数学II / 式と証明

式と証明 ★ 基礎の問題 全12問

教科書レベル。定義・公式の確認と基本操作

難易度: ★ 基礎·★★ 標準·★★★ 応用·★★★★ 難関·実戦編·最難関編

  1. 3次式の展開
  2. 3次式の因数分解
  3. 二項定理による展開
  4. 二項定理と特定の項の係数
  5. 多項式の割り算
  6. 分数式の乗法・除法
  7. 分数式の加法・減法
  8. 恒等式と係数比較
  9. 部分分数分解(数値代入)
  10. 条件つき等式の証明
  11. 不等式の証明(差をとる)
  12. 相加平均・相乗平均と最小値

問13次式の展開

★ 基礎3次式の展開

問題

次の式を展開せよ。

(1)

(2)

(3)

ヒントを見る

を 回かけて地道に展開してもよいが、 乗専用の展開の形を覚えていればすぐに書ける。係数の並びが左右対称になることが検算に使える。(3)は展開してみると途中の項が次々に消える。何が残るか。

解答・解説

方針

3次の展開公式を使う。 は4つの項が出る(係数 )。(3)は『和 × (2乗 − 積 + 2乗)』の形で、 の公式そのものだ。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 乗の展開は、公式を つ覚えれば全部片づく。

係数は 。 真ん中の を落とすのが最頻ミスだ。(2)の では、、 とまるごと置きかえる。

となり、 も 乗される。 としてしまうミスが本当に多い。カッコの中身は全部 乗、と唱えながら書く。

(3)は展開公式ではなく、 乗の和の因数分解の形だ。

、 で 。真ん中の項が消えるのが、この公式の見どころである。

公式3乗の展開 、

(1) 展開公式に 、 を入れる。

(2) に 、 を入れる。符号が と交互になる。

(3) の公式(、)。

(3)は展開してもよいが、公式の形に気づけばすぐに終わる。

発展。 なぜパスカルの三角形の数が展開の係数になるのか。

を、カッコを開かずに考える。 個のカッコから、それぞれ か を つずつ選んで掛ける。その全パターンを足すのが展開だ。

の項はどうやってできるか。 個のカッコのうち、 個から を選び、残り 個から を選ぶ。その選び方は

だから係数が になる。 同じく の係数は 、 は 。

展開の係数は組合せの数だった。 これが二項定理で、次の問題で正面から学ぶ。

「展開する」という代数の操作が、「選び方を数える」という場合の数の問題と同じだ。 の の係数を知りたければ、 回掛け算する必要はない。 と数え上げれば済む。

代数と数え上げが、パスカルの三角形で結びついている。

答

(1) (2) (3)

別解

公式を忘れても、パスカルの三角形があれば 乗も 乗も展開できる。 覚える量を減らす、賢い方法だ。パスカルの三角形を、必要な段まで書く。

乗なら 段目の 。 これが の係数だ。

の指数は と減り、 の指数は と増える。 指数の和はいつも になり、これが検算になる。

(1) に当てはめる。 、 として

係数 の作られ方を見てほしい。パスカルの に、 の累乗()を掛けている。

段構えで係数が決まる。この構造が分かれば、 でも でも、その場で係数が作れる。

(2) は、、。

、 のように、カッコごと累乗するのを忘れない。負の数の累乗は符号が交互(、、)になるので、引き算の 乗は と符号が交代する。これも検算に使える。

検算の技: を代入する。(1)なら、左辺 、右辺 。

展開したら、必ず で確かめる。 係数の和が、元の式に を入れた値と一致するはずだ。すぐにできる検算で、符号ミスも係数ミスもすぐに見つかる。この検算を習慣にすれば、失点を防げる。

ポイント

  • は4項、係数は
  • 、
  • 公式の形を見抜くと、展開せずに済む

よくある間違い

  • で とせず とする
  • 3乗の展開で中央の係数 を落とす
  • (3)を の公式で展開しようとする(これは の因数分解の形)

問23次式の因数分解

★ 基礎3次式の因数分解

問題

次の式を因数分解せよ。

(1)

(2)

ヒントを見る

や を『何かの 乗』の形に直すのが第一歩。 乗の和・差の形が見えたら、それ専用の因数分解が使える。

解答・解説

方針

、 の公式。まず『何の3乗か』を見抜く。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 「 乗 乗」の形を見抜くのが第一手だ。

、 と見抜ければ、あとは公式にあてはめるだけだ。

符号の覚え方。 前のカッコは元の式と同じ符号。後ろのカッコは真ん中だけ逆の符号、両端は必ずプラス。

後ろのカッコは ではない。 真ん中は ではなく で、 がつかない。ここがいちばん間違えやすい。

公式、

(1) なので、、 の和の3乗の因数分解。

(公式 。まん中の項が で符号がマイナスになる点に注意。)

(2) 、 なので、、 の差の3乗。

(差のほうは、まん中の項が でプラスになる。和のときと逆だ。)

発展。 は、実数の範囲では因数分解できなかった()。しかし複素数まで広げれば、必ず分解できる。

つまり の解は つある。 と、 つの虚数解だ。これが「代数学の基本定理」の一例である。

実数だけでは 個しか見つからなかった解が、複素数まで広げると 個そろう。 数の範囲を広げると、解の個数がそろう。これが、複素数を導入する大きな理由だ。

しかも の つの解を複素数平面に描くと、原点を中心とする半径 の円周上に、正三角形の頂点として並ぶ(数Cで学ぶ)。

「 の 乗根」が正三角形をなすという事実と、同じ種類の現象である。 という式の解を図にすると、円と正三角形が現れる。代数の式が幾何の形と結びついているのだ。

答

(1) (2)

