物理 / 気体の熱力学

断熱自由膨張

★★★ 応用断熱変化熱力学第1法則

問題

断熱容器が仕切りで 2 室に分けられ、片側(容積 )に温度 、圧力 の理想気体、もう片側(容積 )は真空である。仕切りを取り除いて気体を容器全体(容積 )に広げた。(1) 気体がした仕事 (2) 膨張後の温度 (3) 膨張後の圧力 を求めよ。また、この結果が「断熱膨張では温度が下がる」という原則と矛盾しない理由を述べよ。

気体 300 K1.0×10⁵ Pa・V真空 V断熱容器(仕切りを取り除く)
仕切りの向こうは真空。取り除くと気体は全体に広がる
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気体が仕事をするのは「何かを押しのける」とき。真空に広がるとき、押しのける相手はいるか。第 1 法則の 3 つの量を 1 つずつ確定させると、意外な結論が待っている。

解答・解説

方針

真空への膨張は押す相手がいない→W=0。Q=0 とあわせ ΔU=0→T 不変。P はボイルで半分。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「断熱膨張だから冷える」と即答したくなるが、この膨張には押す相手がいない。仕事の定義に立ち返って第 1 法則を 1 項ずつ確定させる——思い込みを裏切る有名問題である。

① 仕事。 気体が広がる先は真空。ピストンも大気もなく、押しのける相手がいないから

② 温度。 断熱で 、仕事も 。第 1 法則より

は温度だけで決まるから、温度は変わらない:

③ 圧力。 温度一定・体積 2 倍のボイルの法則で

④ 矛盾しない理由。 通常の断熱膨張が冷えるのは、ピストンを押す仕事にエネルギーを支払うからである。自由膨張は支払いゼロ——広がっても内部エネルギーが 1 円も減らないので、温度は下がらない。

まとめ 「膨張=冷える」ではなく「仕事をした膨張=冷える」が正しい因果である。分子の絵で言えば、退いていく壁に当たって減速するのが通常の断熱膨張、壁がそもそも消えるのが自由膨張——分子は誰にも減速されずに広がるだけである。この区別を一度自分の言葉で言えれば、断熱系の正誤問題は怖くない。

(1) (真空を押しても仕事ゼロ) (2) (不変) (3) 。ピストンを押す通常の断熱膨張と違い、仕事をしていないので内部エネルギーが減らない

別解

「理想気体だから」の但し書きに注目するルート(発展)。 実在気体では、分子どうしにわずかな引力がある。自由膨張で分子間距離が広がると、引力に逆らって離れる分の位置エネルギーが増え、その分だけ運動エネルギー(温度)がわずかに下がる(ジュール・トムソン効果の親戚)。

「理想気体の自由膨張で温度不変」という結論は、分子間力を無視した理想化の帰結である。この温度降下を積極的に使うと気体は液化できる——空気の液化・液体窒素製造の原理につながっている。

ポイント

  • 真空への膨張は W=0
  • Q=0 かつ W=0 → T 不変
  • 冷えるのは「仕事をした」断熱膨張

よくある間違い

  • 断熱の連想で温度が下がるとする
  • W=PΔV で仕事を計算してしまう(押す相手がいない)
  • 圧力も不変とする