数学C / 空間ベクトル

空間ベクトル ★ 基礎の問題 全12問

教科書レベル。定義・公式の確認と基本操作

難易度: ★ 基礎·★★ 標準·★★★ 応用·★★★★ 難関·実戦編·最難関編

  1. 空間ベクトルの大きさ
  2. 空間ベクトルの和
  3. 空間ベクトルの内積
  4. 空間ベクトルのなす角
  5. 空間ベクトルの垂直条件
  6. 空間ベクトルの平行条件
  7. 空間の中点
  8. 空間の三角形の重心
  9. 空間の単位ベクトル
  10. 空間の2点間の距離
  11. 空間ベクトルの実数倍と差
  12. 空間ベクトルの大きさ(負の成分)

問1空間ベクトルの大きさ

★ 基礎ベクトルの大きさ

問題

空間ベクトル の大きさ を求めよ。

ヒントを見る

空間でも大きさの考え方は平面と同じで、成分の 乗和のルートをとる。 つ目の成分が増えるだけ。

解答・解説

方針

空間ベクトルの大きさは 成分の 乗の和の平方根。。平面のときに 成分が加わっただけ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 平面のときと、公式はほとんど同じだ。

成分が つ増えただけ。

答えは 。きれいな整数だ。

この式がなぜ成り立つのか。平面では三平方の定理( 回)だった。

空間では三平方の定理を 回使う。

回目: 底面( 平面)での対角線。

回目: その対角線と、高さ で作る直角三角形。

「三平方を 回」使えば、 次元の距離が出る。そして、この構造は 次元でも、 次元でも同じように続いていく。

公式空間ベクトルの大きさ

成分の 乗の和の平方根。

xyza(1,2,2)O
|a|=√(1²+2²+2²)=3。ベクトルは 1×2×2 の直方体の対角線

まとめ:空間ベクトルの大きさは平面の公式に 成分を足すだけ。。 は大きさ (--- の関係)。空間版の三平方の定理だ。

発展。 という式は、 次元に限らない。

次元の距離。

この式は、次元がいくつでも意味をもつ。高次元では、直感と違う現象が起きる。単位立方体の対角線を考えよう。

辺の長さが の立方体、その対角線の長さは?

次元(正方形):

次元(立方体):

次元:

次元:

次元:

辺の長さは のままなのに、対角線は でどんどん伸びていく。

次元の単位立方体では 辺 なのに、対角線は 。「箱の中に、辺の 倍の長さの棒が入る」

直感が完全に破綻する。

もう1つ、意外な話がある。

次元の単位球(半径 の球)の体積は、 が大きくなるとどうなるか。「次元が増えるほど、球は大きくなる」と思うだろうか。

逆だ。

次元でピークを迎え、その後は に向かって減っていく。 次元の単位球の体積はほとんどゼロ。

なぜか。

高次元では、球の体積のほとんどが「表面近く」に集中してしまうからだ。高次元の球は「中身がスカスカで、皮だけの球」になっている。この事実は機械学習で深刻な問題を引き起こす。

高次元のデータ空間では、「近い」という概念が意味を失う。すべてのデータ点が互いにほぼ同じ距離にあり、球の「表面」に張りついている。次元の呪いと呼ばれる現象だ。

という、素朴な計算。その式をそのまま高次元へ持っていくと、直感が通用しない結果が出てくる。式どおりに計算すると、直感と違う結論が出ることがある。

答

別解

直方体の対角線として、目で見て納得する。 を、直方体の対角線と見よう。

縦 、横 、高さ の箱を考える。 原点から、対角の頂点 へ引いた線。それが だ。

この対角線の長さを、 段階で求める。第 段階: 床の対角線。箱の底面( 平面上)は、縦 、横 の長方形。

その対角線は、三平方の定理より

第 段階: 立体の対角線。いま求めた床の対角線()と、高さ()は、垂直だ。

この つを 辺とする直角三角形を考える。 斜辺が求める対角線。

本解と同じ

三平方の定理を 回使った。

そして、 回目の結果 を 乗すると、 に戻る()。だから、結局こう書ける。

公式の つの 乗和は「三平方を 回使った」ことを表している。この構造は次元を上げても続く。 次元なら、三平方を 回。

次元なら、 回。「新しい次元を足すたびに、 乗を つ足す」この単純な規則で、どんな高次元でも距離が測れる。

さて、答えが という整数になったのは、幸運だ。空間版のピタゴラス数は平面ほど有名ではないが、確かに存在する。

と は、覚えておくと計算が楽になる。問題を作る人はたいていこの組み合わせを使う。

ポイント

  • 。
  • 平面の公式に 成分を追加。

よくある間違い

  • 成分を つしか 乗しない( 成分を忘れる)。空間では 成分すべてを 乗して足す
  • を としてしまう。大きさは正なので
  • 乗を忘れて としてしまう。各成分を 乗してから足す

問2空間ベクトルの和

★ 基礎ベクトルの和

問題

、 のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

成分ごとに足すだけ。成分が つに増えても規則は変わらない。

解答・解説

方針

和は成分ごとに足す。 成分それぞれ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 空間ベクトルの和も、成分ごとに足すだけだ。

成分どうし、 成分どうし、 成分どうし。

つの方向は互いに独立している。 縦にどれだけ動いても、横の位置は変わらない。

平面のときと、まったく同じ考え方だ。 成分が つ増えただけ。図で見れば、 の終点に を継ぎ足したもの。

空間でも、この「継ぎ足し」は変わらない。 ただ、その矢印が奥行き方向にも伸びる、というだけだ。空間ベクトルの計算では、「平面でできたことは、そのまま空間でもできる」と知っておくことが大事である。

恐れる必要はない。 成分が つ増えたぶん、書く手間が増えるだけだ。

公式空間ベクトルの和

xyzaba+b
a+b の三角形則(空間)。a の終点に b をつなぐと a+b

まとめ:空間でも和は成分ごとに足すだけ。 成分になっても計算は同じ。実数倍・差も成分ごと。平面ベクトルの自然な拡張だ。

発展。 「次元 基底の本数」という定義は、思わぬところで役に立つ。

色の話をしよう。

人間の目には、 種類の錐体細胞がある(赤・緑・青に反応する)。だから、人が知覚する色は、 次元のベクトルとして表せる。

「光の三原色」はこのことを使っている。テレビもスマホも赤・緑・青の つの光だけで、あらゆる色を作り出している。

なぜ つで足りるのか。 人間の色覚が 次元だからだ。もし人間に 種類目の錐体があれば、 原色では足りなかった。

(実際、鳥や一部の昆虫は 色型の色覚をもつ。そうした動物には、テレビの色が実物と違って見えている可能性がある。)同じ話が、音にもある。

音の波形は と の重ね合わせで書けた(フーリエ級数)。

この場合、基底は無限個ある。 つまり、音の空間は無限次元だ。

だから、音は色より「豊か」である。 つの基本音を混ぜても、すべての音は作れない。(色の場合は、 つの光を混ぜればすべての色が作れてしまう。)