別解

公式を忘れたら、因数定理と割り算でその場で作れる。 遠回りに見えて、実は「なぜその形になるのか」の答えがここにある。

(1) を、公式なしで因数分解する。

手順1: になる値を探す。 とおいて、 となる を探す。

が見つかった。

手順2: 因数定理を使う。

手順3: 実際に割る。 を で割ると

公式と同じ答えが出た。

手順4: 残った 次式がこれ以上分解できるか調べる。 の判別式は

負なので、実数の範囲ではこれ以上分解できない。因数分解はここで完成だ。

(2) も同じ手で。 なので 、つまり を因数に持つ。

この方法の何がいいか。

つ目: 公式が使えない 次式にも通用する。 のような式は、 乗の和・差の形をしていない。しかし を見つければ で割れる。因数定理はどんな高次式にも使える道具だ( 次方程式を解くとき、必ずこの手を使う)。

つ目: 公式の「意味」が分かる。 が で割り切れるのは、 を代入すると になるからだ。 となるので、この公式は因数定理から説明できる。

つ目: 符号の暗記から解放される。 「後ろのカッコの真ん中は か か」で迷わない。割り算すれば、答えが出る。

検算は展開で。 を展開すると

真ん中の項が全部打ち消し合って消える。 つまり の は、打ち消す役をしている。 だと打ち消しきれず、余りが出てしまう。なぜ がつかないのか、これで納得できるはずである。

ポイント

  • (中央は )
  • (中央は )
  • 、 と『3乗の形』に直すのが第一歩

よくある間違い

  • を ()と混同する
  • 和と差で中央の符号を取り違える
  • を と見抜けず、 を外に出したまま分解しようとする

問3二項定理による展開

★ 基礎二項定理

問題

二項定理を用いて、 を展開せよ。

ヒントを見る

問題が指定する二項定理では、各項が『二項係数 × の累乗 × の累乗』の積になる。まず二項係数の並びを書き出して、それぞれの項を順に組み立てよう。

解答・解説

方針

二項定理は 。 の二項係数 (パスカルの三角形)を使って、、 を順に当てはめる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) を、カッコを 回掛けて展開するのは骨が折れる。二項定理ならすぐに書ける。

必要な部品は つだ。

部品1: 二項係数(パスカルの三角形の 段目)。

部品2: の累乗()。

この つを掛け合わせたものが係数になる。

を掛け忘れて、二項係数()だけを書くのが、最も多いミスである。

定理二項定理

の二項係数はパスカルの三角形の 段目 。、 として、 の累乗を下げ、 の累乗を上げていく。

係数を計算して

( の累乗 を、二項係数 にかけている。両方をかけ合わせるのがコツだ。)

111121133114641
パスカルの三角形。第4段 1,4,6,4,1 が ₄Cₖ((x+2)⁴ は各項に 2^k を掛ける)

発展。 二項定理に、うまい値を代入すると、役に立つ等式が次々に出てくる。

を考える。

パスカルの三角形の各段を足すと になる。 なら 。

を考える。

符号を交互につけて足すと になる。。ここから「偶数番目の和 奇数番目の和 」が出る。

を微分すると、係数に が掛かった和が出てくる。

を代入すれば

「 人から委員会を作り、その中から委員長を 人選ぶ」方法の数が、この式の意味だ(左辺は人数 で場合分け、右辺は「委員長を先に選び、残りを入れる・入れないで決める」)。

つの定理に、いろいろな値を代入し、微分もしてみる。 そのたびに新しい等式が得られる。二項定理からはいくつもの等式を作り出せるのだ。数学の道具は決まった使い方だけで終わらせるにはもったいない。

答

別解

二項定理を使わず、地道に 乗を 回でも展開できる。答え合わせに使えるし、公式が不安なときの保険になる。 乗を、 乗の 乗と見る。

まず 乗する。

それをもう 回 乗する。

項の 乗だから、 を使う。、、 として

足し合わせる。

二項定理と同じ答え。

手間を比べてほしい。 乗を 回やる方法は、 乗くらいまでなら実用的だ。しかし になったら? 乗を 回半 現実的でない。

二項定理なら、 乗でも 乗でも、 行で書ける。

しかも「 の係数だけ知りたい」なら、 項だけ計算すればよい。

全部展開せずに、欲しい項だけを取り出せる。これが二項定理の一番役に立つところだ(次の問題で正面から使う)。

検算は で。

展開した式に を入れると

係数の和が 。ぴったり合った。

この検算は二項定理そのものの帰結でもある。 に を入れると になる。つまり係数の和は必ず 。 を代入するだけで、展開の正しさが確かめられる。 秒の保険を、毎回かける。

ポイント

  • 二項定理
  • 二項係数はパスカルの三角形の各段( なら )
  • の累乗を下げ、 の累乗を上げる。両方を係数にかける

よくある間違い

  • の累乗()をかけ忘れて、二項係数だけにする
  • 二項係数の段( は )を取り違える
  • の指数を逆順に書く( から へ、 の指数は から へ。指数の和は常に )

問4二項定理と特定の項の係数

★ 基礎二項定理一般項

問題

の展開における、 の項の係数を求めよ。

ヒントを見る

全部展開する必要はない。二項定理の一般項を書き、 の次数がちょうど になる取り出し方だけを選べばよい。どの項を何回ずつ取るかを先に決めよう。

解答・解説

方針

全部展開しなくても、二項定理の『一般項』 を使えば、ほしい項だけ取り出せる。 になる を先に決める。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) を全部展開する必要はない。聞かれているのは の項だけだ。

