物理 / 原子
原子核の運動も考慮すると、重水素の光の波長はわずかにずれる
問題
水素原子では、電子と原子核は共通の重心のまわりを回る。このことを考えると、エネルギー準位は、原子核が静止しているとした場合の式で、電子の質量 を ( は原子核の質量)に置換したものになることが知られている。原子核が静止しているとしたとき、水素の光のうち、 から への遷移で放出される光(Hα 線)の波長は である。陽子の質量は電子の 倍、重水素の原子核の質量は電子の 倍とする。
(1) エネルギー準位の大きさは に比例する。原子核の運動を考慮したときの光の波長は、原子核が静止しているとしたときの波長 の何倍になるか。 を用いて表せ。
(2) 水素原子の Hα 線の波長を、小数第3位まで求めよ。
(3) 重水素の原子の Hα 線の波長を求め、水素との差を求めよ。重水素の光は水素の光より長い波長に現れるか、短い波長に現れるか。
(4) 1931年、水素の Hα 線のすぐ近くに弱い光が観測され、重水素が発見された。この光が弱かった理由を、重水素の存在の割合から述べよ。
(5) 電子の代わりに、電子の 倍の質量で電荷 のミューオンが陽子のまわりを回る「ミューオン水素」では、基底状態のエネルギーは水素原子(原子核が静止しているとして )の何倍か。
ヒントを見る
エネルギー準位が に比例するとき、光のエネルギーと波長はそれぞれ何倍になるか。原子核の質量が大きいほど、 は何に近づくか。
解答・解説
方針
エネルギー準位は に比例するので、遷移で放出される光のエネルギーも 倍になり、波長は 倍になる。原子核が重いほど が小さく、波長は に近い。水素と重水素では がわずかに異なるので、Hα 線の波長も約 ずれる。
解答
⓪ 発想(どう考え始めるか) 原子核は電子より約 倍重いが、無限に重いわけではない。電子と原子核は共通の重心のまわりを回り、その効果は電子の質量を に置換することで考慮できる。
は原子核の質量によってわずかに異なるので、同じ遷移でも、水素と重水素では放出される光の波長がわずかにずれる。このずれを計算すればよい。
① 波長の倍率。 なので、エネルギー準位と光のエネルギーは原子核が静止している場合の 倍になる。波長はエネルギーに反比例するので、次のようになる。
② 水素の Hα 線。
③ 重水素の Hα 線と差。
差は で、重水素の原子核のほうが重く が小さいので、重水素の光は短い波長に現れる。
④ 光が弱かった理由。 自然の水素の中で重水素の割合はごくわずか(約 )なので、重水素の原子が放出する光は水素の光よりはるかに弱い。強い水素の光のすぐ近くに現れる弱い光として観測された。
⑤ ミューオン水素。 ミューオンの質量を 、陽子の質量を とすると、換算質量は次のとおりである。
基底状態のエネルギーは に比例するので、水素原子の約 倍で、 である。
まとめ 原子核の運動も考慮すると、エネルギー準位は換算質量 に比例し、光の波長は 倍になる。水素と重水素では が異なるので、同じ遷移の光の波長が約 ずれる。
発展。 ユーリーらはこの波長のずれを予想し、水素を蒸発させて重水素の割合を高めた試料のスペクトルを測定して、重水素を発見した。わずかな波長のずれから原子核の質量の違いが判明する例である。
(1) 倍 (2) (3) 、差は約 。短い波長に現れる (4) 重水素は自然の水素のごく一部(約 )しか存在しないから (5) 約 倍(約 )
別解
別解:差を近似式で求める。 なので、水素と重水素の波長の差は次のようになる。
重水素の原子核の質量は陽子のほぼ2倍なので、 で、差は とも見積もれる。
ポイント
- 原子核も運動すると、電子の質量を換算質量 に置換する
- 波長は 。原子核が重いほど に近い
- 水素と重水素の Hα 線は約 ずれ、重水素は短い波長に現れる
よくある間違い
- 原子核が重いので、原子核の運動の効果は無視できると考える。比は約 でも、分光器では十分に区別できる波長のずれになる
- 重水素の光が長い波長に現れると考える。原子核が重いほど が大きくエネルギーが大きいので、波長は短い
- ミューオン水素の換算質量を、ミューオンの質量 そのものとする。陽子の質量と同じ程度の大きさなので、 を用いる