数学B / 統計的な推測

統計的な推測 ★ 基礎の問題 全12問

教科書レベル。定義・公式の確認と基本操作

難易度: ★ 基礎·★★ 標準·★★★ 応用·★★★★ 難関·実戦編·最難関編

  1. 確率変数の期待値
  2. 分散と標準偏差
  3. 1次式の期待値
  4. 1次式の分散
  5. 二項分布の期待値
  6. 二項分布の分散
  7. 二項分布の確率
  8. 正規分布の標準化
  9. 標準正規分布の確率
  10. 正規分布の確率(標準化して表)
  11. 標本平均の期待値と標準偏差
  12. 期待値の加法性

問1確率変数の期待値

★ 基礎期待値

問題

確率変数 が次の分布に従う。 の期待値 を求めよ。

ヒントを見る

期待値は『値 × その確率』を全部足したもの。表の各列で積を作って合計しよう。

解答・解説

方針

期待値は「値 × その確率」をすべて足したもの。。各 の値に対応する確率をかけて合計する。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 期待値とは、平均すると、だいたいどのあたりに落ち着くかを表す つの数だ。

単純な平均ではなく、出やすい値は重く、出にくい値は軽く数える。だから「値 確率」を足し上げる。

イメージはシーソーの釣り合う点だ。 数直線の の位置に、それぞれ確率の重さ()のおもりを乗せる。ちょうど釣り合う支点が期待値である。

この分布は左右対称()。だから支点は真ん中に来そうだ、と見当がつく。

計算する前に「だいたいここ」と予想しておく。 検算になる。

公式期待値 (値 × 確率 の合計)

各値に確率をかけて足す。

0123平均
X の確率分布。期待値 E(X)=Σ(値×確率)=3/2(平均の位置)

まとめ:期待値は「平均的にどのくらいの値になるか」。各値にその起こりやすさ(確率)で重みをつけて足す。分母をそろえて分子を足すと計算しやすい。

発展。 期待値 は、 が決してとらない値である。表の枚数が 枚になることはない。

それでも、この には意味がある。

期待値は「重心」だ。

数直線の の位置に、 の重さのおもりを置く。棒を支えて釣り合う点が 。

釣り合いの条件を式で書くと

「期待値からのズレ 重み」の総和が 。 これが重心の定義そのものだ。物理の重心と、確率の期待値は、まったく同じ計算をしている。

期待値は現実の判断にも使われている。

宝くじの期待値。

枚 円の宝くじの期待値は、およそ 円といわれる(還元率 前後)。

枚買うごとに、平均 円損する。 これは運の問題ではなく、設計上そうなっている。

保険はその逆だ。保険料の期待値も支払われる保険金の期待値より高い(でなければ保険会社は潰れる)。にもかかわらず、人は保険に入る。

なぜか。 期待値は「平均」しか語らないからだ。「 億円の損失が の確率」と「 万円の確実な損失」は期待値が同じだが、前者は人生が終わる。

期待値がすべてではない。 だからこそ、次に学ぶ分散(散らばりの大きさ)が要る。

平均と、散らばり。 この つを両手に持って、初めて確率変数を語れる。

答

別解

この分布が何の分布かを見抜けば、計算せずに答えが出る。

確率を並べてみよう。

分子は で、パスカルの三角形の 行だ。 分母は 。

思い出してほしい。 硬貨を 枚投げたとき、表の枚数 の確率は

この問題の分布と、完全に一致する。つまり は二項分布 にほかならない。二項分布なら、期待値は公式ですぐに出る。

本解と同じ答え

さらに素朴な見方もできる。

硬貨 枚のうち、表は平均して何枚か。 枚あたり表が出る確率は 。 枚あるから

枚ずつの期待値を足すだけ。 計算らしい計算はしていない。そして、対称性からも読める。

この分布は を軸に、左右対称だ。

対称な分布の期待値は対称の中心に来る。

計算ゼロで答えが出た。

分布表を見たら、まず「この形に見覚えはないか」と問う。 何の分布か分かれば、公式が使える。分布表はただの数字の羅列ではない。

ポイント

  • (値 × 確率 の合計)。
  • 確率の合計は (検算に使える)。

よくある間違い

  • 確率で重みづけせず、値の単純平均 で答えを出す。たまたま値は合うが、対称でない分布では必ず外れる
  • 確率の総和が になっているかを確かめない。分布表が与えられたら、まず を検算する
  • の項は「」だからと、確率 を総和から除いてしまう。値が でも、確率は分布の一部として残る

問2分散と標準偏差

★ 基礎分散標準偏差

問題

確率変数 が次の分布に従い、期待値は である。分散 と標準偏差 を求めよ。

ヒントを見る

分散には『 乗の平均から、平均の 乗を引く』という計算しやすい形があった。まず の期待値を表から作るところから。標準偏差は分散のルート。

解答・解説

方針

分散は が計算しやすい。まず (値の 乗 × 確率 の合計)を求め、 を引く。標準偏差は分散の平方根。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 期待値は「どこに落ち着くか」を表す。分散は「どれくらい散らばるか」を表す。