二項定理の一般項を書く。

の次数は 。 これが になるのは

の項だけを計算すればよい。

つの部品を、 つも落とさないこと。

  • 二項係数
  • の (これを落とす人が多い)
  • (奇数乗なのでマイナス)

欲しい項だけを取り出すのが、二項定理の使いどころである。

公式二項定理の一般項

の一般項は

の次数は 。 がほしいので 、つまり 。この項だけ計算する。

よって の係数は 。(全部展開する必要はない。ほしい項の を先に決めて、その1項だけ計算するのが賢い。 の奇数乗で符号がマイナスになる点に注意。)

発展。 「特定の項だけを取り出す」という技は、二項定理の枠を超えて使える。

たとえば の定数項を求めよ、という問題。一般項は

定数項は の次数が だから

乗の展開を書き出さずに、欲しい 項が出た。

この「一般項を書いて、次数の方程式を解く」という手順が、二項定理の問題のすべてである。

  • の係数 →
  • 定数項 →
  • の係数 → 次数 となる

問われ方が変わっても、やることは同じ。 「一般項を書く → 次数の式を立てる → を求める → 代入する」。

多項定理(項が つ以上のとき)も、同じ発想で拡張される。

これは「同じものを含む順列」の公式そのものだ。展開の係数は、選び方の数という原理は、項がいくつになっても変わらない。

答

別解

「なぜその項ができるのか」を、数え上げの目で見る。 公式を使わずに係数を作れるようになると、指数の取り違えが起こらなくなる。 は、 個の袋が並んでいると思う。

展開とは各袋から か を つずつ選んで掛け、その全パターンを足すことである。

の項はどうやってできるか。 が 個ほしいのだから、 個の袋のうち 個から を選び、残り 個から を選ぶ。

その選び方は何通りか。 個から を取る袋を 個選ぶので

(残り 個は自動的に になる。 と数えても同じで、 だ。) 通りぶんの積は

同じものが 通りあるので、足すと

係数は 。この見方だと、 つの部品を落としようがない。

  • 「 を 個選ぶ」→ 自動的に ( も 乗される)
  • 「 を 個選ぶ」→ 自動的に (マイナスが 回で負)
  • 「選び方が 通り」→ 二項係数

「 個のうち何個ずつ選ぶか」だけを考えれば、公式は要らない。

検算: を代入する。

展開したすべての係数の和が になるはずだ。実際、全部展開すると

の係数 も確かに入っている。

もう つの検算: 符号のパターン。 は「 と 」の 乗だから、展開すると符号が交互()に並ぶ。 の項は上から 番目で、マイナスの位置だ。答えが正になったら、その時点で間違いと分かる。

符号のパターンを先に読んでおくと、それだけで符号ミスの半分は防げる。

ポイント

  • 一般項 で、ほしい項だけ取り出す
  • の次数から を先に決める
  • の係数 や の符号も忘れずにかける

よくある間違い

  • の係数 を掛け忘れる
  • の符号(マイナス)を落とす
  • の決め方を間違える( の次数は なので、 なら 。 としてしまう)

問5多項式の割り算

★ 基礎多項式の割り算

問題

整式 を で割ったときの商と余りを求めよ。

ヒントを見る

筆算で割る。最高次の項どうしを見ると商の 項目が決まり、かけて引くと次数が下がる。これを、余りの次数が割る式より低くなるまでくり返す。

解答・解説

方針

数の筆算と同じ要領で割り算する。最高次から順に『割って、かけて、引く』をくり返す。余りの次数が割る式より低くなったら終わり。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 整式の割り算は、数の筆算とまったく同じ手順でできる。

手順は「最高次を消す」の繰り返しだ。

を消すには、 に何を掛けるか → 。これが商の第 項。掛けて引く。

残った式の最高次を、また同じように消す。 これを、割る式( 次)より次数が低くなるまで続ける。

余りの次数は割る式より必ず低い。 次式で割るなら、余りは定数(数)になる。

間違えやすいのは引き算の符号だ。 引くほうの式は全部の項の符号が変わるので、ここでミスが起きやすい。筆算の要領で、最高次から順に割る。

→ を引くと、残りは 。 → を引くと、残りは 。 → を引くと、残りは 。

余り は割る式 より次数が低いので、ここで終わり。

検算は『(割る式)(商)(余り)(割られる式)』で確かめる:。合っている。

発展。 剰余の定理の特別な場合が因数定理である。

余りが ということは、割り切れるということ。 当たり前に見えるが、高次方程式を解くときはこの事実から出発する。 を解きたい。 次方程式の解の公式は(存在はするが)複雑すぎて使えない。そこで

を見つける。

因数定理より で割り切れる。 組立除法で割ると

次方程式が 次方程式に落ちた。「 になる値を つ見つけて、次数を下げる」のが、高次方程式の基本だ。そして候補の探し方にもコツがある。

整数解の候補は(定数項の約数)(最高次の係数の約数)に限られる。 なら、定数項 の約数()を試すだけでよい。やみくもに代入しない。

次数を つ下げるために、剰余の定理と組立除法がある。道具は目的とセットで理解する。

答

商 、余り

別解

余りだけなら、すぐに出る。 そして、商も組立除法を使えば、筆算よりずっと速い。 つの方法を順に見ていく。

方法1: 剰余の定理(余りをすぐに出す)。

今回は で割るので、。

余りは 。筆算を 度もしていない。

なぜこれでよいのか。 割り算の式

に、 を代入する。すると の部分が になるので

が何であろうと消えてしまうので、余りだけが残る。割る式を にする値を代入する、これが剰余の定理の中心だ。方法2: 組立除法(商も余りも一度に出す)。

の係数だけを横に並べる。 で割るので、左に を置く。

やり方は「下ろす → 掛ける → 足す」の繰り返し。

  1. 先頭の を、そのまま下に下ろす
  2. を、次の列に書く
  3. を下に書く
  4. を、次の列に書く
  5. を下に書く
  6. を、次の列に書く
  7. (これが余り)

