物理 / 電流と磁場
サイクロトロン — 半径は √n、時間は n
問題
サイクロトロンは、一様な磁束密度 の磁場の中に置かれた 2 つの D 字形電極(ディー)と、そのすきまにかけた高周波電圧からなる。荷電粒子はすきまを通るたびに電圧 で加速され、ディーの内部では磁場だけを受けて半円を描く。
陽子が中心付近で速さがほぼ の状態から出発し、軌道半径が に達したところで取り出される。陽子の質量を 、電気量を とし、すきまを通過する時間は無視する。
(1) ディーの中を回る陽子の周期を求めよ。またそれが速さによらないことを、式を用いて示せ。
(2) 回目の加速を終えた直後の軌道半径 が に比例することを示せ。
(3) 取り出すまでに何回の加速が必要か。またそのときの運動エネルギーを、J と MeV の両方で答えよ。
(4) 出発から取り出しまでにかかる時間を求めよ。また、軌道半径が最大の半分になるのは、この時間のうち何 が過ぎたときか。
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磁場中の円運動で、速さが変わると半径も周期も変わるだろうか。1 回の加速で増える量は何か。半径と時間で、 への依存の仕方が違うことに注目したい。
解答・解説
方針
速さを 1 回ずつ追いかけるのではなく、「1 回の加速で増えるエネルギーが一定」という点から出発する。エネルギーは回数に比例し、半径はエネルギーの平方根に比例するので、半径は に比例する。時間のほうは、周期が速さによらないので回数にそのまま比例する。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 加速のたびに速さが増えるので、まともに追うと大変そうに見える。
しかし磁場中の円運動には特別な性質がある。周期が速さによらないのである。だから「何回まわったか」さえ分かれば、時間は掛け算で出る。
そしてエネルギーは 1 回の加速ごとに一定量ずつ増える。半径はエネルギーの平方根に比例するから 、時間は回数そのものに比例して 。この「 と のずれ」が問題の骨格である。
① 周期が速さによらないこと。 磁場中の円運動では、磁場から受ける力が向心力になる。
一周の時間は円周を速さで割ればよい。
右辺に が残っていない。速くなれば半径も同じ比で大きくなるので、一周にかかる時間は変わらない。
② 半径は に比例する。 1 回の加速で得るエネルギーは で一定である。 回目の加速を終えた直後の運動エネルギーは
速さは だから
以外はすべて定数なので、 である。
③ 加速の回数とエネルギー。 取り出すときの速さは、半径の式から出す。
これを 回あたりの で割る。
回の加速が必要である。エネルギーを電子ボルトに直すと、 だから
④ 時間の配分。 加速と加速のあいだにディーの中で描くのは半円で、その時間はどれも である。 回の加速のあいだに半円を 個描くから
半径が最大の半分になるのは、 より
時間は回数に比例するので、 が過ぎた時点である。
半分の半径に達するまでに時間の 分の しか使わず、残りの 分の で外側の広い部分を回る。
まとめ 半径は 、時間は に比例する。外側の円は大きいのに 1 周の時間は内側と同じで、そのぶん「外側にいる時間の割合」が大きくなる。周期が速さによらないという 1 つの事実が、加速のしくみ(一定の振動数の電圧でよい)と時間の配分の両方を決めている。
発展 — 一歩先へ。 ここでは古典力学で計算した。取り出すときの速さは光速の で、まだ相対論の効果は小さい。
しかしエネルギーをさらに上げると、質量が増えたようにふるまい、周期 が伸びる。すると一定の振動数の電圧では同期が保てなくなる。これがサイクロトロンの限界で、振動数や磁場を時間とともに変えるシンクロトロンが必要になる理由である。
(速さによらない)、、 回で 、 で
別解
「回数」を横軸にとって全体を眺めるルート。 ③ の計算をせずに、比だけで見通す方法もある。
なので、最終半径 を使えば
と書ける( は全加速回数)。この式は「半径の伸びは最初が急で、あとほど鈍る」ことを表している。1 回目の加速で早くも最大半径の に達する。
一方、時間は回数に比例するので、横軸を時間にとった半径のグラフは の形になる。
このグラフを見ると、④ の という答えが計算なしで読める。半径が半分になるのは縦軸が のところで、 曲線ではそれが横軸の にあたるからである。
「 のグラフでは、縦が半分になるのは横が 」という関係を覚えておくと、この種の問いは一目で片づく。
ポイント
- 磁場中の円運動の周期は速さによらない(だから一定の振動数で加速できる)
- 1 回の加速で増えるエネルギーが一定なので、K は n に比例、半径は √n に比例
- 時間は回数に比例するので、半径が半分になるのは全時間の 1/4 の時点
- エネルギーの eV 換算は J を電気素量で割るだけ
よくある間違い
- 半径が大きくなると 1 周に時間がかかると考える(速さも同じ比で増えるので周期は同じ)
- 半径が回数に比例すると思い込む(比例するのはエネルギーで、半径はその平方根)
- 加速の回数と回転数を取り違える(1 回転で 2 回加速される)