数学I / データの分析

データの分析 ★ 基礎の問題 全12問

教科書レベル。定義・公式の確認と基本操作

難易度: ★ 基礎·★★ 標準·★★★ 応用·★★★★ 難関·実戦編·最難関編

  1. 平均値・中央値・最頻値
  2. 度数分布表から平均値を求める
  3. 四分位数と四分位範囲
  4. 箱ひげ図をかくための五数要約
  5. 分散と標準偏差(定義から)
  6. 分散の公式((2乗の平均)−(平均の2乗))
  7. 外れ値の判定
  8. 変量の変換と平均・分散
  9. 共分散と相関係数の計算
  10. 相関の正負の読み取り
  11. データの追加と平均値・中央値の変化
  12. 仮説検定の考え方(コイン投げ)

問1平均値・中央値・最頻値

★ 基礎代表値

問題

10人の生徒が受けた小テスト(10点満点)の得点は次の通りであった。

このデータの平均値、中央値、最頻値をそれぞれ求めよ。

ヒントを見る

『真ん中』を表す数は3種類ある(平均・中央値・最頻値)。それぞれ定義が違う。中央値は並べたときのまん中の値だ。データが偶数個のとき、まん中は1個か2個か。そこが最初の分かれ目になる。

解答・解説

方針

『データの真ん中』を表す数は1つではなく、平均値・中央値・最頻値という3種類の代表値があって、それぞれ『真ん中』の意味がちがう。

  • 平均値: 総和 ÷ 個数。全員の点数を均等にならした値。
  • 中央値: 小さい順に並べたときの、まん中の値(偶数個ならまん中2つの平均)。
  • 最頻値: いちばん多く出てくる値。

定義を確かめながら、同じデータから3つを出して比べてみる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 代表値が つ出てくる。それぞれ「どこを見るか」が違うので、混ぜないことが第一だ。

  • 平均値: 全部足して個数で割る。データ全体をならした値
  • 中央値: 小さい順に並べてまん中。個数が偶数なら、まん中 つの平均
  • 最頻値: いちばん多く出てくる値。最大値ではない

まず小さい順に並べる。並べれば中央値も最頻値も目で読める。この問題は最初から並んでいるので、あとは数えるだけだ。

公式平均値 。中央値=並べたときのまん中、最頻値=最も多い値

平均値。 総和を求めると

データは 個なので

中央値。 データはもう小さい順に並んでいる(並んでいない問題では、まず並べかえるところから始める。ここを省くと確実に間違う)。 個(偶数個)なので『ちょうどまん中の1個』はない。中央値は 番目と 番目の値の平均をとる。 番目は 、 番目は なので

最頻値。 各値の個数を数えると、 が 個で最も多い。よって

1234567平均4中央値・最頻値3
データ 2,3,3,5,7 を数直線に並べる。平均4・中央値3・最頻値3

まとめ:結果は 、、。同じデータなのに『真ん中』が3つとも別の値になった。どれが正しいという話ではなく、目的で使い分ける。たとえば1人だけ100点のような極端な値が混ざると平均値は大きく引っぱられるが、中央値はほとんど動かない。ニュースで所得の代表値に中央値が使われるのは、このためだ。

発展。 この つの代表値は、実は「中心からのズレを、どう測って最小にするか」という つの問いの つの答えである。

  • ズレの 乗の和を最小にする点 → 平均値
  • ズレの絶対値の和を最小にする点 → 中央値
  • ズレが である個数を最大にする点 → 最頻値

たとえば を の 次関数と見て平方完成すると、 で最小になる。 次関数の最小値の議論がそのまま統計に現れるのだ。

「中心はどこか」という素朴な問いでも、測り方を変えると違う答えが返ってくる。どれが正しいかではなく、目的に応じて選ぶ。これが統計の基本姿勢である。

答

平均値 点、中央値 点、最頻値 点

別解

平均は「仮の平均からのズレの平均」で出せる。 大きな数の足し算を避けられる、実務的なテクニックだ。

手順1: 仮の平均をあてずっぽうで決める。 見た目から 点くらいだろう、と当たりをつける。

手順2: 各データが仮の平均からどれだけズレているかを書く。

手順3: ズレの合計を出す。 負の合計は 、正の合計は 。合わせて である。

手順4: ズレの平均を仮の平均に足す。

ズレの合計がちょうど なので、仮の平均 がぴったり本当の平均だった。

この計算から、平均が何を表すかが分かる。 平均とは「プラスのズレとマイナスのズレがつり合う点」だ。データを数直線上の重りだと思うと、平均はシーソーの支点になる。だから偏差(平均からのズレ)の合計は必ず になる。この事実は分散の計算でも使う。

つの代表値の性格の違いも見ておきたい。もし 点の生徒 人が記録ミスで 点と入力されていたらどうなるか。

  • 平均値: 点 → 点。 人だけで大きく動く
  • 中央値: 点 → 点。びくともしない(まん中の順位は変わらないから)

平均は極端な値に弱く、中央値は強い。 世帯収入の統計で「平均年収」より「中央値」がよく引き合いに出されるのは、少数の大富豪に平均が引っ張られるからだ。代表値は つで済ませず、性格の違いを踏まえて選ぶ。

ポイント

  • 平均値 = 総和 ÷ 個数、中央値 = 並べたときの中央、最頻値 = 最も多い値
  • データが偶数個のときの中央値は「中央2つの平均」
  • 3つの代表値はそれぞれ違う情報を持つので、一般に一致しない

よくある間違い

  • 偶数個のデータで5番目(または6番目)の値をそのまま中央値にしてしまう
  • 最頻値を「最大値」と混同する
  • 並べ替えずに中央値を読む(与えられた順が昇順とは限らない。必ず並べてから数える)

問2度数分布表から平均値を求める

★ 基礎度数分布表平均値

問題

ある班20人の通学時間を調べ、度数分布表に整理したところ、次のようになった。

  • 分以上 分未満: 人
  • 分以上 分未満: 人
  • 分以上 分未満: 人
  • 分以上 分未満: 人

各階級の階級値(階級の中央の値)を用いて、通学時間の平均値を求めよ。

ヒントを見る

各階級の人数はわかるが、1人ずつの正確な値は不明。そこで『その階級の全員が、階級のまん中の値だった』と見なす。その代表値と人数をかけて全部足し、最後に何で割るかを考える。

解答・解説

方針

度数分布表には『 分以上 分未満が 人』としか書かれていない。3人の正確な値はわからない。では平均は計算できないのか。

ここでの約束はこうだ。各階級のデータはすべて階級値(階級の両端の平均)をとると見なす。つまり『〜 分の3人は全員 分だった』と近似する。

あとは(階級値 × 度数)の総和を、総度数で割るだけだ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 度数分布表になった時点で、個々の生徒の値はもう分からない。「 分以上 分未満に 人」としか書かれていないからだ。

そこで「その階級の人は、みんな階級のまん中の値だったことにする」と割り切る。これが階級値(〜 なら 、〜 なら )。

割る数は人数の合計 であって、階級の個数 ではない。「何人で割るのか」を毎回声に出して確認すると間違えない。

公式度数分布表の平均値

まず階級値を求める。 各階級の階級値(両端の平均)は

(階級値 × 度数)の総和を計算する。 『 分の人が 人、 分の人が 人、…』と見なして総和をとる。

総度数で割る。 総度数は 人なので

ありがちなミスは、階級値の合計 を階級の数 で割ってしまうこと。これは各階級の人数のちがいを無視した計算で、正しくない。人数の多い階級ほど平均への影響が大きい、という感覚を大事にしたい。なお、度数分布表から求めた平均値は階級値で代表させた近似値で、もとのデータそのものの平均値とは少しずれることも頭に置いておく。

01020304002468(分)(人)
通学時間のヒストグラム(階級の幅 10 分)

