物理 / 運動量と力積

ゆりかごの球はなぜ1個だけ飛ぶのか

★★★★ 難関弾性衝突運動量保存論証

問題

同じ質量 の金属球を5個、糸で吊るして一列に接して並べる(ニュートンのゆりかご)。球どうしの衝突は弾性衝突とみなし、糸や空気による損失は無視する。

端の1個だけを持ち上げて放し、速さ で列に当てた。反対の端から球が飛び出す。

(1) 「反対の端の1個だけが速さ で飛び出す」場合の、飛び出す球の運動量と運動エネルギーを求めよ。

(2) 「反対の端の2個が速さ で飛び出す」場合はどうか。運動量と運動エネルギーを求め、これが起こらない理由を述べよ。

(3) 端から2個を持ち上げて、速さ で当てた。何個がどんな速さで飛び出すか。

(4) 一般に 個を速さ で当てたとき、 個が速さ で飛び出すとする。 を求めよ。

v で当てる?
同じ質量の球を接して並べ、端の1個を速さ v で当てる(球は5個。図では手前の1個と列を示した)
ヒントを見る

「2個が半分の速さで」でも運動量はつじつまが合う。ではもう1つの保存量はどうなるか。2本の式を連立して、飛び出す個数と速さを未知数として解いてみる。

解答・解説

方針

運動量だけを見ると、飛び出し方の候補はいくらでもある。しかし弾性衝突では運動エネルギーも保存しなければならない。2つの条件を同時に課すと、候補が1つに絞られる。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「1個当てたら1個飛ぶ」は当たり前に見えて、実は当たり前ではない。運動量だけを見れば「2個が半分の速さで」でもつじつまは合うからである。

決め手になるのは、弾性衝突ではもう1つ、運動エネルギーも保存するという条件である。運動量とエネルギーの2本を同時に満たす飛び出し方は1つしかない。 これを示すのがこの問題の中身である。

未知数を「飛び出す個数」と「その速さ」の2つにとり、保存則2本で連立する、という形にもちこむ。

① 1個が速さ で飛び出す場合。

当てた球のもっていた値とどちらも一致する。

② 2個が速さ で飛び出す場合。

運動量は同じである。ところが運動エネルギーは

となり、はじめの 半分 しかない。

0.20 J当てた1個0.20 J1個が v で0.10 J2個が v/2 で
運動量はどちらも 0.20 kg·m/s で同じだが、運動エネルギーは「2個が半分の速さ」だと半分に減ってしまう

弾性衝突では運動エネルギーが減らないので、この飛び出し方は起こらない。エネルギーの残り半分が消えてしまうからである。

重要運動量が同じでも、質量を増やして速さを分けると運動エネルギーは減る。 と書けば、同じ では が大きいほど が小さいことが一目で分かる

③ 2個を当てたとき。 ①②と同じ検討をすればよい。当てた側の運動量は 、運動エネルギーは である。

2個が速さ で飛び出せば、運動量 、運動エネルギー でどちらも合う。よって 2個が速さ で飛び出す

④ 一般の場合。 個を速さ で当て、 個が速さ で飛び出すとする。2本の保存則は

第1式より 、第2式より 。第2式を第1式で割ると

これを第1式に戻して 当てた個数と同じ数だけが、同じ速さで飛び出す。 候補は1つしかない。

まとめ 保存則が2本あることが効いている。運動量だけなら答えは無数にあるが、エネルギーを重ねると一意に決まる。「1個当てたら1個」は、2本の式を割り算した結果である。

発展 — 一歩先へ。 ④の論法は「飛び出す球がすべて同じ速さ」という前提を置いている。本当は、球ごとに速さが違う場合まで含めて考える必要がある。その場合も、運動量とエネルギーを同時に満たす解は「当てた側と同じ組」しかないことが示せる。

実際のゆりかごでは球がわずかに離れていたり、金属が完全な弾性体ではなかったりするため、数回往復すると全部の球が少しずつ揺れ始める。理想の話がきれいに成り立つのは最初の数回だけである。

(1) (2) 運動量は で同じだが運動エネルギーが と半分になり、弾性衝突では起こらない (3) 2個が速さ (4)

別解

2個の弾性衝突を順に追っていくルート。 保存則の連立を使わず、隣どうしの衝突を1回ずつ追っても同じ結論に達する。

等質量の弾性衝突では、2つの球は 速度を交換する。これは1次元の弾性衝突の式に を入れれば出る。

そこで1個目が2個目に当たると、1個目が止まり2個目が で動く。2個目は3個目に当たって止まり、3個目が で動く。これが端まで伝わり、最後の球だけが で飛び出す。

vv速度が右へ伝わる
等質量の弾性衝突は速度の交換。1個ずつ「動いてすぐ止まる」が列を伝わり、端の1個だけが飛び出す

途中の球は「一瞬だけ で動いてすぐ止まる」ので、外から見ると動いていないように見える。動きではなく、速度が列を伝わっていく と読むほうが実際に近い。

この見方だと ③ も自然に分かる。2個で当てれば、速度の交換が2つぶん伝わって反対端の2個が動き出す。連立を解くルートが「なぜそれしかないか」を示すのに対し、こちらは「どのように起こるか」を示している。

ポイント

  • 運動量だけでは飛び出し方が決まらない。弾性衝突ではエネルギーも保存する
  • 同じ運動量なら より、質量が大きいほど運動エネルギーは小さい
  • 2本の保存則を割り算すると が出る。当てた数だけ同じ速さで飛ぶ

よくある間違い

  • 運動量が合っているから正しい、と判断してしまう。弾性衝突では条件が2本ある
  • 「2個が 」のエネルギーを と書くところで、 を掛け忘れたり二重に掛けたりする
  • ④で「同じ速さで飛び出す」という前提を置いたことを意識せずに、完全な証明だと思ってしまう