散らばりとは平均からのズレの大きさだ。

ズレをそのまま平均すると、 になってしまう(プラスとマイナスが打ち消し合う)。だから 乗してから平均する。

定義どおりに計算してもよいが、実務ではこちらが速い。

「 乗の平均 平均の 乗」は、データの分析(数I)で出てきた公式とまったく同じ形だ。

を出して、 を引く。 それだけである。

公式分散 、標準偏差

① を求める。 値の 乗に確率をかけて足す。

② 分散を計算する。

③ 標準偏差を求める。

0123平均
分散は平均 3/2 のまわりの散らばり。V=3/4

まとめ:分散は「」で出すのが速い(定義 より計算が楽)。標準偏差は分散のルート。分散はバラつきの大きさを表す。

発展。 なぜ、ズレを 乗するのか。絶対値ではダメなのか。

素朴には、絶対値のほうが自然に見える。

これも散らばりの指標として、きちんと使える。 それでも 乗を使うのには、理由がある。

理由 : 微分できる。

絶対値 は で折れていて、微分できない。 乗はなめらかだ。「散らばりが最小になる点を求める」ような問題では、微分できることが役に立つ。

実際、 を最小にする を求めると、ちょうど期待値 になる。つまり平均とは 乗のズレを最小にする点である。理由 : 足し算ができる。

独立な 、 について

分散は独立なら足せる。 絶対値ではこうはいかない。この加法性があるので、 個のデータの平均の分散が と計算できる。

理由 : 三平方の定理と同じ形。

この形は多次元空間の「距離」そのものだ。 分散を 乗で定義すると、統計が幾何(距離と直交)の言葉で語れるようになる。

独立 直角。 分散の加法性は三平方の定理の統計版である。

乗するという素朴な選択が、統計学を「幾何学」に変えた。便利だから 乗するのではなく、 乗したから、統計学で幾何学の考え方が使えるようになったのだ。

答

、

別解

定義どおり、「ズレの 乗の平均」で計算する。公式を忘れても、定義に戻れば必ず解ける。

平均は 。 各値のズレを出す。

ズレを 乗する。

確率で重みをつけて足す。

本解と同じ

なぜ つの計算が一致するのか。 定義を展開すれば分かる。

だから

「 乗の平均 平均の 乗」は、定義を展開しただけだった。

もっと速い道もある。

前問で見たとおり、この は二項分布 だ。二項分布の分散は

すぐに出る。

つの道が同じ にたどり着いた。

  • 定義(ズレの 乗の平均)は、意味が見える。忘れても再現できる
  • 公式 は、手計算が速い
  • 二項分布の はどの分布か分かっていれば最速

標準偏差 の意味。

だいたい平均から くらいズレる、ということ。表の枚数は 枚を中心に、 枚ほど揺れる。

分散()は 乗した量なので、そのままでは大きさの実感がわかない。 をとって元の単位に戻したものが標準偏差である。だから散らばりを説明するときは、標準偏差を使う。

ポイント

  • 。
  • 。

よくある間違い

  • を と混同する。 は「 乗してから平均」、 は「平均してから 乗」で、まったく別物
  • の引く順を逆にして負の値を出す。分散は必ず 以上なので、負が出たら計算ミス
  • 標準偏差を求め忘れて分散だけで終える。 まで出して、はじめて元の単位に戻る

問31次式の期待値

★ 基礎期待値変換

問題

のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

を 倍して を足すと、平均はどう変わるか。期待値の 次式の性質を思い出そう。分布表を作り直す必要はない。

解答・解説

方針

期待値は 次式をそのまま通す。。、 を入れる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) とは、「 を 倍して、 足す」という変換だ。

全員のテストの点を 倍して 点おまけしたと思えばいい。そのとき、平均点はどうなるか。

当然、平均も 倍して 足した値になる。 全員に同じ操作をしたのだから、平均も同じ操作を受ける。

期待値は 次式をそのまま通り抜ける。 これを期待値の線形性という。

直感どおりの性質だが、あとで「分散はそうならない」ことを学ぶと、この当たり前さがありがたく感じられる。まずは公式に値を入れるだけ。

公式(期待値は 次式をそのまま通す)

公式に 、、 を入れる。

まとめ:期待値は「 の形をそのまま通す」。 を 倍して 足した量の平均は、平均を 倍して 足したものに等しい。直感どおりだ。

発展。 期待値を式の中へそのまま入れられるのは、 次式だけだ。 乗になると、話は変わる。

確かめてみよう。 は を でとる。

一方、 の期待値は

一致しない。 しかも、必ず のほうが大きい。

その差は何か。

分散だ。

分散は 乗の平均だから、必ず 以上。 だから

が、いつでも成り立つ。 等号が成り立つのは、 が常に同じ値をとるとき(散らばりゼロ)だけだ。この不等式はもっと一般的な定理の一例である。

イェンセンの不等式。 下に凸な関数 について

「先に関数を通してから平均」は「先に平均してから関数を通す」より大きい。 は下に凸だから、 になる。

身近な例で言えば。

平均年収 万円の集団があるとする。「年収の 乗の平均」は より必ず大きい。格差(散らばり)があるほど、大きくなる。

逆に、 は上に凸なので、不等号が逆を向く。

「平均の平方根」より「平方根の平均」のほうが小さい。

平均と関数は、順番を入れかえてはいけない。 次式だけがこの規則の唯一の例外である。

答

別解

公式を信じずに、分布表を作り直して確かめる。「本当にそうなるの?」を、自分の手で確認する別解である。

もとの分布( が を でとる)から、 の分布を作る。

値を つずつ変換する。

確率は変わらない。 「 が になる」ことと「 が になる」ことは、同じ出来事だからだ。

新しい分布表ができた。 は を でとる。期待値を定義どおり計算する。

公式と同じ答え

公式が「本当だった」ことを、自分で確かめられた。

この作業から見えること。

値の間隔が 倍に広がり、全体が だけ右へずれた。

重心(期待値)も同じように動く。 が 倍で 、そこに して 。

確率(重み)は つも変わっていない。 変わったのは、おもりを置く位置だけだ。

だから重心も位置と同じ変換を受ける。 これが の意味である。

公式が不安なときは、分布表を作り直せばいい。 行の表なら 分で検算できる。「公式を確かめる手段を持っている」ことが、本当の自信になる。

ポイント

  • 。
  • 期待値は 次式を線形に通す。

よくある間違い

  • のように、定数 にも期待値をとろうとする。定数はそのまま足す
  • 次式の性質を 乗にも使い、 としてしまう。期待値を式の中へそのまま入れられるのは 次式だけ
  • 値を 倍したときに、確率も 倍してしまう。変換されるのは値であって、確率は変わらない

問41次式の分散

★ 基礎分散変換

問題

のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

散らばりを表す分散は、全体をずらす操作()と拡大する操作( 倍)で受ける影響が違う。それぞれどう影響するのだったか。

解答・解説

方針

分散は「(平行移動)では変わらず、 では 倍になる」。。定数 を足してもバラつきは変わらない点に注意。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 期待値は 次式の中へそのまま入った。分散は、そうはいかない。

つの操作を、分けて考えよう。

まず「」。 全員の点数に 点足す。散らばりは変わるか。

変わらない。 全員が同じだけ動くので、互いの間隔はそのままだ。

次に「」。 全員の点数を 倍する。散らばりはどうなるか。

間隔も 倍に広がる。 つまり標準偏差(ズレの大きさ)が 倍。

そして分散は、ズレの 乗だから

平行移動には反応せず、拡大には 乗で反応する。 これが分散の性格である。

公式(定数 を足しても分散は変わらない。 で 倍)

公式に 、 を入れる。 は分散に影響しない。

まとめ:分散は「バラつきの大きさ」なので、全体を平行移動()しても変わらない。 倍に引き伸ばすとバラつきは 倍になる。 ではなく 倍がポイント。

発展。 「平行移動で不変、拡大で 倍」という性質は、単位換算の場面で問題になる。

摂氏と華氏。

ある都市の気温(摂氏)の標準偏差が ℃ だとする。華氏では?

