ごとに、ふつうの数の計算」でできる。

発展。 ベクトル空間は「足す」と「実数倍する」の つの演算だけで定義される。

数学では次の性質を満たす集合を、ベクトル空間と呼ぶ。

① 足し算ができる( が、その集合の元になる)

② 実数倍ができる( が、その集合の元になる)

③ 交換法則・結合法則・分配法則が成り立つ

「矢印」でなくても、この条件を満たすものはたくさんある。

例 : 多項式。

足せる。

実数倍できる。

多項式の集合はベクトル空間だ。

例 : 関数。

足せるし、定数倍できる。 関数の集合もベクトル空間である。

例 : 数列。

足せる、定数倍できる。 やはりベクトル空間。「矢印」というイメージを捨てると、ベクトルとして扱えるものは大きく広がる。

そして、この抽象化には大きな利点がある。「ベクトル空間について証明したこと」が、多項式にも、関数にも、数列にも、そのまま適用できる。 度証明すれば、無限の応用が手に入る。

たとえば、「 次独立」という概念。矢印で考えるときは「平行でない つのベクトル」のことだった。

関数の場合はどうか?

と は 次独立だ( がすべての で成り立つのは、 のときだけ)。そして、「 と を基底とする空間」の中で、 の解がすべて書ける。

微分方程式の解がベクトルの 次結合として表現される。フーリエ級数も同じ話だ。

無限個の「基底ベクトル」(、)を使って、任意の関数を表す。関数を無限次元空間の点として見る。「足せて、定数倍できる」という条件だけから、現代数学の多くの理論が組み立てられている。

という素朴な計算は、線形代数という分野の出発点になる。

答

別解

答えを検算する(逆をたどって、元に戻るか確かめる)。

計算した答えは 。

この答えが正しいなら、 を足し戻せば、 になるはずだ。

確かめる。

ぴったり一致した。 計算に間違いはない。この検算はすぐに終わる。

符号ミスが起きやすいベクトル計算では、この習慣が命綱になる。さて、 を「逆向きのベクトル」として、図で見てみよう。

が「右へ 、下へ 」なら、 は「左へ 、上へ 」。向きが正反対で、長さは同じ。だから、引き算は「逆向きの矢印を継ぎ足す」ことになる。

「引く」という操作が、「逆向きに足す」に置き換わった。この読み替えは図を描くときにとても役に立つ。

引き算の図を描くとき、多くの人が迷う。 「どっちからどっちへ引くんだっけ?」

だが「逆向きに足す」と思えば、迷いようがない。 継ぎ足すだけだ。もう つ、大事な引き算の見方がある。

「 点を結ぶベクトルは、終点から始点を引く」この式は、 から へ行くには、いったん原点 に戻ってから へ行けばいい、という意味だ。

遠回りしても、着く場所は同じ。この「原点を経由する」というテクニックが、位置ベクトルの計算の基本になっている。引き算を「逆向きの足し算」と読み替えられるようになれば、ベクトルの計算で迷うことはなくなる。

ポイント

  • 、差は成分ごと。
  • の符号に注意。

よくある間違い

  • 成分で を としてしまう。マイナスを引くと足し算になり、
  • の実数倍で、片方の成分だけ 倍する。すべての成分に を掛ける
  • を と読み違える。 が掛かるのは だけ

問4内積(成分)

★ 基礎内積

問題

、 のとき、内積 を求めよ。

ヒントを見る

成分で表されたベクトルの内積の計算規則(掛けて足す)を思い出そう。

解答・解説

方針

内積は成分どうしの積の和。。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 内積は、成分どうしを掛けて足す。

計算そのものは簡単だ。だが、 つ気をつけてほしいことがある。内積の答えはベクトルではなく、ただの数(スカラー)だ。

ベクトルどうしを掛けたのに、答えがベクトルでなくなる。 ここが意外なところである。「 つの矢印から、 つの数を作る」

それが内積という演算だ。

では、その数は何を意味するのか。それは、次の問題(定義 )で明かされる。まずは「成分の積の和」という計算規則を、確実に身につけよう。

公式内積(成分)

成分どうしをかけて足す。

xyOab
a=(1,2), b=(3,4)。内積 a·b=1·3+2·4=11(成分どうしの積の和)

まとめ:内積は「成分どうしの積の和」。 成分の積 + 成分の積。結果はベクトルではなく数(スカラー)になる。なす角や垂直判定の基礎だ。

発展。 内積は「 つの向きが、どれくらい似ているか」を測る。この性質は現代のAIでも使われている。

言葉をベクトルにする。

自然言語処理では単語をベクトルとして表現する(単語埋め込み)。

(実際には 次元くらいのベクトルを使う。)似た意味の単語は、似た向きのベクトルになるように学習させる。そして、「意味の近さ」を、内積(を正規化したコサイン類似度)で測る。

  • → 向きがほぼ同じ → 意味が近い
  • → 垂直 → 無関係
  • → 逆向き → 反対の意味

「王」と「女王」の内積は大きい。 「王」と「バナナ」の内積は、ほぼ 。

さらに、有名な例がある。

ベクトルの引き算と足し算で、意味の演算ができてしまう。「男から女への変化」というベクトルが、「王から女王への変化」と同じ向きを向いている。これは、単語をベクトルにしたときに、「意味の構造」が幾何的な構造として現れることを示している。

