数学C / 複素数平面

複素数平面 ★ 基礎の問題 全12問

教科書レベル。定義・公式の確認と基本操作

難易度: ★ 基礎·★★ 標準·★★★ 応用·★★★★ 難関·実戦編·最難関編

  1. 複素数の絶対値
  2. 共役複素数
  3. 極形式
  4. 極形式の積
  5. ド・モアブルの定理
  6. iを掛ける(90°回転)
  7. 複素数の和
  8. 絶対値の2乗と共役
  9. 2点間の距離
  10. 純虚数の条件
  11. 極形式から成分へ
  12. 共役の性質

問1複素数の絶対値

★ 基礎絶対値

問題

複素数 の絶対値 を求めよ。

ヒントを見る

絶対値は原点からの距離で、実部と虚部でできる直角三角形の斜辺にあたる。三平方で出す。

解答・解説

方針

複素数 の絶対値は 。複素数平面での原点からの距離。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 複素数 を、平面上の点 だと思ってみよう。

これが複素数平面の発想だ。

  • 実部 → 横()座標
  • 虚部 → 縦()座標

そして、絶対値 とは原点からその点までの距離である。

三平方の定理そのものだ。

ベクトルの大きさと、まったく同じ計算になる。

複素数はこの点では平面のベクトルと同じだ。では、何が違うのか。

複素数どうしは、掛け算ができる。

ベクトルには「掛けて別のベクトルを作る」演算がない(内積は数になってしまう)。

その掛け算が回転を表す。それが、この単元の主題である。

公式複素数の絶対値 (原点からの距離)

xyO3+4i
複素数 3+4i は点(3,4)。原点からの距離(絶対値)は5

まとめ:複素数 は複素数平面で点 。絶対値はその点と原点の距離 。 は原点から 。ベクトルの大きさと同じ考え方だ。

発展。 複素数は、なぜ「数」でありながら、「平面」でもあるのか。

歴史をたどってみよう。

世紀、 次方程式の解の公式が発見された。そこで、思いがけないことが起きた。

という方程式。 実数解 をもつことは、代入すればすぐ分かる。ところが、解の公式に当てはめると

という、負の数の平方根が出てきてしまう。「あり得ない数」を経由しないと、正しい実数解()にたどり着けない。

数学者たちは困惑した。 ボンベリは、この を「詭弁的な量」と呼びながら、計算に使った。そして、確かに答えが合う。

「存在しないはずの数が、正しい答えを導く」この不気味な事実が、複素数の出発点だった。

デカルトはこれを「想像上の数」(imaginary)と名づけた。 蔑称である。オイラーが という記号を導入し( 年)、ガウスが複素数平面を導入した( 年)。

ガウスの考えは大きな転換点になった。「 を、平面の点 と見なせばよい」この 行で、複素数は「想像上のもの」から「目に見えるもの」になった。

もはや不気味ではなく、ただの平面の点だ。そして、この見方から、次の重要な事実が導かれる。

代数学の基本定理(ガウス、 年)。「 次方程式は、複素数の範囲で、必ず 個の解をもつ。」実数の範囲では、 は解をもたない。

だが複素数なら、 という 個の解がある。どんな方程式も複素数の中では「完結」する。これ以上、数を拡張する必要がない。

「複素数は、代数的に閉じている」負の数()を認めたら、 次方程式のためにさらに新しい数が要るのでは、と心配する必要はない。複素数で、すべて足りる。

という、素朴な計算。そこには、「あり得ない数」を認めたことで、方程式の解がすべて数の中に収まるようになった、という歴史がある。

答

別解

図を使わず、共役との積()から絶対値を出す。複素数には、こんな公式がある。

「自分自身と、その共役を掛けると、絶対値の 乗になる。」

確かめよう。 、。

和と差の積の公式 を使う。

ここで だから

という実数になった。

虚数単位がきれいに消える。

( なので、正のほうを取る。)

本解と同じ答え

この方法の何が便利なのか。「図形(距離)の問題を、代数(掛け算)で解いた」

三平方の定理を使っていない。 ただ、 という規則に従って計算しただけだ。そして、 が必ず実数になるという事実は、極めて重要である。

一般に なら

確かに実数、しかも 以上。 そして、これは にほかならない。この公式が分数の計算を可能にする。

複素数で割り算をするとき、分母を実数にしたい。

分母・分子に共役を掛けると、分母が実数になる。

「有理化」の複素数版だ。

根号を消すために共役()を掛けたように、虚数を消すために共役()を掛ける。さらに、この公式から、絶対値の性質も導ける。

「積の絶対値は、絶対値の積」これは、次に学ぶ「掛け算で長さが掛け算される」という性質の、代数的な証明になっている。図形的な事実が という 行の規則から、すべて導かれるのだ。

ポイント

  • 。
  • 複素数平面での原点からの距離。

よくある間違い

  • を としてしまう。絶対値は原点からの距離で、
  • 虚部の まで 乗して としてしまう。絶対値の公式では、虚部の「係数」()だけを 乗する
  • 絶対値が負になると考える。 で、必ず 以上

問2共役複素数

★ 基礎共役

問題

複素数 の共役複素数 を求めよ。

ヒントを見る

共役は虚部の符号だけを反転した数。複素数平面では実軸で折り返した位置にあたる。

解答・解説

方針

共役複素数は虚部の符号を変えたもの。。複素数平面では実軸に関して対称な点。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 共役複素数とは、虚部の符号だけを変えたものだ。

実部()はそのまま。虚部の符号だけ、 から へ。この操作を複素数平面で見ると?