標準偏差は 倍。

分散は 倍だ。

はどちらにも影響しない。 全体が ずれるだけで、散らばりは変わらないからだ。ここで、 つの疑問が湧く。

「気温の散らばりが、単位を変えただけで変わるの?」

変わる。 それは「 cm の散らばり」を mm で測ると「 mm の散らばり」になるのと同じ、単なる目盛りの読み替えだ。散らばりの「実質」は同じである。

では、単位に依存しない散らばりの指標はないか。

ある。変動係数という。

割り算だから、単位が約分されて消える。

この指標が役立つ場面。

「体重の標準偏差 kg」と「身長の標準偏差 cm」では、どちらが散らばっているか? 単位が違うので、直接は比べられない。

変動係数なら比べられる。

体重のほうが相対的にずっと散らばっている。「 で不変、 で 倍」という標準偏差の性質があるからこそ、 で単位が消える。性質を知ることは、道具を作れるようになることだ。

答

別解

定義から導いて、「なぜ なのか」を目で見る。

とおく。 まず期待値は

分散の定義は「平均からのズレの 乗の平均」だった。

中身のズレを計算する。

が消えた。

ここがすべてだ。 平均も一緒に ずれるので、ズレを測ると は打ち消される。

本解と同じ答え

この導出から分かること。

  • が消えるのは、平均も同じだけ動くから。 「ズレ」を見る限り、平行移動は無関係
  • が 倍になるのは、 乗の中で が 回かかるから

数直線で見ると、もっとはっきりする。もとの値 は、平均 のまわりに散らばっていた。

倍すると となり、間隔がすべて 倍になる。 平均 からの距離も 倍。

すると となり、全体が右へ 移動する。距離は変わらない。

標準偏差は 倍(素直)、分散は 倍( 乗)。単位を意識すると、納得できる。

身長を cm から mm に直す( 倍)と、標準偏差も 倍になる(単位が同じだから当然)。だが分散の単位は cm なので、 倍になる。「分散は 乗の量」と覚えておけば、 を忘れない。

ポイント

  • 。
  • は分散に影響しない、 で 倍。

よくある間違い

  • と、期待値と同じ感覚で計算する。分散は 次式の中へそのまま入らない
  • を 乗し忘れて とする。ズレを 乗する定義から、係数も 乗される
  • が分散を増やすと考える。全員が同じだけ動いても、互いの間隔(散らばり)は ミリも変わらない

問5二項分布の期待値

★ 基礎二項分布期待値

問題

当たる確率が のくじを、毎回もとに戻しながら 回引く。当たる回数を とするとき、 の期待値 を求めよ。

ヒントを見る

毎回同じ確率で独立に引く 回のうちの成功回数を考える。この設定の分布には名前がある。その分布の期待値は と からすぐに出せる。

解答・解説

方針

毎回同じ確率 で当たる試行を 回くり返すので、 は二項分布 。二項分布の期待値は 。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) まず、状況を確認しよう。

  • 毎回、同じ確率 で当たる(もとに戻すから、確率は変わらない)
  • 回くり返す
  • 知りたいのは、当たった回数

この 点がそろったら、二項分布だ。

二項分布と見抜ければ、期待値は公式ですぐに出る。

直感でも答えは見える。 回に 回当たるくじを 回引くのだから、当たるのは 回くらいだろう。その直感がそのまま公式になっている。

「反復試行 成功回数」を見たら、二項分布。 この型の判定が第一歩だ。

公式二項分布 の期待値

毎回確率 で当たる試行を 回くり返すので、 は二項分布 。

まとめ:「 回の試行で当たりが出る回数」は二項分布。期待値は ですぐに出る。 回で確率 なら平均 回、という自然な結果だ。

発展。 の証明を、真正面からやるとどうなるか。

定義に従えば、こう書ける。

項の和だ。 二項係数と累乗が入り混じった、見るからに面倒な式である。

これを計算すると、確かに になる。 だが、その計算は簡単ではない( という変形を使う)。一方、別解の「 回ずつに分ける」方法なら、 行で終わった。

同じ答えなのに、手間が大きく違う。なぜ、これほど差がつくのか。

真正面の計算は「 の分布」を経由している。 「ちょうど 回当たる確率」をすべて求めてから、重みをつけて足す。

分ける方法は分布をまったく使わない。 がどんな分布かを知らなくても、「 回あたりの期待値」さえ分かれば足せる。

これが期待値の線形性の便利なところである。

独立でなくてもよい。分布を知らなくてもよい。ただ足せる。

この道具は応用の場で繰り返し使われる。

  • クーポン収集: 全 種を集めるまでの回数の期待値
  • 記録の回数: ランダムな列で「過去最高」が何回出るか
  • ネットワーク: ランダムなグラフに三角形がいくつあるか

どれも「全体の分布」は複雑怪奇だが、「 つずつに分けて期待値を足す」だけで答えが出る。

難しい問題を、簡単な問題の「和」に分解する。 数学のいつもの方法が確率でも同じように使える。

答

別解

という公式が「なぜ成り立つか」を、 回ずつに分けて見る。 回引くごとに、 つの確率変数を用意する。

この を、 回分の「当たり点」と思えばいい。 当たれば 点、はずれれば 点。全部の当たり回数は点数の合計だ。

回分の期待値を出す。

「 か の確率変数の期待値は、 になる確率そのもの」であり、覚えておくと便利だ。期待値の加法性で、足す。

これが となる理由だ。

回あたりの期待値 を、 回分足しただけである。

この見方の大きな強み。

期待値の加法性 は、独立でなくても成り立つ。 だから、「独立でない」問題にもそのまま使える。

例: 帽子の問題。

人がパーティーで帽子を預け、帰りにランダムに つずつ受け取る。自分の帽子を取り戻せる人数の期待値は?