下の段に出た が商の係数(次数が つ下がるので 次式)。

筆算と同じ答えが、掛け算と足し算だけで出た。

組立除法の何がいいか。

  • 文字(、)を書かなくてよい → 書き間違いが大きく減る
  • 引き算がない(掛けて足すだけ)→ 符号ミスが構造的に起こらない
  • 速い( 次式なら 秒)

筆算でいちばん間違えやすいのは引き算の符号だった。組立除法はその引き算を「負の数を足す」に置きかえる。ミスの原因を手順そのもので取り除いているのだ。

ただし、使えるのは 次式 で割るときだけ。 のような 次式で割るときは、素直に筆算する。

検算は必ず。

割り算をしたら、掛け戻す。 これで間違いはゼロになる。

ポイント

  • 最高次から『割って・かけて・引いて・下ろす』をくり返す
  • 余りの次数が割る式より低くなったら終了
  • 『割る式 × 商 + 余り = 割られる式』で検算

よくある間違い

  • 引き算のとき符号を間違える(引くほうは全項の符号が変わる)
  • 抜けている次数の項( の項など)の位置を詰めてしまう
  • 組立除法で、 なのに左に を置く(割る式を にする値、つまり を置く)

問6分数式の乗法・除法

★ 基礎分数式

問題

次の式を計算せよ。

ヒントを見る

分数の割り算は逆数のかけ算に直す。その前に分子・分母をすべて因数分解しておくと、共通の因数がまとめて約分できる。

解答・解説

方針

分数式の割り算は『逆数をかける』。かける前に、各分数を因数分解しておくと、共通因数が約分できてずっと簡単になる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 分数式の計算は、分数の計算とまったく同じルールで動く。

割り算は逆数を掛ける。 ここは小学校からの約束だ。そして分数式ならではの一手が因数分解である。

約分するには、掛け算の形(因数)にしなければならない。 展開したままでは、何と何が共通なのか見えない。

と が上下で消える。 因数分解すれば、答えがすぐに分かる。「約分は、因数分解してから」というのが、分数式の原則である。

まず、割り算を『逆数のかけ算』に直す。

分子・分母を因数分解する。、。

共通の因数 と が約分できる。

(先に因数分解しておくと、約分できる因数が分かる。展開してしまうと逆に大変になる。)

発展。 分数式は整式を「分子・分母」に持つ数のようなものだ。整数と有理数の関係が、そのまま整式と分数式の関係に対応している。

数 式
整数 、 整式 、
有理数 分数式
既約分数(これ以上約分できない) 既約な分数式
素因数分解 因数分解
最大公約数で約分 共通因数で約分

「整数でできることは、たいてい整式でもできる」と言える。この対応は細部まで成り立つ。整式にも「割り算(商と余り)」があり、「ユークリッドの互除法」で最大公約数が求まり、「素因数分解の一意性」に対応する定理まである。

数学の構造は対象を取り替えても保たれることがある。 整数論の道具はそのまま多項式の理論に移せる。大学で学ぶ代数学はこの「共通の構造」を抽象的に研究する分野だ。

を約分する作業は、 を約分する作業と、実質的に同じことをしている。 そう気づくと、計算の中にある構造が分かるようになる。

答

別解

答えが合っているか、数値を代入して確かめよう。 そして、分数式で必ず気をつけるべき「定義域」の話をする。

検算: を入れてみる。

元の式に を代入する。

答えの式に を代入する。

一致した。もう 点、 でも試す。元の式:

答えの式:

点で合えば、まず間違いない。 分数式の計算は、約分ミス・符号ミスが起きやすい。数値代入はすぐにできる確認の方法である。

さて、ここからが本題。「どんな でも成り立つ」わけではない。元の式には、使えない の値がある。

  • → で分母が
  • の分母から →
  • 割り算だから、割る数が ではいけない → 、つまり

まとめると 。

ところが、答えの式 を見ると、 を代入できてしまう( と、何事もなく値が出る)。 も同様だ。

元の式では計算できないのに、答えの式では計算できてしまう。この「ずれ」に注意したい。約分で や が消えた瞬間、その値での「計算できなさ」の記憶が失われるのだ。

厳密に書くなら

約分は値を変えない。しかし定義域を変えてしまうことがある。この感覚は数IIIの極限で役に立つ。

では で計算できない。しかし約分すれば となり、 で に近づく。「その点では定義されていないが、近づけば値が分かる」のだ。この微妙な事情が微分の出発点になる。

分数式の約分は単なる計算テクニックではなく、「どこで定義されているか」を意識する訓練でもある。

ポイント

  • 割り算は逆数をかける
  • かける前に分子・分母を因数分解 → 約分できる因数が見える
  • 展開せず、因数の形のまま約分する

よくある間違い

  • 逆数にせずそのままかけてしまう
  • 因数分解せず展開して、約分できる形を見失う
  • 分母が になる の値(定義域の除外)を意識しない

問7分数式の加法・減法

★ 基礎分数式

問題

次の式を計算せよ。

ヒントを見る

分母が違う分数は、そのままでは引けない。両方の分母を含む共通の分母にそろえてから、分子どうしを計算しよう。

解答・解説

方針

分母がちがう分数の引き算は、通分してから。分母の最小公倍数(ここでは )にそろえる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 分数の足し引きは通分から。分数式でも同じだ。