点 が点 に移る。 座標はそのまま、 座標だけ符号が反転する。

これは、実軸( 軸)に関する鏡映だ。

共役をとる 実軸で折り返す。この幾何的な意味を掴んでおくと、共役の性質がすべて分かる。

  • は、鏡に映しても原点からの距離が同じことを表す
  • は、 回折り返せば元に戻ることを表す
  • が実数 は、実軸上の点が折り返しても動かないことを表す

すべて、鏡映の性質そのものである。

公式共役複素数 (虚部の符号を変える)

ReImOz=2+3iz̄=2−3i
共役 z̄=2−3i は z=2+3i を実軸に関して折り返した点

まとめ:共役複素数は虚部の符号を反転したもの。複素数平面では実軸(横軸)に関して対称な点にうつる。 の点 に対し、 は点 。 という大事な性質もある。

発展。 「虚数解は、必ず共役なペアで現れる」

この事実を証明してみよう。

実数係数の方程式

が、 を解にもつとする。

両辺の共役をとる。

和や積の共役は、共役の和や積に等しい。

係数 は実数だから、。

これは、「 も方程式の解である」ということだ。

証明終わり。 行だ。

この定理の帰結。

「実数係数の 次方程式は、必ず実数解をもつ。」

なぜか。 解は 個ある(代数学の基本定理)。虚数解は共役なペアで現れる( 個 組)。

は奇数だから、 で割り切れない。 必ず つは、ペアを作れない解、つまり実数解が残る。 次関数のグラフが必ず 軸と交わることの、代数的な説明だ。

この「共役対称性」は物理学でも大事な役割を果たす。量子力学では、波動関数 は複素数の値をとる。だが、観測できる量(確率密度)は、実数でなければならない。

どうするか。

共役との積をとる。 これは必ず実数になる(そして 以上)。「複素数で計算し、共役との積で実数に戻す」

この手続きが量子力学の観測理論の根幹をなしている。

電気工学でも同じだ。

交流回路の計算は複素数(インピーダンス)で行う。 計算がずっと楽になるからだ。

そして、最後に実部を取り出すか、共役との積で電力(実数)を求める。

「複素数で計算し、実数で答える」共役は、複素数と実数を行き来するための操作である。 は、符号を つ変えるだけの操作だ。

それが、実数への帰還を保証している。

答

別解

共役は「実部と虚部を取り出す道具」である。 と を、足したり引いたりしてみよう。

足す。

虚部が消えて、実数になった。

しかも、 で、実部の 倍だ。

引く。

実部が消えて、純虚数になった。

で、虚部の 倍だ。

掛ける。

これは だ。

つの演算が つの重要な量を取り出す。

「共役は、複素数を分解する道具」である。この道具の使い道は条件の言い換えにある。「 が実数」という条件を、式で書きたい。

「 が純虚数」なら?

この つの言い換えが複素数の問題で繰り返し使われる。なぜ、わざわざ言い換えるのか。 と成分で書くと、未知数が つ( と )になる。

だが と で書けば、 という つの文字で処理できる。計算量が大きく減るのだ。そして、共役には「分配法則」がある。

「共役をとる」という操作は、四則演算と順序を入れかえてよい。

確かめよう。 、。

一致した。

この性質から、有名な事実が導かれる。「実数係数の方程式が虚数解 をもつなら、 も解である。」虚数解は、必ず共役なペアで現れる。

の解は で、確かに共役なペアだ。共役という、符号を変えるだけの単純な操作。それが、複素数の「対称性」を表している。

ポイント

  • 。
  • 実軸に関して対称な点。

よくある間違い

  • 実部の符号まで変えて としてしまう。変えるのは虚部の符号だけ
  • 共役を「逆数」と混同する。共役は で、逆数()とは別物
  • の絶対値が と違うと考える。鏡に映しただけなので、

問3極形式

★ 基礎極形式

問題

複素数 を極形式 で表せ。ただし とする。

ヒントを見る

極形式には『原点からの距離』と『偏角』の つが要る。まず点 を図に打ち、距離と角度を図から読み取ろう。

解答・解説

方針

絶対値 と偏角 (実軸とのなす角)を求める。、 は点 の方向。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 複素数には、 つの表し方がある。

① 直交形式 (「横に 、縦に 」)

② 極形式 (「原点から距離 、角度 の方向」)

同じ点を、 通りの座標で言い表しているだけだ。極形式に直すには、 つの量を求める。

① 絶対値 (原点からの距離)

② 偏角 (実軸の正の向きから測った角)

点 は右上 の方向にある。

まとめる。

なぜ、わざわざ極形式に直すのか。

掛け算がずっと簡単になるからだ。 それは次の問題で見よう。

公式極形式 (、 は偏角)

① 絶対値を求める。 。

② 偏角を求める。 点 は第 象限で、実軸とのなす角は ()。

xyO1+iπ/4
1+i は距離√2、偏角 π/4(45°)

まとめ:極形式は「絶対値 × 向き()」。 は原点からの距離、 は実軸から測った角(偏角)。 は距離 、角 。積・累乗の計算で役に立つ。

発展。 極形式には、もっと簡潔な書き方がある。

オイラーの公式。

極形式は、これを使うと

文字だけだ。

この問題の なら

なぜ、この式が成り立つのか。、、 を、それぞれ級数で書いてみよう。

に を代入する。

、、 を使って整理する。

カッコの中身に、見覚えはないだろうか。前者は の級数、後者は の級数だ。

指数関数と三角関数が、虚数を通じてつながった。この式が役に立つことは、計算を見れば分かる。極形式の積は指数法則になる。

「絶対値は掛け算、偏角は足し算」 となり、指数法則そのものだ。ド・モアブルの定理もすぐに出る。

「 乗すると、偏角が 倍」 になるのは、当たり前の指数法則である。そして、 を代入すると

オイラーの等式。

(解析)、(代数)、(幾何)、(単位)、(無)。数学の つの基本定数が 本の式に収まっている。ファインマンはこれを「数学のもっとも注目すべき公式」と呼んだ。

この、教科書どおりの極形式。それを と書き直すと、複素数は「回転する指数関数」として見られる。

答

別解

図に描けば、 は一目で分かる。複素数平面に、点 を打つ。原点から、この点へ矢印を引く。

横に 、縦に 。この矢印はどんな方向を向いているか。

横と縦が、まったく同じ長さ。 つまり、ちょうど斜め だ。

そして、矢印の長さは?縦 、横 の直角二等辺三角形の斜辺。

( の、おなじみの三角形だ。)図から、、 が読み取れた

計算せずに、目で見て分かる。この「図で確認する」習慣が偏角のミスを防ぐ。

偏角の注意点。

この式だけを見ると、 とも とも取れる。

( は 周期だから。)

どちらが正しいか。

点 は第 象限にある。 だから 。もし点が (第 象限)なら、 でも だ。

「 の値だけでは、偏角は決まらない。象限を確認する。」これが、極形式でいちばん間違えやすいポイントである。

必ず図を描いて、点がどの象限にあるかを確かめる。 つの象限での、偏角の範囲。

  • 第 象限(、):
  • 第 象限(、):
  • 第 象限(、):
  • 第 象限(、):

