物理 / 運動量と力積
交差点の衝突から衝突前の速さを読む
問題
見通しの悪い交差点で、東へ進む質量 の車 A と、北へ進む質量 の車 B が出会い頭に衝突し、そのまま一体となって滑った。衝突の瞬間、A の速さは 、B の速さは であった。衝突は一瞬で、そのあいだ路面から受ける摩擦の力積は無視できるものとする。
(1) 衝突直後の一体の速さを求めよ。
(2) 一体が滑り出す向きを、東の向きから北へ測った角の正接で答えよ。
(3) この衝突で失われた運動エネルギーを求めよ。
(4) 事故の解析では、路面に残った滑り跡から (2) の向きが分かる。向きが分かると、衝突前の2台について何が分かるか述べよ。
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運動量を東向きと北向きの成分に分け、それぞれ別々に保存の式を立てる。2つの成分が求まったら、合成の大きさと向きを三平方と正接で出す。
解答・解説
方針
運動量はベクトルなので、東西と南北に分けてそれぞれ保存させる。合成した運動量を全質量で割れば衝突後の速度が出る。エネルギーは保存しないので、前後で別々に計算して引き算する。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 平面の衝突でも、やることは1次元と変わらない。運動量はベクトルなので、直交する2つの向きに分けてそれぞれ保存させる だけである。
東向きと北向きに分ければ、A の運動量は東向きだけ、B の運動量は北向きだけをもつ。衝突後は一体になるので、合成した運動量を全質量で割れば速度が出る。
エネルギーは保存しない。合体する衝突では必ず失われるので、前と後を別々に計算して引き算する。
① 衝突直後の速さ。 成分ごとに運動量を書く。
合成した大きさは三平方より
( の直角三角形になっている。)一体の質量は だから
② 向き。
東の向きから北へ約 傾いた向きである。
③ 失われた運動エネルギー。 衝突前は
衝突後は
差をとって
もとの ほどが失われた。この分が車体の変形や音になる。
④ 滑り跡から分かること。 ②の式を見ると、向きを決めているのは 2台の運動量の比だけ である。
だから滑り跡の向きが分かれば、 が読める。ここでは である。車の質量は車種から分かるので、衝突前の速さの比 が決まる。
さらに滑り跡の長さと路面の摩擦係数から衝突直後の速さが出るので、そこに①の関係を使えば、衝突前のそれぞれの速さまで逆算できる。速度計が壊れていても、路面が記録を残している。
まとめ 平面の衝突は、直交する2方向へ分けて別々に保存させる。向きは運動量の比だけで決まるので、逆にたどれば衝突前の情報が引き出せる。エネルギーの引き算は保存しないぶんを測る道具で、保存則とは役割が違う。
発展 — 一歩先へ。 ③で失われたエネルギーは、合体する衝突として最大の量である。運動量が決まっているとき、これ以上は失えない。逆に言えば、車体がつぶれて吸収できるエネルギーの上限が、この計算で決まる。
自動車の車体前部がわざとつぶれるように設計されている(クラッシャブルゾーン)のは、この をできるだけ長い時間と距離をかけて吸収し、乗員が受ける力を小さくするためである。力積が同じでも時間を伸ばせば力は小さくなる、というエアバッグと同じ考えが車体の骨格そのものに組み込まれている。
(1) (2) (東から北へ約 ) (3) (4) 2台の運動量の比 が分かる
別解
衝突後の向きを先に決めてしまうルート。 成分をていねいに計算しなくても、比だけで向きが出る。
一体になった車が進む向きは、2つの運動量ベクトルの和の向きである。和のベクトルは、 と を2辺とする長方形の対角線だから、傾きはそのまま
と分かった時点で、合成の大きさは の側、つまり
と、三平方を計算せずに書ける。 に気づけば筆算が要らない。
さらに速さも、 を割る前に見当がつく。A の運動量 を質量 で割ると 、B のぶんが 、この2つを3辺の比で合成して 。比で押し切れば、大きな数の二乗と平方根を1度も書かずに済む。
ポイント
- 運動量はベクトル。直交する2方向に分けてそれぞれ保存させる
- 合体する衝突では運動エネルギーは保存しない。前後を別々に計算して引く
- 衝突後の向きは2台の運動量の比だけで決まる。逆にたどれば衝突前の情報が読める
よくある間違い
- 運動量の大きさを単純に足してしまう。向きが違うのでベクトルとして合成する
- エネルギーも保存すると考えて、衝突後の速さを求めようとする。合体する衝突では必ず失われる
- 衝突後の向きが「速さの比」で決まると思ってしまう。決めているのは質量を掛けた運動量の比である