物理 / 平面内の運動

流れのある川を往復するとどうなるか

★★★★ 難関相対速度往復

問題

静水では速さ で進むボートがある。川はまっすぐで、流れの速さはどこでも 、川幅は である。

次の2つのコースを、いずれもボートの速さを最大にして往復する。

  • コース A: 岸に沿って上流へ 進み、出発点へ戻る。
  • コース B: 真向かいの岸へ 渡り、出発点へ戻る。

(1) コース A の往復にかかる時間を求めよ。

(2) コース B の往復にかかる時間を求めよ。

(3) 流れがまったくないとき、往復にかかる時間を求めよ。

(4) 一般に、静水での速さを 、流れの速さを ()、片道の距離を として、A と B の往復時間を表せ。また、どちらも流れがないときより長くなることを示せ。

流れ 3.0 m/s出発点AB川幅 120 m
2つの往復コース。A は岸に沿って上流へ、B は真向かいの岸へ渡る
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上りで損した時間は、下りで取り返せるだろうか。横断のときボートはどちらを向いているか、速度の三角形を描いてみる。

解答・解説

方針

上りと下りでは岸に対する速さが になる。往復時間は2つの時間の和で、速さの平均ではなく時間の和で考えるのが要点である。横断では、流されないように上流へ向けて漕ぐので、岸に対する速さは になる。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「行きは遅く、帰りは同じだけ速いのだから、往復では帳消しになる」と考えたくなる。これが落とし穴である。

遅い区間には長い時間いて、速い区間はすぐ終わる。損する時間のほうが長く効く ので、往復すると必ず遅くなる。

横断のほうは、流されずに真向かいへ着くために、ボートを少し上流へ向けて漕ぐことになる。すると岸に対する速さは より小さい になる。これも損である。

どちらも損だが、損の大きさが違う 。そこがこの問題の面白いところである。

① コース A(上流へ往復)。 岸に対する速さは、上りが 、下りが である。

上りだけで もかかり、下りの では取り返せない。

② コース B(横断の往復)。 真向かいへ着くには、流されるぶんを打ち消すようにボートを上流へ向ける。ボートの速度 を斜辺、流れ を1辺とする直角三角形ができ、岸に対する速度は残りの辺になる。

の三角形である。行きも帰りも同じ だから

ボートの向き 5.0流れ 3.0岸に対して 4.0
横断のときの速度の三角形。上流へ向けたぶんが流れに打ち消され、残りが岸に対する速度になる
重要流されずに向こう岸へ着くときの岸に対する速さは 。**流れに逆らうぶんが斜辺から差し引かれる**

③ 流れがないとき。

である。流れがあると、縦の往復も横の往復も遅くなる。しかも 縦のほうがもっと遅い

④ 文字で書く。 上り 、下り だから

横断は

流れがないときの で割ると、形がそろう。 とおくと

では だから、どちらの比も より大きい。流れは必ず時間を増やす。

さらに だから である。数値で確かめると のとき

となり、①②と合う。

まとめ 往復の平均の速さは、速さの平均ではない。遅いほうに長くいる ぶん、必ず遅い側へ引っぱられる。横断では速度の三角形が使え、直角に分けたぶんだけ損が小さくてすむ。

発展 — 一歩先へ。 この「縦の往復と横の往復では時間が違う」という結論は、物理の歴史でとても有名な役を演じた。

光を伝える媒質(エーテル)があると信じられていたころ、地球はその中を動いているはずだから、地球の進む向きに光を往復させたときと、直角の向きに往復させたときとで、時間に差が出る と考えられた。差は の程度で、ちょうどこの問題の の違いにあたる。

マイケルソンとモーリーはこの差を光の干渉で測ろうとして、差が見つからなかった 。川とボートの常識が光には通用しないことが分かり、そこから相対性理論が生まれた。この問題は、その原型そのものである。

(1) (2) (3) (4) に対し で、いずれも より大きい()

別解

比だけで考えるルート。 数値を1つずつ計算せずに、流れのないときを基準にした比で考えると、構造が先に見える。

流れの速さと船の速さの比を とおく。

上りの速さは 、下りは である。往復の時間は片道の時間 を単位にすると

流れがなければ だから、 倍である。

横断は 倍の速さなので、時間は 倍になる。

基準の往復時間 に掛けて

この見方だと、答えが にも にも本質的には依存せず、比 だけで決まる ことがはっきりする。 に近ければどちらの損もごくわずかで、 に近づくと縦の往復だけが急激に発散する。流れの速さが船の速さに追いつくと、上流へは永久にたどり着けない。

ポイント

  • 往復の時間は速さの平均では出ない。遅い区間に長くいるぶん必ず損をする
  • 横断で真向かいへ着くときの岸に対する速さは
  • 。縦の往復のほうが損が大きい

よくある間違い

  • 上りと下りの速さの平均 を使って往復時間を出してしまう。平均すべきは速さではなく、時間を足すこと
  • 横断のときボートを真横に向けたまま計算してしまう。それでは流されるので、真向かいには着かない
  • 横断の速さを としてしまう。直角に交わる向きなので、引き算ではなく三平方の定理