物理 / 電流と磁場

半回転で 1 点に集まる(方向集束)

最難関編円運動幾何質量分析

問題

直線の境界より下側だけに、紙面の表から裏へ向かう一様な磁場がある。境界上の点 S から、同じ速さの正の粒子が下向きに打ちこまれる。粒子は磁場の中で円を描き、境界にもどってくる。

打ちこむ向きが境界に垂直な向きからずれる角を とする。どの粒子も軌道半径は である。

S磁場の領域α だけばらつく
境界の下側だけに磁場がある。点 S から、向きが少しずつばらついた粒子が同じ速さで打ちこまれる。

(1) の粒子が境界にもどる位置は、S から何 m のところか。

(2) 一般の について、もどる位置が S から の距離であることを示せ。

(3) の粒子は、 の粒子のもどる位置から何 mm ずれるか。 とする。

(4) もし到達点のずれが の 1 次に比例していたとすると、そのずれの目安は である( はラジアン)。(3) の答えと比べて、この装置が「打ちこむ向きが多少ばらついても 1 点に集まる」といえる理由を説明せよ。

ヒントを見る

円の中心はどこにあるか。入射の向きが傾くと、中心はどう動くか。境界と円の交点は、中心の位置から決まる。

解答・解説

方針

円の中心の位置を で表すのが要点である。中心は入射方向に垂直な向きに だけ離れた点にある。境界に沿った向きの座標が になるので、円と境界のもう 1 つの交点は に決まる。 が偶関数であることが最後の効き目になる。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「半回転してもどる」という言葉につられて、いつも 進むと決めつけると、この問題の面白さが消える。

軌道の円の中心は、入射の向きに垂直な方向へ だけ離れた点にある。入射の向きが傾けば、中心も傾いて動く。

境界と円の交点は中心の位置だけで決まるから、中心を で表せば答えが出る。そして出てきた式に が現れることが、この装置の値打ちにつながる。

① まっすぐ打ちこんだ場合。 なら中心は境界上にあり、S から の位置である。円は境界と 2 点で交わり、その距離は直径に等しい。

② 一般の角で打ちこんだ場合。 S を原点、境界を 軸、磁場のある側を とする。入射の速度が 軸の負の向きから角 傾いているとき、円の中心は速度に垂直な向きに だけ離れた点だから

円の式に を代入する。

(出発点 S)ともう 1 つの交点

が得られる。

S3 本ともほぼ同じ点にもどる
α=0(青)と α=±10°(赤)の軌道。半回転して境界にもどる位置は 2r cos α で、3 本の差はわずか 6 mm しかない。

③ ずれの大きさ。 のとき

である。 は偶関数なので、 でも同じ側に同じだけずれる。

④ なぜ 1 点に集まるといえるか。 もしずれが の 1 次で効いていたら

程度になるはずである。実際のずれ はその約 しかない。

理由は式の形にある。 の偶関数で、 が小さいとき

と 2 次からしか効かない。1 次の項が消えているので、多少の角のばらつきは大きく圧縮される。これを方向集束という。

まとめ 「半回転して 2 点で交わる」という単純な幾何から が出る。 が偶関数であること、それだけが方向集束の正体である。

発展 — 一歩先へ。 これが 偏向型の質量分析器で使われる幾何である。イオン源から出るイオンの向きは細かくばらつくが、半回転させると同じ場所に集まるので、細いスリットで受けられる。

ただし集まるのは「向きのばらつき」に対してだけである。速さがばらつくと 自体が変わり、こちらは 1 次で効いてしまう。だから速度選択器と組み合わせて速さをそろえてから入れる。

、ずれは約 の約 で、 の 1 次の項が消えるため

別解

接弦定理を使うルート。 座標を置かずに、円の性質だけで を出せる。

粒子の軌道は円で、S と到達点を結ぶ線分(境界に沿う線)はその円の弦である。入射の速度の向きは、S における円の接線の向きに等しい。

定理接弦定理 弦と接線のなす角は、その弦に対する円周角に等しい

弦と入射方向のなす角は、入射が法線から 傾いているので である。円周角と中心角の関係から、この弦の中心角は となる。

中心角 の弦の長さは だから

座標計算をしなくても、図形の定理 1 本で同じ式に到達できる。円運動の問題は「弦・中心角・接線」の言葉に翻訳すると、こうして幾何の道具が使えるようになる。

ポイント

  • 円の中心は入射方向に垂直な向きに r だけ離れた点にある
  • もどる位置は 2r cos α で、α の 1 次の項をもたない
  • 1−cos α ≈ α²/2 なので、向きのばらつきは 2 乗で圧縮される(方向集束)
  • 集束するのは向きに対してだけで、速さのばらつきは 1 次で効く

よくある間違い

  • どの粒子も 2r の位置にもどると決めつける(それは α=0 のときだけ)
  • α が負のときは反対側にずれると考える(cos は偶関数なので同じ側に同じだけ)
  • ずれを 2rα と見積もる(1 次の項は現れず、実際は 2 次)