そして、検索エンジンもこの原理で動いている。検索の言葉をベクトルにし、膨大な文書のベクトルとの内積を計算する。内積が大きい( 向きが似ている)文書を、上位に表示する。

「検索」は 次元空間で、検索の言葉のベクトルにいちばん近い方向を向いた文書を探す作業である。画像認識でも、推薦システムでも、同じことが起きている。

  • 顔認証: 顔の特徴ベクトルの内積で、同一人物かを判定
  • 推薦: 利用者の好みベクトルと、商品ベクトルの内積が大きいものを勧める
  • 翻訳: 意味ベクトルを、別の言語の空間に写す

この、掛けて足すだけの単純な計算。この計算がAIの中で 秒間に何十億回も実行されている。内積は「似ている」を数値で表す道具である。

答

別解

内積を余弦定理から導く。「なぜ積の和なのか」の答えがここにある。内積の定義は本来こちらだ。

では、なぜ「成分の積の和」で計算できるのか。余弦定理を使うと、その橋渡しができる。

、 を 辺とする三角形を考える。 残りの辺は だ。余弦定理より

最後の項に、内積が隠れている。

内積について解く。

この式で、実際に計算してみよう。

になり、本解と同じ答え

「成分の積の和」という計算規則が、余弦定理から出てきた。

もう少し詳しく見よう。 一般に

展開すると、 や が打ち消し合って

で割ると

成分の公式が導けた。

「」という幾何的な定義と、「」という代数的な計算が、余弦定理を通してつながっている。内積のもう つの見方は正射影である。

カッコの中は を の方向に影を落とした長さだ(正射影)。

「 の長さ の影の長さ」内積は、 つのベクトルが「どれくらい同じ方向を向いているか」を測っている。

  • 同じ向き()→ 影が最大 → 内積が最大
  • 垂直()→ 影がゼロ → 内積が
  • 逆向き()→ 影が逆向き → 内積が負

「垂直なら内積 」という規則の、幾何的な意味がこれだ。影が消えるから、内積も消える。

ポイント

  • 。
  • 内積の結果は数(スカラー)。

よくある間違い

  • 内積の答えをベクトル としてしまう。内積は数(スカラー)で、
  • 成分と 成分を交差させて と掛けてしまう。同じ成分どうしを掛ける
  • 内積を (大きさの積)だと思ってしまう。 が掛かるので、角度によって値が変わる

問5内積(定義)

★ 基礎内積

問題

、 で、 と のなす角が のとき、内積 を求めよ。

ヒントを見る

成分がないときの内積は、大きさとなす角から出す定義そのもの。 の値を思い出して掛け合わせる。

解答・解説

方針

内積の定義 。 を使う。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 内積には、 つの表し方がある。

① 成分による表し方(前問)

② 角度による表し方(こちらが本来の定義)

この問題では、大きさと角度が与えられている。 だから ② を使う。

を、確実に。どちらの形を使うかは与えられた情報で決まる。

  • 成分が分かっている → ① 積の和
  • 大きさと角度が分かっている → ②

内積を使いこなすコツは「 つの表現を持ち、状況で使い分ける」ことだ。

そして、 つを等しいとおけば、角度が求まる。 それが次の問題である。

公式内積(定義)( はなす角)

を代入する。

xyOab60°
|a|=2, |b|=3, なす角60° → a·b=2·3·cos60°=3

まとめ:内積には つの表し方がある。定義「」と成分「」。大きさとなす角が分かるときは定義を使う。。

発展。 内積の定義 から、有名な不等式が生まれる。

の値は必ず 以上 以下だ。

両辺に ()を掛ける。

絶対値でまとめると

コーシー・シュワルツの不等式である。

成分で書いてみよう。

乗すると

この不等式は代数的にも証明できる(差をとると平方になる)。だがベクトルで見れば、「」というだけの話だ。幾何的な事実が代数の不等式を生む。

この不等式は数学のいたるところに現れる。

変数版。

積分版。

確率版。

すべて、同じ構造をしている。「内積の 乗 大きさの 乗の積」関数の空間でも、確率変数の空間でも、「内積」を定義すれば、この不等式が成り立つ。

そして、等号が成り立つのは 、つまり つが平行( 次従属)のときだけだ。相関係数の も、この不等式の帰結だ。

相関係数は つの確率変数の「なす角の 」と同じ形をしている。

  • : 完全に同じ向き(完全な正の相関)
  • : 垂直(無相関)
  • : 逆向き(完全な負の相関)