取り方の総数は 通り。 真正面から数えると大変だ( 人も一致しない場合、 人だけ一致する場合 )。だが、 人ずつに分ければすぐに出る。

答えは 人。 しかも 人でも 人でも、答えは常に 人だ。

ここで は独立ではない( 人目が自分の帽子を取ると、他の人の確率が変わる)。それでも、期待値は足せる。

「分けて、足す」という期待値の加法性は、確率でいちばん使い勝手のいい道具である。

ポイント

  • 反復試行の回数 は二項分布 。
  • 。

よくある間違い

  • の と を取り違え、 のような計算をする。 は回数、 は 回あたりの確率
  • 「もとに戻す」を見落として、引くたびに確率が変わると考える。もとに戻すからこそ毎回 で、二項分布になる
  • 期待値 を「必ず 回当たる」と解釈する。 はあくまで平均で、実際は 回や 回にもなる

問6二項分布の分散

★ 基礎二項分布分散

問題

確率変数 が二項分布 に従うとき、分散 と標準偏差 を求めよ。

ヒントを見る

二項分布の分散は ・ と『失敗の確率』の つで書ける。当てはめるだけだが、失敗の側を忘れるミスが多い。

解答・解説

方針

二項分布の分散は ()。、、 を入れる。標準偏差は分散の平方根。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 二項分布と分かった時点で、平均も分散も公式から即座に出る。

この つは、セットで覚える。

は「はずれる確率」だ。 分散の式に と の両方が出てくることには、意味がある。極端な場合を考えてみよう。

  • (必ず当たる) なら で、 となり、散らばりゼロ(毎回必ず当たるから、回数は常に 回)
  • (絶対当たらない) でも で、やはり散らばりゼロ
  • (五分五分) のとき は最大で、いちばん予測しづらい

「確実なら散らばらない。五分五分がいちばん揺れる。」 という式は、その直感を数式にしたものだ。

あとは、、、 を代入するだけ。

公式二項分布 の分散 ()、標準偏差

① 分散を計算する。 、。

② 標準偏差を求める。

まとめ:二項分布は「期待値 、分散 」をセットで覚える。定義から計算しなくても、この公式ですぐに出る。標準偏差はそのルートだ。

発展。 という「ものさし」は、工場の品質管理でも使われている。

シックスシグマという言葉を聞いたことがあるだろうか。製品の寸法にはバラつきがある。平均 、標準偏差 で散らばるとしよう。

規格の許容範囲が なら、不良品は約 。 個作って 個の不良だ。今の製造業では、これでは足りない。

台の車には 万点の部品が使われる。 部品あたり の不良率なら、車 台に不良品が1つもない確率は

ほぼゼロ。 どこかに必ず不良品が混ざる。

そこで、許容範囲を に広げる(逆に言えば、 を小さくして が規格内に収まるようにする)。

不良率は 万個あたり 個。 これがシックスシグマの目標である。

から へ。 倍にすぎないが、不良率は 倍以上改善する。正規分布のすそが指数関数的に薄いからだ。

を減らす つの道。

(1) 工程そのものを改善する(ばらつきの原因をなくす)

(2) の法則を使う。複数回測って平均をとれば、平均のバラつきは に減る

測定では、(2) が日常的に使われている。 回の測定の誤差が mm でも、 回測って平均すれば、誤差は mm になる。

ただし、精度を 倍にするには測定回数が 倍必要。 の法則は恵みであると同時に、厳しい制約でもある。世論調査で「 人に聞けば十分」と言われるのも、 人に増やしても誤差が 分の にしかならないからだ。

を知ることは、「どこまで信じてよいか」を知ることである。

答

、

別解

答えの が何を意味するかを読む。

計算して終わりにしない。「 という数は、何を表しているのか」を考える別解である。まず、平均は 回、標準偏差は 回。

標準偏差とは「だいたいこれくらいズレる」という目安だった。だから

この範囲に、実際どれくらい収まるのか。

厳密に計算すると(二項分布の確率をすべて足す)

約 。 回に 回はこの範囲に収まる。()まで広げると

約 。 ほとんどすべてがこの中だ。「 回引いて、当たりは 回から 回のあいだ」というのが、実際に感じられる散らばりの大きさである。

次に、標本を増やすとどうなるか。

回引いたら?

回数を 倍にしたら、 は 倍()にしかならない。

は に比例する。 これが有名な の法則である。ここに、統計のいちばん大事な事実がある。

「平均に対するブレの割合」を見よう。

回数を 倍にすると、相対的なブレは半分になった。「たくさん試すほど、割合は安定する」というのが、大数の法則の中身である。

回では「当たり率 」とブレるが、 回引けば 、 なので

当たり率は に収まる。

回数が増えるほど、実測の割合は真の確率 に近づいていく。

だからこそ、カジノは必ず儲かる。 回ごとの結果は運まかせでも、何万回も繰り返せば、割合はきっかり期待値に収束する。

という数は「大量に繰り返せば予測できる」という統計学の考え方にもとづいている。

ポイント

  • 二項分布 、。
  • 。

よくある間違い

  • を と同じ にしてしまう。(はずれる確率)
  • の を忘れて とする。期待値 と分散 の違いを、 の有無で区別する
  • 分散 をそのまま標準偏差として答える。 まで戻さないと、回数と同じ単位にならない

問7二項分布の確率

★ 基礎二項分布確率

問題

枚の硬貨を 回投げるとき、表が 回出る確率を求めよ。

ヒントを見る

『 回中どの 回で表が出るかの選び方』×『その各パターンが起こる確率』という構造で式を組み立てよう。

解答・解説

方針

表が出る回数 は二項分布 。 に を入れる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 硬貨 回で表がちょうど 回。これは反復試行の確率(数A)そのものだ。

確率変数の言葉で言い換えると、表の回数 は二項分布 に従う。

「二項分布の確率」と「反復試行の確率」は、同じものである。 名前が違うだけだ。式の つの部分を、意味で読む。

回のうちどの 回が表かの選び方が 、その パターンが起こる確率が 。「場合の数 パターンの確率」が、反復試行の計算の基本の形である。

公式二項分布の確率

表の回数 は 。 を代入する。

012343/8
硬貨4回の表の回数 B(4,1/2)。ちょうど2回=6/16=3/8

まとめ:「 回中ちょうど 回」の確率は 。 は「どの回で起こるかの組合せ」、 は「その パターンの確率」だ。

発展。 硬貨 回の分布は という山の形をしていた。

投げる回数を増やすと、この山はどうなるか。

回なら、通り数は

真ん中が高く、両すそが低い、なめらかな山。

回なら? 回なら?回数を増やすほど、この山は「あの曲線」に近づいていく。

正規分布の釣鐘曲線だ。

これをド・モアブル–ラプラスの定理という( 年、ド・モアブルが硬貨投げの計算を楽にしようとして発見した)。離散的な二項分布(棒グラフ)が連続的な正規分布(なめらかな曲線)に近づく。この事実の意味はとても大きい。