分母は と 。共通の分母は つを掛けたもの。

それぞれの分数を、共通の分母に書き直す。

分子を引く。ここでいちばん間違えやすい。

引くほうにはカッコがついている。 展開すると

。 としてしまうのが、この単元で最も多いミスである。引き算のカッコは必ず書いてから開く。

分母をそろえる。共通の分母は 。第1項は分子・分母に を、第2項は をかける。

分子どうしを引く。引くほうはカッコをつけて、符号に注意する。

(引き算のとき と、符号がすべて変わるところが最大の注意点だ。)

発展。 分数式をばらす方法が最もよく使われるのが、数列の和である。

このまま足そうとしても手が出ない。しかし部分分数に分解すると

書き並べてみる。

隣どうしが次々に打ち消し合う。 と 、 と 残るのは、最初と最後だけ。

個の項の和が 項の引き算に畳み込まれた。望遠鏡の筒が縮むように途中が全部消えるので、この和を望遠鏡和と呼ぶ。しかも、 とすれば

無限個の分数を足したのに、答えはぴったり 。

ばらす技 つで、無限和が解けてしまった。 「通分の逆をやる」という地味な作業で、無限和まで計算できた。計算の技術は先の問題を解くための道具である。

答

別解

この計算は後で学ぶ「部分分数分解」の逆向きになっている。その関係を知っておくと、両方が身につく。そのうえで、数値検算の習慣を固めよう。

まず検算。 を代入する。

元の式:

答えの式:

でも試す。

元の式:

答えの式:

点で合った。符号ミスをしていない証拠だ。

分数式の計算では、この検算がとりわけ役に立つ。 の符号を間違えると という(約分できてしまう)違う答えになるが、 を入れれば となり、正しい と合わない。すぐにミスが分かる。

さて、この計算を逆から見てみよう。いま作ったのは、こういう変形だった。

つの簡単な分数を、 つのややこしい分数にまとめた。

では、逆はできるか? つまり を見て、 に分解できるか。

これが部分分数分解である。次の問題で正面から学ぶ技だ。

とおいて 、 を求めれば、、 が出てくる。

通分は「まとめる」、部分分数分解は「ばらす」。 つは互いの逆操作だ。

なぜ「ばらす」必要があるのか。 分数式は、ばらしたほうが扱いやすい場面が多いからだ。

  • 数列の和: とばらすと、次々に打ち消し合って和が求まる(望遠鏡のように畳まれる)
  • 積分(数III): はそのままでは積分できないが、 にばらせば、 の形で積分できる

ばらすと、道具が使えるようになる。

通分の練習は部分分数分解の準備になる。「まとめる」と「ばらす」のどちらの向きにも自由に行き来できるようになることが、この単元の目標である。

ポイント

  • 分母のちがう分数は通分してそろえる
  • 引くほうの分子はカッコでくくり、符号をすべて変える
  • 最後に約分できないか確認

よくある間違い

  • を とする(正しくは )
  • 通分せずに分子・分母を別々に引く
  • 通分したあと、分子の同類項をまとめ忘れる(検算は に数値を代入する)

問8恒等式と係数比較

★ 基礎恒等式

問題

次の等式が についての恒等式となるように、定数 、、 の値を求めよ。

ヒントを見る

恒等式は『どんな でも成り立つ等式』。右辺を展開して について整理し、左辺と各次数の係数を見比べると、、、 の式が立つ。

解答・解説

方針

恒等式は『どんな でも成り立つ』式。右辺を展開して整理し、左辺と『同じ次数の係数どうしが等しい』とおけば、、、 の連立方程式になる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 恒等式とは「どんな でも成り立つ等式」のこと。方程式( つか つの特別な でしか成り立たない)とは別物だ。

どんな でも成り立つためには、両辺を整理したとき、 の係数どうし、 の係数どうし、定数項どうしが、それぞれ一致していなければならない。

これが係数比較法である。

右辺を展開する。

左辺と見比べる。

文字・ 式の連立方程式になった。 の展開で を落とさない。ここだけ注意すればよい。

右辺を展開して、 について整理する。

恒等式なので、左辺 と『同じ次数の係数』がそれぞれ等しい。

  • の係数:
  • の係数:
  • 定数項:

を2番目に入れて 、。3番目に入れて 、。

(恒等式は『係数を比べる』か『 に具体的な数を代入する』かで解ける。次の問題では代入で解いてみよう。)

発展。 「恒等式」と「方程式」の違いは、答案の書き方に影響する。

  • 方程式 : 特定の を求める問い。「 はいくつか」
  • 恒等式 : どんな でも成り立つように、係数を求める問い。「、、 はいくつか」

求める文字(未知数)が違う。 方程式では が未知数、恒等式では 、、 が未知数で、 は「どんな値でもよい自由な文字」だ。この違いが、「係数比較してよいか」を決める。

これは方程式なので、「 の係数 と を比べて 」などとしてはいけない。恒等式でないものに係数比較を使うと、破綻する。

「これは恒等式か、方程式か」を、問題文から読み取る。 「 についての恒等式となるように」「すべての について成り立つとき」と書いてあれば恒等式。「方程式を解け」なら方程式だ。

同じ等号 が つの意味を持つ。 数学の記号は文脈で意味が変わる。そこを読み違えると、計算が正しくても誤答になる。問題文の一語一語が使うべき道具を指定している。

答

、、

別解

展開せずに、 に都合のよい値を入れる。 恒等式は「どんな でも成り立つ」のだから、好きな値を代入してよいのだ。これを数値代入法という。

代入する値は、 になってくれる値を狙う。

を入れる。 の部分が全部 になる。

がすぐに出た。展開も連立も要らない。

を入れる。

を入れる。

式を足す。

係数比較と同じ答え。

どちらを使うべきか。

  • 右辺が のように「 にできる形」 → 数値代入法が速い
  • 右辺が展開しやすい形 → 係数比較法

注意点が つ。 数値代入法は「代入した値では成り立つ」ことしか示していない。厳密には、求めた 、、 で本当に恒等式になるかを確認する必要がある(未知数が 個で、 個の値を代入したので、逆も成り立つことは保証されるが、答案では「逆に、このとき恒等式になる」と一言添えると十分だ)。