統計学の中心概念がベクトルの内積として理解できる。

この 行が幾何・代数・解析・統計を貫いている。

答

別解

具体的な成分を設定して、 つの表し方が一致することを確かめる。

問題では成分が与えられていない。 だが、条件を満たす具体例を作ることはできる。 を、 軸方向に置こう。

は から の向きで、大きさ 。

確かめる。

大きさ 、 軸との角が で、条件を満たしている。では、成分の公式で内積を計算しよう。

になり、本解と一致した

つの表し方が、同じ答えになることが確かめられた。しかも、この計算からは、内積の意味が透けて見える。 は 軸方向なので、内積は の 成分だけを拾い出している。

の 成分 とは何か。

を 軸に射影した長さ、つまり影の長さだ。

内積 ( の影の長さ)この「影」のイメージが、内積の意味である。角度を変えると、影の長さが変わる。

  • : 影は (最大) → 内積
  • : 影は → 内積
  • : 影は → 内積
  • : 影は (逆向き) → 内積

内積は から まで、 に応じて連続的に変わる。この「影の長さ」は物理の仕事(エネルギー)そのものだ。力 で物体を だけ動かしたとき、した仕事は

力の向きと移動の向きが同じなら、仕事は最大。垂直なら、仕事はゼロ。

重い荷物を持って水平に歩いても、物理的には「仕事をしていない」(重力は下向き、移動は水平で、垂直だから)。

疲れるのに、仕事はゼロ。 物理の定義はときに直感に反する。だが、その定義があるからこそ、エネルギー保存則が成り立つのだ。

ポイント

  • 。
  • 成分の式と定義の式、 通りある。

よくある間違い

  • を としてしまう。、
  • を掛け忘れて と答える。角度の情報が使われていない
  • を超える角のとき、内積が負になることに戸惑う。 なので、内積も負になる

問6なす角

★ 基礎なす角

問題

、 のなす角 を求めよ。

ヒントを見る

なす角は内積から。内積と大きさをそれぞれ計算して の値を出す。値から角度を答えるところまで。

解答・解説

方針

。内積と大きさを計算して代入し、 から を求める。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) なす角を求めたい。内積の つの表し方を、つなげて使う。

成分から内積を計算する。

大きさも計算する。

定義の式と等しいとおく。

となる角は?

手順をまとめると、こうだ。

「成分で内積と大きさを出し、 を作り、角を読む。」

内積の つの表現を等しいとおくことで、角度が逆算できる。 これが、なす角の求め方の基本である。

公式なす角

① 内積と大きさを求める。 。、。

② を計算する。

③ 角を求める。 より 。

xyOab45°
a=(1,0), b=(1,1) のなす角は45°

まとめ:なす角は「内積の定義を逆に使う」。 で を出し、角を読む。 は だ。

発展。 高次元の空間には、直感とは違う性質がある。

「高次元では、ほとんどすべてのベクトルが、互いにほぼ垂直になる。」信じがたいだろうか。確かめてみよう。

次元空間で、ランダムに 本のベクトルを取る。 そのなす角は平均して何度になるか。

次元なら、 から まで、いろいろな角が出る。 平均は だが、ばらつきが大きい。

次元でも、まだばらつく。だが、 次元では?ほとんどすべてのペアが に極めて近くなる。

なぜか。

内積は成分の積の和だった。

ランダムなベクトルなら、各項 は正にも負にもなる。

個の項がランダムに正負を取る。 その和は打ち消し合って、 の近くに集中する。(大数の法則、あるいは中心極限定理の効果だ。)

一方、 と は に比例して大きくなる。

が大きいほど、 は に近づく。 つまり、 に近づく。

「高次元空間では、みんな垂直」これを、次元の呪いの一側面という。この事実には、重要な意味がある。

「高次元では、すべての点が、互いにほぼ同じ距離にある」近い点と遠い点の区別がつかなくなる。機械学習で「最近傍を探す」というアルゴリズムが、高次元では機能しなくなる理由が、これだ。

だが、悪いことばかりでもない。「ほとんどのベクトルが直交している」ということは、

高次元空間には、ほぼ独立な「方向」が指数関数的にたくさん詰め込めるということでもある。だから、 次元のベクトルで、何万もの単語を、互いに区別しながら表現できる。

もし 次元しかなければ、「王」と「女王」と「バナナ」を、区別して配置する余地がない。高次元は呪いであると同時に、豊かさでもある。 という つの角度の計算も、その例である。

その先には、直感が通用しない高次元の空間がある。

答

別解

図に描けば、計算せずに角が見える。 つのベクトルを、原点から描いてみよう。

は横に 、縦に 。 つまり、傾き の方向だ。傾き の直線は 軸と をなす。

は 軸そのものだから、 つのなす角は

内積を計算しなくても、答えが出た。この問題が「 を 軸方向」に設定しているのは、この見通しのよさのためだ。なぜ、図で分かるのに、わざわざ内積を使うのか。

答え: 図で分からない場合に備えるためだ。

たとえば、、 のなす角は?図を描いても、何度なのかは目分量では分からない。

内積を使う。

これも だ。

図では分からなかった角が、計算で確定した。さらに、 次元でも同じ手順が使える。

次元は図に描きにくい。 だが、内積の公式は次元に関係なく使える。そして、 次元でも 次元でも、同じ式で「角度」が定義できる。

次元の単語ベクトルの「なす角」も、この式で計算されている(前問の発展で見たとおり)。

もはや図には描けない。 だが、計算はできる。「図で見えるものを、計算で置き換える」

そうすれば、図に描けない高次元の場合も扱える。 という、目で見て分かる角。その計算方法を身につけることが、目に見えない高次元への切符になる。

ポイント

  • 。
  • 内積(成分)と大きさから角を出す。

よくある間違い

  • を求めて満足し、角度 まで答えない。 から まで出す
  • を としてしまう。
  • を と書き直したあと、 と混同する。、

問7平行条件

★ 基礎平行

問題

、 が平行であるとき、定数 を求めよ。

ヒントを見る

平行とは、一方が他方の実数倍であること。成分を見比べて、何倍になっているかを考えると早い。

解答・解説

方針

つのベクトルが平行 ⟺ 一方が他方の実数倍。、または成分の比が等しい()。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 「平行」とは、何だろうか。