二項分布の計算は、 が大きいと絶望的になる。

は 桁の数だ。 手計算はもちろん、電卓でも溢れる。だが正規分布で近似すれば、標準化して表を引くだけで済む。

話はさらに先へ続く。

中心極限定理。

「どんな分布から取ってきたデータでも、たくさん足し合わせれば、その和は正規分布に近づく」

元がサイコロでも、コイン投げでも、いびつな分布でも構わない。 足し合わせれば、必ず釣鐘の形になる。だから、身の回りには正規分布に近い分布が多い。

  • 身長: 無数の遺伝子と環境要因の「足し算」
  • 測定誤差: 無数の小さな誤差の「足し算」
  • 株価の変動: 無数の取引の「足し算」

細かい原因が山ほど足し合わされると、結果は釣鐘になる。硬貨を 回投げる素朴な問題を先へ進めると、「なぜ身のまわりに正規分布が多いのか」という疑問の答えにつながる。

答

別解

公式を使わず、 通りを全部書き出す。

回投げたときの結果は、 通り。 全部書けてしまう数だ。表を H、裏を T として、表が 回のものを探す。

  • HHTT
  • HTHT
  • HTTH
  • THHT
  • THTH
  • TTHH

通り。

通りはすべて同じ確率( ずつ)だから

公式と同じ答え

この「 通り」が二項係数だ。

「 回のうち、どの 回を表にするか」の選び方が 通り。公式の はこの数え上げをしていたのである。

表の回数ごとに、全部数えてみよう。

通り数は 。 合計

この数の並びに、見覚えはないか。パスカルの三角形の 段目だ。

二項分布の「形」はパスカルの三角形そのものである。そして、この分布は左右対称で、真ん中( 回)がいちばん高い。

「ちょうど半分」がもっとも出やすい。硬貨を 回投げたら、表 回がいちばんありそうだ、という直感と合う。

書き出しの価値。

通りなら書ける。だが 回投げたら 通りで、宇宙の原子の数を超える。

書き出せない大きさになったとき、公式が要る。 公式は「書き出しの結果を、すぐに計算する道具」である。

小さい場合で書き出して、公式と合うことを確かめる。 これが公式を信じられるようになる、いちばん確実な道である。

ポイント

  • 。
  • は起こる回の選び方。

よくある間違い

  • 二項係数 を掛け忘れ、 だけで答えてしまう。「どの 回が表か」の選び方を数える必要がある
  • を や と誤って計算する。
  • 「ちょうど 回」を「 回以上」と読み違える。ちょうど 回なら の 項だけ、 回以上なら の和になる

問8正規分布の標準化

★ 基礎正規分布標準化

問題

確率変数 が正規分布 に従うとき、 を標準化した値 を求めよ。

ヒントを見る

標準化とは『平均からのずれを、標準偏差を単位にして測り直す』こと。この言葉どおりに式を作れば、公式を忘れていても出せる。

解答・解説

方針

標準化は「平均を引いて標準偏差で割る」。。、、 を入れる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 正規分布は、平均 と標準偏差 の組み合わせだけ、無数に存在する。

、、 すべて形は同じ釣鐘だが、位置と幅が違う。確率の表を無数の分布ぶん用意するわけにはいかない。そこで、全部を つに揃える。

段階の操作だ。

  • : 平均を引いて、中心を に移す
  • : 標準偏差で割って、幅を に揃える

こうして、どんな正規分布も (標準正規分布)に変換できる。

の意味は「平均から標準偏差いくつ分ズレているか」。 なら「 分、上」ということだ。

公式標準化 ( を標準正規分布 に直す)

は平均 、標準偏差 。 を標準化する。

xyOZ=0Z=10(X=50)1(X=60)
X=60 を標準化すると Z=(60−50)/10=1(平均から1σ右)

まとめ:標準化は「平均からどれだけ離れているかを、標準偏差を単位にして測る」。 は「平均より標準偏差 個ぶん上」を意味する。どんな正規分布も標準化すれば で扱える。

発展。 標準化して得た は平均 、分散 になる。これを確かめておこう。

期待値の性質から。

分散の性質から。

( は分散を 倍にし、 は分散に影響しない。)

きっちり になった。

ここで、注意すべき点がある。

標準化はどんな分布にもできる。 平均を引いて で割るだけだから、二項分布でも一様分布でも、いびつな分布でもできる。だが、「標準化したから正規分布になる」わけではない。

標準化がするのは「位置と幅を揃える」ことだけ。形は変わらない。

いびつな分布を標準化しても、いびつなまま平均 、分散 になるだけだ。だから、正規分布表を引けるのは、もとが正規分布のときだけ。

この区別を混同してはいけない。ただし、次のことが成り立つ。

中心極限定理により、「たくさんのデータの平均」や「たくさんの試行の和」は、もとがどんな分布でも正規分布に近づく。

だから実務では標本平均を標準化して正規分布表を引く、という手順が正当化される。

二項分布 を標準化して正規分布表を引けるのも、 が十分大きいからだ( が小さければ、この近似は使えない)。

「標準化」と「正規化」は違う。 前者は座標変換、後者は形そのものの話。この つを区別できると、統計の議論が正確になる。

答

別解

標準化は、じつは「偏差値」と同じ考え方である。模試で誰もが見ている、あの偏差値だ。偏差値の定義はこうだ。

(標準化した値)を 倍して、 を足しただけ。

この問題に当てはめる。 平均 点、標準偏差 点のテストで、 点をとった。

偏差値 である。

なぜ と を使うのか。 の値は から くらいの小数になる。「 は 」と言われても、ピンとこない。

そこで、平均を 、標準偏差を に置き直す。 見慣れた 桁の数になり、直感的に扱える。偏差値の分布を読んでみよう。

  • 偏差値 ちょうど平均
  • 偏差値 上位 約
  • 偏差値 上位 約
  • 偏差値 下位 約

偏差値 は 人に 人を少し上回る程度になる。なるほど、と思える。「点数では比べられないものが、比べられる」ことが大事だ。

数学 点(平均 、)と、国語 点(平均 、)。どちらがよくできたか。点数だけ見れば、国語の 点が上に見える。

標準化する。

数学のほうがずっとよくできている。(偏差値 対 偏差値 )