さて、量子力学では、状態がベクトルとして表される。電子のスピンは 次元。

「上向き」と「下向き」の つの基底で、すべての状態が書ける。そして、 と が「重ね合わせ」の係数になる。量子コンピュータの ビット(量子ビット)は、この 次元ベクトルだ。

個の量子ビットなら、 次元。

個の量子ビットで、 次元になり、宇宙の全原子の数( 個)を、はるかに超える。

この次元の大きさが量子コンピュータの計算能力のもとになっている。「基底の 次結合で、すべてを表す」 という、素朴な分解。

その考え方が色を作り、音を分解し、量子の状態を記述するのに使われている。

答

別解

基本ベクトルで分解して、和の意味を確かめる。空間には、 本の「ものさし」がある。

それぞれ、 軸、 軸、 軸の正の向きを指す、大きさ のベクトルだ。

基本ベクトルと呼ばれる。

どんなベクトルもこの 本の組み合わせで書ける。

「 方向に 、 方向に 、 方向に 」と、成分の意味がそのまま式になっている。同様に

この つを足そう。

「同類項をまとめる」だけの計算だ。文字式の計算と、まったく同じ。

、、 を 、、 という文字だと思えば、ベクトルの計算は文字式の計算そのものになる。なぜ、同類項どうししかまとめられないのか。

と は、方向が違う。 混ぜることができない。

「東へ 」と「北へ 」を足しても、「」にはならない。 方向が違うからだ。この「混ざらない」という性質を、 次独立という。

本の基本ベクトルは互いに独立で、しかも空間全体を覆う。

このような組を、基底という。

次元空間の基底は必ず 本のベクトルからなる。 本では足りない( 枚の平面しか覆えない)。 本では多すぎる( 本は他の 本で書けてしまう)。

「次元 基底の本数」

これが、次元という言葉の、数学的な定義である。 次元空間とは「 本の独立なベクトルで、すべてを表せる空間」のことである。

ポイント

  • 和は成分ごとに足す( 成分)。
  • 平面ベクトルと同じ要領。

よくある間違い

  • 成分を足し忘れて、 成分だけ答えてしまう。空間ベクトルは 成分すべてを書く
  • 成分どうしを混ぜて足してしまう( 成分と 成分を足すなど)。同じ位置の成分どうしを足す
  • 和の大きさを だと思う。 は、和のベクトルの成分から計算し直す

問3空間ベクトルの内積

★ 基礎内積

問題

、 のとき、内積 を求めよ。

ヒントを見る

内積も平面と同じ規則で、対応する成分を掛けて、全部足す。

解答・解説

方針

内積は成分どうしの積の和。 成分分を足す。。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 空間の内積も、成分どうしを掛けて足すだけだ。

項が つ増えただけ。

答えは 。 ベクトルではなく、ただの数だ。

平面と空間で、内積の意味も変わらない。

つのベクトルが「どれくらい同じ方向を向いているか」を測る。そして、この つの表現から、空間でも角度が求まる。

空間は図に描きにくい。 だが、内積の計算に、図は要らない。「見えないものを、計算で捉える」ことができるのが、ベクトルの利点だ。

公式空間の内積

成分どうしをかけて足す( 成分分)。

xyzab
a=(1,2,3), b=(4,5,6)。内積 a·b=1·4+2·5+3·6=32

まとめ:空間の内積も「成分どうしの積の和」。 成分の積が加わるだけ。結果は数(スカラー)。なす角・垂直の判定に使う、平面と同じ役割だ。

発展。 空間には平面にはなかった、もう つの「掛け算」がある。

外積(ベクトル積)だ。

内積と、まるで性格が違う。

内積 外積
結果 数(スカラー) ベクトル
大きさ
になるとき 垂直 平行
意味 影の長さ 平行四辺形の面積

外積の つの重要な性質。性質 : 外積は元の ベクトルの両方に垂直。 と が張る平面に、垂直な方向を向く。

確かめよう。 、( 軸と 軸)なら

軸方向だ。 確かに、 平面に垂直だ。性質 : 大きさは平行四辺形の面積。

上の例なら、 で、単位正方形の面積

なぜ、外積は 次元にしかないのか。

「 つのベクトルに垂直な方向」が、 次元では(向きを除いて)ただ つに決まるからだ。

平面( 次元)では、「平面に垂直」な方向は、平面の外にある。 そこには行けない。

次元では、「 つに垂直な方向」が 次元分ある。 つに決まらない。 次元だけが外積を許す特別な次元である。

この特殊性が物理学に深く関わっている。

  • 回転(角運動量):
  • 磁場が電荷に及ぼす力:
  • トルク(ねじりの力):

「右ねじの法則」で向きが決まる、あの現象だ。なぜ、磁場の力は速度にも磁場にも垂直に働くのか。外積という演算が 次元空間に存在するからである。

空間が 次元であることが、物理法則の形にも関係している。もし 次元だったら、磁力の法則はまったく違う形になっていただろう。

答

別解

余弦定理から、内積 を再現する。内積の本来の定義は だった。成分の公式()が、それと一致することを確かめよう。

使うのは、この式だ。

(余弦定理を、内積について解いた形。空間でも、そのまま成り立つ。)

つの量を計算する。

代入する。

になり、本解と一致した

「掛けて足す」という計算規則が、 辺の長さから復元できた。この計算のついでに、なす角も分かる。

つのベクトルはかなり近い方向を向いている。確かに、 と は、どちらも「 少し、 中くらい、 多め」という似た傾向をもっている。内積が大きい()のは、この「似ている」ことの現れだ。

次元では角度を目で確かめられない。それでも、計算すれば正しい答えが出る。この「見えないものを測る」能力こそ、ベクトルを学ぶ最大の理由である。

次元が見えないなら、 次元は? 次元は?