向きが同じ(または正反対)ということだ。

ベクトルの言葉で言えば、 方が他方の実数倍になっている。

この問題では、、。

成分を見ると、。 つまり は の 倍だ。なら、 成分も 倍のはず。

もう つの見方がある。

「成分の比が等しい」

そして、これを整理した形が、たすきがけの条件だ。

どの見方でも、答えは同じ。 使いやすいものを選べばよい。

重要() ( 一方が他方の実数倍)

① 平行条件を書く。

② 解く。

(確認: で確かに平行。)

xyOb=(4,6)a=(2,3)
b=(4,6)=2a と同じ向き(平行)。k=6

まとめ:平行は「一方が他方の実数倍」。成分では (たすきがけの差 )。 成分が 倍なら 成分も 倍、で 。

発展。 「たすきがけ」の値には、正式な名前がある。行列式だ。

つのベクトルを、縦に並べて書いた「表」の値。この行列式が線形代数の中心概念になる。行列式が になる、ということの意味。

① 幾何的: つのベクトルが平行(平行四辺形がつぶれる)

② 代数的: 連立方程式が、一意に解けない

この つが、同じことを言っている。確かめよう。連立方程式を考える。

係数のベクトルは と で、平行だ(この問題の の場合)。

行列式は 。

この連立方程式は解けるだろうか。第 式は第 式の 倍になっている。

つまり、 つの式は実質的に同じ式である。独立な情報が つしかないのに、未知数が つある。

解は つに定まらない(無数にあるか、 つもないか)。行列式 は「情報が足りない」ことの合図である。逆に、行列式 なら、解はただ つに決まる。

行列式は 。解は一意に決まる。

クラメルの公式という、行列式で解を書き下す公式まである。

行列式は 次元でも定義される。

体積が ベクトルが同一平面上にある(つぶれている)。そして、 次元でも。行列式は「 個のベクトルが、 次元の『かさ』をもつか、つぶれるか」を判定する数である。

「平行かどうか」という素朴な問い。その答えを与える「たすきがけ」は、線形代数という分野の最初の一歩になっている。

行列式はコンピュータグラフィックス(座標変換)、量子力学(波動関数の反対称性)、統計(共分散行列)など、いろいろな場所で使われている。

答

別解

「たすきがけ 」の意味を、面積として理解する。平行の条件を、公式として覚えている人は多い。

だが、この式が何を意味するかを知っている人は、少ない。

答え: これは、 つのベクトルが作る平行四辺形の面積(の符号つきの値)である。

確かめよう。

、(単位ベクトル 本)なら

この つが作る図形は、 辺 の正方形。面積は

、 なら

の長方形。面積は

この値を外積(の大きさ)と呼ぶ。さて、平行四辺形の面積が になるのは、どんなときか。 辺が同じ方向を向いて、「つぶれている」ときだ。

平行四辺形がぺしゃんこの線分になってしまう。

「たすきがけ 」は、「面積がつぶれる」という、幾何的な意味をもっていた。

この問題で確かめる。

面積が なので、確かに平行だ。

もし なら?

面積 (絶対値)の平行四辺形ができる。 平行ではない。

内積と外積の対比。

内積は 、外積は と対応する。

  • 内積 → → 垂直
  • 外積 → → 平行

きれいな対称性だ。

内積は「どれくらい同じ向きか」、外積は「どれくらい違う向きか」を測っている。そして、三角形の面積は外積の半分。

座標が与えられた三角形の面積が、この式ですぐに出る。 頂点 、、 の三角形なら

公式を丸暗記するより、「面積」という意味を掴んでおくほうが、応用が利く。

ポイント

  • 平行 。
  • 一方が他方の実数倍。

よくある間違い

  • 平行の条件を「内積 」としてしまう。内積 は垂直の条件で、平行とは正反対
  • たすきがけを と、同じ成分どうしで掛けてしまう。 と、交差させて掛ける
  • 比の式 を立てたあと、 の計算で分母分子を取り違える

問8垂直条件

★ 基礎垂直

問題

、 が垂直であるとき、定数 を求めよ。

ヒントを見る

垂直と内積の関係を思い出そう。内積を の式で書いて、垂直の条件をかければ方程式になる。

解答・解説

方針

つのベクトルが垂直 ⟺ 内積が 。 を について解く。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 垂直の判定には、道具が つしかない。

「垂直なら、内積がゼロ。」

なぜか。 内積の定義を思い出そう。

のとき、。だから、内積が になる。(、 が でなければ、逆も成り立つ。)

この問題では内積を の式で表して、 とおく。

平行(実数倍)と、垂直(内積 )。この つが、ベクトルの位置関係を判定する、対をなす道具である。

重要()