この対応を頭に入れておこう。そして、極形式で書くと、複素数が何を表しているかが分かる。

「大きさ 、向き 」

大きさと向きは、ベクトルの 要素そのものだ。複素数は平面のベクトルと同じ情報をもっている。だが、複素数には掛け算がある。

そして、極形式で書くと、その掛け算の意味がはっきり分かるのだ。

ポイント

  • 極形式 。
  • は絶対値、 は偏角(実軸とのなす角)。

よくある間違い

  • から偏角を決めるとき、象限を確認せず (第 象限)としてしまう。点 は第 象限
  • 絶対値 を としてしまう。
  • 極形式の の位置を間違えて の の前に を書き忘れる。 は の項に掛かる

問4極形式の積

★ 基礎極形式積

問題

、 のとき、積 を極形式で求めよ。

ヒントを見る

極形式どうしの積では、絶対値と偏角のそれぞれに簡単な規則が働く。掛け算がどこで足し算に変わるか、を思い出そう。

解答・解説

方針

極形式の積は「絶対値どうしをかけ、偏角どうしを足す」。 と 。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 極形式の掛け算には、とても簡単な規則がある。

この 行を覚えれば、極形式の積は暗算できる。

絶対値:

偏角:

そして、、 だから

なぜ、こんな規則が成り立つのか。

加法定理があるからだ。

展開して、 を使い、加法定理でまとめると、この式が出る。「複素数の掛け算 拡大 回転」この幾何的な意味こそが、複素数を「数」として特別なものにしている。

公式極形式の積:絶対値は積 、偏角は和

① 絶対値をかける。 。

② 偏角を足す。 。

まとめ:複素数の積は「絶対値をかけ、偏角を足す」。これが極形式の最大の利点。、 なので 。掛け算が「拡大 + 回転」になる、というのが複素数平面の考え方の中心だ。

発展。 「掛け算 拡大 回転」

この事実から、複素数で平面の幾何を扱えるようになる。回転を掛け算で表せる。点 を、原点のまわりに だけ回転させたい。

掛けるだけ。

行列を使うと、こうなる。

行列の計算だ。

複素数なら、 回の掛け算で終わる。 ずっと楽である。さらに、「点 を中心とする回転」も書ける。

「 を原点に移す()→ 回す(掛ける)→ 戻す()」 ステップが、 行の式になる。この式が複素数平面の問題を解くいちばん大事な道具だ。

「正三角形の 頂点」「正方形の頂点」「相似変換」 は、すべてこの式で処理できる。例: 、、 が正三角形をなす条件。 を のまわりに 回転させると、 になる。

この 行が正三角形の条件式である。初等幾何なら、何行もかかる議論だ。そして、この「掛け算による回転」は、コンピュータグラフィックスで実用化されている。

D の回転は複素数で。

D の回転は?

四元数(クォータニオン)という、複素数を拡張した数を使う。

(、、 という つの虚数単位がある。)ハミルトンが 年に発見した、この数体系を四元数という。 年後、 D のコンピュータグラフィックスやロボット工学、宇宙船の姿勢制御で、なくてはならない道具になった。

回転行列(、 個の数)より、四元数( 個の数)のほうが、計算が速く、誤差も蓄積しにくい。「複素数の掛け算が回転である」という発見。それが 次元に拡張され、いま宇宙船の向きを制御している。

、

小学生でもできるこの計算が回転という幾何を表している。

答

別解

極形式を使わず、直交形式()に直して、そのまま掛ける。「本当に になるのか」を、自分の手で確かめる別解である。まず、 を の形にする。

次に、。

この つを、普通に掛け算する。

分配法則で展開する。

を使う。

実部を整理する。

実部が消えた。

虚部を整理する。

になり、本解と一致した

極形式で 秒だった計算が、直交形式では 分かかった。しかも、 が飛び交う面倒な展開だ。この対比から、極形式が役に立つことが分かる。

「掛け算をするなら、極形式」逆に、「足し算をするなら、直交形式」だ。

成分ごとに足すだけ。簡単だ。

極形式では、足し算はできない(絶対値も偏角も、単純には足せない)。 つの形式は、それぞれ得意分野が違う。

足し算 掛け算
直交形式 得意 面倒
極形式 苦手 得意

問題に応じて、 つの形式を行き来する。「掛け算・累乗が出てきたら、極形式に直す」この判断ができるようになれば、複素数の計算は大きく楽になる。

ポイント

  • 積:絶対値は積、偏角は和。
  • 掛け算 = 拡大 + 回転。

よくある間違い

  • 絶対値も足してしまい、 とする。絶対値は掛ける()
  • 偏角を掛けてしまい、 とする。偏角は足す()
  • で止めてしまう。、 なので、 まで簡単にする

問5ド・モアブルの定理

★ 基礎ド・モアブル

問題

を計算せよ。

ヒントを見る

累乗と偏角の関係(問題が指定する定理)をそのまま使う。 乗で偏角が何倍になるか。

解答・解説

方針

ド・モアブルの定理 。偏角を 倍する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 乗を、まともに展開してはいけない。

極形式の累乗には、専用の道具がある。

ド・モアブルの定理。

「 乗すると、偏角が 倍になる。」前問の「掛け算では偏角が足される」を、 回繰り返しただけだ。

この問題に当てはめる。

答えは 。

「 の回転を 回 の回転」幾何的には、それだけの話だ。絶対値が なので、拡大も縮小もしない。純粋な回転である。

定理ド・モアブルの定理

偏角を 倍する。。

まとめ:ド・モアブルの定理は「絶対値 の複素数の累乗は、偏角を 倍するだけ」。 を 乗すると 。複素数の累乗を三角関数の計算だけですぐに求められる定理だ。

発展。 ド・モアブルの定理は三角関数の公式を「生産」する機械になる。

で使ってみよう。

左辺を普通に展開する。

両辺の実部と虚部を、それぞれ比べる。

倍角の公式が つ同時に出てきた。

なら?

