物理 / 運動量と力積
衝突で失えるエネルギーには上限がある
問題
なめらかな水平面上で、質量 の物体が速さ で、静止している質量 の物体に一直線に衝突する。
(1) 2つが合体して一体となった場合の速さと、失われた運動エネルギーを求めよ。
(2) 反発係数が の場合について、衝突後のそれぞれの速さと、失われた運動エネルギーを求めよ。
(3) 衝突前の運動エネルギーは、一体となって動くぶんと、たがいに近づく運動のぶんとに分けられる。それぞれの値を求めよ。
(4) この衝突でどれだけ工夫しても失えないエネルギーがあることを説明し、失えるエネルギーの最大値を答えよ。
ヒントを見る
運動エネルギーを、全体が一体で動くぶんと、たがいに近づくぶんに分けて書けないか。前者は運動量が決めてしまうので手が出せない。後者だけが衝突で削れる。
解答・解説
方針
運動量が保存する以上、衝突後も全体としては動き続けなければならない。その「全体で動くぶん」の運動エネルギーは消せない。消せるのは、たがいに近づく相対運動のぶんだけである。運動エネルギーをこの2つに分ける恒等式を作れば、上限がそのまま見える。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 衝突でエネルギーはどこまで失えるか。すべて失って両方が止まる、ということはあり得ない。運動量が保存する以上、衝突後も全体としては動き続けなければならない からである。
そこで運動エネルギーを2つに分ける。ひとつは「全体がひとかたまりで動くぶん」、もうひとつは「たがいに近づく相対運動のぶん」。前者は運動量が決めてしまうので手が出せない。削れるのは後者だけ である。
この分け方を式にしてしまえば、上限は計算せずとも読み取れる。
① 合体する場合。 運動量保存より
運動エネルギーは、衝突前が
衝突後が
失われたのは である。
② の場合。 運動量保存と反発係数の式を連立する。
第2式を第1式に代入して解くと
衝突後のエネルギーは なので、失われたのは 。合体のときより少ない。
③ エネルギーを2つに分ける。 全体がひとかたまりで動く速さは、運動量を全質量で割った である。この速さで全体が動くぶんの運動エネルギーは
残りが、たがいに近づく運動のぶんである。
じつはこれは、換算質量 と相対速度 を使って
と書ける。つまり衝突前の運動エネルギーは、いつでも
と2つに分かれる。
④ 上限。 衝突の前後で運動量は変わらないので、 も変わらない。したがって前半の は 何をしても消せない。
削れるのは後半の だけで、それを全部削り切ったのが①の合体(相対速度が になる)である。よって
一般の反発係数では、衝突後の相対速度が 倍になるので、後半のエネルギーは 倍に減る。失われるのは
なら で、②の答えと一致する。 なら で、弾性衝突では失われない。
まとめ 運動量保存は「全体で動くぶんのエネルギー」を守ってしまう。だから失えるのは相対運動のぶんだけで、その上限が である。 を持ち込むと が掛かるだけで、形は変わらない。
発展 — 一歩先へ。 ④の式は、衝突を「相対運動のエネルギーをどれだけ捨てるか」という1つの物差しで測っている。 は捨て方を決めるつまみで、 なら何も捨てず、 なら全部捨てる。
この見方は、原子核に中性子をぶつけて減速させる場面でも使われる。相手の質量を選ぶことで を変え、1回の衝突で捨てられるエネルギーの割合を大きくする、という設計になる。
(1) 、失われたのは (2) は静止、 は 、失われたのは (3) 一体で動くぶん 、たがいに近づくぶん (4) 運動量が決まっている以上、一体で動くぶんの は消せない。失える最大は
別解
衝突後のエネルギーを の2次関数として最小にするルート。 恒等式を持ち出さず、素直に最小値を探しても同じ上限が出る。
運動量保存より 。衝突後のエネルギーは
展開して整理すると
平方完成の形から、 は のとき最小で、その値は である。 のとき となり、2つが同じ速さで動く=合体した状態 に対応する。
失えるエネルギーの最大は で、③④と一致した。
こちらのルートは「なぜ合体のときが最大か」を、2次関数の頂点として目で見せてくれる。頂点の高さ が消せないぶん、頂点の位置 が全体の速さ、という対応も読み取れる。
ポイント
- 運動量が保存するので「全体で動くぶん」の運動エネルギーは消せない
- と分けると、削れるのは後半だけ
- 失われるのは 。 で最大、 で 0
よくある間違い
- 衝突で運動エネルギーを全部失えると考えてしまう。運動量が残る以上、全体は動き続ける
- 反発係数が小さいほど衝突後の速さも小さい、と一括りにしてしまう。合体しても全体は で動く
- 換算質量を や と書き間違える。分母が和、分子が積である