① 垂直条件(内積 )を書く。

② 解く。

xyOa=(2,3)b=(3,−2)
a⊥b。内積 a·b=6+3k=0 → k=−2

まとめ:垂直は「内積 」。 なので 。成分で を解く。平行(実数倍)との違いを押さえる。

発展。 「垂直 内積 」という規則は、直交という、もっと広い概念の基礎になる。

関数どうしが「垂直」になる、と言われたら、どう思うだろうか。意味不明に聞こえる。だが、きちんと定義できる。関数の内積を積分で定義する。

これは「掛けて、足す(積分する)」という、ベクトルの内積()と同じ構造だ。この定義のもとで、 と は直交する。

内積が 、つまり「垂直」である。 と も直交する。

周波数が違う波は、すべて互いに直交している。この直交性がフーリエ級数を可能にする。関数を直交する「基底」の 次結合で書く。

そして、各成分は「内積をとる」ことで取り出せる。

これは、ベクトルの成分を取り出すのと、まったく同じ操作だ。

直交する基底に、内積で射影する。 次元のベクトルでやったことが、無限次元の関数空間で、そのまま通用する。この抽象化で、次のようなことができるようになる。

音を周波数成分に分解できる(イコライザー、MP3)。

画像を空間周波数に分解できる(JPEG)。

信号から、ノイズを取り除ける(フィルタリング)。

量子力学では状態を「固有状態の重ね合わせ」として書く。これも直交基底への分解だ。

「内積 なら垂直」

この、 を求めるだけの素朴な条件。この考え方で、 と を「垂直」と呼べるようになり、音楽の圧縮や量子の状態の計算にも使われている。数学の抽象化とはこういうことである。

「垂直」という日常語を、内積 という式で捉え直す。すると、矢印でないものにも、「垂直」という概念が使えるようになる。

答

別解

中学で習った「傾きの積が 」で解く。ベクトルを直線の方向として見よう。

は、「右に 、上に 」の方向。 傾きは

の傾きは

直線が垂直になる条件を、中学で習った。

当てはめる。

本解と同じ答え

では、「傾きの積が 」と「内積が 」は、どういう関係にあるのか。

同じことを言っている。

内積の条件を書き下す。

両辺を で割る( とする)。

左辺は「傾きの積」になっている。

内積 の条件から、中学の公式が導けた。では、なぜベクトルでは「内積 」を使うのか。傾きで十分では?理由 : 縦の直線が扱える。

(真上向き)の傾きは となり、定義できない。

傾きの公式は垂直な直線で破綻する。だが内積なら、何の問題もない。

理由 : 次元以上でも使える。

次元に「傾き」はない。 だが内積は、そのまま使える。

理由 : 計算が単純。

分数が出てこない。 掛けて足すだけだ。「内積 」は傾きの公式より広く使える条件である。

例外がなく、次元にも縛られず、計算も楽。中学で習った便利な公式が、高校ではより広く使える形に置き換わる。

これは「以前の知識が間違いだった」のではなく、より広い場面で使える道具を、手に入れたということだ。数学の学びはいつもこうして拡張されていく。

ポイント

  • 垂直 。
  • が根拠。

よくある間違い

  • 垂直の条件を「実数倍」としてしまう。実数倍は平行の条件で、垂直は内積
  • 内積 を解くとき、 と符号を誤り、 としてしまう。 から
  • 内積を計算するとき、成分を交差させて としてしまう。同じ成分どうしを掛ける

問9内分点の位置ベクトル

★ 基礎内分点

問題

点 、 を結ぶ線分 を に内分する点 の座標を求めよ。

ヒントを見る

内分点の公式に当てはめる前に、 がどちら寄りの分け方かを図で確認しよう。比を逆に使うミスがいちばん多い。

解答・解説

方針

内分点の公式 ( に内分)。 なので 。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 内分点の公式には、間違えやすい「ねじれ」がある。

線分 を に内分する点は

注意してほしい。 が ではなく、 に掛かっている。比の重みが反対側につくのだ。

なぜか。

に内分するとき、点 は の近くにある( が短いから)。

に近いのだから、 の影響が強いはず。

だから、 には大きい重み()がつく。

計算しよう。

「近いほうに、大きい重み」と覚えておけば、公式のねじれで迷わない。

公式 を に内分する点

に内分するので 、。。

xyOA(1,2)B(4,8)P(2,4)
A(1,2), B(4,8) を 1:2 に内分する P(2,4)