難しいテストと簡単なテスト、 点満点と 点満点も、標準化すれば、すべて同じ土俵に乗る。 は単位をもたない量である。同じ発想はあちこちで使われている。

  • IQ: 平均 、標準偏差 に揃えた スコア
  • 株の評価: 業種の違う会社を、平均からのズレで比べる
  • 異常検知: なら「異常値」と判定する

「そのままでは比べられないものを、比べられるようにする」のが、標準化という技術である。

ポイント

  • 。
  • は「平均から標準偏差何個ぶん離れているか」。

よくある間違い

  • の を標準偏差だと思い、 としてしまう。 の第 引数は分散なので、 は
  • 引き算と割り算の順序を逆にして とする。まず平均を引いて中心を にし、それから で割る
  • が負になったとき「計算ミス」と思ってしまう。平均より小さい値は必ず になる

問9標準正規分布の確率

★ 基礎正規分布

問題

確率変数 が標準正規分布 に従うとき、 を求めよ。ただし、正規分布表より とする。

ヒントを見る

正規分布表は『 から までの面積』を載せた表。問われている確率が表の値そのものになっている。

解答・解説

方針

標準正規分布表は「 から までの確率(面積)」を与える。今回は の値を読むだけ。グラフでは山の中央から右へ標準偏差 ぶんまでの面積にあたる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 正規分布では、確率 曲線の下の面積だ。

なぜ面積なのか。 は連続的な値をとるので、「ちょうど になる確率」は になってしまう。幅のある区間でしか、確率は語れない。

だから面積で測る。

この面積は手では計算できない( の積分は、初等関数では書けない)。だからあらかじめ計算した表が用意されている。正規分布表が返すのは「 から までの面積」だ。

表を引く前に、必ず「どこの面積を知りたいのか」を図で確認する。 表が返すのは中央から右の面積であって、それ以外ではない。この問題は表そのものを引く形になっている。

重要標準正規分布表は (中央 から までの面積)を与える

表より の値を読む。

xyO01
標準正規分布 N(0,1)。0≦Z≦1 の面積が 0.3413

これは、標準正規分布の曲線の下で、(中央)から までの面積(= 確率)。

まとめ:確率 = 曲線の下の面積。正規分布表は「中央 から まで」の面積を並べた表。 で 、つまり全体の約 がこの範囲に入る。

発展。 そもそも、なぜ正規分布が特別扱いされるのか。世の中には無数の分布があるのに。

理由は中心極限定理にある。「独立な確率変数をたくさん足し合わせると、その和の分布は、もとの分布が何であれ、正規分布に近づく」「もとの分布が何であれ」成り立つのである。

サイコロで実験してみよう。

個振る。 出る目の分布は 〜 が等確率で、平らな長方形だ。釣鐘のかけらもない。

個振って和をとる。 和は 〜 で、 がいちばん出やすく、三角形の分布になる。

個振って和をとる。 もう釣鐘の形に近づいている。 個振れば、ほとんど正規分布と区別がつかない。

平らな分布を足しただけで、山ができる。 これが中心極限定理の実演だ。なぜ、こんなことが起こるのか。

極端な値になるには、「全部」が極端でなければならないからだ。サイコロ 個の和が (最小)になるには、 個すべてが でなければならない。確率は で、ほぼゼロである。

一方、和が (平均あたり)になる組み合わせは、天文学的な数がある。「真ん中は組み合わせが多く、端は組み合わせが少ない」という単純な事実が、山を作る。この定理は統計学の多くの手法の基礎になっている。

  • 標本平均は、たくさんのデータの和(を で割ったもの)→ 正規分布に近づく
  • 測定誤差は無数の小さな誤差の和 → 正規分布
  • 身長は無数の遺伝的・環境的要因の和 → 正規分布

「もとが何であれ、足せば釣鐘」

だから、母集団の分布を知らなくても、標本平均については正規分布で議論できる。 母集団の分布を知らなくても推測ができる。それができる根拠が、中心極限定理である。

正規分布はたまたま便利な分布ではなく、足し算の行き着く先という、数学的な必然として現れる。

答

別解

つの数 から、対称性だけで芋づる式にすべてを出す。

正規分布表には「 から まで」の面積しか載っていない。 それで足りるのは、釣鐘が左右対称だからだ。

まず、全体の面積は 。

そして、中央 で左右に分かれる。

この つと、表の だけで、あらゆる確率が出せる。

① (中央をまたぐ範囲)。

左半分( から )は右半分( から )と対称だから同じ面積。

約 。

② (右のすそ)。

右半分の全体()から、 〜 の分を引く。

約 。

③ ( より小さい全部)。

左半分()に、 〜 の分を足す。

約 。

④ (左のすそ)。

対称性から、右のすそと同じ。

表の 行から、 つの確率が出た。毎回「図のどこを塗るか」を確かめることが大事だ。

  • 中央をまたぐ → 足す(または 倍)
  • すそ(片側の端) → から引く
  • 負の側 → 対称性で正の側に読み替える

この つのパターンさえ押さえれば、正規分布の確率計算はすべて処理できる。そして、次の つの数は暗記しておくと強い。

「–– ルール」と呼ばれる。 の中に約 割、 の中に約 、 の中にほぼ全部。この 数を頭に入れておけば、表がなくても、正規分布のだいたいの姿がつかめる。

ポイント

  • 確率 = 正規分布曲線の下の面積。
  • 表は を与える。

よくある間違い

  • を「 の確率」だと思ってしまう。表が返すのは中央 から までの面積だけ
  • を求めるのに、表の値をそのまま と答える。中央をまたぐ範囲は 倍する
  • すその確率 を としてしまう。引くのは右半分の であって、全体の ではない

問10正規分布の確率(標準化して表)

★ 基礎正規分布標準化

問題

確率変数 が正規分布 に従うとき、 を求めよ。ただし とする。

ヒントを見る

の範囲の両端をそれぞれ標準化すると、 の範囲に置き換わる。置き換えたあとの確率は表の値そのものだ。

解答・解説

方針

の範囲を標準化して の範囲に直し、正規分布表を引く。、。 を読む。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 正規分布の確率計算は、いつも同じ ステップだ。

① 標準化する。 で、 の範囲を の範囲に置き換える。

② 図で確認する。 求める面積が釣鐘のどこにあたるか。

③ 表を引く。

この問題では範囲の両端を標準化する。

は、 に置き換わった。

あとは表を引くだけ。 表が返すのは、ちょうど「 から までの面積」だ。

の分布から の分布へ移し、表を引き、確率を持ち帰る。 この往復が正規分布計算の基本形である。

重要正規分布の確率は、標準化して の範囲に直し、表を引く

① 両端を標準化する。 。

② の範囲で表を引く。

xyO01
N(50,10²)を標準化。0≦Z≦1 の面積 0.3413

まとめ:一般の正規分布の確率は「標準化 → 表」の 段。 の範囲の両端を に直せば、あとは標準正規分布表を読むだけ。範囲がそのまま から始まる形になり、表の値そのものになった。

発展。 なぜ、 から までの面積を「表」で与えるのか。自分で積分すればよいのでは?