発展。 階級値を使う計算は「分布を、階級のまん中に集めた点の集まりで代用する」という近似だ。階級の幅を狭くしていけば近似はよくなる。

この「区間を代表値で置きかえて、幅を掛けて足す」という操作は、実は積分の区分求積法とそっくりである。数IIIで学ぶ

と、度数分布の平均 は同じ発想でできている。階級を細かくする 積分の分割を細かくする。ヒストグラムの棒が連続的な分布曲線に近づいていく。高校数学の統計と解析は、この点でつながっている。

答

平均値 分

別解

ここでも仮の平均からのズレで計算すると、数がぐっと小さくなる。手計算のときに役立つやり方だ。

手順1: 仮の平均をまん中あたりの階級値にとる。 ここでは 分としよう。

手順2: 各階級値の、 からのズレを書く。

階級値
ズレ
度数

手順3: ズレ 度数の合計を出す。

手順4: ズレの平均を仮の平均に足す。

同じ答えになった。掛ける数が 桁で済み、 人いる階級の計算が で消えるので楽だ。

この式には見どころがある。 度数 の階級(いちばん人数が多い)を仮平均に選ぶと、その項が丸ごと になる。いちばん重い階級を基準に選ぶのがコツだ。

もう一歩進んだ見方をしよう。この平均は

とも書ける。 は各階級の割合(足すと )。つまり平均とは「値を、その割合で重みづけして足したもの」で、これを加重平均という。この形は数Bの確率変数の期待値 とまったく同じ姿をしている。度数分布の平均は期待値の練習問題でもある。

注意点も つ。階級値は「その階級の人はみんなまん中」という近似だから、この 分は真の平均とは少しずれる可能性がある。元データがあるなら、そちらから計算するのが正確だ。

ポイント

  • 度数分布表の平均値は「」
  • 階級値は階級の両端の平均
  • 度数分布表から求めた平均値は近似値である

よくある間違い

  • 階級値ではなく階級の下端や上端を使ってしまう
  • 総度数(この場合20)ではなく階級の数(4)で割ってしまう
  • 度数を掛けずに階級値だけを足して4で割る( の単純平均 は誤り。人数の重みを無視している)

問3四分位数と四分位範囲

★ 基礎四分位数四分位範囲

問題

9人の生徒のテストの得点は次の通りであった。

このデータの第1四分位数 、第2四分位数(中央値)、第3四分位数 、および四分位範囲を求めよ。

ヒントを見る

四分位数は『中央値を3回とる』イメージ。まず全体のまん中、次にそれで前半・後半に分けて各組のまん中。データが奇数個のとき、まん中の1個は前半・後半のどちらに入れる?

解答・解説

方針

四分位数はデータを小さい順に並べて4等分する3つの区切りだ。手順は決まっている。

①まず中央値 を決める。②データを『中央値より前の半分(下組)』と『後の半分(上組)』に分ける。このときデータが奇数個なら、中央値そのものはどちらの組にも入れない。③ は下組の中央値、 は上組の中央値。

『中央値を3回とる』と覚えると迷わない。四分位範囲は だ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 四分位数は「データを小さい順に並べて 等分する境目」だ。

やり方は 段階でよい。

まず全体のまん中(中央値 )で、データを下組と上組に真っ二つにする。 個なら 番目が中央値。

次に、下組・上組それぞれのまん中をとる。 下組のまん中が 、上組のまん中が 。

間違えやすいのは「奇数個のとき、中央値そのものは下組にも上組にも入れない」ことだ。まん中の 個を除いて、残りを 個ずつに分ける。ここを間違えると全部ずれる。

公式四分位数:中央値 で下組・上組に分け、各組の中央値が 、。四分位範囲

データはもう小さい順に並んでいる( 個)。

第2四分位数(中央値)。 個のまん中は 番目の値なので

第1四分位数。 データが奇数個なので、中央値 自身は下組にも上組にも入れない。ここが最初のつまずきポイントだ。中央値を除いた下半分は の 個。その中央値( 個なので 番目と 番目の平均)は

第3四分位数。 上半分は の 個。その中央値は

四分位範囲。

四分位範囲は『まん中あたりの、およそ半数のデータが収まる幅』だ。端の値をばっさり切り捨てて測るので、1つだけ極端な値があっても影響を受けにくい。範囲(最大 − 最小)が外れ値ひとつで激変するのと対照的だ。

40455055606570(点)4247.55563.570
五数要約: 42、Q1 = 47.5、中央値 55、Q3 = 63.5、70(箱の長さが四分位範囲)

発展。 「下から の位置の値」をパーセンタイルという。 は第 パーセンタイル、中央値は第 パーセンタイル、 は第 パーセンタイルだ。

健康診断でもらう成長曲線のグラフ(身長の第 ・第 ・第 パーセンタイルの線が引いてある)や、模試の成績表は、この考え方でできている。「平均より上か下か」より「全体の何%の位置にいるか」のほうが、順位の実感に近い。

なお四分位数の定め方は流儀がいくつかある(データが で割り切れないときの補間の仕方が違う)。高校で学ぶのは「中央値で 分し、それぞれの中央値をとる」方式だが、統計ソフトによっては少し違う値を返すことがある。定義が一意でない量があることも、統計を扱うときの大事な注意点だ。

答

点、 点、 点、四分位範囲 点

別解

四分位数が何のためにあるのかを、平均・標準偏差と比べて見ておこう。ここが分かると、この量を「ただの計算」でなく「道具」として使えるようになる。

四分位数は順位だけで決まる。 は「下から の位置」、 は「下から の位置」。値の大きさそのものではなく、並べたときの順番しか見ていない。

この性質がどれほど役に立つか、実験してみる。最高点の生徒が 点ではなく、 点(記録ミス)だったとしよう。

  • 、、 → まったく変わらない。 は「いちばん上の人」のままで、順位が変わらないからだ
  • 一方、平均は 点から 点へ跳ね上がる。誰もとっていない点数が「平均」になってしまう

四分位範囲( 点)も同じく不動である。これは「まん中 の人たちが、どれくらいの幅に散らばっているか」を表す散らばりの指標で、両端の極端な値をはじめから見ていない。

散らばりの指標には 系統ある。

  • 範囲・標準偏差: すべての値の大きさを使う。情報は豊かだが、極端な値に振り回される
  • 四分位範囲: 順位しか使わない。情報は粗いが、極端な値にびくともしない

「頑丈さ」を数学の言葉でロバストという。テストの点、家賃、年収のように、少数の極端な値が混じる現実のデータでは、四分位数のほうが実態をよく表すことが多い。次に学ぶ箱ひげ図が四分位数でできているのは、外れ値に強いからだ。

ポイント

  • (中央値)を先に決め、データを下組・上組に分けてから を求める
  • データが奇数個のときは、中央値をどちらの組にも入れない
  • 四分位範囲 = 。範囲()との違いに注意

よくある間違い

  • 奇数個のデータで中央値を下組・上組に含めてしまう
  • 四分位範囲と範囲(最大値−最小値)を混同する
  • 並べ替える前のデータで位置を数えてしまう(四分位数は必ず昇順に並べてから)

問4箱ひげ図をかくための五数要約

★ 基礎箱ひげ図四分位数

問題

12人の生徒の1週間の読書時間は次の通りであった。

箱ひげ図をかくために必要な、最小値・第1四分位数・中央値・第3四分位数・最大値の5つの値を求めよ。また、範囲と四分位範囲も求めよ。

ヒントを見る

箱ひげ図に必要なのは5つの値(最小・・中央・・最大)。データが偶数個なら前半・後半がきっちり半分ずつに分かれる。両端の最小・最大を忘れずに、各組のまん中を取ろう。

