数学A / 確率
点の移動の確率
問題
数直線上の原点に点 P がある。コインを投げて、表が出れば P を正の向きに 1、裏が出れば負の向きに 1 だけ動かす。コインを4回投げたとき、P が原点にある確率を求めよ。
ヒントを見る
表の回数 、裏の回数 とすると、回数の合計と、移動の合計(原点に戻る=差が )の2式ができる。これを解いて表・裏が何回ずつか出し、反復試行の確率に。
解答・解説
方針
点の移動は「表・裏が何回ずつ出れば、その場所に来るか」を、位置の条件から逆算するのがコツだ。
4回動いて原点(合計の移動が0)に戻るには、右への動き(表)と左への動き(裏)が打ち消し合う必要がある。
表・裏が何回ずつ出ればよいかを求めて、その確率を反復試行で計算する。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 点の動きを追いかけるのではなく、「表が何回出れば原点に戻るか」に翻訳する。
回のうち表が 回、裏が 回出たとする。点の位置は
これが になるのは のとき。つまり
動きの問題が、コイン投げの反復試行に化けた。
「原点に戻る」条件を、回数の言葉に翻訳する — これが第一手である。位置を つずつ追う必要はない。
4回のうち表が 回、裏が 回出たとする。回数の合計と、移動の合計から
(表で 、裏で なので、移動の合計は 。原点に戻るには 。)これを解くと 、つまり表2回・裏2回のとき原点に戻る。
あとは反復試行で計算する。4回中ちょうど2回表が出る確率は
まとめ:ポイントは、位置の条件(原点に戻る)を『表と裏の回数』の条件 に置きかえること。位置の問題を回数の問題に読みかえれば、あとは反復試行の計算に持ち込める。ちなみに、奇数回(たとえば3回)投げると は奇数にしかならず、原点(移動0)には戻れない。この見通しも持っておこう。
発展 — 一歩先へ。 回投げて原点に戻る確率は
( 回)なら 。( 回)なら 。( 回)なら約 — 回数が増えるほど、ぴったり原点に戻る確率は下がっていく(遠くまで行ってしまうから)。
ところが、ここに驚くべき定理がある。「いつかは必ず原点に戻ってくる」(確率 で)。ぴったり 回目に戻る確率は小さくても、 と機会は無限にあるので、戻らずに終わることはありえないのだ。しかも、戻るまでにかかる回数の期待値は無限大という(直感を裏切る)おまけつきである。
さらに驚くのは、次元によって話が変わること。
- 次元・ 次元のランダムウォークは、必ず出発点に戻る
- 次元では、戻らずに永遠にさまよう確率が ではない(戻る確率は約 )
「酔っぱらいは家に帰れるが、酔った鳥は帰れない」— 数学者のあいだで語り継がれる言い回しである。
数直線上でコインを投げる、たったそれだけの設定が、次元の深遠な違いを暴き出す。 高校の確率は、こういう世界の入口に立っている。
別解
回の表裏は 通りしかない。全部の行き先を調べて、点がどこにいるかの分布を作ってしまおう。 そこから、この問題の隠れた構造が見えてくる。
表の回数ごとに、最終位置を計算する。
| 表の回数 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 最終位置 | |||||
| 通り数 |
通り数の合計は ✓ — 全事象と一致する。
原点()にいるのは 通りだから
この表から、 つのことが読み取れる。
つ目: 分布はパスカルの三角形()。 左右対称で、中央(原点)が最も高い。原点にいる確率が最大()なのだ。「 回もふらふら歩いたのに、いちばんありそうなのは出発点」— 意外だが、そういうものである。
つ目: 到達できる位置は偶数だけ。 しかなく、 や には絶対に行けない。
なぜか。 回動くごとに、位置の偶奇が必ず入れかわるからだ。(偶)→ (奇)→ 偶 → 奇 と交互になる。だから偶数回の後は必ず偶数の位置、奇数回の後は必ず奇数の位置にいる。
この「偶奇の壁」は、とても強力な道具だ。たとえば「 回投げて原点に戻る確率は?」と聞かれたら、計算するまでもなく 。 回後は必ず奇数の位置にいて、(偶数)には絶対に立てない。パリティ(偶奇)で不可能を証明する — 整数問題やパズルでも大活躍する発想である。
つ目: これは「ランダムウォーク」の第一歩。 酔っぱらいが右へ左へふらつきながら歩く様子(酔歩とも呼ばれる)は、まさにこの問題そのものだ。
株価の変動、花粉が水面で震える現象(ブラウン運動)、分子の拡散 — 自然と社会のあちこちに、この単純なコイン投げの構造が潜んでいる。 回歩いたときの散らばりは に比例して広がる、という美しい法則も、この表を大きくしていけば見えてくる。
数直線上をふらふらする点 — その素朴な問いが、現代科学の中心的なモデルなのだ。
ポイント
- 位置の条件を「表・裏の回数」の連立方程式に置きかえる
- 原点に戻る = 表と裏が同じ回数(移動の合計が0)
- 回数が決まれば反復試行 で計算
よくある間違い
- 表・裏の回数を求めず、いきなり確率を計算しようとする
- をかけ忘れ、 だけにしてしまう
- 奇数回投げても原点に戻れると思ってしまう(1回動くごとに位置の偶奇が入れかわる)