ここから先が大事なところだ。この問題の背景には、微分がある。答えは 、、 だった。この つの数を、 から直接作れる。

は 、 は 、 は だった。

偶然ではない。 を のべき乗で書き直すとき、その係数は微分係数で決まる。

これがテイラー展開である(大学で学ぶ)。 や を多項式で近似する、解析学の中心的な道具だ。

「 のまわりで式を並べ直す」と見ると、恒等式の係数決定という素朴な問題が、関数を局所的に見る技術とつながっていたことが分かる。高校の計算問題はしばしば大きな理論の一部を切り出したものである。

ポイント

  • 恒等式 = どんな でも成り立つ → 同じ次数の係数が等しい
  • 右辺を展開・整理してから係数を比べる
  • 係数比較で連立方程式を作って解く

よくある間違い

  • の中央項 を落とす
  • 恒等式と『方程式( つの で成り立つ)』を混同する
  • 数値代入法で、代入する値を無造作に選ぶ( が になる を最初に使うとすぐに が出る)

問9部分分数分解(数値代入)

★ 基礎恒等式部分分数分解

問題

次の等式が についての恒等式となるように、定数 、 の値を求めよ。

ヒントを見る

まず両辺に分母をかけて、分数のない恒等式にする。そのあと、 か の片方だけが残るような の値を選んで代入すると、 つずつすぐに決まる。どんな値なら片方が消えるだろう。

解答・解説

方針

両辺に分母 をかけて分数をなくす。すると恒等式になり、 にうまい値( や )を代入すると、、 が1つずつ出る。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 分数のままでは扱いにくい。まず分母を払う(両辺に を掛ける)。

これで多項式の恒等式になった。ここからが本題だ。代入する値を、うまく選ぶ。

を入れると、 の項が消える( だから)。

を入れると、今度は の項が消える。

「相手を にする値」を代入して、 文字ずつ決める。 連立方程式を解く必要すらない。この代入のしかたが、部分分数分解の要点である。

両辺に をかけて分母を払う。

これは恒等式なので、どんな でも成り立つ。うまい値を代入する。 を入れると、 の項が消えて

を入れると、 の項が消えて

(『因数を にする値』を代入すると、片方の文字だけが残ってすぐに求まる。係数比較より速いことが多い。)

発展。 部分分数分解には、分母の形に応じた型がある。むやみに と置いてはいけない。

型1: 分母が異なる 次式の積。

型2: 同じ因数の 乗がある。

と の両方を置く。片方だけでは足りない。型3: 次の既約因数( など)がある。

次式が分母なら、分子は 次式()を置く。定数 だけでは足りない。

規則は つ。「分子の次数は、分母の次数より 低く置く」。 次式が分母なら分子は定数( 次)、 次式が分母なら分子は 次式。

そして大前提: 分子の次数 分母の次数でなければならない。 のように分子が重い場合は、まず割り算をして の形にしてから、分数部分をばらす。

「型」を知らないと、置き方を間違えて解けなくなる。 部分分数分解は数IIIの積分で必ず使う。分母を見て、型を即座に選べるようにしておくと、あとの学習で役に立つ。

答

、

別解

係数比較でも解ける。 そして、 つの方法を比べると「どちらを選ぶべきか」の判断力がつく。最後に、さらに速い方法も紹介する。

別ルート: 係数比較法。

右辺を展開して、 について整理する。

左辺と係数を比べる。

引き算する。

。代入法と同じ答え。

どちらが速いか。 この問題では代入法だ。連立を解く手間がない。

しかし係数比較法が向いている場面もある。 分母が のように、実数の範囲で にできない因数を含むときだ。 となる実数 は存在しないので、代入で消せない。そのときは係数比較で解く。

使い分けの目安。

  • 分母が の形(実数の解を持つ)→ 代入法
  • 次の既約因数がある、または分子の次数が高い → 係数比較法

さらに速い方法: カバーアップ法。 を求めたいとする。元の分数式で、 の分母 を指で隠す。

そして、隠した因数が になる値()を、残った式に代入する。

が暗算で出た。

も同じように。 を隠して、 を代入する。

分母を払う作業すら要らない。 これは「代入法を極限まで省略した形」で、原理はまったく同じだ(隠した因数を掛けてから その値、をやっている)。

部分分数分解は数IIIの積分で毎回のように登場する。 そこでは をそのまま積分できないが、 にばらせば

ばらせば積分できる。 数十回とやることになる計算だから、カバーアップ法を今のうちに手に馴染ませておくと、後で大きな差になる。

ポイント

  • 両辺に分母をかけて分数を払う
  • 『因数を にする値』を代入すると片方の文字だけ残る
  • 部分分数分解は後で数列や積分でも使う道具

よくある間違い

  • 分母を払わずに係数比較しようとして混乱する
  • 代入する値()の選び方に気づかない
  • 分母を払った後の式で、 と の掛かる因数を取り違える( には 、 には が掛かる)

問10条件つき等式の証明

★ 基礎等式の証明

問題

のとき、 が成り立つことを証明せよ。

ヒントを見る

『左辺 − 右辺 = 0』を示す形で見ると、考えるべき式は だ。これが を因数に持つ形に直せないか。直せた瞬間、条件とつながる。

解答・解説

方針

『左辺 右辺 』を示す。 には有名な因数分解があり、その因数に が現れる。条件を使うと、その因数が になる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 「 のとき」という条件をどこで使うかが、この証明の決め手だ。

