物理 / 気体の熱力学
大気の圧力はなぜ高さとともに減るか
問題
大気の温度がどの高さでも で一定だとする。高さ での圧力を 、空気のモル質量を 、重力加速度の大きさを 、 とする。
高さ から までの、断面積 の薄い空気の層を考える。
(1) この層にはたらく力のつり合いから、 を、その層の空気の密度 を用いて表せ。
(2) 理想気体の状態方程式から、密度が と書けることを示せ。
(3) (1) と (2) から が得られる。この関係を満たす関数は の形であり、 である。 の値を求めよ。
(4) 富士山の山頂()での気圧は、地上の何 か。 とする。
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薄い層は何によって支えられているか。密度は圧力とどう結びつくか。
解答・解説
方針
薄い層を切り出して、上下の圧力による力と重力のつり合いを書く。密度を状態方程式で圧力に置きかえると、「変化率がその量自身に比例する」形になり、指数関数が現れる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「上に行くほど気圧が下がる」ことは知っているが、どんな減り方をするのか。
薄い層を切り出して力のつり合いを書けば、 段ぶんの減り方が分かる。そこに状態方程式を入れると、密度が圧力に置きかわる。
すると「圧力の減り方が、その場所の圧力に比例する」という形になる。この形が現れたら答えは指数関数である。減り方が量自身に比例する現象——放射性崩壊やコンデンサーの放電と同じ構造をしている。
① 層のつり合い。 厚さ 、断面積 の層にはたらく力は つである。
下面が上向きに押す力 、上面が下向きに押す力 、そして重力 である。
気圧の差が、その上に乗っている空気の重さを支えている。
② 密度と圧力。 状態方程式 で、( は質量)とおく。
左辺が密度だから である。
③ 指数関数とスケールハイト。 ① に ② を代入する。
変化率が 自身に比例するので、解は指数関数 になる。
約 上がるごとに、気圧は 倍になる。
④ 富士山頂。
約 である。実際の富士山頂の気圧は地上の ほどで、この見積もりとよく合う。
まとめ 薄い層のつり合いと状態方程式だけで、大気の圧力分布が指数関数になることが導ける。 は「温度が高いほど、分子が軽いほど、大気は高くまで広がる」ことを表している。
発展 — 一歩先へ。 は、モル質量 が小さいほど大きい。だから軽い気体ほど上空まで多く分布する。
実際、高度 を超えると大気の主成分は窒素や酸素からヘリウムや水素に移り変わる。地球の大気の組成が高度で変わるのは、この式の帰結である。
また、実際の大気は上空ほど温度が低いので、 を一定とした今回の計算は近似である。それでも 程度まではよく合う。「まず等温として見積もり、必要なら温度分布を入れる」というのが、この種の見積もりの定石である。
、、、山頂では約
別解
分子の分布として見るルート。 同じ結果は、分子 個のエネルギーから読み取ることもできる。
高さ にある分子 個は、地上より だけ大きい位置エネルギーをもつ( は分子 個の質量)。
熱平衡にある気体では、エネルギーが だけ高い状態にいる分子の割合は に比例する(ボルツマン分布)。したがって高さ での数密度は
圧力は数密度に比例する()ので、圧力も同じ形で減る。
指数の中身を見比べると
( に を掛けると 、 に を掛けると になる。)
力のつり合いから出発しても、分子のエネルギー分布から出発しても、同じ にたどりつく。マクロな力学とミクロな統計が同じ答えを与えるのは、熱力学の面白いところである。
ポイント
- 薄い層のつり合い: 気圧差がその層の重さを支える
- 密度は状態方程式から ρ=MP/RT
- 変化率が量自身に比例 → 指数関数
- H=RT/(Mg)≈8.8 km。温度が高く分子が軽いほど大気は高く広がる
よくある間違い
- 気圧が高さに比例して減ると考える(指数関数)
- 密度を一定として計算する(密度も高さで変わる)
- スケールハイトを「大気の厚さ」と誤解する(1/e になる高さ)