物理 / 原子

ヘリウムイオンのスペクトルに水素と同じ波長の光が現れる

★★★★ 難関エネルギー準位水素型イオンスペクトル

問題

電子を1個だけもつ原子やイオンでは、原子番号を とすると、エネルギー準位は ()と表される。水素原子は 、ヘリウムイオン は である。プランク定数を 、光の速さを 、電気素量を とする。

(1) 基底状態の から電子を取り去るのに必要なエネルギーを求めよ。

(2) の電子が から に遷移するときに放出される光子のエネルギーを求め、水素原子の から への遷移の光子のエネルギーと比較せよ。

(3) (2)の光の波長を求めよ。

(4) 一般に、 の から への遷移()の光は、水素原子の から への遷移の光と同じ波長になることを説明せよ。

(5) の から への遷移の光の波長を求めよ。この光は水素原子のスペクトルには現れない。

ヒントを見る

の の準位のエネルギーを計算すると、水素のどの準位と同じ値になるか。

解答・解説

方針

のエネルギー準位は水素の 倍である。量子数が偶数 の準位は で、水素の の準位と同じ値になる。そのため、偶数の準位どうしの遷移は水素と同じ波長の光を放出し、奇数の準位を含む遷移だけが水素にない波長の光を放出する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) のエネルギー準位は、水素の準位を 倍したものである。4倍は なので、量子数を2倍にすると、ちょうど打ち消される。

すなわち、 の の準位は水素の の準位と同じエネルギーになる。偶数の準位どうしの遷移は水素と同じ光を放出することになる。

① イオン化エネルギー。 基底状態は なので、電子を取り去るのに必要なエネルギーは である。

② から への遷移。

水素原子の から への遷移は で、等しい。

③ 波長。

He⁺Hn=1 −54.4n=2 −13.6n=3 −6.04n=4 −3.40n=1 −13.6n=2 −3.4010.2 eV
He⁺ と水素のエネルギー準位 [eV](He⁺ の n=1 は間隔を縮小して描いている)。He⁺ の n=2、4 は水素の n=1、2 と同じ値で、その間の遷移はどちらも 10.2 eV の光を放出する。He⁺ の n=3(青)は水素に対応する準位がない

④ 一般の場合。 の から への遷移の光子のエネルギーは次のとおりである。

これは水素原子の から への遷移のエネルギーと等しいので、波長も等しい。

重要水素型のイオンのエネルギー準位は に比例する。 の偶数の準位は水素の準位と一致し、その間の遷移は水素と同じ波長の光を放出する

⑤ から への遷移。

水素原子の準位の差でこのエネルギーになる組み合わせはないので、この光は水素には現れない。

まとめ のエネルギー準位は水素の4倍で、量子数が偶数の準位は水素の準位と一致する。偶数どうしの遷移は水素と同じ波長の光を放出し、奇数の準位を含む遷移は に特有の光を放出する。

発展。 高温の星のスペクトルに、水素の系列に似ているが余分な線を含む系列(ピッカリング系列)が観測され、はじめは水素によるものと考えられた。ボーアはこれを の光と説明し、その後の実験で確認された。 の光は、高温の天体や放電でヘリウムイオンを識別する目印として用いられている。

答

(1) (2) で、水素原子の と等しい (3) 約 () (4) の光子のエネルギーは で、水素の と等しい (5) 約 ()

別解

別解:リュードベリの式の形で比較する。 水素型のイオンの光の波長は ( はリュードベリ定数)と表される。 を代入して 、 とすると、次のようになる。

これは水素()の の式と同じ形で、④と一致する。

ポイント

  • 水素型のイオンのエネルギー準位は で、 に比例する
  • の の準位は水素の と同じエネルギー
  • 偶数どうしの遷移は水素と同じ波長、奇数を含む遷移は に特有の波長

よくある間違い

  • のエネルギー準位を水素の2倍とする。エネルギーは に比例するので、4倍である
  • のイオン化エネルギーを、ヘリウム原子から電子を2個とも取り去るエネルギーと混同する。 には電子が1個しかなく、 である
  • の光はすべて水素と異なる波長になると考える。偶数の準位どうしの遷移は水素と同じ波長になる