素朴に を展開しようとしても、手がかりがない。そこで証明したい式を、差の形にする。

そして、この左辺には有名な因数分解がある。

第 因数が になる。

条件より だから、この因数が 。掛け算のどこかが なら、全体が 。

証明終わり。 公式を知っていれば 行だ。「条件を代入する」のではなく「条件を因数として取り出す」ように、考え方を切りかえる。

示したいのは『』。この式には有名な因数分解がある。

公式

ここで条件 を使うと、右辺の最初の因数が になる。

よって 、つまり

が成り立つ。

(条件つきの等式証明は、『左辺 右辺』を作って、条件を使いやすい形に変形するのが基本だ。)

発展。 因数分解

の第 因数は、実は平方の和に書き直せる。

(展開して確かめてみてほしい。)これは必ず 以上である。すると、、、 がすべて 以上のとき

これは 変数の相加平均・相乗平均の関係そのものだ(、、 と置けば )。

等号成立は、平方が全部 のとき、つまり のときである。 つの因数分解から、 通りの結果が出る。

  • のとき → 等式
  • のとき → 不等式

因数分解は等式と不等式の両方を生む。 「積の形」に持ち込むと、 になる条件が分かるだけでなく、符号も読める。これは次の不等式の証明でも使う。

答

で、 より (証明は解答参照)

別解

公式を知らなくても、そのまま計算して証明できる。 「 文字を消す」という、条件つき等式の基本の方法だ。むしろ、こちらを先に身につけたい。

条件を「 について解く」。

これを、証明したい式に代入する。 文字が 文字になり、条件が消える。

左辺 を計算する。

を展開する。

引く。

右辺 も計算する。 だから

両辺が同じ形になった。

証明終わり。 公式を つも使っていない。展開と代入だけである。

この方法の何がよいか。

つ目: 忘れようがない。 「条件から 文字を消して、代入する」だけだ。 の因数分解は忘れても、この手順は忘れない。

つ目: どんな条件つき等式にも通用する。 「 のとき 」のような問題でも、同じく を消せばよい。

弱点は、計算量が増えること。 文字が絡む複雑な式では、展開が長くなる。公式ルート( 行)とそのまま計算する方法( 行) のどちらを使うかは、時間と相談して決める。

そして、 つのルートは互いを照らす。 なぜ が で割り切れるのか。それは、 のときに になるからだ(因数定理と同じ理屈)。

そのまま計算して示した事実が、公式の存在理由を説明している。 遠回りに見えた方法から、公式がなぜ成り立つかが分かった。

なお、この等式から次の系が得られる。 のとき

たとえば 、、 なら

確かに一致する。 具体例で確かめる習慣も証明への信頼を支えてくれる。

ポイント

  • 等式の証明は『左辺 右辺 』を示す
  • の因数分解
  • 条件 が因数を にする

よくある間違い

  • 因数分解の公式を思い出せず、そのまま展開して行き詰まる
  • 条件をどこで使うか(第1因数が )に気づかない
  • を代入するとき、 の符号を落とす(3乗なのでマイナスが残る)

問11不等式の証明(差をとる)

★ 基礎不等式の証明

問題

、 を実数とする。 が成り立つことを証明せよ。また、等号が成り立つのはどんなときか。

ヒントを見る

『左辺 右辺』 を計算する。これは何かの 乗にまとまらないか? 乗は必ず 以上。等号は、その 乗が になるとき。

解答・解説

方針

不等式の証明は『(大きいはずの辺)(小さいはずの辺)』を示すのが基本。差を計算して、 乗の形(必ず 以上)にまとめる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 不等式 を証明するときは、差を作って「 以上」を示す。

この形にすれば、あとは「符号を読む」だけの問題になる。

この式は何かに似ていないだろうか。 の展開そのものだ。

そして、実数の 乗は必ず 以上()。

証明終わり。

等号はいつか。 となるのは 、つまり のとき。等号成立条件は必ず書く。書かないと減点される。

差をとる。

乗は必ず 以上だから、。つまり

が成り立つ。等号が成り立つのは 、つまり 、すなわち

(不等式の証明は『差をとって、 乗など 以上とわかる形にまとめる』が基本だ。等号成立は、その 以上の部分が になる条件だ。)

発展。 不等式の証明で「両辺を 乗する」という操作をよく使うが、これは無条件には許されない。

、 を入れてみる。 は正しいが、 乗すると となり、偽になる。

乗が使えるのは、両辺が 以上のときだけ。

この条件を書かずに 乗すると、答案は減点される。同じく危ないのが「両辺に掛ける」操作だ。

  • なら (向きはそのまま)
  • なら (向きが反転する)

負の数を掛けると不等号がひっくり返る。中学以来の約束だが、文字を掛けるときに忘れやすい。 の符号が分からないまま両辺に を掛けてはいけない。

「差をとって と比べる」という方法が推奨されるのは、こうした間違いを避けられるからだ。 差の符号を調べるだけなら、掛け算も 乗も要らない。証明では、安全な道を選ぶことが大切だ。

答

。等号は のとき(証明は解答参照)

別解

この不等式を面積の絵で見る。 数式が苦手でも、絵なら「なぜ成り立つのか」が一目で分かる。、 として、正方形と長方形を描く。

  • 左辺 : 辺 の正方形と、 辺 の正方形。この つの正方形の面積の和
  • 右辺 : 縦 ・横 の長方形が つぶんの面積

問い: つの正方形の面積の和は つの長方形の面積の和より、必ず大きいか?

