物理 / 平面内の運動
流れのある川を往復するとどうなるか
問題
静水では速さ で進むボートがある。川はまっすぐで、流れの速さはどこでも 、川幅は である。
次の2つのコースを、いずれもボートの速さを最大にして往復する。
- コース A: 岸に沿って上流へ 進み、出発点へ戻る。
- コース B: 真向かいの岸へ 渡り、出発点へ戻る。
(1) コース A の往復にかかる時間を求めよ。
(2) コース B の往復にかかる時間を求めよ。
(3) 流れがまったくないとき、往復にかかる時間を求めよ。
(4) 一般に、静水での速さを 、流れの速さを ()、片道の距離を として、A と B の往復時間を表せ。また、どちらも流れがないときより長くなることを示せ。
ヒントを見る
上りで損した時間は、下りで取り返せるだろうか。横断のときボートはどちらを向いているか、速度の三角形を描いてみる。
解答・解説
方針
上りと下りでは岸に対する速さが と になる。往復時間は2つの時間の和で、速さの平均ではなく時間の和で考えるのが要点である。横断では、流されないように上流へ向けて漕ぐので、岸に対する速さは になる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「行きは遅く、帰りは同じだけ速いのだから、往復では帳消しになる」と考えたくなる。これが落とし穴である。
遅い区間には長い時間いて、速い区間はすぐ終わる。損する時間のほうが長く効く ので、往復すると必ず遅くなる。
横断のほうは、流されずに真向かいへ着くために、ボートを少し上流へ向けて漕ぐことになる。すると岸に対する速さは より小さい になる。これも損である。
どちらも損だが、損の大きさが違う 。そこがこの問題の面白いところである。
① コース A(上流へ往復)。 岸に対する速さは、上りが 、下りが である。
上りだけで もかかり、下りの では取り返せない。
② コース B(横断の往復)。 真向かいへ着くには、流されるぶんを打ち消すようにボートを上流へ向ける。ボートの速度 を斜辺、流れ を1辺とする直角三角形ができ、岸に対する速度は残りの辺になる。
の三角形である。行きも帰りも同じ だから
③ 流れがないとき。
である。流れがあると、縦の往復も横の往復も遅くなる。しかも 縦のほうがもっと遅い 。
④ 文字で書く。 上り 、下り だから
横断は
流れがないときの で割ると、形がそろう。 とおくと
では だから、どちらの比も より大きい。流れは必ず時間を増やす。
さらに だから である。数値で確かめると のとき
、 となり、①②と合う。
まとめ 往復の平均の速さは、速さの平均ではない。遅いほうに長くいる ぶん、必ず遅い側へ引っぱられる。横断では速度の三角形が使え、直角に分けたぶんだけ損が小さくてすむ。
発展 — 一歩先へ。 この「縦の往復と横の往復では時間が違う」という結論は、物理の歴史でとても有名な役を演じた。
光を伝える媒質(エーテル)があると信じられていたころ、地球はその中を動いているはずだから、地球の進む向きに光を往復させたときと、直角の向きに往復させたときとで、時間に差が出る と考えられた。差は の程度で、ちょうどこの問題の と の違いにあたる。
マイケルソンとモーリーはこの差を光の干渉で測ろうとして、差が見つからなかった 。川とボートの常識が光には通用しないことが分かり、そこから相対性理論が生まれた。この問題は、その原型そのものである。
(1) (2) (3) (4) 、。 に対し 、 で、いずれも より大きい()
別解
比だけで考えるルート。 数値を1つずつ計算せずに、流れのないときを基準にした比で考えると、構造が先に見える。
流れの速さと船の速さの比を とおく。
上りの速さは 、下りは である。往復の時間は片道の時間 を単位にすると
流れがなければ だから、 倍である。
横断は 倍の速さなので、時間は 倍になる。
基準の往復時間 に掛けて
この見方だと、答えが にも にも本質的には依存せず、比 だけで決まる ことがはっきりする。 が に近ければどちらの損もごくわずかで、 が に近づくと縦の往復だけが急激に発散する。流れの速さが船の速さに追いつくと、上流へは永久にたどり着けない。
ポイント
- 往復の時間は速さの平均では出ない。遅い区間に長くいるぶん必ず損をする
- 横断で真向かいへ着くときの岸に対する速さは
- 、。縦の往復のほうが損が大きい
よくある間違い
- 上りと下りの速さの平均 を使って往復時間を出してしまう。平均すべきは速さではなく、時間を足すこと
- 横断のときボートを真横に向けたまま計算してしまう。それでは流されるので、真向かいには着かない
- 横断の速さを としてしまう。直角に交わる向きなので、引き算ではなく三平方の定理