物理 / 気体の熱力学
湖の底から浮かぶ泡がする仕事
問題
水温がどこでも一定の湖で、深さ の湖底から体積 の空気の泡が発生し、ゆっくり水面まで浮かび上がる。泡の中の空気の温度は常に水温と等しく、泡の圧力はその深さの水圧に等しいとする。大気圧 は、水深 の水圧と等しい とする。
等温変化で気体がする仕事は、物質量 、温度 のとき で表される。、 とする。
(1) 水面での泡の体積を求めよ。
(2) 湖底から水面までに、泡の空気がまわりの水にする仕事を求めよ。
(3) この間に泡の空気が吸収する熱を求めよ。また、その熱は何から供給されるか。
(4) 湖底から深さ までに泡がする仕事は、(2)の何 % か。この結果から、泡が主にどの深さで膨張するかを述べよ。
(5) 実際には湖底の水温が 、水面近くが だったとする。湖底で体積 の泡は、水面で何 になるか。
ヒントを見る
深さ の水圧は、大気圧の何倍か。温度が一定なら内部エネルギーは変化しないので、した仕事の分の熱はどうなるか。深さ から までと、 から水面までで、体積の比はそれぞれいくらか。
解答・解説
方針
深さ の水圧は大気圧の 倍なので、温度一定なら体積は 倍になる。仕事は等温変化の式で求め、 から吸収した熱は仕事と等しい。途中の深さまでの仕事は体積の比の対数で定まるので、深い側と浅い側の割合を比較する。最後の設問は、圧力と温度の両方が変化するのでボイル・シャルルの法則を用いる。
解答
⓪ 発想(どう考え始めるか) 泡は浮かぶにつれて水圧が下がり、膨張する。温度は水温と同じで一定なので、等温変化である。体積はボイルの法則で、仕事は等温変化の式で求められる。
等温変化では内部エネルギーが変化しないので、泡がまわりの水を押しのける仕事の分だけ、熱を吸収する必要がある。また、仕事の式は体積の「比」の対数なので、深い側と浅い側で体積の比を比較すれば、どこで多く仕事をするかが判明する。
① 水面での体積。 深さ の水圧は である。温度一定なので、ボイルの法則より次のとおりになる。
② 泡がする仕事。 等温変化では で、水面の値を用いると次のようになる。
体積は 倍になるので、仕事は次のとおりである。
③ 吸収する熱。 温度が一定なので、理想気体の内部エネルギーは変化しない()。熱力学第1法則 より、 である。
この熱は、泡のまわりの水から流れこむ。泡が膨張すると温度が下がろうとするが、まわりの水から熱が流れこむので、温度は水温に保たれる。
④ 深い側の仕事の割合。 深さ での水圧は なので、体積は である。湖底から深さ までは体積が 倍、そこから水面までは 倍になる。仕事は体積の比の対数に比例するので、割合は次のようになる。
約 である。深さは半分ずつでも、体積の増加は深い側で 、浅い側で で、泡は主に浅いところで膨張する。
⑤ 温度が異なる場合。 圧力と温度の両方が変化するので、ボイル・シャルルの法則 一定 を用いる。
まとめ 浮かぶ泡は等温膨張をし、まわりの水から得た熱をそのまま仕事に変換している。水圧は深さに比例して変化するが、体積は圧力に反比例するので、膨張と仕事の大部分は水面に近いところで発生する。
発展。 同じ理由で、水中から浮上するダイバーは、浅いところほど肺の中の空気の膨張が大きくなる。スキューバダイビングで「浮上中は息を止めない」とされるのは、浅い側での急な膨張から肺を保護するためである。
(1) (2) (3) 。まわりの水から熱が流れこむ (4) 約 。それ以外の約 は深さ から水面までの間にするので、泡は主に浅いところで膨張する (5)
別解
別解:P-V グラフの面積を台形で概算する。 圧力を 、体積を を単位にすると、泡の状態は 、、 を通る反比例の曲線上を移動する。仕事はこの曲線の下の面積である。
曲線を2本の線分で近似すると、深い側の台形の面積は 、浅い側は である。深い側の割合は で、対数で求めた約 に近い値になる。
浅い側の台形は、高さ(圧力)は低いが横幅(体積の増加)がはるかに大きい。この横幅の差が、浅い側で多く仕事をする理由である。
ポイント
- 深さ ごとに水圧は大気圧の分だけ増加する。深さ は
- 等温膨張では なので、した仕事と同じ量の熱を吸収する
- 同じ深さの差でも、浅いところほど体積の増加が大きく、仕事も大きい
よくある間違い
- 深さ の水圧を だけとして、体積が 倍になるとする。大気圧を加算すると で、 倍になる
- 仕事を とし、圧力を一定として計算する。圧力は浮かぶにつれて減少するので、等温変化の式を用いる
- 深さが半分ずつなので、仕事も半分ずつになると考える。体積の比は深い側が 倍、浅い側が 倍で、深い側の仕事は約 である