解答・解説

方針

箱ひげ図をかくのに必要な材料は『最小値・・中央値・・最大値』の5つ。これを五数要約と呼ぶ。

今回はデータが 個(偶数個)なので、中央値は 番目と 番目の平均。偶数個の場合は下組・上組がちょうど 個ずつにきっちり分かれる(奇数個のときのように中央値を除く操作はいらない)。あとは各組で中央値をとれば 、 が出る。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 五数要約(最小値・・中央値・・最大値)は、箱ひげ図をかくための つの目印だ。

手順は前問と同じ。並べる → まん中で つに割る → それぞれのまん中をとる。

今回はデータが 個(偶数)。偶数個のときは、まん中の 個( 番目と 番目)の平均が中央値になる。そして除く値がないので、下組・上組はきれいに 個ずつに分かれる。

奇数個(まん中を除く)と偶数個(除かない)の違いだけ押さえれば、あとは数えるだけである。

公式五数要約:最小値・・中央値・・最大値。箱ひげ図はこの5つで決まる

データは小さい順に並んでいる( 個)。

最小値・最大値。 最小値 、最大値 だ。忘れがちだが、五数要約の両端はこの2つ。真っ先にメモしておく。

中央値。 個のまん中は 番目と 番目の平均だ。 番目は 、 番目は なので

第1四分位数。 下組は前半の 個 だ。その中央値は 番目と 番目の平均で

第3四分位数。 上組は後半の 個 だ。その中央値は

範囲と四分位範囲。

箱ひげ図で表すと、箱の左端が 、箱の中の線が中央値 、箱の右端が 、ひげの両端が最小値 と最大値 だ。箱の中にデータの約半数が詰まっている。箱ひげ図は五数要約を1枚の絵にしただけ、とわかれば、読み取りも作図も怖くない。

0481216(時間)36.58.512.516
読書時間の箱ひげ図(最小値 3、Q1 = 6.5、中央値 8.5、Q3 = 12.5、最大値 16)

発展。 箱ひげ図とヒストグラムは、同じデータの違う見せ方だ。

  • ヒストグラム: 山の形が分かる。ただし 枚に 集団しか描けない
  • 箱ひげ図: 形の情報は粗い。しかし細長いので、何十本も横に並べられる

たとえば「 都道府県の気温」「 か月の売上」のように、集団が多いときは箱ひげ図の独壇場になる。目的が「 つの分布を詳しく見る」なのか「たくさんの分布を比べる」なのかで、道具を選ぶ。

なお、箱ひげ図では山が つある分布(二峰性という。たとえば得意な人と苦手な人にきれいに分かれたテスト)を見抜けない。五数要約は同じでも、中の形はまるで違いうるからだ。要約は情報を捨てる操作である。捨てた情報の中に大事なものがないか、元データやヒストグラムに立ち返って確かめる習慣を持ちたい。

答

最小値 、、中央値 、、最大値 、範囲 、四分位範囲

別解

出た つの数を箱ひげ図として読む練習をしよう。数値を出して終わりではなく、そこから分布の形を読み取るのが箱ひげ図の目的だ。

まず、区間ごとに何人いるか数える。 、中央値 、 で区切ると

  • → 下ひげの区間( 人)
  • → 箱の左半分( 人)
  • → 箱の右半分( 人)
  • → 上ひげの区間( 人)

きれいに 人ずつ、 等分されている。これが四分位数の意味だ。箱の中(= から )には、全体のちょうど半分(この場合 人)が入る。

次に、長さを比べる。

  • 下ひげ: 、上ひげ: → 左右同じ長さ
  • 箱の左半分: 、箱の右半分: → 右が 倍広い

ここから何が読めるか。 箱の右半分が広いということは、上位 の手前の人たち(〜 時間の層)が広く散らばっているということ。逆に 〜 時間の層は密集している(実際 と団子になっている)。

同じ人数でも、区間が広いほど「まばら」、狭いほど「密集」。箱ひげ図はこの密度の違いを長さで表している。ヒストグラムのように山の形をそのまま描くわけではないが、 つの数だけで分布の偏りが読めるのが強みだ。だから複数の集団(A組とB組、去年と今年)を並べて比べるときに重宝する。

読み方の要点をまとめる。

  • 箱の幅()= まん中 の散らばり
  • 箱の中の中央値の位置が左右どちらに寄っているか = 分布の偏り
  • ひげの長さ= 端のほうの散らばり

ポイント

  • 箱ひげ図は五数要約(最小値・・中央値・・最大値)で決まる
  • 箱の長さが四分位範囲、ひげ全体の幅が範囲に対応する
  • 偶数個のデータは前半・後半にきっちり半分ずつ分ける

よくある間違い

  • 箱の端を最小値・最大値と混同する(箱の端は と )
  • 中央値の計算で6番目の値だけを取ってしまう
  • 偶数個なのに中央値を「除いて」下組・上組を作る(除くのは奇数個のときだけ。ここでは6個ずつに分ける)

問5分散と標準偏差(定義から)

★ 基礎分散標準偏差

問題

5個のデータ

について、平均値・分散・標準偏差を求めよ。

ヒントを見る

散らばりを測りたい。各データが平均からどれだけずれているか(偏差)をそのまま平均しようとしても、足すと必ず になってしまう。なぜ? それを避ける一手が『2乗してから平均』。標準偏差は最後にどう戻す?

解答・解説

方針

散らばりを測りたい。素朴には『各データが平均からどれだけずれているか(偏差)』の平均をとりたくなる。でも偏差は正と負が打ち消し合って、和が必ず になってしまう。

そこで、2乗してから平均する。これが分散の定義『偏差の2乗の平均』だ。手順は、平均値 → 各データの偏差 → 偏差の2乗 → その平均、と一本道。標準偏差は分散の正の平方根で、2乗した分の『単位のずれ』を元に戻した量だ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 分散は「平均からどれだけ散らばっているか」を測る量だ。

素朴に「平均からのズレを平均する」とどうなるか。ズレ( 偏差)は で、足すと 。必ず になってしまう(プラスとマイナスが打ち消し合うから)。これでは散らばりを測れない。

そこで、 乗して符号を消す。 乗してから平均すれば、散らばっているほど大きな値になる。

乗したぶん単位が「点」になって扱いにくいので、最後に平方根をとって元の単位に戻す。これが標準偏差である。平均 → 偏差 → 乗 → 平均 → 平方根、この 段を順に踏むだけだ。

公式分散 偏差の2乗の平均、標準偏差

まず平均値。

偏差とその2乗。 各データの偏差()は順に

ここで和をとってみると 。打ち消し合って散らばりの情報が消えてしまう。これが『そのまま平均』ではだめな理由で、2乗する動機だ。偏差の2乗は

分散と標準偏差。 分散 は偏差の2乗の平均なので

標準偏差 はその正の平方根で

(偏差の和が になることは、どんなデータでも成り立つ。もし偏差の和が にならなかったら、偏差の計算か平均値がまちがっている。検算に役立つので、毎回使いたい。)

発展。 なぜ「偏差の絶対値の平均」ではなく、わざわざ 乗するのか。符号を消すだけなら絶対値でもよさそうだ。

理由は つある。 つは計算のしやすさ。絶対値は場合分けが必要で、微分もできない。 乗なら展開でき、上で見たように という便利な式が出る。

もう つは、 乗が足し算と相性がいいこと。独立な つの量の和の分散は分散の和になる(、数Bで学ぶ)。この性質は絶対値では成り立たない。三平方の定理と同じ 乗の加法性が、統計の基礎になっている。

実際、 個のデータを 次元空間の 点と見ると、標準偏差は「平均を表す点からの距離」()そのもの。分散は 乗の距離、標準偏差は距離にあたる。幾何のことばで統計を読み直すと、 乗を使う理由が分かる。