を展開して、実部と虚部を比べる。

倍角の公式が出る。

丸暗記していたあの公式がド・モアブルから機械的に導ける。、 の公式もいくらでも作れる。「 倍角の公式は、 を二項展開すれば出る」

もはや、暗記する必要がない。そして、この方法から の 乗根という対象が生まれる。

この方程式の解は 個ある。

複素数平面に描くと、単位円を 等分する点になる。つまり正 角形の頂点だ。 なら、正三角形。

なら、正方形。

代数方程式()の解が幾何図形(正 角形)になる。この対応から、 年来の難問が解けた。「正 角形は、定規とコンパスで作図できるか?」

ガウスは 歳のとき( 年)、この問いに「できる」と答えた。方法は の解を、平方根の組み合わせだけで表すこと。(定規とコンパスで作図できる 四則演算と平方根で書ける、という対応がある。)

ガウスはこの発見をきっかけに数学者になることを決意したという。

そして、彼の墓には、正 角形が刻まれている(実際には 角星だが)。

この、すぐに解ける計算。この考え方は、正多角形がどんなときに作図できるかという有名な問題につながる。

答

別解

ド・モアブルを使わず、実際に 回掛けて確かめる。まず、 を、 の形にする。

乗する。

( を使った。)

この結果は だ。 偏角が 倍()になっている

もう 回掛ける。

展開する。

実部を整理する。

消えた。

虚部を整理する。

になり、本解と一致した

ド・モアブルが正しいことを、自分の手で確かめられた。だが、この計算は面倒だった。もし を求めよ、と言われたら?

この方法では 回も掛け算を繰り返すことになる。 現実的でない。ド・モアブルなら、すぐに出る。

でも同じ。

を、 で割った余りにする。

大きな累乗が 行で片づく。「回転は、 で 周して元に戻る」この周期性があるので、どんなに大きな指数でも、 で割った余りだけを見ればよい。

この問題の には、次の性質がある。

乗すると、 に戻る。 は の 乗根の つである。

複素数平面の単位円上に、正 角形の頂点として並ぶ 個の数。 その つが、この である。

ポイント

  • 。
  • 累乗は偏角を 倍する。

よくある間違い

  • と を、それぞれ 乗して としてしまう。ド・モアブルは「偏角を 倍」する
  • 偏角を 倍するのを忘れ、 のままにする
  • としてしまう。、

問6iを掛ける(90°回転)

★ 基礎回転

問題

複素数 に を掛けた を求めよ。また、これが をどう動かしたかを述べよ。

ヒントを見る

まず素直に掛け算( に注意)。次に、元の点と結果の点を複素数平面に打ってみよう。原点まわりにどう動いたかが分かる。

解答・解説

方針

を掛ける計算をする()。 なので、 を掛けることは原点のまわりに 回転すること。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) まず、素直に計算しよう。

答えは 。

では、これは幾何的に何をしたことになるのか。

もとの点: → 座標

新しい点: → 座標

この 点を、複素数平面に打ってみよう。

から へ。

原点からの距離は?

同じだ。 長さは変わっていない。では、向きは?

の極形式は 。 絶対値 、偏角 だ。

「絶対値 を掛ける → 長さは変わらない」 「偏角 を足す → 回転する」

重要 を掛けることは、原点のまわりに 回転すること()

① 計算する。 。

② 意味を述べる。 (絶対値 、偏角 )。よって は を原点のまわりに 回転したもの。点 が点 にうつる。

xyOziz
z=1+2i に i を掛けると iz=-2+i(90°回転)

まとめ: を掛ける = 回転。絶対値 の複素数を掛けると、大きさを変えずに回転だけする。 は確かに 回った位置だ。複素数と回転の結びつきを表す。

発展。 「 を掛ける 回転」

この事実を行列と比べてみよう。平面上の点 を 回転させる行列は

実際に計算する。

は、この問題の答え と完全に一致する

複素数の掛け算と、行列の掛け算が、同じ結果を出す。さらに、この行列を 乗してみよう。

(単位行列のマイナス)。

と、同じ形だ。

この行列 は複素数 と「同じ振る舞い」をする。もっと一般に、複素数 はこんな行列と対応する。

この対応のもとで、複素数の足し算・掛け算が行列の足し算・掛け算に、完全に一致する。「複素数は、特別な形の 行列である」

同じ構造が つの姿で現れている。 これを同型という。

どちらで計算しても、答えは同じ。 ただ、複素数のほうが、書くのがずっと楽だ。さて、この「回転」という視点で、複素数の応用を見渡してみよう。

① 交流回路。

電圧と電流は、 波で振動する。 その位相差(ズレ)が回路の性質を決める。

複素数で書けば、位相差は「偏角の差」になる。 微分方程式を解かずに、掛け算だけで回路が解析できる。

② 信号処理。

フーリエ変換は信号を「回転する複素数」の重ね合わせとして分解する。

「単位円の上を、角速度 で回る点」 が、周波数 の波を表している。

③ 量子力学。

波動関数は複素数の値をとる。 その位相(偏角)が干渉という現象を生む。 つの経路を通った電子が、位相が揃えば強め合い、 ずれていれば打ち消し合う。

「量子の重ね合わせ」は数学的には複素数の足し算で表される。

この、すぐに終わる計算。その意味は「 回す」ということで、回転は波・電気・量子を式で表すときにも使われる。

答

。原点のまわりに 回転したもの

別解

「 を掛ける 回転」から、 の意味が分かる。 を 回掛けたら、どうなるか。

回転を 回。 つまり、 回転だ。 回転とは点を原点に関して反対側へ移すこと。

つまり

「」の幾何的な意味が、これだ。 回転を 回すると、向きが逆になる。

この問題で確かめよう。

確かに、もとの の符号を変えたものになった。

回掛けたら?

