物理 / 運動量と力積

ボートの上を歩くとボートはどれだけ動くか

★★★★ 難関運動量保存重心内力

問題

静かな水面に、質量 、長さ のボートが浮かんで静止している。質量 の人が、ボートの一方の端に立っている。

この人がゆっくり歩いて、ボートの反対の端まで移動した。水の抵抗は無視する。

(1) 人とボートを合わせた系について、水平方向の運動量がどうなるか、理由とともに述べよ。

(2) ボートは岸に対してどちら向きに、どれだけ動くか。

(3) 人は岸に対してどちら向きに、どれだけ動くか。

(4) 人が速く歩いた場合と、ゆっくり歩いた場合とで、(2)(3) の答えは変わるか。

水面人 60 kgボート 120 kg長さ 3.0 m端から端へ歩く
静かな水面に浮かぶボートの端に人が立っている。ここから反対の端まで歩く
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人とボートを1つの系とみると、水平方向に外から力がはたらいていない。はじめ静止しているので、そのあとも系の「ある点」は動かない。その点を式に書き、人がボートに対して L だけ動いたという条件と組み合わせる。

解答・解説

方針

人がボートを蹴る力とボートが人を押し返す力は内力どうしで、系全体の運動量を変えない。はじめ静止していたので、運動量はずっと 0 のままである。運動量が 0 のままということは、系の重心が動かないということでもある。あとは「人のボートに対する移動が L」という条件と合わせて連立する。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 人が歩けばボートを後ろへ蹴る。ボートは人を前へ押し返す。この2つは作用と反作用で、系の内側でやりとりされる 内力 である。

内力は系全体の運動量を変えない。水平方向には外から力がはたらかないので、はじめ 0 だった運動量はずっと 0 のまま である。

運動量が 0 のままということは、系の重心が動かないということでもある。そこで「重心が動かない」と「人はボートに対して だけ移動した」の2本を連立する。速さや歩き方は式に出てこない。ここが答えの形を決める。

① 運動量。 水平方向に外力がないので、人とボートを合わせた運動量は保存する。はじめ両方とも静止していたから、その値は である。歩いているあいだも、人の運動量とボートの運動量は大きさが等しく向きが逆で、和は を保つ。

② ③ 変位。 岸を基準にして、人の変位を 、ボートの変位を とする(人の進む向きを正とする)。運動量が常に なので、それを時間で足し合わせた変位についても

が成り立つ。これは「重心が動かない」と言っているのと同じである。

重要内力しかはたらかない系では、重心は静止したまま(または等速で動いたまま)である

もう1本は、人がボートの端から端まで歩いたという条件である。ボートに対する人の変位が だから

はじめの人あとの人ボートは左へ 1.0人は右へ 2.0重心はここから動かない
重心を動かさないまま、人は右へ 2.0 m、ボートは左へ 1.0 m 動く。変位の比 2:1 は質量の逆比

2本を連立する。第1式より 、すなわち 。これを第2式に入れて

ボートは人の進む向きと逆に 、人は岸に対して進む向きに 動く。 変位の大きさの比 は、質量の比 の逆になっている。

④ 歩く速さによるか。 ②③の式に速さも時間も出てこない。出てきたのは質量と長さだけである。したがって 速く歩いてもゆっくり歩いても結果は同じ である。

途中で止まればそこで両方止まる。走ってから急に止まっても、行き着く先は変わらない。

まとめ 内力だけの系では重心が動かない。この1本と「相対的にどれだけ動いたか」を組み合わせると、途中の運動を一切追わずに最終位置が出る。速さが答えに出てこないのは、重心の条件が時間を含まないからである。

発展 — 一歩先へ。 同じ理屈は宇宙でも成り立つ。宇宙船の中で乗員が船首から船尾へ移動すると、船は逆向きにわずかに動く。乗員が戻れば船も戻る。内力だけでは重心を動かせないので、いくら中で暴れても宇宙船は目的地に近づけない。 ロケットが推進剤を外へ捨てるのは、系の外へ運動量を持ち出す以外に方法がないからである。

(1) 外力がはたらかないので のまま保たれる (2) 人の進む向きと逆に (3) 人の進む向きに (4) 変わらない

別解

速度の式から積み上げるルート。 重心の考えを使わず、運動量保存の式をそのまま時間で追ってもよい。

歩いているあいだ、ある瞬間の人の速度を 、ボートの速度を とすると

どの瞬間をとってもボートの速さは人の速さのちょうど半分で、向きは逆 である。速さが変わっても比は変わらない。

比が一定なら、それぞれの速度を歩いているあいだ足し合わせた変位についても、同じ比が成り立つ。

これと を連立すれば、 が出る。

このルートだと ④ の答えが途中で見えてくる。比が速さによらず一定だから、歩き方を変えても結果が変わらない のである。重心を持ち出すルートが「時間を消す」のに対し、こちらは「時間が消える理由」を見せている。

ポイント

  • 内力しかはたらかない系では、全体の運動量が保たれ、重心は動かない
  • の連立。変位の比は質量の逆比
  • 式に時間も速さも入らないので、歩き方によらず結果は同じ

よくある間違い

  • ボートが動かないものとして、人が 動くと答えてしまう。ボートも逆向きに動く
  • 「人はボートに対して 動いた」という条件を、岸に対する変位と混同する
  • 速く歩けばボートが大きく動く、と考えてしまう。速度の比が一定なので変位の比も一定である