それができないのだ。

標準正規分布の式はこうだ。

この関数の原始関数(積分した形)は、初等関数では書けない。

「まだ見つかっていない」のではなく、「存在しないことが証明されている」( 年、リウヴィルによる)。、、、 のようなおなじみの関数を、どう組み合わせても の積分は書けない。

だから、数値計算した表を作るしかない。手計算ではとても無理だが、役に立つ事実がある。「 から まで」の全積分なら、きれいに求まるのだ。

ガウス積分と呼ばれる、有名な式である。途中は計算できないのに、全体だけは できっちり出る。

なぜか。 つ掛けて 次元の積分にし、極座標に変換すると、計算できるようになる( 次元では不可能で、 次元では可能になる)。この があるからこそ、正規分布の式に という係数が付いている。

全体の面積を (確率の総和)にするための、正規化の係数である。

釣鐘曲線の式に が現れる理由は、ここにある。円周率が確率の式に現れる。

円とも三角形とも無縁に見える正規分布の中に、 が住んでいる。 数学のあちこちで と が一緒に現れるのは、偶然ではない。そう思わせる事実である。

答

別解

標準化する前に、「 何個分か」で読む。問題の範囲をよく見てほしい。

は平均 そのもの。 そして は

平均から、標準偏差ちょうど 個分だけ上。つまりこの範囲は から までである。ここで、正規分布の重要な性質を使う。

だから、計算せずに答えが分かる。

なぜ、分布によらず同じなのか。正規分布は を「ものさし」にすると、すべて同じ形になるからだ。

どれも面積は 。

身長の分布でも、テストの点でも、工場の部品の寸法でも、「平均から 上まで」の割合は必ず である。これが「正規分布はひとつしかない」ということの意味だ。

世の中に正規分布は無数にあるように見える。だが、 という自分のものさしで測れば、すべて同じ つの分布に重なる。だから、表は 枚で足りる。

この見方の実用性。

「平均 点、 点のテストで、 点から 点の人は何%か」標準化の計算をしなくても、「 から だから 」と即答できる。さらに、–– ルールと組み合わせると。

  • 点 〜 点()→ 約
  • 点 〜 点()→ 約
  • 点以上( 以上)→ 約

表を引かずに、分布の全体像が読める。標準化は「計算の手続き」だが、その意味は「 をものさしにしてデータを見る」ことである。

ポイント

  • 両端を標準化して の範囲に。
  • 。

よくある間違い

  • 片方の端だけ標準化して、もう一方を のまま表に持ち込む。範囲の両端を、必ず両方 に直す
  • が平均そのものだと気づかず、 の下端を 以外の値にしてしまう。 なら必ず
  • の を と読み、 としてしまう。 は分散で、

問11標本平均の期待値と標準偏差

★ 基礎標本平均

問題

母平均 、母標準偏差 の母集団から、大きさ の標本を無作為に抽出する。標本平均 の期待値 と標準偏差 を求めよ。

ヒントを見る

標本平均の平均は母平均のまま。標準偏差だけが標本の大きさに応じて縮む。どう縮むのだったかを思い出そう。

解答・解説

方針

標本平均の期待値は母平均に等しい()。標準偏差は母標準偏差を で割る()。標本を大きくするほどバラつきが小さくなる。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) 母集団から 人選んで、その平均をとる。この「標本平均」 自体が確率変数だ。

誰を選ぶかで値が変わるからである。では、 はどんな性質をもつか。

中心は動かない。

偏りなく選んでいるのだから、平均的には母平均のあたりに落ち着く。 これは直感どおりだ。バラつきは小さくなる。

人だけ選べば も揺れるが、 人の平均なら しか揺れない。「多くを平均すると、極端な人どうしが打ち消し合う」ことが、 で割る理由の直感である。

中心はそのまま、幅だけ縮む。 これが推測統計のすべての基礎になる。

公式標本平均 :、

① 期待値。 母平均に等しい。

② 標準偏差。 母標準偏差を で割る。。

まとめ:標本平均の平均は母平均そのもの。ただしバラつき(標準偏差)は に縮む。標本を多く取るほど、標本平均は母平均の近くに集中する、というのが推定の基礎だ。

発展。 という式は、世論調査の設計図そのものだ。

よくある疑問。

「 億人の国民の意見が、 人に聞くだけで分かるのか?」

答えは分かる。 しかも、母集団の大きさはほとんど関係ない。

式を見てほしい。

分母にあるのは (標本の大きさ)だけ。 母集団の人数 はどこにも出てこない。

億人でも 万人でも、 人に聞けば同じ精度。

これは直感に反する。 だが、正しい。

スープの味見に例えられる。 大鍋でも小鍋でも、よくかき混ぜてあれば、スプーン 杯で味は分かる。 鍋の大きさは関係ない。必要なのは「よくかき混ぜる」(無作為抽出)ことだけだ。

具体的に計算してみよう。

内閣支持率の調査。 支持する人の割合 を推定する。 人あたりの分散は 。

人なら

の幅で見れば、誤差は約 。

「支持率 ()」 のようにニュースで見る数字は、この計算から出ている。

人に増やしたら?

