物理 / 運動量と力積
弾性衝突で運ばれるエネルギー(中性子の減速)
問題
質量 の粒子が速さ で進み、静止している質量 の粒子に正面から衝突する。衝突は弾性衝突で、運動はすべて一直線上で起こるものとする。
(1) この衝突で に移る運動エネルギーは、はじめに がもっていた運動エネルギーの何倍か。その割合 を で表せ。
(2) を最大にする質量の比と、そのときの の値を求めよ。
(3) 原子炉では、核分裂で生じた速い中性子を減速材の原子核にぶつけてゆっくりにする。中性子の質量を 、炭素の原子核の質量を とする。中性子が炭素の原子核と正面衝突をくり返すとき、運動エネルギーをはじめの 以下にするには、少なくとも何回の衝突が必要か。、 を用いよ。
ヒントを見る
正面からの弾性衝突なので、衝突後の速さは決まった形で書ける。まず の速さを求め、エネルギーの比をつくる。式の分母と分子を で割ると、質量の比だけの関数になる。くり返しの部分は「1 回でどれだけ残るか」を先に求める。
解答・解説
方針
弾性衝突の速度の公式から の速さを出し、エネルギーの比をつくる。式は の対称な形になるので、質量の比だけの関数に直すと最大値が見える。くり返しは、1 回ごとに残る割合が一定であることに気づけば等比数列になる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「エネルギーがどれだけ移るか」と聞かれているが、エネルギーの式を直接いじっても進まない。
弾性衝突では、衝突後の速さが質量だけで決まる。まず速さを出し、それからエネルギーを組み立てるのが順序である。
(3) は一見別の問題に見えるが、同じ の使い回しである。1 回の衝突で残る割合が毎回同じなら、 回後は等比数列になる。
① 衝突後の速さ。 一直線上の弾性衝突では、運動量保存と反発係数 を連立すると次の形になる。
② エネルギーの割合。 移ったエネルギーは 、はじめのエネルギーは である。
③ 最大値。 分母と分子を で割ると、比 だけの式になる。
分母の は相加平均と相乗平均の関係から 以上で、等号は のとき。分母が最小のとき は最大だから
質量が等しいとき、エネルギーはまるごと相手に移る。このとき で、当てた側はその場で止まる。
④ くり返し。 中性子と炭素核では だから
1 回の衝突で残るのは である。これは毎回同じ割合だから、 回後のエネルギーの比は になる。
両辺の常用対数をとる。、 だから
は整数だから、少なくとも 21 回 である。
まとめ エネルギーの移りやすさは質量の比だけで決まり、同じ質量のときに になる。減速材に水素(質量がほぼ中性子と同じ)が効くのはこのためである。炭素では 1 回あたり ほどしか奪えず、20 回を超える衝突が要る。
発展 — 一歩先へ。 が の入れ替えに対して対称であることに注目したい。重い球が軽い球に当たっても、軽い球が重い球に当たっても、移る割合は同じである。「重いほうが有利」ではなく「近いほうが有利」なのがこの現象の本質で、音波が空気から水へほとんど入らないこと(音響インピーダンスの不整合)も同じ形の式で説明される。
、 のとき最大で 、21 回
別解
重心とともに動く立場で見るルート。 重心の速度は である。この立場から見ると、弾性衝突は「両者の速度の向きがそのまま反転するだけ」になる。
衝突前、この立場で は で近づいてくる。衝突後は で遠ざかる。もとの床の立場に戻すには を足せばよいから
公式を覚えていなくても、この 1 行で衝突後の速さが出る。
さらに、この見方は最大値の理由も教えてくれる。 が受け取る速さは で、 は が重いほど大きい。一方でエネルギーの割合は の大きさにも比例する。両者は逆向きに効くので、真ん中の でつり合うわけである。
ポイント
- エネルギーの移行率は f=4m₁m₂/(m₁+m₂)² で、質量の比だけで決まる
- 最大は等質量のときで f=1(当てた側は止まる)
- くり返す衝突は「毎回同じ割合が残る」ので等比数列になる
よくある間違い
- 運動量の比とエネルギーの比を取り違える(エネルギーは速さの2乗に比例する)
- 相加相乗の等号条件を確かめずに最大値を答える
- くり返しで「1回あたり f ずつ減る」と考えて等差数列にしてしまう(正しくは等比)