もはや誰にも見えない。 だが、内積の公式はそのまま通用する。

成分が 個になっても、掛けて足すだけ。そして、 の公式で、「角度」が定義できてしまう。「見えない空間の、見えない角度」を、計算だけで確定させる。

現代のデータ解析や機械学習でも、同じ計算を行っている。

ポイント

  • 。
  • 成分の積が加わる。

よくある間違い

  • 成分の項()を足し忘れる。空間では 項すべてを足す
  • 内積の答えをベクトル としてしまう。内積は数(スカラー)で、
  • 成分を交差させて掛けてしまう( など)。同じ位置の成分どうしを掛ける

問4空間ベクトルのなす角

★ 基礎なす角

問題

、 のなす角 を求めよ。

ヒントを見る

内積と大きさから を出す、いつもの手順。出た値がどの有名角に対応するか。

解答・解説

方針

。内積と大きさを計算して代入する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) なす角の求め方は、平面と同じだ。

内積と大きさを、それぞれ計算する。

代入する。

答えは 。

次元の角度は図では確かめにくい。だが、この つのベクトルには、幾何的な意味が隠れている。

それは別解で明かそう。

まずは、公式が平面とまったく同じ形で使えることを、確認しておこう。

公式なす角

① 内積と大きさを求める。

② を計算する。

③ 角を求める。 より 。

abθO
a=(1,1,0), b=(1,0,1) のなす角 θ=60°

まとめ:空間のなす角も「内積 ÷(大きさの積)」で平面と同じ。 成分の内積・大きさを使うだけ。 は 。

発展。 正四面体の「中心角」を、実際に計算してみよう。

正四面体の中心から、 つの頂点へ向かうベクトル。 そのなす角は?立方体の中に埋め込んだ正四面体を使う。

立方体の頂点を とすると、正四面体の 頂点は

( 成分の積が正になる 点。)

中心は原点だ。

つの頂点へのベクトルのなす角を求めよう。

になる。

この角度が化学の教科書に必ず出てくる「正四面体角」である。メタン の、–– の結合角がこの角度だ。なぜ、炭素の結合角がこの値なのか。

つの電子対が互いにできるだけ遠ざかろうとするからだ。球面上に 点を最も均等に配置すると、正四面体の頂点になる。「反発しあう つのものを、最も離して置く」という物理的な要請が、正四面体という幾何的な形を生む。

そして、その角度は という、内積から出てくる数だ。

水分子の結合角()がこれに近いのも同じ理由である(孤立電子対の影響で、少し狭くなっている)。ダイヤモンドの硬さもこの角度に由来する。

炭素原子が 方向すべてに強い結合をもち、正四面体を無限に繰り返す。 どの方向にも均等に強い構造だ。内積 という、 つの数。

そこから、 という角が出て、それがメタンの形を決め、ダイヤモンドの硬さを決めている。数学を使うと、ものの形を説明できる。「なぜ、そういう形なのか」という問いに、答えを与えるのだ。

答

別解

この は立方体の中に隠れた正三角形の角である。 つのベクトルを、よく見てほしい。

これは、単位立方体の面の対角線だ。

  • : 底面( 平面)の対角線
  • : 側面( 平面)の対角線

つとも、原点から出ている。 そして、長さはどちらも 。ここで、もう 本、面の対角線を追加しよう。

つのベクトルの終点 、、 を結ぶと、何ができるか。

点の距離を計算しよう。

辺がすべて なので、正三角形だ。立方体の つの頂点を結ぶと、正三角形が現れる。正三角形の内角は 。

そして、原点からこの 頂点へ向かうベクトルどうしのなす角も、 になる(原点と 頂点で、正四面体ができるから)。

だから、答えは 計算せずに、図形から分かった。この事実から、立方体について次のことも分かる。立方体の 頂点のうち、 つおきに 点を選ぶと、正四面体になる。

、、、 の 点。すべての辺の長さが の正四面体だ。

立方体の中に、正四面体が つ、互いに交差して埋め込まれている(残りの 頂点で、もう つできる)。この つの正四面体の重なりが「星形八面体」という立体を作る。ケプラーが 年に記述した図形だ。

さらに、正四面体の中心角(中心から 頂点への角)は、。この角度は水分子()やメタン()の結合角として、化学に現れる。炭素原子の つの結合手は正四面体の頂点方向を向いている。

ダイヤモンドの結晶構造もこの正四面体の繰り返しだ。、 という、 行の計算。この角度は立方体・正四面体・ダイヤモンドの構造と関係している。

ポイント

  • (平面と同じ)。
  • 成分で計算。

よくある間違い

  • を としてしまう。
  • の計算を忘れ、分母を のままにしてしまう
  • から としてしまう。、

問5空間ベクトルの垂直条件

★ 基礎垂直

問題

、 が垂直であるとき、定数 を求めよ。

ヒントを見る

垂直 ⟺ 内積 。内積を の式で書けば 次方程式になる。

解答・解説

方針

垂直 ⟺ 内積 。 を について解く。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 垂直の判定は、空間でも内積 だ。

この道具しかない。そして、この道具で十分だ。内積を の式で表す。

これを とおく。

平面のときと、手順はまったく同じ。 項が つ増えただけだ。空間での「垂直」は図では確かめにくい。

本の矢印が 次元空間の中で本当に直角をなしているかは、見た目では分からない。だが、内積が なら、それは間違いなく垂直である。「計算が、目より確かだ」という点が、空間ベクトルのいちばんの利点だ。

重要(空間でも同じ)

① 内積 を書く。

② 解く。

xyzab
a=(1,2,3), b=(2,2,−2)。内積 a·b=0 で a⊥b(k=2)

まとめ:空間でも垂直は「内積 」。 成分の内積 を について解く。平面と全く同じ考え方で、成分が つ増えただけだ。

発展。 法線ベクトルを使うと、点と平面の距離がすぐに求まる。

公式。

平面 と、点 の距離。この式はどこから来るのか。

法線方向への「射影」だ。

平面上の任意の点 から、目的の点 へのベクトル を考える。求める距離は を法線方向へ射影した長さである。

これは「法線方向の単位ベクトルとの内積」、つまり影の長さだ。これを成分で書き下すと、上の公式になる。平面の方程式の係数()が、そのまま法線ベクトルだったので、こんなに簡単に書ける。

平面( 次元)の「点と直線の距離」の公式も、まったく同じ構造だった。

次元上げても、形が変わらない。そして、 次元でも同じ。

この公式は機械学習の中心にある。サポートベクターマシン(SVM)という手法。「 種類のデータを、 枚の平面(超平面)で分ける」

そして、「その平面から、いちばん近いデータ点までの距離(マージン)を、最大にする」マージンが大きいほど、分類が「余裕をもって」できている。この「距離を最大化する」という最適化問題を解くのが、SVM だ。