周して、元に戻る。

確かめる。

の累乗が 周期で循環する理由が、これだ。

回転の ずつが、 回で 周する。「」は、天下り式の「約束」ではなく、「 回転を 回すれば、反転する」という、幾何的に当然の結果である。

さて、この見方から、「負の数の平方根」という疑問も解ける。

とは何か。

「 乗すると になる数」 は、実数には存在しない。だが、「 回やると 回転になる操作」なら、存在する。

それが 回転だ。

回転。

負の数の平方根が「存在しない」のではなく、数直線( 次元)の上には存在しないだけ。平面( 次元)に出れば、確かに存在する。

は「数直線の外へ出た数」である。そして、この 歩によって、数学で扱える範囲が大きく広がった。行き詰まったら、次元を上げる。

この発想は数学のいろいろな場面で使われる。

ポイント

  • を掛ける = 回転。
  • 絶対値 の複素数を掛ける = 回転。

よくある間違い

  • の を使い忘れ、 のまま残してしまう
  • と、 どうしの積()を にしてしまう
  • 「 回転」の向きを、時計回りだと思ってしまう。 を掛けると反時計回り(正の向き)に 回る

問7複素数の和

★ 基礎和

問題

、 のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

実部どうし・虚部どうしを足すだけ。

解答・解説

方針

実部どうし・虚部どうしを足す。複素数の和はベクトルの和と同じ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 複素数の足し算は、実部どうし、虚部どうしを足す。

同類項をまとめるだけ。 文字式の計算と同じだ。

を文字だと思えば

簡単である。

この計算を複素数平面で見ると?点 と点 を足して、点 を得る。これは、ベクトルの和とまったく同じ操作だ。

図では、平行四辺形の対角線。あるいは、矢印を継ぎ足したもの。「複素数の足し算 ベクトルの足し算」

足し算に関しては、複素数はベクトルと何も変わらない。違いが出るのは、掛け算のときだけである。

公式複素数の和

実部どうし・虚部どうしを足す。

ReImOz₁z₂z₁+z₂
複素数の和は矢印の和(平行四辺形)。z₁+z₂=4+i

まとめ:複素数の和は「実部どうし、虚部どうし」を足すだけ。複素数平面ではベクトルの和(平行四辺形)と同じ。積(拡大 + 回転)とちがい、和は単純な移動だ。

発展。 複素数とベクトル。同じに見えて、大きな違いがある。

共通点。

  • 足し算: 成分ごとに足す。同じ
  • 実数倍: 成分ごとに掛ける。同じ
  • 大きさ: 。同じ

では、違いは?複素数には、「掛け算」がある。

複素数 複素数 複素数。ベクトルには、これがない。

  • 内積 → 結果は数(ベクトルでない)
  • 外積 → 次元でしか定義できない

「 つのベクトルを掛けて、また同じ空間のベクトルを得る」という演算が、ベクトルには存在しないのだ。そして、「割り算」もある。

ベクトルの割り算は定義できない。この「四則演算が全部できる」という性質を、体という。

複素数は体である。 ベクトルは体ではない。だから、複素数は「数」と呼べる。

そして、ここに重要な定理がある。

フロベニウスの定理。

「実数を含み、四則演算が定義できる体系(有限次元)は、実数・複素数・四元数の つしかない。」 次元では、複素数だけ。

次元では? 答えは、存在しない。

( 次元で「掛け算」を定義しようとしたハミルトンは、 年悩んだ末、 次元なら可能だと気づいた。それが四元数だ。) 次元では、四元数。ただし、交換法則が成り立たない()。

次元では、八元数。結合法則も成り立たない。 次元以上ではもう何も残らない。

「掛け算ができる空間」は、、、、 次元しかないのだ。なぜ、この つだけなのか。

その理由はトポロジー(位相幾何学)の定理から来ている( 年に証明された)。代数の問題が幾何の定理で解かれる。「複素数」という 次元の数が作れるのは、 がこの特別な つの数のうちの つだからである。

この足し算はベクトルと同じ。だが、この つを「掛けられる」ということ。そこに、複素数が「数」であることの、すべてが懸かっている。

答

別解

足し算をベクトルとして見て、その先の「引き算」まで押さえる。複素数の足し算は平行四辺形の対角線だった。では、引き算は?

この は何を表すのか。

点 から、点 へ向かうベクトルだ。

確かめよう。 、。

と一致

「終点 始点」 はベクトルの引き算とまったく同じだ。この事実から、複素数平面の重要な公式が出る。

点間の距離。

この 点は だけ離れている。さらに、この「差」の発想が図形の条件式を生む。「 が、点 から距離 にある」

これは、中心 、半径 の円の方程式だ。

「 が、 と から等距離にある」

これは、線分 の垂直二等分線である。複素数 文字で、円や直線が書けてしまう。座標だと 文字(、)必要だったのに。

左の式は 変数、右の式は 変数。この簡潔さが複素数で図形を扱う最大のメリットだ。そして、和と差の対比。

「足すと、対角線。引くと、向き。」この つを掴んでおけば、複素数平面の図形問題は、ぐっと見通しがよくなる。

そして、 という「商」を考えると、角度が出てくる。( つのベクトルの比をとると、偏角が、なす角になる。)この形が、「 点が一直線上」「 直線が垂直」といった条件を、 行で書く決め手になる。

足し算という、いちばん基本の演算。その意味を「ベクトル」として掴むことが、複素数平面のすべての出発点になる。

ポイント

  • 実部・虚部それぞれ足す。
  • 複素数平面ではベクトルの和。

よくある間違い

  • 虚部の計算 で、マイナスを見落として としてしまう
  • 実部と虚部を混ぜて足してしまう。実部は実部、虚部は虚部で足す
  • の絶対値を だと思う。 で、 とは違う

問8絶対値の2乗と共役

★ 基礎絶対値共役

問題

のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

共役との積には、絶対値と結びつく有名な性質がある。直接展開してもすぐ確かめられる。

解答・解説

方針

(絶対値の 乗)。実際に を計算しても同じ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) は、自分自身とその共役の積だ。

この つを掛ける。

和と差の積の形をしている。

当てはめる。

を使う。

答えは 。

が完全に消えたことに注目する。結果は実数。しかも 。

「共役を掛けると、虚数が消えて、絶対値の 乗になる」この性質が、複素数の計算のあらゆる場面で使われる。

公式( と の積は 、実数)

。

これは に等しい。

まとめ: は複素数の超重要公式。共役をかけると虚部が消えて、絶対値の 乗(実数)になる。分母の実数化(割り算)でも活躍する関係だ。

発展。 (積の絶対値は、絶対値の積)