答

平均値 、分散 、標準偏差

別解

分散にはもう つの計算式がある。偏差を書き出さずに済むので、平均が小数になる問題ではずっと速い。

この問題でやってみる。

乗の平均:

平均の 乗: 。

定義から計算した値とぴったり一致した。標準偏差も で同じである。

なぜ一致するのか。 偏差の 乗を展開してみると分かる。

( の平均が だから、 の平均は になる。) つの式は同じものの言い換えだ。

使い分けの目安。 平均がきれいな整数なら定義どおりが分かりやすい。平均が のように半端なら、偏差が全部小数になって計算が大変になる。そのときは 乗の平均を使う。

さらに高い視点から。 このデータ は公差 の等差数列だ。等差数列のデータの分散には、実は閉じた式がある。項数 、公差 のとき

代入すると となり、計算せずに答えが出た。等間隔に並んだデータの散らばりは、間隔と個数だけで決まるのだ(サイコロの目 〜 の分散が になるのも同じ公式である)。

ポイント

  • 分散 = 偏差の2乗の平均、標準偏差 =
  • 偏差の和は必ず になるので、計算の検算に使える
  • 標準偏差はもとのデータと同じ単位をもつ散らばりの指標

よくある間違い

  • 偏差を2乗せずに平均して「分散 」としてしまう
  • 分散と標準偏差を取り違える(標準偏差は平方根を取ったもの)
  • 偏差の合計を「個数−1」で割ってしまう(高校の分散は個数 で割る)

問6分散の公式((2乗の平均)−(平均の2乗))

★ 基礎分散分散の公式

問題

5個のデータ

について、分散を「(データの2乗の平均値)−(平均値の2乗)」の公式を用いて求めよ。また、標準偏差を求めよ。

ヒントを見る

分散にはもう1つの表し方『(2乗の平均)−(平均の2乗)』がある。(先に2乗して平均)と (先に平均して2乗)は別物だ。この2つを別々に出して引けばよい。順序を取り違えないこと。

解答・解説

方針

分散には、定義式のほかにもう1つの表し方がある。、言葉にすると『2乗の平均 − 平均の2乗』だ。

定義式で計算すると偏差が分数や小数になって苦しい場面でも、この公式なら元のデータを2乗するだけで済む。必要な材料は と の2つ。順に求めて代入する。

(2乗してから平均)と (平均してから2乗)は別物だ。この区別が公式のすべてと言っていい。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 今回は公式を使えと指定されている。

日本語で読むと「 乗の平均 引く 平均の 乗」となる。順番を逆にすると符号がひっくり返って負になる。 乗の平均が先、と唱えて覚えるとよい。

必要なものは つだけだ。

  • 平均 は、データを足して個数で割ったもの
  • 乗の平均 は、各データを 乗してから足して、個数で割ったもの

偏差を つずつ書き出す手間がないのが、この公式の値打ちである。分散が出たら、最後に平方根をとって標準偏差にする。

公式分散 (2乗の平均 平均の2乗)

まず平均値 。

2乗の平均 。 各データを先に2乗してから、平均をとる。

公式に代入。

よって標準偏差は

と がちがう値であること。この差が散らばりを表している(データが全部同じ値なら両者は一致して分散 になる)。引き算の順序を逆にすると分散が負になってしまう。分散は必ず 以上なので、負が出たら順序ミスを疑えばいい。

(検算: 定義式で計算すると、偏差は 、その2乗和は 、分散は で一致する。)

発展。 公式 は、、つまり「 乗してから平均したもの 平均してから 乗したもの」を意味する。等号はデータが全部同じ値のとき(散らばりゼロ)だけだ。

これは数学の重要な不等式の特別な場合である。一般に、下に凸な関数 について

が成り立つ(イェンセンの不等式)。 が下に凸だから、上の関係が出る。相加平均と相乗平均の関係も、この不等式の仲間である。

「散らばりがあると、 乗の平均は平均の 乗より必ず大きくなる」。分散はこの つの差を測っている量である。この公式は凸性という性質を式で表したものでもある。

答

分散 、標準偏差

別解

定義どおり(偏差を 乗して平均)でも計算し、公式の答えと合うことを確かめよう。 公式を「暗記した呪文」でなく「証明つきの道具」にするためだ。

平均は 。

偏差(平均からのズレ)を書き出す。

合計は (偏差の和はいつも 。ここで にならなければ平均の計算ミスなので、よい検算になる)。

乗して平均する。

公式で出した と一致した。

つの式が必ず一致する理由を、文字で確かめておく。データを 、平均を とすると

ここで だから、真ん中の項は 。したがって

展開して平均をとるだけで公式が出た。丸暗記する必要はない。

どちらを使うべきか。 判断基準はただ つ、平均が整数かどうかである。

  • 平均が整数(今回の )→ 偏差もきれいな整数。定義どおりが速い
  • 平均が小数(たとえば )→ 偏差が全部小数になり、 乗すると桁が増える。公式のほうがずっと速い

そして公式には大事な確認ポイントがある。分散は必ず 以上だから、 が常に成り立つ。もし引き算の結果が負になったら、どこかで計算ミスをしている。その場で気づける検算になる。

ポイント

  • (「2乗の平均 引く 平均の2乗」)
  • 引く順序を間違えない(逆にすると負になる)
  • 定義式と公式、両方で計算できると検算が可能になる

よくある間違い

  • と順序を逆にする(分散は必ず 以上)
  • の計算で2乗せずに合計する
  • を「合計を2乗して個数で割る」と誤解する(先に各データを2乗してから足す)

問7外れ値の判定

★ 基礎外れ値四分位数

問題

7個のデータ

について、第1四分位数 と第3四分位数 を求めよ。また、「 未満、または より大きい値」を外れ値とするとき、このデータに外れ値があれば求めよ。

ヒントを見る

『なんとなく大きい』では答案にならない。外れ値には客観的な基準がある。箱(〜)の両端から『四分位範囲の 倍』だけ外に線を引く。その線の外にある値が外れ値。まず四分位数から。

解答・解説

方針

。データを見れば、 だけが離れているのはすぐわかる。でも『なんとなく大きいから外れ値』では答案にならない。外れ値には客観的な判定基準がある。

それが『 未満、または より大きい値』という基準だ。手順は、四分位数 → 四分位範囲 → 基準の計算 → 外に出ている値を探す、の順だ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) データを見た瞬間、 だけが浮いていると分かる。しかし「なんとなく大きいから外れ値」では主観だ。

そこで機械的な基準を決める。問題文が与えているルールがそれである。

やることは 段階だ。四分位数を出す → 四分位範囲を出す → 上下の境界線を計算して、外に出ている値を探す。

個(奇数個)なので、中央値の 個は下組にも上組にも入れない。ここは前に習ったとおりである。

公式外れ値: 未満、または より大きい値

まず四分位数。 データは 個で、中央値は 番目の だ。奇数個なので中央値自身は組に入れない。下組は の 個で、その中央値は 。上組は の 個で、その中央値は だ。

判定の境界を計算する。 四分位範囲は なので、境界は箱の両端から『四分位範囲の 倍』だけ外側に引く。

つまり、 未満または より大きい値が外れ値だ。

判定する。 データの中で より大きいのは だけだ( 未満の値はない)。よって外れ値は

基準が四分位数ベースなのには理由がある。、 は端の値に影響されにくいので、外れ値候補の 自身が判定基準を歪めることがない(平均や範囲を基準にすると、外れ値が基準そのものを引きずってしまう)。なお、外れ値は入力ミスのこともあれば、意味のある値のこともある。機械的に捨てるのではなく、まず原因を考えるのが分析の作法だ。

x081630外れ値でない範囲外れ値
外れ値でない範囲は 0 以上 16 以下で、30 はこの範囲の外(外れ値)

