物理 / 波の伝わり方と音

ドップラー効果はなぜ非対称か

最難関編ドップラー効果媒質近似

問題

音速を 、音源の出す音の振動数を とする。空気は静止しているものとする。

次の つの場合を比べる。

場合 A: 観測者は静止し、音源が観測者に向かって速さ で近づく 場合 B: 音源は静止し、観測者が音源に向かって速さ で近づく

音源u観測者(静止)A音源(静止)観測者uB
同じ速さで近づく 2 つの場合。A は音源が動き、B は観測者が動く。

(1) のとき、A と B で観測される振動数をそれぞれ求めよ。

(2) つが一致しない理由を、波長が変わるのか、受け取る回数が変わるのかという観点から説明せよ。

(3) が小さいとき、どちらの場合も に近づくことを示せ。また差はどの程度か。

(4) ()のときの つの振動数を求め、差が大きくなることを確かめよ。

ヒントを見る

音源が動くと、空気中にできる波の形は変わるだろうか。観測者が動く場合はどうか。

解答・解説

方針

つの式 を比べる。前者は媒質中の波長が縮む効果、後者は観測者が波を追いかけて受け取る回数が増える効果である。速度が小さいときは 次で一致する。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「近づく」という点では同じなのに、 つの式は違う形をしている。この違いはどこから来るのか。

カギは「空気(媒質)が基準になっている」ことである。音は空気を伝わるので、音源と空気の関係、観測者と空気の関係がそれぞれ別に効く。

音源が動くと、空気中にできる波そのものが変形する(波長が縮む)。観測者が動いても、空気中の波は何も変わらない。変わるのは、その波を横切る速さである。

まったく別の理由で振動数が変わるのだから、式が違って当然である。

① 数値。

ほど違う。

② 理由。 場合 A では、音源が波を追いかけながら出すので、前方の波が押し縮められる。空気中に実在する波長そのものが に縮む。観測者はその縮んだ波を、いつもの速さ で受け取る。

場合 B では、空気中の波長は のままである。変わるのは観測者が波に対して動く速さで、 になる。

重要音源が動く = 波長が変わる。観測者が動く = 波長は同じで、横切る速さが変わる
波長が縮む(A)横切る速さが増す(B)
A では空気中の波の間隔そのものが縮む。B では波の間隔は変わらず、観測者が速く横切る。

③ 小さい速さでの一致。 とおく。

次までは同じである。差は

なら で、① の とおおむね合う。日常の速さ( 以下)では、どちらの式を使っても大差ない。

④ 速い場合。

倍と 倍で、はっきり違う。 に近づくと A は発散する(波長が に近づく)が、B は に近づくだけである。

まとめ つの式が違うのは、音が媒質を伝わる波だからである。媒質という「基準」があるので、誰が動いているかが結果に効いてくる。

発展 — 一歩先へ。 光の場合はこうならない。光は媒質を必要としないので、「光源が動く」と「観測者が動く」を区別する意味がない。実際、相対論的なドップラー効果の式は

で、相対速度だけで決まる対称な形をしている。

この式を展開すると で、音の つの式()のちょうど中間にあたる。

「媒質があるかないか」という違いが、式の非対称性として現れる。音のドップラー効果を丁寧に見ておくと、相対論で何が変わったのかがはっきりする。

A は 、B は 、A は波長が縮み B は受け取る回数が増える、 次では一致し差は 程度、 では

別解

秒間に何個の波を受け取るかで数えるルート。 つの式を、どちらも「数を数える」だけで出せる。

場合 A。音源は 秒間に 個の波を出す。そのあいだに音源は 進むので、 個の波は長さ の区間に詰めこまれる。 個あたりの長さは で、これが新しい波長である。観測者はこの波を速さ で受け取るので、 秒間に受け取る個数は である。

場合 B。空気中には波長 の波が並んでいる。観測者は 秒間に、音が進んでくる分 と自分が進む分 を合わせて、長さ の区間ぶんの波を横切る。個数は である。

どちらも「区間の長さ ÷ 波長」で数えているだけだが、A では波長が変わり、B では区間の長さが変わる。

この数え方なら、両方が同時に動く場合も迷わない。波長は 、横切る長さは なので

分母と分子に別々の速度が入る理由も、この数え方なら納得できる。

ポイント

  • 音源が動く → 空気中の波長そのものが縮む
  • 観測者が動く → 波長は同じで、横切る速さが変わる
  • u/v の 1 次では一致し、差は (u/v)² 程度
  • 媒質があるから非対称になる(光では相対速度だけで決まる)

よくある間違い

  • 相対速度だけで決まると考える(音では誰が動くかで違う)
  • 観測者が動く場合に波長が変わると考える
  • 2 つの式のどちらを使うか、分母と分子を取り違える