この式を成分で書き下すと、思わぬ結果が現れる。

絶対値の 乗を、両辺で計算する。

この つが等しい。

ブラーマグプタ・フィボナッチの恒等式。

この式が意味すること。

「 つの平方数の和」どうしを掛けると、また「 つの平方数の和」になる。

具体例で見よう。

この つを掛ける。

恒等式より、 も つの平方数の和で書けるはずだ。

確かに成り立つ。

しかも、 と の役割を入れかえると、別の表し方も出る。

は 通りに「平方数の和」で書ける。この事実は、整数論の難しい問題につながっている。「どんな整数が、 つの平方数の和で書けるか?」

フェルマーの 平方定理( 年)。「 で割って 余る素数は、必ず つの平方数の和で書ける。しかも、 通りに。」

すべて、 型の素数だ。

一方、 で割って 余る素数(、、、)は、決して 平方の和にならない。

なぜ、こんな法則があるのか。その説明に、複素数が使われる。

ガウス整数 (、 は整数)という数の集まりを考える。この範囲では、 は素数ではない。

分解できてしまう。

一方、 はガウス整数の範囲でも素数のまま(分解できない)。「 型の素数は、ガウス整数では分解する。 型は分解しない。」この違いが、 平方の和の法則を生んでいる。

整数の性質が複素数を経由して初めて説明される。 という、絶対値の計算。その一般化は整数論の研究でも使われている。

数学は、こうして予想外の場所でつながっている。

答

別解

この公式の使い道は複素数の割り算(分母の実数化)だ。

が実数になる。 この事実は何の役に立つのか。

割り算だ。

問題: を、 の形にせよ。分母に があると、「何なのか」が分からない。

分母を実数にしたい。

そこで、分母の共役を分母・分子に掛ける。

分母はこの問題で計算した だ。

簡単な形になった。

検算しよう。 この数に を掛けて、 に戻るか。

確かに、逆数だ。この操作を「分母の実数化」という。中学で習った「有理化」と、まったく同じ発想だ。

根号を消すために、共役()を掛けた。虚数を消すために、共役()を掛ける。「邪魔なものを、共役との積で消す」

同じ手が 度使われている。一般公式として、書いておこう。

「逆数 共役 絶対値の 乗」この式には、幾何的な意味もある。 なので、。

逆数をとると、絶対値も逆数になる。

偏角は?

の偏角は の偏角の符号を変えたもの(実軸で折り返すから)。

「逆数 実軸で折り返して、原点からの距離を逆数にする」

これを反転という。

単位円()の上では、逆数は共役と一致する。

この性質は単位円上の複素数を扱うときによく使う。( の 乗根の計算では、この公式が繰り返し使われる。) という、 行の計算。

それが、複素数の割り算を可能にし、逆数という操作に幾何的な意味を与えている。

ポイント

  • (実数)。
  • 共役をかけると虚部が消える。

よくある間違い

  • の符号を落とし、 としてしまう。
  • を と混同する。 で、まったく別の値
  • が複素数になると思ってしまう。共役との積は必ず実数()

問92点間の距離

★ 基礎距離

問題

複素数平面上の 点 、 の間の距離を求めよ。

ヒントを見る

点間の距離は差の絶対値。まず引き算してから大きさを測る。

解答・解説

方針

点間の距離は (差の絶対値)。 を計算し、その絶対値を求める。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 点間の距離は、差の絶対値だ。

まず、差を計算する。

次に、その絶対値を求める。

距離は 。

なぜ、「差の絶対値」が距離になるのか。

は点 から点 へ向かうベクトルだった。

その絶対値(大きさ)が、 点の距離になるのは当然だ。ベクトルの と、まったく同じ。そして、出てきた という数。

これは、最初の問題()で扱ったものと、同じだ。

同じ計算が違う形で現れる。 数学ではよくあることである。

公式 点間の距離 (差の絶対値)

① 差を求める。 。

② 絶対値を求める。

ReImO1+i4+5i
2点 1+i, 4+5i の距離 |z₁−z₂|=5

まとめ:複素数平面の 点間の距離は「差の絶対値 」。差 は から へのベクトルにあたり、その大きさが距離。座標平面の距離公式と同じことだ。

発展。 複素数平面では「 点間の距離」だけでなく、「角度」も簡単に扱える。

点 、、 を考える。( を頂点とする角)を求めたい。

複素数の商を作る。

分子は「 から へのベクトル」、分母は「 から へのベクトル」。

この商の偏角が つのベクトルのなす角、つまり になる。

なぜか。 商の偏角は偏角の差だからだ。

この公式から、 つの重要な条件が出る。条件 : 点が一直線上にある。

なす角が か 。 つまり、商が実数になる。

条件 : 直線が垂直。

なす角が 。 つまり、商が純虚数になる。

「一直線 実数」「垂直 純虚数」この つの言い換えは、複素数平面の問題で、繰り返し使われる。そして、前に学んだ「実数・純虚数の条件」が、ここで生きてくる。

すべてが、 本の線でつながる。幾何の条件(一直線、垂直)

複素数の条件(実数、純虚数)

共役の等式(、)図形の問題が、 段階で、ただの方程式に変換される。このように言い換えを重ねるのが、複素数平面という道具の考え方の中心だ。

さらに、 点が同一円周上にある条件も、書ける。

この式は複比と呼ばれ、射影幾何学という、より高度な理論の中心概念になる。円周角の定理が 行の式で表されている。「 点間の距離は 」という、素朴な事実。

そこに「商の偏角は角度」を加えると、平面幾何のすべてを複素数平面で表せるようになる。ガウスが 年前に切り開いた、この道具。高校の数学でも、この道具を使える。

答

別解

距離の式 から、円と直線の方程式を作る。この問題で使った「 点間の距離 」という式。これを、「条件」として使うと、図形が生まれる。

円。

「点 から、距離 にある点 の全体」

これが、中心 、半径 の円の方程式だ。座標で書くと、 変数(、)が必要だった。

複素数なら、 変数()で済む。この簡潔さが複素数で図形を扱う理由である。

垂直二等分線。

「 点 、 から等距離にある点」

これが、線分 の垂直二等分線。

アポロニウスの円。

「 点からの距離の比が である点」

この条件を満たす点は円を描く(比が でなければ)。数学IIで学んだアポロニウスの円が、複素数では 行で書ける。実際に、方程式を解いてみよう。

問題: を満たす の描く図形は?