発展。 「なぜ 倍なのか」という疑問はもっともだ。 倍でも 倍でもよさそうに見える。

答えは、きれいな釣鐘型(正規分布)のデータなら、この基準に引っかかる値がおよそ しか出ないように調整されているから。 人に 人ほど。「めったにない」と言うのにちょうどいい厳しさ、という経験則の産物である( 倍だともっと多くの値が引っかかり、 倍だと本物の異常値も見逃す)。

つまり という数に深遠な理由はなく、使いやすさで選ばれた慣習である。統計にはこういう約束事がしばしば登場する(仮説検定の もそう)。数学的必然と、実務上の取り決めを区別して理解することは、統計を学ぶうえで大切である。

なお、箱ひげ図で外れ値を で別に打ち、ひげは外れ値を除いた最大・最小まで引く描き方もある(外れ値つき箱ひげ図)。こうすると、ひげの長さが外れ値に引き伸ばされず、分布の本体が見やすくなる。

答

、、外れ値は

別解

外れ値がどれほど影響するか、数字で確かめる。 そして「なぜ外れ値の判定に四分位数を使うのか」に答える。まず、 を除いた 個 と、 込みの 個で、代表値を比べる。

を除く 込み
平均
中央値
標準偏差 約 約

平均は 点以上ずれ、標準偏差にいたっては 倍以上に膨らむ。 個の値だけで、集団の見え方が大きく変わった。「このクラスの平均は 点」と言われても、 人は 点以下なのだから、実態を表していない。

一方、中央値は から へ動いただけ。 順位でしか物を言わない指標は、外れ値にびくともしない。

だから外れ値の判定に ・ を使う。 もし「平均 標準偏差の外」を基準にしたらどうなるか。標準偏差そのものが に膨らまされているので、外れ値が自分自身を隠してしまう。犯人が捜査資料を書き換えるようなものだ。四分位数なら に汚染されないから、公平な物差しになる。

なので は外れ値。他の 個は と のあいだに収まっている。

最後に大事なこと。外れ値 捨てる値、ではない。 入力ミスなら直すべきだし、本物の記録(たとえば飛び抜けて読書する生徒)ならそれこそが一番おもしろい情報かもしれない。外れ値の判定は「ここを調べよ」という警告灯であって、削除ボタンではない。

ポイント

  • 外れ値の基準: 未満、または より大きい値
  • 四分位数 → 四分位範囲 → 境界 → 判定、の順に機械的に計算できる
  • 外れ値があると平均値や範囲は大きく影響を受けるが、中央値や四分位範囲は影響を受けにくい

よくある間違い

  • 倍するのを忘れて などで判定する
  • 境界の値そのもの(この場合 や )を外れ値に含めてしまう
  • 外れ値を見つけたら必ず除外すべきだと思い込む(判定は「調べよ」の合図。除外の可否は理由次第)

問8変量の変換と平均・分散

★ 基礎変量の変換

問題

あるテストの得点 の平均値は 点、標準偏差は 点であった。次の各場合について、新しい変量 の平均値と標準偏差を求めよ。

(1) 全員に 点を加える:

(2) 全員の得点を 倍する:

(3) とする

ヒントを見る

全員に同じ数を足す・全員を何倍する、で平均と散らばりはどう動く? 全員一律に足しても『差のつき方』は変わらない(=散らばりは不変)。では何倍かにすると、差はどうなる?

解答・解説

方針

全員の点数に を足したら、平均は?散らばりは?いちいち計算し直す必要はない。

変換 に対して、平均値は同じ変換を受けて 。一方、標準偏差は になる。

が標準偏差に現れないのがポイントだ。全員に同じ数を足すのはデータ全体の平行移動で、データどうしの間隔(散らばり)は変わらないからだ。分散は標準偏差の2乗なので となる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 全員の得点を同じように動かすと、平均と散らばりはどうなるか。絵で考えるのが速い。

データを数直線上の点の集まりだと思おう。

(1) 全員に 点足す → 点の集まりがまるごと右に 平行移動する。集団の位置は動くが、点どうしの間隔は変わらない。だから平均は 、散らばり(標準偏差)はそのまま。

(2) 全員を 倍する → 点の間隔がすべて 倍に引き伸ばされる。平均も 倍、散らばりも 倍。

(3) → 符号がマイナスなので左右反転し、 平行移動。反転しても散らばりの大きさは変わらない(標準偏差は負にならない)。

絶対値が決め手である。

公式変量の変換 :、、

変換 に対して

が成り立つ。これを各場合にあてはめる。

(1) 全員に 点加える。、 なので

平均は 点動くが、標準偏差は変わらない。全員が一斉に 点ずつ上がっても、点数の差のつき方は元のままだからだ。

(2) 全員の点数を 倍する。、 なので

今度は散らばりも 倍される。差が 点だった2人は、 倍後には 点差になる。平行移動とちがって、拡大はデータの間隔を実際に引き伸ばす。

(3) 、 なので

まとめ:『』と書きたくなったら手を止めること。標準偏差は散らばりの大きさで、必ず 以上だ。データの並び順が反転しても、散らばりの幅そのものは変わらない。だから には絶対値がつく。

発展。 平均と標準偏差の反応の違いは、「位置」と「形」という役割の違いから来ている。

  • 平均は集団の位置を表す → 平行移動()で動き、拡大()でも動く
  • 標準偏差は集団の形(広がり)を表す → 平行移動では動かない、拡大でのみ動く

平行移動で変わらない量を、数学では不変量という。標準偏差は「平行移動しても変わらない」量だ。

不変量に着目する見方は数学のあちこちで使われる。図形の合同変換で長さと角が不変であること、複素数の絶対値が回転で不変であることも、その例だ。「何が変わり、何が変わらないか」を見抜くことが、構造を理解するということである。統計の変量変換はその入門編にあたる。

ちなみに相関係数(次に学ぶ)は と をどちらもどう変換しても( なら)変わらない。標準偏差よりさらに強い不変性を持っている。だから単位の違う量どうしの関係を測る物差しとして使える。

答

(1) 平均 、標準偏差 (2) 平均 、標準偏差 (3) 平均 、標準偏差

別解

公式を信じきれないときは、条件に合う小さなデータを自分で作って実験するのがいちばんだ。 人ぶんで足りる。

平均 、標準偏差 になるデータを用意する。 たとえば

平均は 。偏差は で、 乗の平均は 、標準偏差は 。条件どおりだ。

(1) 全員に を足す: 。平均は 。偏差は でさっきと同じ → 標準偏差は のまま。

「偏差が変わらない」がすべてだ。全員が同じだけ動けば、平均も同じだけ動く。だから「各データ 平均」の値は動かない。散らばりが変わらないのは当然だ。

(2) 全員を 倍: 。平均は 。偏差は → 標準偏差は 。偏差も 倍になっている。

(3) : 。平均は 。偏差は → 乗すればどれも で、標準偏差は 。符号は反転しても 乗で消える。 が出てくるのはこのためだ。

人ぶんの実験で、 つの答えがすべて確認できた。公式に不安があるときは、小さな例で試す。この方法は数学のあらゆる場面で使える。

この変換公式のいちばんの使い道も見ておこう。、 ととると

この の平均は 、標準偏差は 。どんなデータも「平均 ・標準偏差 」に作り変えられる。これを標準化という。

標準化すれば、 点満点の数学と 点満点の英語のような単位も規模も違うデータを、同じ土俵で比べられる。偏差値 は、この を見やすく化粧した値だ(、つまり平均より標準偏差 つぶん上なら偏差値 )。変量の変換は比べるための物差しをそろえる方法である。

ポイント

  • のとき 、、
  • 定数 を加えても散らばり(分散・標準偏差)は変わらない
  • でも標準偏差は正なので、 を掛ける

よくある間違い

  • (1)で標準偏差も に増えると考えてしまう
  • (3)で標準偏差を とする(標準偏差は負にならない)
  • 分散と標準偏差で倍率を混同する(標準偏差は 倍、分散は 倍)