まとめ:内分点の公式は「遠いほうの点に大きい重み」。 内分( に近い)は の重みが 、 の重みが 。分子の係数がたすきがけ(比の逆)になるのがポイント。

発展。 内分点の公式には、物理的な意味がある。

重心(バランスの中心)である。シーソーを思い浮かべよう。位置 に重さ のおもり、位置 に重さ のおもりを置く。

釣り合う支点はどこか。てこの原理より、「重さ 距離」が等しくなる点だ。

この問題の内分点と、まったく同じだ。

そして、支点の位置は

内分点の公式そのものだ。

「重みつき平均」という見方。

重い側に、支点が寄る。 が重ければ( が大きければ)、支点は に近づく。だから、「 に近い点を作るには、 に大きい重みをつける」ことになる。

公式の比がねじれて見えるのは、このためだ。内分比 とは「重さの比 」を意味していた。比が逆転するのは、「近い 重い」という関係があるからである。

この見方は 点以上に拡張できる。

重心座標という。

点に、それぞれ重さ 、、 を置いたときの、釣り合いの点。 なら、三角形の重心になる。そして、この重み は、面積比と一致する。

点 が三角形を つに分割する。 その面積比がそのまま重みになる。この「重心座標」はコンピュータグラフィックスで日常的に使われている。

三角形のポリゴンの内部を塗るとき、 頂点の色を、重心座標で混ぜ合わせる。

なめらかなグラデーションがこれで実現する。ゲームの画面の描画でも、 秒に何億回もこの計算が行われている。内分点の公式という、教科書の 行。

そのもとにはてこの原理があり、同じ計算がリアルタイムの D 描画にも使われている。

答

別解

公式を使わず、「 から歩く」と考える。 に内分する、とはどういうことか。

線分 を、 等分する。 そして、 から 個分だけ進んだ点が だ。

つまり、 は「 から へ向かって、全体の だけ進んだ点」である。

式で書く。

は から へ向かうベクトルだ。

その だけ進む。

から、この分だけ動く。

本解と同じ

この方法の利点は「重みが反対側につく」という、あの気持ち悪いねじれを避けられることだ。やっていることは、ただの「歩き方」の指示。「 からスタートして、 の方向へ、全体の 進む」

迷いようがない。

そして、この式を展開すると、公式が出てくる。

確かに、 に 、 に の重みがついている

「歩く」という考え方から、公式のねじれが自然に説明できた。この考え方はいろいろな場面に拡張できる。

中点なら? だけ進む。

に内分なら? 進む。

外分なら? より大きい割合、あるいは負の割合で進む。 を に外分する点は、 から 倍進む。

線分の外側に飛び出す。

「内分と外分」を別の公式として覚える必要はない。

進む割合が から の間なら内分、外なら外分。 それだけの違いだ。 つの考え方で、すべてが統一される。

ポイント

  • 内分 。
  • 係数はたすきがけ(近い点に大きい重み)。

よくある間違い

  • 重みを取り違え、 としてしまう。 の は の重みになる(近いほうに大きい重み)
  • 分母を や にしてしまう。分母は (この問題なら )
  • と の順序を取り違え、 から 進んだ点を求めてしまう。 なので、 側から数える

問10単位ベクトル

★ 基礎単位ベクトル

問題

と同じ向きの単位ベクトルを求めよ。

ヒントを見る

単位ベクトルは『向きを変えず、長さを にした』ベクトル。長さで割ればよいので、まず大きさを求める。

解答・解説

方針

単位ベクトルは「向きはそのまま、大きさを にしたもの」。 で作る。 で割る。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 単位ベクトルとは、大きさが のベクトルのことだ。

向きはそのまま、長さだけを にしたい。

どうすればいいか。

自分の大きさで、割ればいい。

なぜ、これで大きさが になるのか。「 cm の棒を、 で割ると cm になる」のと同じ理屈だ。まず、 を計算する。

そして、各成分を で割る。

確かめよう。

大きさが になった。

単位ベクトルの作り方は「ベクトルを自分の大きさで割ると、向きはそのまま、長さが になる」ということだけである。

公式 と同じ向きの単位ベクトル (大きさで割る)

① 大きさを求める。 。

② 大きさで割る。

xyOa=(3,4)34a/|a|
|a|=5(3-4-5)。単位ベクトル a/|a|=(3/5,4/5) は向きそのままで長さ1

まとめ:単位ベクトルは「大きさ 、向きは同じ」。作り方は元のベクトルを自分の大きさで割るだけ。 の大きさは で確かに 。

発展。 「大きさで割って、 にする」という操作は正規化と呼ばれ、数学と工学のいろいろな場面に現れる。

例 : 統計の標準化。

平均を引いて中心を に、標準偏差で割って、ばらつきを にする。「単位ベクトルを作る」のと、まったく同じ発想だ。大きさ()で割ることで、単位のない量に直す。

例 : 確率密度関数。

関数を確率として使うには、全体の積分が でなければならない。

正規分布の式に、 という係数がついているのは、この「正規化」のためだ。ガウス積分の値 で割って、全体を にしている。例 : 量子力学の波動関数。

「粒子がどこかに存在する確率は 」という要請。波動関数は必ず正規化されている。

例 : 単位の変換。

km は m、 時間は 秒。「単位を に揃える」ことで、異なる量が比較可能になる。

すべてに共通する思想。

「基準を にすると、比較と計算が楽になる。」そして、この考え方は単位系そのものにも使われる。物理学では「自然単位系」というものを使うことがある。

すると、アインシュタインの式は

エネルギーと質量が、同じものになる。式から余計な定数が消え、量どうしの関係だけが残る。「基準を に選ぶ」という、ただそれだけの操作。

それだけで、式が簡潔になり、関係が見やすくなる。 という、なんでもない単位ベクトル。そこには、「基準を作る」という、科学の基本的な考え方がある。

答

別解

単位ベクトルの成分は と である。単位ベクトルを三角比で表してみる。

大きさ のベクトルは原点を中心とする単位円の上にある。

単位円上の点は角 を使って、こう書けた。

つまり、単位ベクトルは必ずこの形をしている。

この問題の答えと、照合しよう。

だから

確かに、

この は何度だろうか。

となる角は、約 。(–– の直角三角形の、いちばん小さくない鋭角だ。)