両辺を 乗する。 を使う。

展開する。

で割る。

平方完成のように、まとめる。

中心 、半径 の円になる。

アポロニウスの円が複素数の計算で出てきた。この計算の要は という、前問の公式だった。「絶対値の 乗は、共役との積」

この 行が絶対値を含む方程式を、普通の代数計算に変えてしまう。根号(絶対値)が邪魔なら、 乗して共役との積にする。この方法が複素数平面の図形問題を解くいちばんの道具である。

ポイント

  • 距離 。
  • 差の絶対値がベクトルの大きさ。

よくある間違い

  • 距離を や で計算してしまう。距離は「差の絶対値」
  • 差の計算で虚部を間違える。( ではない)
  • を としてしまう。絶対値は

問10純虚数の条件

★ 基礎純虚数

問題

複素数 が純虚数となるような実数 の値を求めよ。

ヒントを見る

純虚数の条件は つある。実部が 、かつ虚部が でないことだ。両方を確認しよう。

解答・解説

方針

純虚数は「実部が 、虚部が でない」複素数。実部 かつ虚部 を確かめる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 「純虚数」の定義を、正確に押さえよう。

純虚数とは ()の形の数。 つまり

  • 実部が
  • 虚部が でない

この つが、両方必要だ。( は純虚数ではない。実部も虚部も だから。)

この問題の複素数を見る。

実部: 虚部:

実部が になればよい。

虚部は で、 ではない 条件を満たしている。

確かに純虚数だ。

「実部 、虚部 」 の つの確認を、必ずセットで行う。片方だけでは不十分である。

重要純虚数 ⟺ 実部 かつ 虚部

① 実部 を書く。

② 虚部 を確認する。 虚部は ()なので条件を満たす。

まとめ:純虚数は「実部 、虚部は でない」( や など)。実部 だけでなく、虚部 の確認も必要(実部も虚部も なら で純虚数ではない)。ここは虚部 で自動的に満たされる。

発展。 純虚数は 乗すると負の実数になる。

確かめよう。 一般に ( は実数、)なら

必ず、負の実数になる。

逆も成り立つ。

これが、純虚数の特徴だ。

「 乗すると負になる数」

実数の範囲では 乗すれば必ず 以上だった。

この決まりの外へ出るために、虚数が導入された。この「 乗して負」という性質があるので、どんな方程式も解をもつようになる。

という方程式。

実数では、解なし。複素数なら、 という 個の解をもつ。さて、複素数平面で、純虚数はどこにいるか。

実部が なので、虚軸( 軸)の上だ(原点を除く)。そして、実数は実軸( 軸)の上。この つの軸は直交している。

「実数と純虚数は、 の関係にある」この直交性は、偶然ではない。

を掛けると 回転する。だから、実数()に を掛けた は、実軸から 回った位置にある。「実軸と虚軸が垂直」であることの根拠が、 である。

そして、この直交性は物理にも現れる。交流回路のインピーダンス。

  • 実部 : 抵抗(エネルギーを消費する)
  • 虚部 : リアクタンス(エネルギーを蓄えて返し、消費しない)

この つは、性質がまったく違う。 だから、実部と虚部に分けて表す。コイルやコンデンサは、純虚数のインピーダンスをもつ。

どちらも純虚数で、エネルギーを消費しないという物理的な意味をもっている。電力の計算では、実部だけが「消費電力」になる。

虚部は「無効電力」と呼ばれ、行ったり来たりするだけで、仕事をしない。「純虚数 エネルギーを消費しない成分」数学の抽象的な概念が、電気工学ではまったく具体的な意味をもつ。

を求めるだけの、素朴な問題。その「純虚数」という条件は、 の直交性と、エネルギーを消費しないという性質を表している。

答

別解

共役を使って、「純虚数」を式で表現する。成分(、)を使わずに、 という 文字だけで条件を書きたい。

共役の性質を思い出そう。

だから

純虚数の条件はこう書ける。

この問題で確かめよう。

これが になる条件は

本解と同じ

そして、 のとき なので、条件を満たす。同じように、「実数」の条件も書ける。

( 虚部 なので、これが ということ。)

つを並べてみよう。

きれいな対比だ。

「共役と等しい」なら実数、「共役の符号違い」なら純虚数。なぜ、こんな書き換えが必要なのか。 が複雑な式で与えられているときに役に立つ。

例: 「 が純虚数となる の軌跡を求めよ。」もし と成分で書いたら?分母を実数化して、実部を計算して、 とおいて とても長い計算になる。

共役なら、こうだ。

分母を払って整理すると

答えは単位円になる。( は除く。)

わずか 行だ。

成分で計算していたら、 ページかかる。「 という 文字のまま処理する」この方針を可能にするのが、共役という道具である。

純虚数の条件を と書けること。それは、複素数の問題を代数の計算として「閉じさせる」ための一手である。

ポイント

  • 純虚数 ⟺ 実部 かつ 虚部 。
  • 虚部 の確認も必要。

よくある間違い

  • 虚部が でないことの確認を忘れる。実部が でも、虚部も なら()純虚数ではない
  • 「純虚数」と「虚数」を混同する。虚数は「実数でない複素数」(虚部 )、純虚数は「実部 かつ虚部 」
  • 実部と虚部を取り違え、 という不可能な式を立ててしまう。実部は 、虚部は

問11極形式から成分へ

★ 基礎極形式

問題

複素数 を の形で表せ。

ヒントを見る

の と の値を思い出して、分配するだけ。

解答・解説

方針

、 の値を代入して展開する。、。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 極形式から、直交形式()に戻す問題だ。

やることは単純。 と の値を代入して、展開するだけ。 の三角比を、正確に思い出そう。

( は第 象限。 は負、 は正。)

代入する。

答えは 。

符号の確認をしよう。

実部が負()、虚部が正()。 つまり、点は第 象限にある。

偏角 は第 象限の角なので、一致している

「符号が、象限と合っているか」 の確認を、必ず入れる。 の符号を間違えると、点が別の象限に飛んでしまう。

公式極形式 に三角比の値を代入して展開

、 を代入する。

まとめ:極形式 → は「三角比の値を代入して展開」。、 の値を正確に。 をかけて分配すると 。極形式と成分表示は行き来できる。

発展。 の つの解が正三角形をなす。

この事実を一般化しよう。方程式 の解を、 の 乗根という。

個の解が単位円周を 等分する。

正 角形の頂点だ。

のとき、 つの解を 、、 と書く。

この には、次の性質がある。

つ目の式はなぜ成り立つのか。

を因数分解する。

なので、 は つ目の因数の解。

幾何的には、こう見える。正三角形の 頂点を表すベクトルを足すと、 になる。( つの方向が、 ずつ均等なので、打ち消し合う。)