問9共分散と相関係数の計算

★ 基礎共分散相関係数

問題

5人の生徒の数学の小テスト と英語の小テスト の得点(いずれも10点満点)は次の通りであった。

と の共分散 と相関係数 を求めよ。

ヒントを見る

2つの量の『連動の強さ』を測る。決め手は共分散=『 の偏差と の偏差の積の平均』だ。なぜ積? 両方が同じ向きにずれれば積は正、逆向きなら負。まず各点の偏差の積を並べてみよう。

解答・解説

方針

2つの変量の『連動の強さ』を数値にする手順だ。核になるのは共分散、『 の偏差と の偏差の積の平均』だ。

なぜ積なのか。 も も平均より上(正 × 正)、または両方とも下(負 × 負)なら積は正。逆向きにずれていれば負。つまり積の符号が『同じ向きに動いているか』を表す。

ただし共分散は単位に左右されて大小の基準が持てないので、標準偏差で割って 〜 にそろえたものが相関係数 だ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) つの量の関係を測りたい。決め手は偏差の積である。

各生徒について「数学が平均より上か下か」「英語が平均より上か下か」を見る。

  • 両方とも平均より上(偏差が と )→ 積は正
  • 両方とも平均より下( と )→ 積は正
  • 片方だけ上( と )→ 積は負

つまり「 科目が同じ方向に動く人が多いほど、積の合計は大きくなる」。この積の平均が共分散だ。

ただし共分散は単位に左右される(点を 倍すれば 倍になる)。そこでそれぞれの標準偏差で割って規格化したのが相関係数 である。手順は「平均 → 偏差 → 積と 乗 → 割り算」。表を作って淡々と進めよう。

公式共分散 偏差の積の平均、相関係数 ()

まず平均値。

偏差を整理する。 偏差の計算は表にして淡々と進めるのがミスを防ぐコツだ。 の偏差:

の偏差:

偏差の積:

積がすべて 以上。どの組も『 が平均より上なら も上』という同じ向きのずれ方をしていることが、この時点で読み取れる。

共分散。

それぞれの標準偏差。

よって だ。

相関係数。

は にかなり近い。 と の間には強い正の相関がある。散布図を思いうかべると、点がほぼ右上がりの直線に沿って並んでいる状態だ。相関係数は必ず に収まる。もし計算結果がこの範囲を飛び出したら、どこかで計算ミスをしている。

12345246xy
数学 x と英語 y の散布図。右上がりの強い正の相関がある(r = 0.9)

発展。 相関係数が 以上 以下に収まるのは偶然ではない。 の偏差を並べたものを 、 の偏差を並べたものを というベクトルだと思うと

つまり、相関係数は つの偏差ベクトルのなす角の そのものだ。これで何もかも腑に落ちる。

  • は 以上 以下 →
  • ()= 偏差ベクトルが同じ向き = 完全な右上がりの直線
  • ()= 偏差ベクトルが直交 = 無相関
  • ()= 真逆の向き = 完全な右下がりの直線

「無相関」は「直交」と呼びかえられる。統計の相関と、ベクトルの内積は同じ構造をしている。(コーシー・シュワルツ)から が導かれる。

このように、数学の異なる分野が同じ形の式で結ばれることがある。

答

、

別解

共分散の符号は散布図を見れば計算前に分かる。 数値の意味を絵でつかんでおこう。

散布図に「平均の十字線」を引く。 縦線を ( の平均)に、横線を ( の平均)に引くと、散布図が つの部屋に分かれる。

  • 右上の部屋( も も平均超): 偏差の積は 正
  • 左下の部屋(どちらも平均未満): 正
  • 左上・右下の部屋(一方だけ平均超): 積は負

人がどの部屋にいるか調べる。偏差の組は

負の部屋(左上・右下)に入る人が 人もいない。 人が右上か左下、 人は十字線の上に乗っている(積は )。だから偏差の積の合計は正になり、計算する前から共分散が正だと分かる。

共分散とは、右上・左下に点が集まっている度合いである。右上がりに並ぶほど、正の項ばかりになって値が大きくなる。逆に右下がりなら負の項ばかりで、共分散は負になる。

では、なぜ標準偏差で割るのか。 共分散 という数字は、それだけ見ても大きいのか小さいのか分からない。得点を 倍(たとえば 点満点に換算)すれば共分散は 倍の になる。単位を変えただけで数字が変わるのでは、物差しにならない。

そこでそれぞれの散らばり(、)で割る。すると単位が打ち消し合い、 から のあいだの、単位を持たない数になる。これが相関係数だ。

実際、英語の得点を (採点方式を変えた)としても、共分散は 倍、 も 倍になるので、割り算で が消えて のままである。相関係数は「ものさしの取り替え」で変わらない。だから身長と体重、気温と売上のように単位の違う量の関係も測れる。

に近いので「強い正の相関」。 が必ず成り立つ(これは数IIで学ぶコーシー・シュワルツの不等式そのものだ)ので、 を超える値が出たら計算ミスである。よい検算になる。

ポイント

  • 共分散 = 偏差の積の平均、相関係数
  • 偏差の表(x偏差・y偏差・積・2乗)を作ると計算が整理される
  • 。 に近いほど強い正の相関

よくある間違い

  • 共分散の計算で偏差の積ではなく の積をそのまま平均する
  • 分母を (分散の積)にしてしまう
  • の値が出ても気づかない(相関係数は必ず 。超えたら計算ミス)

問10相関の正負の読み取り

★ 基礎相関散布図

問題

次の(1)〜(3)の2つの量の間には、一般に「正の相関」「負の相関」「相関がない(ほとんどない)」のどれがあると考えられるか。理由とともに答えよ。

(1) 夏の各日の最高気温と、その日のアイスクリームの売上金額

(2) 標高と気温(同じ時刻に、いろいろな標高の地点で測る)

(3) 生徒の身長と、その生徒の数学のテストの得点

ヒントを見る

頭の中に散布図をかいてみよう。一方が増えると他方も増える? 減る? 関係ない? 点のならびが右上がり・右下がり・バラバラ、のどれになるかで判断する。

解答・解説

方針

相関の正負は散布図を頭の中にかいて判断する。『一方が増えると他方も増える傾向』なら点は右上がりに並ぶ。正の相関だ。『一方が増えると他方が減る傾向』なら右下がり。負の相関だ。増減に関係が見られなければ、点は雲のように散らばる。相関なしだ。

ここでは『傾向』という言葉が大事だ。全部の点がきれいに並ぶ必要はなく、例外があってもおおまかな向きがあれば相関と呼ぶ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 相関の正負は、散布図に点を打ったらどう並ぶかを頭の中で想像すれば決まる。

  • 右上がりに並ぶ(一方が増えると他方も増える)→ 正の相関
  • 右下がりに並ぶ(一方が増えると他方は減る)→ 負の相関
  • 雲のようにばらける(関係がない)→ 相関がない

つずつ、極端な場合を想像するのがコツだ。「とても暑い日」のアイスの売上は? 「富士山頂」の気温は? 「背が高い生徒」の数学の点は?