そこで使われる距離の式が、上の公式である。

は分離超平面の法線ベクトル。

画像認識、スパムフィルタ、医療診断など、 年代の機械学習で広く使われた手法が、この 行の距離公式に支えられている。

「点と平面の距離」という、高校の教科書に載っている公式。それが、 次元、 次元の空間で、データを分類する道具になる。次元が上がっても、公式は変わらない。

ベクトルはこのように多くの場面で同じ形で使える。

答

別解

「 に垂直なベクトル」は つではなく、その全体が「平面」をなす。平面( 次元)では、あるベクトルに垂直な方向は、( を除いて) つしかなかった。

だが空間( 次元)では、事情が変わる。 に垂直なベクトルを、いくつか探してみよう。条件は 、つまり

この式を満たす を、 つ挙げる。

どれも に垂直だ。

この問題の答え も、その つにすぎない。では、垂直なベクトルは、全部でいくつあるのか。

無数にある。 そして、それらの終点は 枚の平面を作る。

これは、原点を通る平面の方程式だ。「 に垂直なベクトルの全体 原点を通る平面」この事実から、重要な概念が生まれる。

法線ベクトル。

平面 に対して、 が、その平面に垂直なベクトルになる。平面の方程式の係数がそのまま法線ベクトルの成分だ。

確かめよう。 平面 上の 点を取る。

平面上のどんな方向とも、 は垂直だ。この「法線ベクトル」という考え方を使うと、空間図形の計算が大きく簡単になる。

  • 平面のなす角 → 法線ベクトルのなす角
  • 点と平面の距離 → 法線方向への射影
  • 平面の方程式を求める → 法線ベクトルと通る点があればよい

そして、CG(コンピュータグラフィックス)では、法線ベクトルが「光の当たり方」を決める。面の法線と、光源の方向の内積を計算する。

内積が大きい(真正面から光が当たる)ほど、明るい。内積が (横から)なら、暗い。 Dのコンピュータグラフィックスでは、 秒間に何億回もこの内積が計算されている。

「垂直 内積 」という素朴な条件。それが、平面を定義し、光の当たり方を計算し、 D の画像を作るのに使われている。

ポイント

  • 垂直 ( 成分)。
  • 平面と同じ考え方。

よくある間違い

  • 内積の第 項 の符号を落とす。負の成分の掛け算に注意する
  • を解くとき、 と符号を誤る。 から
  • 垂直の条件を「実数倍」としてしまう。実数倍は平行の条件

問6空間ベクトルの平行条件

★ 基礎平行

問題

、 が平行であるとき、定数 を求めよ。

ヒントを見る

平行なら一方は他方の実数倍。分かっている成分から倍率を先に確定し、残りの成分に適用する。

解答・解説

方針

平行 ⟺ 一方が他方の実数倍。 とおく。 成分から を求め、 成分で を決める。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 平行とは、一方が他方の実数倍ということだ。

成分を見る。

倍率は だ。

成分でも確認する。

確かに 倍になっている。なら、 成分も 倍のはず。

答えは 。

「すべての成分が、同じ倍率になる」ことが、平行の条件だ。 つの成分だけ倍率が違えば、それは平行ではない。空間では平面のような「たすきがけ」の 本の式では書けない。

代わりに、外積を使えば 本の条件式になる。 それは別解で見よう。

重要(一方が他方の実数倍)

① 実数倍とおく。 。

② を決める。 成分: より 。 成分も で整合。

③ を決める。 成分:。

xyzb=2aa
b=(2,4,6)=2a と同じ向き(平行)。k=6

まとめ:空間の平行は「実数倍 」。まず確実に決まる成分()から を出し、残りの成分で未知数を決める。 成分すべてが同じ比になる。

発展。 外積はなぜ 次元にしか存在しないのか。

「 つのベクトルに垂直な方向」を考えてみよう。

次元(平面)では?

と が張る空間は、平面全体。 「両方に垂直な方向」は平面の外にある。平面の中には存在しない。

次元では?

と が張るのは、 枚の平面。 それに垂直な方向はちょうど 本の直線( の 方向)。向きを右ねじの法則で決めれば、ただ つに定まる。

次元では?

と が張るのは、 次元の平面。 それに垂直な空間は、 次元分ある()。

「両方に垂直なベクトル」が無数にある。 つに決まらない。

( 次元にも、八元数という数の体系を使うと、外積が定義できる。数学の意外な事実だ。)空間が 次元であるから、外積が定義できる。

そして、外積が存在するからこそ、 次元には「回転」という豊かな構造が生まれる。

角運動量、トルク、磁場のローレンツ力は、すべて外積で書かれる。

「なぜ、磁場の中で動く電荷は、横向きに曲げられるのか?」

答え: 外積が つのベクトルに垂直な方向を指すからだ。

この一見意外な物理法則は 次元空間の幾何学的な構造そのものに由来している。さらに、外積は「体積」にもつながる。 つのベクトルが作る平行六面体の体積は

スカラー三重積という。

外積で「底面の面積(と法線方向)」を出し、それと の内積で「高さ」を掛ける。

小学校で習った公式がベクトルの演算として復活する。

そして、この値が なら、 つのベクトルは同一平面上にある(平行六面体がつぶれる)。 点が同一平面上にあるかどうかの判定に、この式が使える。

平行、垂直、面積、体積、同一平面のように、空間図形のあらゆる判定が、内積と外積という つの演算にまとめられる。

を求めるだけの、素朴な平行条件。そこには、 次元空間の特別な性質が関係している。

答

別解

外積を使って、平行を 本の式で判定する。平面では、平行の条件が「たすきがけ 」という 本の式で書けた。

空間では、この「たすきがけ」が 成分に増える。

これを外積(ベクトル積)という。平行の条件はこうなる。

この問題で確かめよう。 、。

になるには、すべての成分が でなければならない。

どちらの式からも、

つの条件が同じ答えを与える。 これは、 と が本当に平行になれる、ということの確認でもある。(もし つの式から違う が出たら、どんな でも平行にはならない、ということだ。)

外積の意味。

外積 は次の つの性質をもつ。

① にも にも垂直( つが張る平面の法線方向)

② 大きさは、 と が作る平行四辺形の面積

平行( または )なら、。

平行四辺形がぺしゃんこにつぶれる。 面積 。

「平行 平行四辺形の面積が 」

平面のときと、まったく同じ意味だった。 ただ、 次元では面積を「ベクトル」として表す(法線方向を向いた、大きさが面積のベクトル)。内積と外積の対比を、もう一度。

と 。 きれいに対をなしている。そして、この つを組み合わせると

三角関数の基本公式()が、ベクトルの式に現れる。ラグランジュの恒等式と呼ばれる関係だ。

ポイント

  • 平行 。
  • 決まる成分から を出す。

よくある間違い

  • 成分と 成分だけ確認して、 成分の倍率を確かめない。すべての成分が同じ倍率になる必要がある
  • 平行の条件を「内積 」としてしまう。内積 は垂直の条件
  • 倍率 と、求める成分 を混同する。この問題の は 成分であって、倍率()ではない

問7空間の中点

★ 基礎内分点

問題

点 、 の中点 の座標を求めよ。

ヒントを見る

中点は 点の座標の平均。成分ごとに平均をとる。

解答・解説

方針

中点は 点の平均。。 成分それぞれ平均する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 中点は、 点の平均だ。

座標ごとに、平均をとる。

平面のときと、何も変わらない。 座標が つ増えただけだ。中点は内分点の特別な場合( の内分)である。

比が なので、重みも等しい。 だから単純平均になる。内分点の公式にあった「ねじれ」(重みが反対側につく)も、中点では気にする必要がない。

左右対称だから、どちらに重みをつけても同じである。

公式中点 ( 成分それぞれの平均)

xyzABM
2点 A(1,2,3), B(3,4,5) の中点 M(2,3,4)(各座標の平均)

まとめ:空間の中点も「 点の平均」。、、 それぞれの平均をとるだけ。平面の中点公式に 座標が加わっただけだ。

発展。 「 点から等距離の点の集合」を考えてみよう。

平面( 次元)では、それは直線だった。 線分 の垂直二等分線である。

空間( 次元)では?