この見方の御利益。

単位ベクトルは「向きだけの情報」を担っている。

大きさを捨てて、方向だけを取り出したものが単位ベクトルだ。そして、任意のベクトルはこう分解できる。

「大きさ 向き」の形に、ベクトルの つの情報が分けられた。この分解が実用上とても便利だ。

例: 力の分解。

「 の方向に、大きさ の力をかけたい」単位ベクトルを使えば、すぐに出る。

例: ゲームのキャラクター移動。「マウスの方向へ、一定の速さで進む」マウス方向のベクトルを単位化し、速さを掛ける。

もし単位化を忘れると、マウスが遠いほど速く動いてしまう。これはよくあるバグだ。

例: 光の計算(CG)。

面の法線ベクトル(垂直な向き)は必ず単位ベクトルにしておく。 そうすれば、光の当たり具合(内積)が から の範囲に収まって扱いやすい。「向きの情報を、大きさの情報から切り離す」

このひと手間が多くの計算を単純にする。単位ベクトルは方向を指し示す「矢印の標準形」である。

ポイント

  • 単位ベクトル 。
  • 大きさ 、向きは元と同じ。

よくある間違い

  • 大きさで割るのを忘れ、 をそのまま答えてしまう。 なので、単位ベクトルではない
  • 片方の成分だけを で割る。両方の成分を、同じ で割る
  • を計算せずに、成分の和()で割ってしまう。割るのは大きさ

問11三角形の重心

★ 基礎位置ベクトル重心

問題

点 、、 を頂点とする三角形の重心 の座標を求めよ。

ヒントを見る

重心は 頂点の座標の平均。 どうし・ どうしで平均をとる。

解答・解説

方針

三角形の重心は 頂点の位置ベクトルの平均。。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 三角形の重心は、 頂点の平均だ。

座標をそのまま平均するだけ。

内分点の公式のような「ねじれ」はない。 ただの平均である。なぜ、平均でよいのか。

重心とは 頂点に同じ重さのおもりを置いたときの、釣り合いの点だ。

重さが等しいのだから、重みも等しい。 つまり、単純平均になる。「等しい重み 単純平均」

内分点(重みが違う)と、重心(重みが同じ)。 その違いを意識しておこう。

公式三角形の重心 ( 頂点の平均)

xyOABCG
三角形の重心 G=(2,2)(3頂点の座標の平均)

まとめ:重心は「 頂点の座標の平均」。 座標の平均、 座標の平均をとるだけ。、。ベクトルで書くと と簡潔に表せる。

発展。 三角形には、重心のほかにも「中心」がある。それも つ以上。

五心と呼ばれる。

① 重心 は 中線の交点だ。 頂点の平均。

② 外心 は 辺の垂直二等分線の交点だ。外接円の中心( 頂点から等距離)。

③ 内心 は 角の二等分線の交点だ。内接円の中心( 辺から等距離)。

④ 垂心 は 頂点から対辺に下ろした垂線の交点だ。

⑤ 傍心は 個ある(外接する円の中心)。

どれも「 本の直線が 点で交わる」という、非自明な事実に支えられている。そして、次の定理がある。

オイラー線。

「重心 、外心 、垂心 は、 直線上に並ぶ。」しかも、その位置関係は完全に決まっている。

つまり、 は を に内分する。どんな三角形でも、必ずこうなる。この定理はベクトルで簡単に証明できる。

外心 を原点にとる。 すると、(外接円の半径)。ここで、こんな点 を定義する。

この が垂心であることを示せばよい。

内積をとる。

( つとも外接円の半径だから、等しい。)内積が 、つまり

から への垂線が引けた。 同様に他の 辺についても言えるので、 は垂心である。そして、重心は

オイラー線の証明が 行で終わった。初等幾何でやろうとすると、何ページもかかる定理だ。ベクトルと内積という道具が、幾何の難問を代数の計算に変えてしまう。

「 頂点の平均」という素朴な重心の定義。そこから、 年の幾何学の精華がするすると引き出せる。

答

別解

「重心は中線を に内分する」という定理から求める。重心の、もう つの定義を思い出そう。中線とは頂点と対辺の中点を結ぶ線分。

本の中線は 点で交わる。 その交点が重心だ。そして、重心は各中線を、頂点から に内分する。

この定理で、実際に求めてみよう。まず、 の中点 を計算する。

中線 を、 から に内分する。つまり、 から へ向かって、全体の 進む。

本解と同じ

念のため、別の中線でも確かめよう。 の中点 は

中線 を、 から に内分する。

同じ点

本の中線が確かに 点 で交わっている。さて、「 に内分」という定理から、なぜ「 頂点の平均」が出るのか。

式で追ってみよう。

頂点の平均の式が導けた

「 の内分」と「 頂点の平均」は、同じことを違う言葉で言っている。そして、この事実こそが「 本の中線が 点で交わる」ことの証明になる。 頂点の平均 は 、、 について対称な式だ。