最後のものだけ、答えが出てこないはずである。背が高くても低くても、数学ができる人もできない人もいる。それが「相関がない」ということだ。

公式正の相関=散布図が右上がり、負の相関=右下がり、相関なし=バラバラ

(1) 正の相関

正の相関(右上がり)

気温が高い日ほどアイスクリームはよく売れる傾向がある。散布図をかくと点が右上がりに分布すると考えられるので、正の相関がある。

(2) 負の相関

負の相関(右下がり)

標高が 上がるごとに気温はおよそ 下がることが知られている。標高が高いほど気温は低くなる傾向があるので、散布図は右下がりになり、負の相関がある。

(3) 相関がない(ほとんどない)

相関がない(傾向が見られない)

身長が高いからといって数学の得点が高い(低い)という傾向は考えにくい。散布図をかいても点は全体に散らばり、右上がり・右下がりのどちらの傾向も見られないと考えられるので、相関はほとんどない。

まとめ:注意を2つ。第一に、相関は『傾向』の話であり、例外があっても相関を否定しない。気温が高いのに売れない日が1日あってもよい。第二に、相関は因果ではない。2つの量が連動して見えても、一方が他方の原因とは限らない(たとえば『アイスの売上』と『水難事故の件数』には正の相関があるが、アイスが事故を起こすわけではなく、背後に『夏』という共通の要因がある)。データ分析で最も誤用されやすいポイントなので、早いうちに身につけておきたい。

発展。 相関係数の値と「相関の強さ」の対応には、おおよその目安がある。

  • が 以上なら強い相関
  • 前後なら中くらいの相関
  • 以下ならほとんど相関なし

ただしこれは分野によって基準が違う。物理の実験なら でも「合っていない」と言われるし、人間の行動を扱う心理学や経済学では でも「強い発見」になる。数値の意味は文脈で決まる。

もう つ、間違えやすい点を紹介しておく。データを切り取る範囲を変えると、相関の符号が逆転することがある(シンプソンのパラドックスという)。全体では正の相関に見えるのに、グループごとに分けると全部が負の相関になる。そんな例が現実に起こる(大学の合格率の男女差の有名な例がある)。

同じデータでも、集め方・切り取り方しだいで、まったく違う結果に見える。 統計の結論が信頼できるかどうかは、データを集めて扱う人の誠実さにかかっている。

答

(1) 正の相関 (2) 負の相関 (3) 相関がない(ほとんどない)

別解

相関を読むときに、引っかかりやすい点が つある。この つを知っているかどうかで、データとの付き合い方が変わる。1つ目は、相関があっても原因とは限らないことだ。

(1)の「気温とアイスの売上」は、気温が上がるからアイスが売れるという素直な因果関係だ。しかし世の中には、こんな例がある。

  • アイスの売上と水難事故の件数には、強い正の相関がある

アイスを食べると溺れるのか。もちろん違う。どちらも「気温が高い」という第 の原因から生じているだけだ(暑い → アイスが売れる、暑い → 水辺に行く人が増える)。こういう見かけの相関を疑似相関という。

「相関がある」は「一緒に動く」という事実の記述にすぎない。 「だから一方が他方の原因だ」と言うには、まったく別の根拠がいる。ニュースやグラフを見るとき、「第 の原因はないか」と一度立ち止まる。これが統計リテラシーの第一歩だ。

2つ目は、相関係数が でも無関係とは限らないことだ。相関係数が測るのは「直線的な関係」だけである。たとえば が 、(つまり )というデータを考えよう。 は で完全に決まるので、これ以上ないほど関係が強い。

ところが相関係数を計算すると、ぴったり になる。左半分は右下がり、右半分は右上がりで、 つが打ち消し合うからだ。

が意味するのは「直線的な関係がない」ことだけ。 U字型・放物線型の関係は相関係数には表れない。だから必ず散布図を描いて、目で形を確かめる。数値だけを見て「無関係」と結論してはいけない。

まとめると。 相関係数は便利だが、 つのことを言えない。「どちらが原因か」も、「直線以外の関係」も、この つの数からは読み取れない。数字を出したら、必ず絵に戻る。

ポイント

  • 正の相関 = 右上がりの散布図、負の相関 = 右下がりの散布図
  • 相関は全体の傾向。個々の例外があってもよい
  • 相関があっても因果関係(原因と結果)があるとは限らない

よくある間違い

  • 「関係が強い=正の相関」と思い込む(強い負の相関もある)
  • 相関と因果を混同する
  • 相関係数が なら無関係だと結論する(U字型など、直線でない関係は に映らない)

問11データの追加と平均値・中央値の変化

★ 基礎代表値データの修正

問題

5人の生徒のテストの得点は

で、平均値は 点である。ここに得点が 点の生徒 人が加わった。

(1) 人の得点の平均値を求めよ。

(2) 人の得点の中央値を求めよ。

ヒントを見る

新しい平均を出すのに、5人の個々の点数はいらない。平均の定義を逆に使えば『総和 = 平均 × 人数』で総和が復元できる。そこに追加分を足して新しい人数で割る。中央値は逆算できないので、別の方法を考える。

解答・解説

方針

『平均 点の 人に 点の1人が加わったら?』。新しい平均を求めるのに、5人の個々の点数は実はいらない。

平均値は『総和 ÷ 人数』なのだから、逆に総和は『平均 × 人数』で復元できる。この逆算が(1)の決め手だ。復元した総和に を足し、新しい人数 で割ればいい。

(2)の中央値は逆算では出せない。6人分の得点を実際に並べ直して、偶数個のルール(まん中2つの平均)をあてはめる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 「 人加わったら平均はどうなるか」は、合計に戻して考えるのが原則だ。

平均 点で 人なら、合計は 点。ここに 点が加われば、合計は 点で 人。だから平均は 。

平均どうしを平均してはいけない( は誤り)。人数の重みが違うからだ。 人の 点と 人の 点では、 のほうが 倍重い。

中央値のほうは並べ直して数えるだけ。 人(偶数)なので、まん中 つの平均になる。平均は合計に戻る、中央値は並べる。両者は反応の仕方が根本的に違う。

公式総和 平均値 個数(平均から総和を復元できる)

(1) もとの 人の得点の総和は、平均の定義を逆向きに使って

と復元できる。 点の生徒が加わると、総和は 点、人数は 人になるので

ありがちな誤りは とする計算だ。これは『5人分の重み』を無視して、平均と1人の点数を対等にあつかってしまっている。平均どうし、平均と個々の値を混ぜるときは、必ず総和に戻ってから計算する。

(2) 人の得点を小さい順に並べると

個(偶数個)なので、中央値は 番目と 番目の平均だ。

(平均値の変化を直感で確かめる。加わった 点はもとの平均 点より高い。だから平均は上がるはずで、実際 と上がっている。『平均より高い値が加わると平均は上がる』。計算前にこの見通しを立てておくと、大きな計算ミスに自分で気づける。)

発展。 「元の平均 はみ出し 新人数」という式は、データが 個ずつ増えていく状況で平均を更新し続けるのに使える。

これは立派な漸化式だ(数Bで学ぶ)。過去の全データを覚えておかなくても、今の平均と個数さえ持っていれば、新しい値が来るたびに平均を更新できる。記憶しておくデータが少なくて済む計算法である。

センサーの計測値をリアルタイムで平均する装置や、動画の視聴数から平均評価を更新するサービスのように、「流れてくるデータ」の処理では、この逐次更新の式が実際に使われている。 という補正項の形は、機械学習の学習則(誤差に比例して少しずつ修正する)ともそっくりだ。

教科書で学ぶこの計算がそのまま実際のデータ処理で使われている。

答

(1) 点 (2) 点

別解

「平均からどれだけ離れているか」だけで、新しい平均が暗算できる。 大きな合計を出さずに済むやり方だ。加わる生徒は 点。今の平均 点より 点高い。

この「余分な 点」を、 人で山分けすると考える。

合計 を で割った答えと一致した。

なぜこれでよいのか。 一般に、 人の平均が のところへ値 の 人が加わると

元の平均 (はみ出したぶん)(新しい人数)、という形になる。はみ出しを全員でならす、という直感がそのまま式になっている。

この見方だと、変化の大きさも一目で分かる。 人数 が大きいほど分母が大きくなり、 人が加わっても平均はほとんど動かない。 人の平均に 人加わっても、動くのは だけで、ほぼゼロだ。大きな集団の平均はなかなか動かない。

