物理 / 電場と電位
電位の異なる領域に進んだ電子線が曲がる
問題
静止していた電子を電圧 で加速し、電位が一様な領域 I に入射させる。領域 I と隣り合う領域 II の電位は、領域 I より 高い。2つの領域の境界は平面で、電位は境界の近くのごく薄い層の中だけで変化する。電子線は境界の法線と角 をなして境界に到達する。電子の質量を 、電気素量を とする。
(1) 領域 I での電子の速さを求めよ。
(2) 領域 II での電子の速さは領域 I の何倍か。
(3) 境界の層で電子が受ける力はどの向きか。このことから、境界を通過する前後で変化しない速度の成分を述べよ。
(4) のとき、領域 II で電子線が法線となす角 を求めよ。
(5) 逆に、領域 II から領域 I へ電子線を入射させる。法線となす角がある値をこえると、電子線は領域 I に進入できず、境界で反射される。その角の正弦を求めよ。
ヒントを見る
領域 II の電子の運動エネルギーは静止の位置から何 V の電位差で加速された値か。境界の薄い層の電場はどの向きを向くか。そのとき、速度のどの成分が変化しないか。
解答・解説
方針
電子の運動エネルギーは静止の位置を基準とした電位差に電気素量をかけた値なので、速さは電位差の平方根に比例する。境界の層の電場は法線の向きなので、境界に平行な速度の成分は変化しない。 が、光の屈折の法則と同じ役割をする。
解答
⓪ 発想(どう考え始めるか) 境界の層では電位が法線の向きにだけ変化するので、電場も法線の向きを向く。電子が受ける力は法線の向きだけで、境界に平行な速度の成分は変化しない。
一方、速さは運動エネルギーで定まり、領域 II では の電位差で加速されたのと同じになる。平行な成分が一定のまま速さが変化するので、電子線の向きが変化する。
① 領域 I での速さ。
② 領域 II での速さ。 電子は負の電荷なので、電位の高い領域 II へ進むと運動エネルギーが だけ増加し、全体で の電位差で加速されたのと同じになる。速さは電位差の平方根に比例する。
③ 境界の層での力。 電位は法線の向きにだけ変化するので、電場は法線の向き(領域 II から領域 I の向き)を向く。負の電荷の電子は電場と反対の領域 II の向きに力を受ける。力に境界に平行な成分がないので、速度の境界に平行な成分は変化しない。
④ 屈折の角。 境界に平行な成分は、領域 I で 、領域 II で である。
電子線は、法線に近づく向きに曲がる。
⑤ 領域 I へ進入できない条件。 領域 II から領域 I へ進むときも で、 である。 は をこえられないので、 のとき、電子は領域 I に進入できない。
このときは法線の向きの速度の成分が小さく、電子は境界の層で法線の向きの運動エネルギーをすべて失って反射される。光の全反射と同じ形の条件である。
まとめ 境界に平行な成分の保存とエネルギーの保存から、電子線の屈折の法則 が得られる。電子は速い領域に進むと、法線に近づく向きに曲がる。
発展。 光は速さの小さい物質に進むと法線に近づくので、電子線とは逆の関係である。光では屈折率が速さに反比例するが、電子線では速さそのものが屈折率の役割をする。電子顕微鏡では、電場や磁場で電子線を曲げてレンズの働きをさせている。
(1) 約 (2) 倍 (3) 境界の法線の向きで、領域 II の向き。境界に平行な成分は変化しない (4) (5) (約 )
別解
別解:法線の向きの成分をエネルギーから求める。 領域 I での法線の向きの成分は である。境界に平行な成分 は変化しないので、領域 II の速さ から、法線の向きの成分は次のようになる。
から で、④と一致する。境界の層で増加した運動エネルギーは、すべて法線の向きの運動に加わっている。
ポイント
- 境界の層の電場は法線の向きで、境界に平行な速度の成分は変化しない
- 速さは加速の電位差の平方根に比例する。
- 速い領域から遅い領域へは、角が大きいと進入できずに反射される
よくある間違い
- 電位の高い領域では電子が減速すると考える。電子は負の電荷なので、電位の高い領域へ進むと加速する
- 速さの比を電位差の比 とする。運動エネルギーが電位差に比例するので、速さは平方根の比 である
- 光と同じように、速い領域に進むと法線から遠ざかると考える。境界に平行な成分が一定なので、速さが大きいほど法線に近づく