答えはイエス。しかも、その理由が図で見える。

辺 の大きな正方形を、縦横に切って つに分けると

大きな正方形の中身は、 の正方形、 の正方形、そして の長方形が つだ。ここで、 通りの見方をする。

は 辺 の正方形、 は の長方形 つ分。

辺 の正方形の中に、 の長方形を つ敷き詰められるか? 答えは、できない(隙間ができるか、 のときだけぴったり)。だから

この隙間の面積が である。

「はみ出しの正方形」が、不等式の差そのものだった。 のとき隙間が消え( 辺 の正方形)、等号が成立する。等号成立条件まで図から分かる。

さらに高い視点から。この不等式は相加相乗平均の関係の変装である。、 のとき、、 と置きかえてみよう。すると は

相加平均 相乗平均は次の問題で中心に使う関係だ。そして、この不等式は「証明の型」の見本でもある。

平方に持ち込めるかどうかで、解けるかどうかが決まる。 平方完成、、 のように、不等式の証明の 割はこの「平方の和」で片づくと言ってよい。

も、差をとって

同じ型だ。 乗の非負性という、 つの道具だけで、多くの不等式が証明できる。

ポイント

  • 不等式の証明は『差 』を示す
  • 乗の形にまとめれば 以上が言える
  • 等号成立は『 乗 』の条件から求める

よくある間違い

  • 差をとらず、両辺を勝手に操作して同値でない変形をする
  • 等号成立条件を書き忘れる
  • 、 が実数であることを使い忘れる(実数だから2乗が 以上と言える)

問12相加平均・相乗平均と最小値

★ 基礎相加平均・相乗平均

問題

のとき、 の最小値を求めよ。また、そのときの の値を求めよ。

ヒントを見る

『正の数の和の最小値』で、しかも つの項をかけると文字が消える。この組み合わせのときに使える、和と積を結ぶ不等式を思い出そう。最小値の候補が出たら、等号が本当に成り立つ があるかの確認まで。

解答・解説

方針

『正の2数の和』の最小値は相加平均・相乗平均の関係 を使う。 と をかけると が消えて定数になる。だから下限がわかる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) では、一方の項が大きくなると、もう一方の項は小さくなる。

を大きくすれば第 項が増え、 を小さくすれば第 項が増える。どこかに、ちょうどよい最小値があるはずだ。

つの正の数の和で、積が定数()という形を見たら、相加平均・相乗平均の関係を使う。

積が定数だから、 の中身が に依存せず定数になる。ここが相加相乗の使いどころだ。使う前に必ず つ確認する。

  • 両方とも正か? ( が条件にある)
  • 等号は成立するか? ( となる が範囲内にあるか)

なので 。

公式相加平均・相乗平均の関係 (、。等号は のとき)

正の2数 と に、この関係を使う。

( と をかけると が消えて になるので、右辺が定数 になる。これが下限だ。)等号が成り立つのは 、つまり 、 より のとき。実際 なら 。

よって

(相加相乗を使うときは『等号が本当に成り立つ があるか』を必ず確認する。等号が成り立たないと、その値は最小値とは言えない。)

xyO最小4
y=a+4/a(a>0)。相加相乗平均で最小値4(a=2)

発展。 相加相乗の関係は、 個以上でも成り立つ。

一般に 個で

等号は、すべてが等しいとき。この不等式から、大事な事実が分かる。

「均等が最適」 という原理は、自然界のあちこちに現れる。

  • 周の長さが決まった長方形で、面積が最大なのは正方形(縦 横)
  • 表面積が決まった立体で、体積が最大なのは球(すべての方向に均等)
  • 同じ体積を、最小の表面積で包むのも球(シャボン玉が丸くなる理由)

の最小値が ( 項が等しくなる点)で実現したのも、この原理の現れである。

「偏りは損をする」。 身のまわりの形にも数学の不等式が関わっていて、相加相乗はその最も基本的なものだ。

答

のとき最小値

別解

相加相乗を使わずに、平方完成だけで最小値を出す。 じつは、これが相加相乗の証明そのものになっている。発想: を中心に考える。

なので が使える。

この つの 乗の和に、 を逆に使う。

つまり

平方完成の形になった。

乗は必ず 以上だから

最小値は 。等号は、 乗が のとき。

のとき最小値 。相加相乗と同じ答えだ。

この式変形が相加相乗の関係そのものの証明になっている。 一般に、 として

は、 を言いかえたものだった。 前問の「 乗は 以上」が、ここでも使われている。別ルート: 微分で確かめる(数IIの範囲)。

増減を調べると、 の前後で の符号が負から正に変わるので、 で最小。

つのルートが同じ答えに着いた。

なぜ等号成立の確認が必要なのか。 ここを軽く見ると、痛い目に遭う。

たとえば という条件だったらどうか。相加相乗からは が言えるが、等号成立の は範囲外だ。実際、 では は増加していくので、最小値は のときの となり、 にはならない。

「 が成り立つ」ことと「最小値が である」ことは、まったく別の主張である。 最小値と言うには、その値を実際にとる が存在することを示さねばならない。

不等式を出したら、必ず「等号はいつか」「その値は範囲内か」を問う。 相加相乗の答案が減点される理由の、ほぼすべてがここにある。

ポイント

  • 正の2数の和の最小値は相加平均・相乗平均
  • 積が定数になる組( と )を作れば解ける
  • 等号成立する値が存在するか、必ず確認する

よくある間違い

  • の条件を確認せずに相加相乗を使う
  • 等号成立の確認をせず『最小値』と結論する
  • 「 が言えた」ことをそのまま「最小値 」としてしまう(等号をとる が範囲内にあって初めて最小値と言える)