どの頂点から中線を引いても、同じ点にたどり着く。中学では「 本の中線が 点で交わる」ことを、作図で確かめただけだった。ベクトルを使えば、それが 行で証明できる。

対称性に注目すると、証明がすぐに済む。

ポイント

  • 重心 。
  • 、 それぞれの平均。

よくある間違い

  • 分母を にしてしまう。 頂点の平均なので、 で割る
  • 座標と 座標を混ぜて計算する。 は どうし、 は どうしで平均する
  • 重心を「 辺の中点の平均」だと思ってしまう(答えは同じになるが、定義は 頂点の平均)

問12ベクトルの大きさ(負の成分)

★ 基礎ベクトルの大きさ

問題

ベクトル の大きさ を求めよ。

ヒントを見る

成分に負の数があっても手順は同じ。 乗の段階で符号が消えることを確認しよう。

解答・解説

方針

大きさは成分の 乗の和の平方根。 乗すると負の符号は消える()。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 成分に負の数が入っている。だが、何も変わらない。

乗すれば、符号は消える。

答えは のときと同じ だ。

これは、当然のことである。

大きさとは矢印の長さだ。

長さに、向きは関係ない。 左を向いていようが、右を向いていようが、 cm の矢印は cm。

大きさが負になることは、決してない。「 乗で符号が消えるから、大きさは成分の正負によらず正」なので、計算する前から答えが正であることは分かっている。

公式( 乗するので符号は消える)

xyOa345
|a|=√((−3)²+4²)=5(三平方の定理)

まとめ:大きさは成分を 乗して足すので、負の符号は消える。 も も大きさは同じ (向きが違うだけ)。(マイナスの 乗は正)に注意。

発展。 平面ベクトルの基本がこれで出そろった。全体を見渡しておこう。

ベクトルには、 つの見方がある。

① 幾何の見方では矢印である。向きと大きさをもつ量。

② 代数の見方では数の組 である。成分ごとに計算する。

この つを、自由に行き来できることが、ベクトルを使いこなすということだ。幾何 → 代数(計算に持ち込む)

  • 「垂直」→ 内積
  • 「平行」→ 実数倍、たすきがけ
  • 「なす角」→
  • 「長さ」→
  • 「分点・重心」→ 重みつき平均

代数 → 幾何(意味を読む)

  • 内積が正 → 鋭角(同じ方向を向いている)
  • 内積が負 → 鈍角(逆を向いている)
  • 内積が → 垂直
  • たすきがけ → 平行四辺形の面積

「図形の問題を、計算に直す。計算の結果を、図形で読む。」この往復ができることが、ベクトルを使う利点である。

初等幾何では、補助線をひらめかないと解けない問題があった。「なぜ、そこに補助線を引くのか?」は、センスの問題だった。ベクトルなら、機械的に計算するだけで答えが出る。

オイラー線の証明を思い出してほしい。 初等幾何なら何ページもかかる定理が、内積の計算 行で片づいた。デカルトが座標を発明し( 年)、幾何が代数になった。

「図形を、数式で扱えるようにする」この発想が、数学を根底から変えた。そして、ベクトルはその発想の、もっとも洗練された形である。

座標系すら不要になる。 という式は、座標軸をどこにとっても成り立つ。このように「座標に依存しない代数」なので、ベクトルは物理法則を書くのに向いている。

次は空間ベクトル( 次元)へ進む。

公式はほとんど変わらない。 成分が つ増えるだけだ。

平面で身につけた方法がそのまま空間で通用する。そして、同じ式は 次元、 次元、無限次元にも広げられる。 という 行の計算を振り返る。

それは、どの次元でも使える「長さ」の測り方である。

答

別解

「大きさは向きによらない」を、対称性で確かめる。 つのベクトルを並べてみよう。

符号のすべての組み合わせだ。それぞれの大きさを計算する。

全部 になる。

つのベクトルはそれぞれ第 、第 、第 、第 象限を向いている。向きはバラバラ。だが、長さはすべて同じ。図で見れば、当たり前だ。

つの矢印の先端は原点を中心とする半径 の円の上に、対称に並んでいる。

「同じ長さのベクトルは、円の上に並ぶ。」この見方から、大事な性質が分かる。性質 :

逆向きにしても、長さは変わらない。性質 :

倍すると、長さは 倍( の絶対値)。 なら、向きは逆になるが、長さは 倍。

と書いて、 ではないところが要点だ。 長さは負にならないから。この「大きさは向きによらない」という性質。

言い換えると、「回転しても、大きさは変わらない」ということでもある。ベクトルを原点のまわりに 回転させても、 回転させても、長さは のまま。

これを回転不変性という。

そして、この性質こそが という測り方の「特別さ」を保証している。(マンハッタン距離 は、回転すると変わってしまう。 なら だが、 回転させると になる。)「空間に、特別な方向はない。」

東を向いていても、北を向いていても、物理法則は同じ。その要請に応えられる長さの測り方が、 というユークリッドの距離である。負の成分が出てきても、慌てる必要はない。

乗がすべての符号を消す。

ポイント

  • 乗で符号が消える。。
  • 向きが違っても大きさは同じ。

よくある間違い

  • を としてしまう。マイナスの 乗はプラス()
  • 大きさが負になると考えて、 と答える。大きさ( 長さ)は必ず 以上
  • を と計算する。各成分を 乗してから足し、最後に をとる