枚の平面になる。 垂直二等分面という。なぜ、次元が つ上がると、直線が平面になるのか。

「 から等距離」という条件は、 つの方程式を与える。

展開すると、 乗の項が打ち消し合って、 次方程式になる。

次元の 次方程式なので、これは平面の方程式だ。

そして、係数 が、法線ベクトルになっている。つまり「 に垂直な平面」で、確かに垂直二等分面だ。この問題で計算してみよう。

、 の垂直二等分面は、法線 、中点 を通る平面。

確かめる。 中点 を代入すると

この平面上のどの点も と から等距離になる。試しに (平面上の点)で確かめよう。

等しい。

この「等距離の集合」という考え方は、いろいろな図形を生む。

  • 点から等距離 → 球面
  • 点から等距離 → 平面(垂直二等分面)
  • 点と 平面から等距離 → 放物面
  • 点からの距離の和が一定 → 回転楕円体
  • 点からの距離の比が一定 → アポロニウスの球

「距離の条件」から、図形が生まれる。これが、解析幾何の基本的な発想だ。さらに、この発想はコンピュータで図形を扱うときに使われる。

ボロノイ図。

平面上に、いくつかの点(母点)を配置する。 各点について、「その点にいちばん近い領域」を塗り分ける。境界線は 点の垂直二等分線になる。

この図は地図の勢力圏(最寄りのコンビニはどこか)、生態学の縄張り、材料科学の結晶構造など、あらゆる分野で使われている。「中点」という、単純な概念。そこから垂直二等分面が生まれ、空間の分割が生まれる。

答

別解

答えが正しいことを、距離で検算する。

中点なら、 からも からも、同じ距離にあるはずだ。

計算して確かめよう。

等しい。中点であることが確認できた。さらに、 の長さも計算してみよう。

足すと、ちょうど になる。

これは、 が線分 の上にある、ということの証拠だ。

(もし が線分から外れていたら、三角不等式により になる。)「距離が等しい」だけでは、中点とは言えない。

と から等距離の点は無数にある。その全体は の垂直二等分面という平面をなす。中点であるためには、さらに「線分 上にある」ことが必要だ。

その確認が という等式である。 つの条件を、両方確かめて、初めて「中点」と言える。この「 段階の検算」は答案の質を上げる。

そして、 という結果に、注目してほしい。

同じベクトルだ。

から への移動と、 から への移動が、まったく同じ。これが、中点を表す条件である。

この式を解いても、中点の公式が出る。

「等しい移動を 回」という定義から、平均の式が導かれた。公式を覚えるより、この式の意味を掴んでおくほうが、応用が利く。

ポイント

  • 中点 。
  • 成分それぞれの平均。

よくある間違い

  • 座標の平均を計算し忘れ、 座標だけ答えてしまう。空間の点は 座標で表す
  • で割るのを忘れ、()と答えてしまう
  • 中点を「 と から等距離の点」とだけ考える。等距離の点は無数にある(垂直二等分面)ので、線分上にあることも要る

問8空間の三角形の重心

★ 基礎重心

問題

点 、、 を頂点とする三角形の重心 の座標を求めよ。

ヒントを見る

重心は 頂点の平均。空間でも同じ。

解答・解説

方針

重心は 頂点の平均。。 成分それぞれ平均する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 空間の重心も、 頂点の平均だ。

座標ごとに、 つの平均をとる。

平面の重心と、まったく同じ公式。 座標が つ増えただけだ。注意すべき点が つある。

点が空間に散らばっていても、それらは必ず 枚の平面の上に乗る。

( 点があれば、平面が つに決まる。)だから、この三角形は「空間に浮かぶ、平らな三角形」だ。その重心を求めていることになる。

空間だからといって、特別なことは何もない。

公式三角形の重心

ABCG
三角形 ABC の重心 G(2,3,1)(3頂点の座標の平均)

まとめ:空間の重心も「 頂点の平均」。、、。平面と全く同じで、 座標が加わるだけだ。

発展。 空間には三角形の重心のほかに、四面体の重心がある。

頂点 、、、 の四面体。 その重心は?

予想はつくだろう。

頂点の平均だ。

そして、三角形の「中線 」に対応する性質もある。四面体の頂点 と、向かい合う面 の重心 を結ぶ線分を考える。 本の線分( つの頂点それぞれについて)が、 点で交わる。

そして、その点は線分を頂点から に内分する。三角形では 、四面体では 。

規則が見える。

次元(線分)では (中点)。 次元(三角形)では 。 次元(四面体)では 。

証明も同じ形でできる。

ここで は残り 個の頂点の平均。 展開すると、全体の平均になる。次元が上がっても、構造は変わらない。

そして、この「重心」は物理的な意味をもつ。四面体の板( 様な密度)を、この点で支えれば、釣り合う。さらに、 点に等しい重さのおもりを置いたときの、釣り合いの点でもある。

「重心 平均」という、単純な事実。それが、 次元でも変わらずに成り立つ。そして、この考え方は統計学に直結する。

データの平均はデータ点の「重心」だ。

個のデータを、 個の質点だと思えば、平均はその重心。そして、「平均からの距離の 乗の和が最小になる点」も、平均である。

重心は「全員から、いちばん近い点」である。三角形の重心もそういう点である。

頂点からの距離の 乗の和を最小にする点が、重心だ。「平均」という、小学校で習った素朴な概念。それが、幾何の重心であり、統計の中心であり、最適化の解でもある。

という 行に、これだけの意味が詰まっている。

答

別解

「中線を に内分する」で、空間でも重心が求まることを確かめる。

平面で成り立った定理が空間でも成り立つか。 検証してみよう。まず、 の中点 を求める。

中線 を、 から に内分する。つまり、 から へ、全体の 進む。

本解と同じ

空間でも、「重心は中線を に内分する」が成り立った。

別の中線でも確かめよう。 の中点 は

同じ点

本の中線が確かに 点で交わっている。なぜ、平面の定理がそのまま空間でも成り立つのか。

答えは単純だ。

点は必ず 枚の平面上にある。だから、「三角形の中の話」はその平面の中で完結する。空間に浮いていようが、傾いていようが、三角形は三角形だ。

「平面図形の定理は、空間に置かれた平面図形でも、そのまま成り立つ」この当たり前の事実を使うと、空間図形の問題が解けることが多い。空間の問題を見たら、「どこかに平面を見つけられないか」と探す。