「対称に配置されたものを全部足すと、」この原理は、あらゆる場面で使われる。 の 乗根についても同じだ。

正 角形の頂点ベクトルの和は 。この性質が離散フーリエ変換の基礎になる。信号を 個のサンプルに分けて、それぞれに の 乗根を掛けて足し上げる。

すると、周波数成分が取り出せる。

なぜ取り出せるのか。 「関係ない周波数の成分は、 の 乗根の和として になって消える」からだ。この計算を高速化したのが、高速フーリエ変換(FFT)。

年に発表され、 世紀最重要のアルゴリズムの つと呼ばれる。スマホの音声・画像・通信の処理にも、FFT が使われている。その根っこにあるのが、「 の 乗根が正 角形をなす」という、この単純な事実だ。

この、三角比を代入するだけの計算。その答えが正三角形の 頂点であり、 の 乗根であり、信号処理で使う構造の一部でもある。

答

別解

単位円の図から、 の座標を読む。三角比の値を暗記するのではなく、図から読み取る方法だ。

半径 の単位円を描く。

の方向に、点を打つ。この点の座標が である。 は から 戻った位置だ。

だから、 の点を、 軸で折り返した位置にある。 の点の座標は

( の直角三角形から。)

軸で折り返すと、 座標の符号が変わる。

これが の点だ。

図から読み取れた。

あとは、絶対値 を掛ける。

本解と同じ

この「単位円から読む」方法の利点。

符号を間違えない。

は左上(、)。 だから、 は負、 は正。図を見れば一目瞭然だ。

丸暗記だと、 などと符号を落としがちである。この には、次の性質がある。

乗してみよう。

ド・モアブルを使う。

になる。

つまり、 は「 の 乗根」の つである。方程式 の解は 個ある。

実数解は だけ。 だが、複素数まで含めれば、 個の解がある。この 点を、複素数平面に打つと?

すべて、原点からの距離が 。

そして、偏角は 、、 で、 ずつ等間隔だ。

半径 の円周を、 等分している。 点を結ぶと、正三角形になる。

「 乗根は、円周を 等分する」代数方程式の解が、正多角形の頂点として現れる。この、代数と幾何の対応が、複素数平面の最大の見どころである。

ポイント

  • 三角比の値を代入して展開。
  • 、。

よくある間違い

  • の符号を落として としてしまう。 は第 象限なので は負()
  • を負にしてしまう。第 象限では は正()
  • 絶対値 を掛け忘れ、 で終える。 倍して

問12共役の性質

★ 基礎共役

問題

のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

共役を足すと何が打ち消し合うか。実際に書いて足してみれば一目で分かる。

解答・解説

方針

(実部の 倍、実数)。虚部が打ち消し合う。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) と を足す。

虚部がきれいに打ち消し合った。 と がちょうど逆符号だからだ。残るのは、実部の 倍。

一般に、 なら

「共役を足すと、実部の 倍になる」この公式は、実部を「取り出す」道具として使われる。

同じように、虚部を取り出す公式もある。 それは別解で見よう。

公式(実部の 倍、実数)

まとめ: は「実部の 倍」= 実数。共役を足すと虚部( と )が打ち消し合う。同様に (虚部の情報)。共役は実部・虚部を取り出す道具になる。

発展。 複素数平面の基本がこれで出そろった。全体を 枚の地図にまとめよう。

複素数の つの見方。

幾何と代数の対応表。

幾何の操作 複素数の演算
平行移動 足し算
回転() 掛け算
拡大( 倍) 掛け算
実軸で折り返す 共役
点間の距離 差の絶対値
直線のなす角 商の偏角

平面幾何のすべての操作が複素数の四則演算で表せる。この対応表が複素数平面という道具の全体像だ。そして、条件の言い換え。

「図形の条件」を「代数の等式」に変える。これで、幾何の問題が計算だけで解けるようになる。ここまでが高校の複素数平面だ。

では、その先には何があるのか。複素関数論(複素解析)という分野がある。「複素数を変数とする関数 を、微分・積分する」

この理論で中心になるのは、正則関数(複素微分可能な関数)だ。そして、重要な定理が次々と現れる。

① 回微分できれば、無限回微分できる。

(実関数では、 回微分できても 回目はできないことがある。複素数では、あり得ない。)

② 関数の値が境界の値だけで決まる。

(円の内部の値が、円周上の値だけで完全に決まってしまう。)

③ 留数定理。

「実数の積分が、複素平面の『回り道』で計算できる。」

この積分を、複素数を経由して求める。実数の範囲では難しい計算が、複素数へ迂回すると簡単になる。「 つの正しい実数の主張の間の最短経路は、複素数平面を通る」

ハダマールという数学者の言葉だ。

この、すぐに終わる計算。その先には、実数だけでは扱えない数学の分野が広がっている。この計算はその分野を学ぶための基礎になる。

答

別解

足し算と対になる引き算を使うと、虚部が取り出せる。

から を引いてみよう。

今度は、実部が消えた。

だからだ。

残るのは、虚部の 倍(に を掛けたもの)。

一般に

虚部を取り出すには、 で割る。

つの公式がそろった。

「共役との、和・差・積」が、それぞれ「実部・虚部・絶対値」を取り出す。

覚えやすい対応だ。

そして、この つの公式を、幾何的に読んでみよう。 と は実軸に関して対称な 点だった。

足す() → 点のベクトルの和 → 実軸上のベクトル(上下の成分が打ち消し合う)

引く() → 点を結ぶベクトル → 虚軸に平行(実部が同じだから、真上に向かう)図で見れば、当たり前の話だ。この公式を使うと、次のような問題が解ける。

問題: のとき、 は実数であることを示せ。 なら、。つまり 。

これは、実部の 倍なので、実数だ

証明終わり。 行である。

さらに、 とおけば

この式は三角関数の計算で頻繁に使われる。

チェビシェフ多項式、 倍角の公式、対称式の計算は、すべてこの形が出発点だ。

「 が 」

この 行が複素数と三角関数を結ぶ、太いパイプになっている。共役との和は という、ごく簡単な計算だ。その公式を使うと、複素数の問題を代数の問題に変えられる。

ポイント

  • (実数)。
  • 共役を足すと虚部が消える。

よくある間違い

  • を だと思ってしまう。 は の共役で、 そのものではない
  • 虚部が打ち消し合うことを見落とし、 のような答えを書く。 と で になる
  • の答えを「実部そのもの」()としてしまう。実部の 倍()になる