倍の人数をかけて、誤差は 分の 。 費用対効果が急激に悪くなる。

だから、多くの調査が 〜 人で止まる。 の精度があれば、実用上は十分だからだ。ただし、決して外してはいけない前提がある。

「無作為抽出」である。

スープをかき混ぜずに、上澄みだけすくったら? 味は分からない。

歴史的な大失敗がある。 年のアメリカ大統領選で、ある雑誌は 万人という大規模な調査を行い、ランドンの勝利を予測した。結果はルーズベルトの圧勝。

原因は電話帳と自動車登録名簿から標本を選んだこと。 当時、電話と車を持てたのは富裕層だけだった。標本が偏っていたのだ。

同じ年、ギャラップはわずか 万人の「正しく選ばれた」標本で、勝者を的中させた。 万の偏った標本より、 万の無作為な標本のほうが正確。

を増やしても、偏りは消えない。 という式が保証するのは、「正しく選んだ場合の」精度だけである。

答

、

別解

なぜ で割るのか。分散の性質から導いてみる。「 で割る」は覚えにくい。だが、導いてしまえば忘れない。

標本平均を式で書く。

は 番目に選ばれた人の値。 どれも母集団から無作為に選ぶので、それぞれが 、 をもつ。

まず期待値。 和の期待値は期待値の和に等しい。

に関係なく、 のまま。

次が本題の分散だ。 ここで つの性質を使う。

性質 : ( 倍すると、分散は 倍)

性質 : 独立なら (分散は足せる)

が出てくる理由が見えた。 分散が になるので、その平方根である標準偏差は になる。

この問題に当てはめる。

サイコロで確かめてみよう。

個の目の分散は 。

個振って平均をとると、その平均の分散は、 通りすべてを調べるとちょうど

きっちり半分になる。 理論どおりだ。

この式が意味すること。

精度を 倍にしたい( を半分にしたい)なら、 を 倍にする必要がある。

標本を 倍集めて、やっと精度は 倍。 倍の精度が欲しければ、 倍のデータが要る。

これが統計調査のコストを決めている。 世論調査で誤差を半分にするには、費用が 倍かかるのだ。

「たくさん集めれば精度は上がる。ただし、上がり方はゆっくり」 ということを、 の法則は示している。

ポイント

  • (母平均に一致)。
  • (標本が大きいほど小さい)。

よくある間違い

  • を としてしまう。割るのは ではなく
  • 標本平均の期待値も で割って としてしまう。中心は母平均のまま変わらない
  • 「標本を増やすと母標準偏差 が小さくなる」と考える。小さくなるのは標本平均のバラつきであって、母集団自体は変わらない

問12期待値の加法性

★ 基礎期待値

問題

確率変数 、 について 、 のとき、 を求めよ。

ヒントを見る

期待値の和の性質(独立でなくても成り立つ)をそのまま使うだけ。

解答・解説

方針

期待値は和に分けられる(、 が独立かどうかによらず)。。

解答

⓪ 発想(どう考え始めるか) なので、期待値はそのまま足せる。

しかも、条件がひとつもない。

と が独立でなくてもよい。 互いにどんなに絡み合っていても、平均は足せる。

これは、とても使いやすい性質だ。

分散はこうはいかない。

分散を足すには、独立という条件が要る。

なぜ差が出るのか。 期待値は「 次の量」だから、和と交換できる。分散は「 乗の量」なので、 と の関係(共分散)が入ってくるからだ。

「平均は無条件で足せる。散らばりは独立でないと足せない。」

この対比をまず頭に入れよう。 計算自体は公式に入れるだけである。

公式(期待値の加法性。独立でなくても成立)

まとめ:期待値は「和の期待値 = 期待値の和」がいつでも成り立つ(独立の条件は不要)。これは分散とちがう点。分散の加法性 は独立のときだけ成り立つ。

発展。 独立でないとき、分散の加法性はどう壊れるのか。正しい式を書いてみよう。

最後の項が共分散である。

「 が平均より大きいとき、 も大きくなりがちか」を測る量だ。

  • 一緒に大きくなる( が上なら も上)→ 共分散は正 → 分散は加法性より大きくなる
  • 逆に動く( が上なら は下)→ 共分散は負 → 分散は小さくなる
  • 無関係(独立) → 共分散は → ちょうど足し算になる

独立なら共分散が消える。 だから が成り立っていたのだ。この式が資産運用の基本原理になっている。

分散投資。

つの株に半分ずつ投資する。 リターンを 、、リスク(標準偏差)をそれぞれ とする。

つが同じ動きをする株(共分散が正で大きい)なら、リスクはほとんど減らない。片方が下がるとき、もう片方も下がるからだ。

逆に、逆向きに動く株(共分散が負)を組み合わせると、リスクは大きく減る。片方の損を、もう片方の益が埋める。

完全に独立な株なら、リスクは

減る。 個に分散すれば となり、標本平均とまったく同じ式だ。

「卵を つのカゴに盛るな」という格言は、この式の言い換えである。そして、 年の金融危機はこの式の裏切りだった。

平時には独立に見えた資産が、危機のときには一斉に下落した。 共分散が突然、大きな正の値になったのだ。「独立だと思っていたものが、独立ではなかった」

分散を足す前に、独立性を確かめよ。この教訓は教室の中だけの話ではない。

答

別解

「独立でなくても足せる」を、極端な例で実感する。いちばん独立から遠い状況を作ってみよう。

にする。 は のコピーだ。これ以上ないほど、べったり従属している。

具体的に、 が を ずつとるとする。

このとき である。

期待値の加法性が正しいなら

直接確かめる。 は を ずつとるから

強く従属していても、期待値は足せた。では、分散はどうか。

まず を計算する。 平均 からのズレは 。

「独立なら足せる」の式をそのまま使うと

本当か。直接計算しよう。 は をとり、平均 。ズレは 。

合わない。 実際は 倍もズレている。

当然だ。 が正しい。 は独立ではないので、分散の加法性は使えなかった。

独立なら確かに成り立つことも、確かめておこう。

サイコロ 個(、 は独立)。 個の分散は 。

通りすべての和( 〜 )から直接計算すると、ぴったり になる

まとめると。

この つの違いが、統計の議論では大事になる。「平均は自由に足せる。散らばりは、独立を確かめてから足す。」うっかり分散を足す前に、必ず「これは独立か?」と自問する習慣をつけたい。

ポイント

  • (いつでも成立)。
  • 分散の加法性は独立のときだけ(区別する)。

よくある間違い

  • 期待値の加法性に「独立」という条件が要ると思い込み、独立性を確かめようとして手が止まる。期待値は無条件で足せる
  • 分散も同じ感覚で と、独立を確かめずに使ってしまう。分散の加法性は独立のときだけ
  • も無条件で成り立つと思ってしまう。積の期待値が分かれるのは、独立のときだけ