  • 点があれば、平面が決まる
  • 直線が交われば、平面が決まる
  • 立体を切れば、断面という平面が現れる

平面に落とし込めれば、あとは中学・高校で習った平面幾何の全知識が使える。「空間 → 平面への帰着」これが空間図形の問題でいちばん役に立つ考え方である。

空間ベクトルの計算はその帰着を「座標」の言葉で自動的にやってくれる。図が描けなくても、計算が正しい答えを出す。

ポイント

  • 重心 。
  • 成分それぞれの平均。

よくある間違い

  • 座標の平均を計算し忘れる。 頂点の 座標()の平均は
  • 分母を にしてしまう。 頂点の平均なので で割る
  • 座標に が含まれるので、その頂点を計算から外してしまう。 も立派な値として、平均に含める

問9空間の単位ベクトル

★ 基礎単位ベクトル

問題

と同じ向きの単位ベクトルを求めよ。

ヒントを見る

単位ベクトルは長さで割って作る。まず大きさを計算しよう。

解答・解説

方針

単位ベクトルは 。 で各成分を割る。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 単位ベクトルの作り方は、平面と同じだ。

自分の大きさで割る。

まず、大きさを計算する。

次に、各成分を で割る。

確かめる。

大きさが になった。

「向きはそのまま、長さだけを に」空間でも、まったく同じ操作である。そして、この つの成分には、実は幾何的な名前がついている。

方向余弦と呼ぶ。その意味は別解で見る。

公式単位ベクトル

① 大きさを求める。 。

② 大きさで割る。

xyzaa/|a|
|a|=3。単位ベクトル a/|a|=(1/3,2/3,2/3) は向きそのままで長さ1

まとめ:空間でも単位ベクトルは「大きさで割る」。 の大きさは 。平面と同じ作り方だ。

発展。 単位ベクトルは「向きだけの情報」を担う。では、向きの全体は、どんな形をしているか。

大きさ のベクトルの終点を、全部集める。平面( 次元)なら、単位円。

空間( 次元)なら、単位球面。

「向きの集合 球面」

この事実が地球儀を思い起こさせる。地球上の位置(緯度・経度)は「原点(地球の中心)から見た方向」を表している。

単位ベクトルは つの成分をもつが、自由度は しかない( という制約があるから)。その つの自由度が緯度と経度である。

( が緯度、 が経度。)

球面上の点を つの角度で指定する。 これが極座標だ。ここから、もう一歩進んだ問題が出てくる。

「球面を、平面の地図に写す」という問題である。

地図投影法。

球面をどうやっても平らな紙に、歪みなく写すことはできない。

これは、ガウスが証明した数学的な事実だ(驚異の定理)。球面は、平面とは根本的に違う曲がり方(曲率)をもっている。だから、どの地図にも、必ず歪みがある。

  • メルカトル図法: 角度は正しいが、面積が歪む(グリーンランドが巨大に見える)
  • モルワイデ図法: 面積は正しいが、形が歪む
  • 正距方位図法: 中心からの距離は正しいが、それ以外は歪む

「すべてを正しく写す地図は、存在しない。」この不可能性は、球面の幾何が平面の幾何と根本的に異なることを示している。そして、球面の幾何では、常識が通用しない。

  • 三角形の内角の和が を超える(球面三角形)
  • 平行線が存在しない(すべての大円は交わる)
  • 最短経路は直線ではなく大円(飛行機が北極回りで飛ぶ理由)

これは、ユークリッド幾何とは違う、非ユークリッド幾何である。そして、アインシュタインの一般相対性理論では、

「宇宙そのものが、曲がった空間である」

質量が空間を歪ませる。 光はその歪んだ空間の「最短経路」を進む。だから、重い星の近くでは、光が曲がって見える(重力レンズ)。

単位ベクトル は、大きさ の、ただの方向を表す。その集合が球面をなし、球面の幾何は宇宙の形を調べるときにも使われる。

答

別解

単位ベクトルの成分は「各軸となす角の 」である。 が 軸となす角を としよう。 を、内積で計算する。

軸となす角 は

軸となす角 は

つ並べると

単位ベクトルと一致した。

「単位ベクトルの成分 各軸との角の 」この つを、方向余弦という。そして、方向余弦には次の関係がある。

確かめよう。

なぜ、 になるのか。単位ベクトルの大きさが だからだ。

当たり前のことを言っているにすぎない。だが、この式には意味がある。平面( 次元)なら、 に対応する。

( 軸との角が なら、 軸との角は で、。)空間版の「三角関数の基本公式」である。実際の角度を計算してみよう。

は、 軸から 、 軸と 軸からは 傾いている。( と の成分が等しいので、対称なのは当然だ。)方向余弦は、結晶学や測量で日常的に使われる。

「この方向は、 つの軸に対して、それぞれどれくらい傾いているか」

その情報を つの数で完全に記述できる( 乗の和が という制約があるので、実質的には つの自由度)。空間の「方向」を数値化する、標準的な方法である。単位ベクトルとは「方向そのもの」を表す数の組。

その成分は つの角度の だった。

ポイント

  • 単位ベクトル 。
  • 成分を大きさで割る。

よくある間違い

  • を計算せずに、成分の和()で割ってしまう。割るのは大きさ
  • 片方(または つ)の成分だけを割る。 成分すべてを、同じ で割る
  • 分数を約分しすぎて の つ目・ つ目を にしてしまう。成分ごとに、もとの値を で割る

問10空間の2点間の距離

★ 基礎距離

問題

点 、 の間の距離を求めよ。

ヒントを見る

点間の距離は結ぶベクトルの大きさ。原点からなので成分がそのまま使える。

解答・解説

方針

点間の距離は の大きさ。 を求め、大きさを計算する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 点間の距離は、その 点を結ぶベクトルの大きさだ。

まず、 を求める。

( が原点なので、 の座標がそのままベクトルになる。)

その大きさを計算する。

距離は 。

「 点間の距離」と「ベクトルの大きさ」は、同じものだ。そして、この問題では が原点なので、「原点からの距離」を求めていることになる。

原点からの距離が の点の全体は、半径 の球面をなす。距離という概念から、球という図形が生まれる。

公式 点間の距離

① を求める。 。

② 大きさを計算する。

xyzAB
2点 A(0,0,0), B(1,2,2) の距離=|AB|=√(1²+2²+2²)=3(直方体の対角線)

まとめ: 点間の距離は「 の大きさ」= 座標の差の 乗和の平方根。空間版の距離公式で、 座標の差が加わる。。

発展。 「 点間の距離」を求める公式は、GPS の原理そのものだ。

スマホはどうやって現在地を知るのか。上空の人工衛星から、電波を受け取っている。電波には、「発信時刻」の情報が入っている。

受信時刻との差から、電波が届くのにかかった時間が分かる。

これで、「その衛星から、どれくらい離れているか」が分かる。衛星 個からの距離が分かったとき、現在地はどこになるか。

「衛星から距離 」という条件を満たす点の集合は、球面だ。

まだ、 点には決まらない。

衛星 個なら?