中央値のほうは、もっと鈍い。 加わる生徒が 点でも、 点でも、 点でも、極端に 点でも、 人の中央値はすべて 点である。 点以上ならどれも「上位 人」の一員になるだけで、まん中の 人( と )は変わらないからだ。

一方、平均は 点が加われば 点へ跳ね上がる。

同じ 人の追加が平均には影響し、中央値には影響しない。 「平均点が上がった」というニュースを聞いたら、それが全体の底上げなのか、一部の突出なのかを疑う。代表値の性格を知っていれば、こういう読み方ができる。

ポイント

  • 総和 = 平均値 × 個数 だから、平均値から総和を復元できる
  • データを追加したら並べ直してから中央値を取り直す
  • 平均より大きい値が加わる → 平均は上がる(逆も同様)

よくある間違い

  • (1)で のように平均どうしを単純に平均してしまう
  • (2)で並べ直さずに追加前の並びのまま中央値を取る
  • (2)で6人なのに3番目の値だけを中央値にする(偶数個はまん中2つの平均)

問12仮説検定の考え方(コイン投げ)

★ 基礎仮説検定

問題

あるコインを 回投げたところ、表が 回出た。「このコインは表が出やすい」と判断してよいかを、次の実験結果を用いて考える。

公正なコイン(表と裏が同じ確率で出るコイン)を 回投げる実験を セット行ったところ、表が 回以上出たのは セットであった。

基準となる確率を として、「このコインは表が出やすい」と判断してよいか答えよ。

ヒントを見る

『表が出やすい』と主張したいのに、まず立てるのは反対の仮説『公正である』。公正だと仮定したら、今回の結果はどれくらい珍しいか。実験の割合を出して、基準 と大小を比べる。珍しすぎたら仮定のほうを疑う。

解答・解説

方針

『このコインは表が出やすい』と主張したい。そのとき仮説検定では意外なことに、主張と反対の仮説『このコインは公正である』をまず立てる。

理由はこうだ。公正だと仮定して話を進め、『その仮定のもとでは今回の結果はめったに起こらない』と示せれば、仮定のほうが疑わしい、と反対の仮説を倒せる。背理法によく似た論法だ。

『めったに起こらない』の基準はここでは ()。実験結果の相対度数と、この基準の大小比較が判定のすべてだ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 「表が 回も出た。このコインは怪しい」と感じたとき、それを数学の言葉で裏づけるのが仮説検定だ。

論法は少し変わっている。主張したいことの反対を、いったん仮定する。

  • 立てる仮説: 「このコインは公正だ(表と裏は同じ確率)」

そして問う。「もし公正なら、 回中 回も表が出ることは、どれくらい珍しいのか?」実験結果を見ると、公正なコインで 回以上出たのは セット中 セットだけだった。割合は 、つまり 。

()より小さい。「公正なら、めったに起きないはずのことが起きた」。それなら最初の仮定を疑うべきだ。仮説を棄却して、「表が出やすい」と判断する。背理法に似た考え方である。

重要仮説検定:主張の反対(帰無仮説)を立て、その仮説のもとでの相対度数が基準( 等)より小さければ棄却

まず仮説を立てる。 判断したい主張は『このコインは表が出やすい』だ。そこで、これに反する仮説

を立て、この仮説が正しいとしたら今回の結果(表が 回以上)がどれくらい起こりにくいかを調べる。自分の主張を直接証明するのではなく、相手(反対の仮説)を追いつめるのが、この論法の構えだ。

実験結果から相対度数を求める。 公正なコインを 回投げる実験 セットのうち、表が 回以上出たのは セットだけだった。その相対度数は

つまり、公正なコインでも表が 回以上出ることはある。ただし 回に 回くらいしか起こらない、ということだ。

基準と比べて判断する。

今回のような結果は基準の を下回る『めったに起こらない』出来事だ。それが現実に起きた。ならば『公正である』という仮定のほうを疑うのが筋であり、この仮説を棄却する。

結論。 このコインは表が出やすいと判断してよい。

(もし相対度数が 以上だったら?そのときは『公正なコインでも普通に起こりうる結果』なので仮説は棄却できない。ただしそれは『公正だと証明された』ことにはならず、『表が出やすいとは言い切れない』という保留の結論になる。この非対称が仮説検定の肝だ。)

発展。 ここで立てた「公正なコインだ」という仮説を帰無仮説、否定したい相手を倒したときに残る「表が出やすい」を対立仮説という。基準の は有意水準と呼ばれる。

数Bの「統計的な推測」ではこの判定を実験ではなく正規分布で行う。 回中の表の回数は二項分布に従い、回数が多ければ正規分布で近似できるからだ。平均 、標準偏差 として

片側 の基準値 を超えている → 棄却。実験も、二項分布の直接計算も、正規近似も、同じ結論に着く。道具が違うだけで、考え方は つだ。

判定を誤る可能性も 種類ある。本当は公正なのに「怪しい」と言ってしまう誤り(その確率が有意水準 )と、本当は偏っているのに見逃す誤り。基準を厳しくすれば前者は減るが、後者は増える。両方をゼロにはできない。

新薬が効くかどうかの判定も、工場の不良品検査も、この論理でできている。「絶対に確か」ではなく「これだけ珍しいなら偶然とは考えにくい」で前に進む。仮説検定は不確実な状況で判断を下すための方法である。

答

相対度数 なので「公正なコイン」という仮説は棄却され、表が出やすいと判断してよい

別解

実験の セットは、本当は計算で求められる確率の近似である。理論値を出して、実験結果と突き合わせてみよう。

公正なコインを 回投げて表が 回出る確率は、 回のうちどの 回が表かを選ぶ場合の数を使って

と書ける( 通りの表裏の並びは、どれも同じ確率で起こるから)。求めたいのは「 回以上」だから、 から まで足す。

理論値は約 。 実験で得た はこの を 回の試行で推定した値だったわけだ( セットしかないので、ぶれるのは当然である)。

どちらも を下回る。 だから結論は変わらない。仮説は棄却され、「表が出やすい」と判断してよい。

ここで背筋が寒くなる事実に気づく。理論値 は基準 をぎりぎり下回っているだけだ。もし表が 回だったら? 同じ計算をすると

は基準の 倍なので、棄却できない。表が 回違うだけで、結論がひっくり返るのである。この事実から、 つの大事な教訓が出る。

  • という基準に、数学的な必然性はない。 「まあこのくらい珍しければ」という約束事にすぎない。 を基準にすれば、今回は棄却できなかった()
  • 「棄却できない」は「仮説が正しい」ではない。 証拠が足りないだけで、無罪放免ではない。仮説検定は「白」を証明できず、「黒だと言えるほど珍しいか」だけを判定する
  • 回数を増やせば、判定は鋭くなる。 回投げて 回表なら(同じ割合でも)確率はずっと小さくなり、はるかに強い証拠になる。データの量が、結論の強さを決める

仮説検定は「疑わしきは罰せず」の論理だ。刑事裁判で「無罪と仮定して、有罪の証拠がどれほどありえないか」を問うのと、まったく同じ構えをしている。

ポイント

  • 主張と反対の仮説(帰無仮説)を立て、その仮説のもとでの起こりにくさを調べる
  • 起こった結果の相対度数が基準(例: )より小さければ仮説を棄却する
  • 「めったに起こらないはずのことが起きた → 仮説が疑わしい」という論法の構造をつかむ

よくある間違い

  • 「表が出やすい」という主張のほうを仮説として立ててしまう
  • 相対度数が基準より小さいのに「仮説は正しい」と逆の結論を出す
  • 「棄却できなかった」を「仮説が正しいと証明された」と読みかえてしまう(証拠不足と無実は別)