物理 / 原子
電子と陽電子の対消滅で生じる光子
問題
陽電子は電子と同じ質量 で、電荷が の粒子である。静止している電子と陽電子が出会うと、2つの粒子は消滅し、光子が生じる(対消滅)。光の速さを 、プランク定数を 、 とする。
(1) 電子1個の質量に相当するエネルギー を、J と MeV の単位で求めよ。
(2) 対消滅で光子が1個だけ生じることはない。その理由を運動量の保存から説明せよ。
(3) 光子が2個生じるとき、2個の光子の進む向きの関係と、それぞれのエネルギーを求めよ。
(4) (3)の光子の波長を求めよ。
(5) 逆に、光子から電子と陽電子の対をつくる(対生成)には、光子のエネルギーは少なくともいくら必要か。また、対生成が原子核の近くでしか生じない理由を述べよ。
ヒントを見る
光子は運動量 をもつ。はじめの運動量が のとき、生じる光子の運動量の和はいくらでなければならないか。
解答・解説
方針
静止した電子と陽電子の質量はすべてエネルギーに変換され、その合計は である。はじめの運動量は なので、生じる光子の運動量の和も でなければならず、2個の光子が同じエネルギーで反対の向きに進む。逆の過程では、光子の運動量を得る相手が必要になる。
解答
⓪ 発想(どう考え始めるか) 対消滅では、電子と陽電子の質量がすべて光子のエネルギーになる。エネルギーの保存だけでなく、運動量の保存も満たす必要がある。
光子はエネルギー と同時に運動量 をもつ。はじめの運動量が なので、生じる光子の運動量が打ち消し合うような組み合わせだけが可能である。
① の値。
② 光子が1個だけ生じない理由。 静止した電子と陽電子の運動量の和は である。光子1個はエネルギーが でない限り運動量 をもつので、運動量の和を にできない。光子が1個だけ生じると、運動量が保存されない。
③ 光子が2個のとき。 運動量の和が になるには、2個の光子は大きさの等しい運動量で反対の向きに進む必要がある。運動量が等しいのでエネルギーも等しく、合計 を等しく分配する。
④ 光子の波長。
⑤ 対生成に必要なエネルギー。 電子と陽電子の質量に相当するエネルギー が少なくとも必要である。光子1個が電子と陽電子の対だけになると、光子の運動量 と、生じた2粒子の運動量とエネルギーを同時に保存することができない。原子核の近くでは、重い原子核が運動量の一部を得るので、エネルギーをほとんど失わずに運動量を保存でき、対生成が可能になる。
まとめ 対消滅では、質量のエネルギー が光子のエネルギーになり、運動量の保存から光子は2個で反対の向きに進む。光子1個からの対生成は、運動量を得る原子核がある場合にだけ可能である。
発展。 医療で用いられる PET(陽電子放射断層撮影)では、体内の薬剤から放出された陽電子が電子と対消滅して生じる、反対向きの2個の の光子を同時に検出する。2つの検出器を結ぶ直線上で対消滅が生じたことが判明するので、薬剤の分布を画像にできる。
(1) 約 、約 (2) はじめの運動量は だが、光子1個は必ず の運動量をもつので、運動量が保存されない (3) 互いに反対の向きに進み、それぞれ約 () (4) 約 (5) 約 。光子1個では運動量とエネルギーを同時に保存できず、原子核が運動量の一部を得る必要があるから
別解
別解:光子1個の対生成が不可能なことを、重心の立場で説明する。 光子1個から粒子の対ができたとすると、生じた電子と陽電子の重心が静止している立場がある(粒子は光より遅いため)。その立場では、粒子の対の運動量の和は である。
一方、光子はどの立場で観測しても光の速さで進み、運動量は にならない。反応の前後で運動量が等しくなりえないので、光子1個だけからの対生成は不可能である。原子核があれば、その運動量を含めて保存されるので、対生成が可能になる。
ポイント
- 電子1個の質量のエネルギーは
- 運動量の保存から、静止した対の消滅では光子が2個、反対の向きに等しいエネルギーで生じる
- 対生成には 以上のエネルギーと、運動量を得る原子核が必要
よくある間違い
- 対消滅で光子が1個生じ、エネルギー をもつと考える。運動量が保存されないので、光子は2個以上必要である
- 2個の光子のエネルギーを ずつとする。合計が なので、それぞれ である
- 光子のエネルギーが 以上なら、真空中でも対生成が生じると考える。運動量を保存するために、原子核などの相手が必要である