つの球面の交わりは、 つの円になる。

まだ決まらない。

衛星 個なら?

つの球面の交わりで、 点に絞られる。( つは地球上、もう つは宇宙空間のあり得ない位置なので、実質的に決まる。)だから、原理的には、衛星 個で位置が分かる。

なぜ、実際には 個以上使うのか。

時計の誤差があるからだ。

スマホの時計は衛星の原子時計ほど正確ではない。 わずかな時刻のズレが距離の大きな誤差になる( マイクロ秒のズレ m の誤差になる)。そこで、時刻のズレ も未知数として扱う。

未知数は つ(、、、)。 だから方程式も 本となり、衛星が 個必要になる。そして、この連立方程式を解くのに使われるのが、距離の公式だ。

さらに、相対性理論の補正まで入っている。衛星は高速で動き(特殊相対論の効果で時間が遅れる)、地球の重力が弱い場所にある(一般相対論の効果で時間が速く進む)。この つの効果を合わせると、衛星の時計は地上より 日に約 マイクロ秒進む。

補正しなければ、 日で km も誤差が出る。GPS では相対性理論による時計のずれも補正している。

この、三平方の定理を 次元に拡張しただけの公式。こうした計算で、 万 km 上空の衛星と手元のスマホがつながっている。

答

別解

「原点から距離 」という条件を満たす点の集合を考える。この問題の答えは だった。では、原点から距離 の点は、 だけだろうか。

もちろん、違う。無数にある。

いくつか挙げてみよう。

すべて、原点から距離 にある。これらの点の全体は何を作るか。

半径 の球面だ。

球面の方程式である。

この式は「原点からの距離が 」という条件を、そのまま式にしただけ。

両辺を 乗すれば、上の式になる。

中心が原点でなければ?

中心 、半径 の球面は

「中心からの距離が 」という条件そのままだ。平面( 次元)での円の方程式と、まったく同じ構造。

次元が つ上がると、円が球になる。そして、 次元では「超球面」になる。

式は自然に拡張されるが、もはや誰にも図に描けない。それでも、「距離が一定の点の集合」という意味は、変わらない。さて、この球にまつわる、有名な計算を確認しておこう。

半径 の球の体積。

表面積。

同じ数()になった。

偶然だろうか。

のときだけ、体積と表面積の「数値」が一致する。

(もちろん、単位が違う(体積は 、表面積は )ので、この一致に特別な意味はない。数字の遊びだ。)それでも、こういう小さな発見は役に立つ。

距離という、いちばん基本的な量。そこから、球という図形が生まれ、体積と表面積の公式が生まれる。

ポイント

  • 距離 (座標の差の大きさ)。
  • 成分の差の 乗和の平方根。

よくある間違い

  • と、引く順を逆にする(この問題では が原点なので影響しないが、一般には向きが逆になる)
  • 成分を 乗し忘れる。 成分すべてを 乗して足す
  • を としてしまう。根号は、和をとってから外す

問11空間ベクトルの実数倍と差

★ 基礎実数倍

問題

、 のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

実数倍を先に処理してから、成分ごとに引く。

解答・解説

方針

実数倍は各成分を定数倍、差は成分ごとに引く。 を求めてから を引く。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 実数倍と差の組み合わせ。成分ごとに処理する。

まず、 を計算する。

次に、 を引く。

答えは 。

平面のときと、何も変わらない。 成分が つ増えただけだ。

検算しておこう。

答えに を足し戻せば、 に戻るはずだ。

すぐに終わる検算。 成分が増えるほど、符号ミスの危険も増える。この習慣を必ず持っておきたい。

そして、 という形( 次結合)には、幾何的な意味がある。

それは別解で見よう。

公式実数倍 、差は成分ごと

① 実数倍。 。

② 差をとる。

xyz2a−b2a−b
2a=(2,4,6) の終点に −b をつなぐと 2a−b=(2,3,4)

まとめ:空間でも「実数倍は各成分を定数倍、差は成分ごとに引く」。 成分になっても、成分ごとにふつうの数の計算をするだけだ。

発展。 「 次結合が、何を張るか」という問い。その答えが線形代数の中心にある。

本のベクトル 、、 が空間全体を張るかどうか。判定方法は つ。

この値は、 ベクトルが作る平行六面体の体積だった。

体積が でない 本が「つぶれていない」 空間全体を張る

体積が なら、 本は同一平面上にあり、 次元分しか張れない。そして、この値は行列式でもある。

「行列式 次独立 連立方程式が一意に解ける」この つが、同じことを言っている。幾何(体積)、代数(独立性)、方程式(可解性)が、 つの数で結ばれる。

これが線形代数の特徴だ。そして、この構造は次元を上げても壊れない。 次元空間で、 本のベクトルが独立かどうか。

次の行列式を計算すればよい(コンピュータの仕事だ)。現代の応用でも、この判定がよく使われる。

主成分分析(PCA)。

次元のデータがあったとして、実は 「実質的には 次元しかない」 ということがよくある。残りの 次元は最初の 次元の 次結合で書けてしまう(あるいは、ほとんどノイズ)。「データの本当の次元を見つける」のが、主成分分析だ。

顔認識では、 ピクセルの画像( 次元)が、実は 次元程度の「顔空間」に収まることが知られている。だから、 個の数字で、顔を再現できる。画像圧縮も、動画配信も、この原理で動いている。

「 本のベクトルは、平面しか張れない」

この素朴な事実。

その裏返しとして、「高次元のデータも、実は少数の方向で表せる」という、現代のデータ科学の中心思想が生まれている。 という、なんでもない計算。その結果が「 と の張る平面上にある」という事実の中に、線形代数のすべてが芽生えている。

答

別解

は、 と が張る「平面」の上にある。 という形のベクトルを、 次結合という。 と をいろいろ変えると、どんなベクトルが作れるか。

本のベクトルの組み合わせだけで、空間全体を覆えるだろうか。

覆えない。 作れるのは、 枚の平面だけだ。( と が平行でなければ、原点を通る 枚の平面。)

この問題の も、その平面の上にある。

確かめてみよう。

平面の法線ベクトルは外積で求まる。

この は、 にも にも垂直なはずだ。

確かに、両方に垂直。では、答えの は?

