物理 / 気体の熱力学
音速が語る気体の性質
問題
気体中を伝わる音の速さは
で与えられる。ここで は比熱比 、 はモル質量である。
空気を二原子分子とみなすと 、 である。、 とする。
(1) での音速を求めよ。
(2) ニュートンは、音波の圧縮と膨張が等温的に起こると考えて計算した。これは上の式で を とすることにあたる。その値を求め、実測値 と比べよ。
(3) 実際には音波の圧縮・膨張は断熱的に起こる。その理由を述べよ。
(4) ヘリウム(、)中の音速を求めよ。ヘリウムを吸って声が変わる理由を説明せよ。
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を にすると値はどれだけ変わるか。音波の圧縮はどれくらいの速さで起きているか。
解答・解説
方針
式に数値を入れるだけだが、 を とした場合との差が になることに注目する。実測と比べると、音波が断熱的であることが逆に確かめられる。ヘリウムでは も も変わる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 音速の式には が入っている。つまり音速を測れば、気体の比熱比という「熱の性質」が分かることになる。
歴史的にはこれが逆に働いた。ニュートンは等温を仮定して計算し、実測と ほど合わなかった。その食い違いが「音波は断熱変化である」ことを教えたのである。
計算そのものは代入だけだが、値の意味を読むことがこの問題の中身になる。
① 空気中の音速。
実測の とよく合う。
② 等温として計算すると。 とすると
実測より ほど小さい。 つの値の比は
食い違いはちょうど 倍である。
③ なぜ断熱か。 音波では、圧縮された部分と膨張した部分が半波長ごとに交互に並ぶ。可聴音なら半波長は数十 cm から数 m である。
圧縮された部分は温度が上がり、膨張した部分は下がる。この温度差がならされるには熱が伝わる必要があるが、空気の熱伝導は遅い。
一方、音の振動は 秒に数百回から数千回もくり返される。熱が伝わるひまがないうちに次の圧縮が来るので、実質的に断熱変化とみなせる。
④ ヘリウム中の音速。
空気の約 倍である。
声が変わるのは、声帯の振動数が変わるからではない。声帯の振動数はほぼ同じで、変わるのは口や喉の空洞の共鳴振動数である。
共鳴の振動数は に比例するので、音速が 倍になれば共鳴の振動数も約 倍になる。その結果、声に含まれる高い成分が強調されて、あの独特の声になる。
まとめ 音速の式には気体の性質( と )が両方入っている。だから音速を測ることは、気体の熱的な性質を測ることでもある。
発展 — 一歩先へ。 ② の食い違いを解決したのはラプラスである( 年)。ニュートンの計算から約 年後のことだった。
この という差は、当時の測定精度でも十分に見える大きさだった。「理論と実測が合わない」ことが、気体の断熱変化という新しい理解に導いたのである。
物理では、精密な測定が理論の欠陥を暴くという場面がくり返し現れる。水星の近日点移動が一般相対論を、黒体放射のずれが量子論を呼び込んだのと、同じ構図である。
、等温とすると で実測と合わない、圧縮・膨張が速すぎて熱が逃げる時間がない、ヘリウムでは約
別解
温度計として使うルート。 音速の式を について解くと、音速から温度が測れる。
音速は「距離 ÷ 時間」で精密に測れるので、これは接触せずに気体の温度を測る方法になる。
たとえば を測ったとすると
温度計を差しこめない高温の炉の中や、燃焼中のガスの温度を測るのに、この原理が使われている(音響温度計)。
また なので、温度が 変わると音速は 変わる。 で 、 で という日常的な値も、この関係から出てくる。
つの式を「何を測って何を知るか」の向きを変えて読むと、道具としての使い道が見えてくる。
ポイント
- v=√(γRT/M)。γ は圧縮が断熱であることの現れ
- 等温とすると √γ=1.18 倍だけ小さくなり、実測と合わない
- 音の振動が速すぎて熱が逃げられないので断熱
- ヘリウムでは音速が約 3 倍。声が変わるのは共鳴振動数が上がるため
よくある間違い
- ヘリウムで声が高くなるのは声帯の振動が速くなるからだと考える(変わるのは共鳴)
- モル質量を g/mol のまま代入する(kg/mol に直す)
- 音速が圧力に依存すると考える(P と ρ の比で効くので、温度だけで決まる)