物理 / 原子
光子を吸収させて原子を減速する
問題
速さ で進むナトリウム原子(質量 )の正面から、波長 のレーザー光を当てる。原子は光子を1個吸収するたびに、光子の運動量を得る。原子は吸収した光子のエネルギーを、まもなく光子として、あらゆる向きに等しい確率で放出する。プランク定数を 、光の速さを 、電気素量を とする。
(1) 光子1個の運動量とエネルギーを求めよ。エネルギーは eV の単位でも求めよ。
(2) 光子を1個吸収したときの、原子の速さの変化を求めよ。
(3) 原子が放出する光子も運動量をもつが、多数回の吸収と放出をくり返すと、放出による速さの変化の平均は になる。その理由を述べよ。
(4) 原子が静止するまでに吸収する光子の数を求めよ。
(5) 原子が毎秒 個の光子を吸収するとき、原子の減速の加速度の大きさ、静止するまでの時間と、その間に進む距離を求めよ。
ヒントを見る
光子の運動量はいくらか。正面から光子を吸収すると、原子の運動量はどれだけ変化するか。放出の向きがばらばらなとき、放出による運動量の変化の平均はいくらか。
解答・解説
方針
光子の運動量は で、正面から吸収するたびに原子の運動量がその分だけ減少する。放出はあらゆる向きに生じるので平均すると運動量を変化させず、吸収だけが原子を一方向に減速させる。1回あたりの速さの変化はわずかでも、毎秒多数回の吸収で大きな減速の加速度になる。
解答
⓪ 発想(どう考え始めるか) 光子は運動量 をもち、原子が正面から光子を吸収すると、運動量の保存によって原子は減速する。1個の光子の運動量はきわめて小さいが、吸収と放出をくり返すことで減速が積み重なる。
吸収は常に光が来る向きから生じるのに対し、放出の向きはばらばらである。そのため、平均すると吸収の効果だけが残存し、原子を一方向に減速させる。
① 光子の運動量とエネルギー。
② 1回の吸収による速さの変化。
③ 放出の効果が平均して になる理由。 放出される光子の向きはあらゆる向きに等しい確率なので、多数回の放出による運動量の変化は互いに打ち消し合い、平均は になる。吸収は常に原子の正面から来る光によるので、その効果だけが積み重なる。
④ 静止するまでに吸収する光子の数。
⑤ 減速の加速度、時間、距離。 毎秒 回、速さが ずつ減少するので、加速度の大きさは次のとおりである。
まとめ 光子1個の運動量による速さの変化は数 cm/s とわずかだが、毎秒 回の吸収で重力加速度の数万倍の減速になる。原子は 足らずの距離で静止する。
発展。 実際には、原子が減速するとドップラー効果で吸収する光の振動数がずれるので、レーザーの振動数や磁場を調整して吸収を維持させる。このようにして原子を減速し、絶対零度に近い温度まで冷却する技術はレーザー冷却とよばれ、原子時計などに用いられている。
(1) 約 、約 () (2) 約 (3) 放出の向きはあらゆる向きに等しい確率で、多数回の運動量の変化が打ち消し合うから (4) 約 個 (5) 約 、約 、約
別解
別解:力として考える。 毎秒 個の光子を吸収すると、原子は1秒間に の運動量を得る。単位時間あたりの運動量の変化は力に等しいので、原子にはたらく平均の力は である。
⑤と一致する。光の力はきわめて小さいが、原子の質量も非常に小さいので、大きな加速度になる。
ポイント
- 光子の運動量は 。吸収すると原子の運動量がその分だけ変化する
- 放出の向きはばらばらで平均すると 。吸収の効果だけが積み重なる
- 1回の変化はわずかでも、毎秒多数回の吸収で大きな減速になる
よくある間違い
- 吸収と放出で運動量の変化が打ち消し合い、原子は減速しないと考える。吸収は常に正面から、放出はあらゆる向きなので、平均すると吸収の効果だけが残存する
- 光子の運動量を とする。これはエネルギーで、運動量は である
- 光子のエネルギーがすべて原子の運動エネルギーの減少になると考える。エネルギーの大部分は原子の内部のエネルギーとなり、放出される光子が運び去る