これも、 に垂直だ。

つまり、 は、 と が張る平面の上にある。

当然だ。 は と の 次結合なのだから。平面の方程式は

この平面上のベクトルはすべて の形で書ける。逆に、平面の外にあるベクトルはどうか。たとえば を調べる。

これは平面の外。 では決して作れない。「 本のベクトルでは、 次元分しか作れない」

空間全体( 次元)を覆うには、 本目のベクトルが要る。この「何本のベクトルで、どこまで届くか」という問いが、次元の概念そのものだ。

  • 本 → 直線()
  • 本 → 平面()
  • 本 → 空間全体()

ただし、 本目が、最初の 本が張る平面の外を向いていること( 次独立)が必要だ。

平面の中にある 本目を足しても、平面のまま。 何も広がらない。「 次独立な 本のベクトルが、 次元を張る」

空間ベクトルの計算はこの構造の上で行われている。

ポイント

  • 。
  • 差は成分ごとに引く。

よくある間違い

  • の 成分が なので、その成分を計算せずに飛ばしてしまう。 と、きちんと引く
  • を と読み違える。 が掛かるのは だけ
  • 成分の計算 を、 などと写し間違える。 成分すべてを、ていねいに

問12空間ベクトルの大きさ(負の成分)

★ 基礎ベクトルの大きさ

問題

の大きさ を求めよ。

ヒントを見る

負の成分も 乗すれば正になるので、手順は同じ。

解答・解説

方針

成分の 乗の和の平方根。 乗すると負の符号は消える。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 負の成分が つある。それでも、何も変わらない。

乗すれば、符号は消える。

答えは 。

のときと、同じ大きさだ。

当然である。大きさとは矢印の長さだから。

向きがどちらを向いていようと、長さは変わらない。

大きさは決して負にならない。計算する前から、答えが正であることは決まっている。大きさの公式では、 乗によってすべての符号が消える。

公式( 乗で符号は消える)

a(−1,2,−2)O
|a|=√((−1)²+2²+(−2)²)=3。1×2×2 の直方体の対角線(向きが違うだけ)

まとめ:大きさは成分を 乗して足すので、負の符号は消える。 も も大きさは同じ (向きが違うだけ)。、 に注意。

発展。 空間ベクトルの基本がこれで出そろった。平面との違いを、整理しておこう。

変わらないもの(平面と同じ)。

「平面でできたことは、すべて空間でもできる。」新しく現れたもの(空間だけ)。

① 外積 は ベクトルに垂直なベクトルだ。 次元にしか存在しない。

② 平面という図形: 空間には、直線だけでなく「平面」がある。法線ベクトルで記述する。

③ 体積はスカラー三重積で計算できる。

④ ねじれの位置: 平面では、 直線は「交わる」か「平行」の 択だった。空間では、交わらないが平行でもないという第 の関係がある。

この ④ が空間の豊かさを象徴している。平面に閉じ込められていたときには、想像もできなかった関係だ。そして、次元を上げると、こういう「新しい現象」が必ず現れる。

次元では?

枚の平面が 点だけで交わることがある。( 次元では、 平面は必ず直線で交わるか、平行になる。)想像もできない。だが、計算はできる。

そこに、数学の力がある。「見えなくても、計算できる」空間ベクトルを学ぶ本当の意味は、 次元を扱えるようになることではない。

「図に描けない対象を、計算で扱う」という方法を、身につけることだ。そして、その方法論は 次元でも、 次元でも、無限次元でも通用する。現代の科学はそういう空間の中で行われている。

  • 統計学: データの次元 変数の数(数百、数千)
  • 機械学習: パラメータ空間の次元 数十億
  • 物理学: 状態空間、位相空間、ヒルベルト空間
  • 経済学: 商品の種類だけの次元をもつ空間

誰も図に描けない。だが、内積は計算できる。距離は測れる。角度も定義できる。

同じ計算を 個の成分で行うのが、現代のデータ解析である。

次は複素数平面へ進む。 そこでは、 次元の平面を新しい見方で扱う。それは数として、掛け算ができる平面である。

答

別解

符号の 通りを、すべて確かめる。成分 の符号を、自由に変えてみよう。 成分それぞれに があるので、 通りある。

すべての大きさを計算する。どれも、 乗すると 、、 になる。

通り、すべて大きさ になる。

この問題の も、その つにすぎない。 つのベクトルの終点は空間のどこにあるか。すべて、原点を中心とする半径 の球面の上だ。

つの象限(空間は つの領域に分かれる)に、 つずつ、対称に散らばっている。「符号を変えても、長さは変わらない」これは、鏡映対称性という。

座標の符号を変えるのは、 平面で鏡に映すこと。

鏡に映しても、長さは変わらない。 当たり前だ。そして、この性質から、 つの重要な公式が出る。

公式 :

すべての成分の符号を変えても、大きさは同じ。(向きは正反対になるが、長さは変わらない。)公式 :

倍すると、長さは 倍( の絶対値)。

確かめよう。 で

倍になっている。 ( ではなく、 倍。)長さは負にならないから、絶対値がつく。

さて、この「向きによらない」という性質を、もう一段深く考えよう。大きさは座標軸の取り方にもよらない。座標軸を原点のまわりにぐるぐる回転させても、ベクトルの成分は変わるが、大きさは変わらない。

これを回転不変性という。

なぜ、これが重要か。物理法則は、座標軸の取り方によらないはずだ。「東を 軸にするか、北を 軸にするか」で、物理法則が変わってしまったら、おかしい。

だから、物理量は「回転で不変な量」で書かれなければならない。

  • 大きさ : 不変
  • 内積 : 不変
  • 成分 : 不変ではない(座標軸を変えると変わる)

エネルギーや仕事が、内積で定義されているのは、この不変性のためだ。

「座標軸をどう取っても、仕事の値は同じ」この当たり前の要請が、内積という演算を必然にしている。 という、負の符号だらけの計算。

その答えが座標系によらない絶対的な量であるという事実に、物理学の根幹がある。

ポイント

  • 乗で符号が消える。
  • 向きが違っても大きさは同じ。

よくある間違い

  • や を、負のまま(、)にしてしまう。負の数の 乗は正
  • 大きさが負になると考えて と答える。大きさ( 長さ)は必ず 以上
  • の中身を などと、符号を残したまま足してしまう