物理 / 波の伝わり方と音

音はなぜ夜のほうが遠くまで届くか

最難関編音速屈折全反射

問題

空気中の音速は温度によって変わり、( は摂氏温度)で表される。

大気の温度は高さによって変わるので、音速も高さによって変わる。音の進む道すじ(音線)は、光と同じように屈折の法則にしたがう。鉛直方向からの角を とすると、 が一定に保たれる。

20 ℃15 ℃10 ℃音源音線
大気を温度の違う層に分けて考える。層の境目で音線が屈折する(昼の温度分布の例)。

(1) 昼間は地表付近が暖かく、上空ほど冷たい。地表 、上空 として、それぞれの音速を求めよ。

(2) このとき、地表から斜め上に出た音線は、上に行くほど鉛直に近づくか、水平に近づくか。屈折の法則から答えよ。

(3) 夜は地表付近が冷え、上空のほうが暖かくなることがある(逆転層)。地表 、上空 として、地表から水平に対して小さい角で出た音線が、やがて地表へもどってくる条件を求めよ。

(4) (2) と (3) から、昼と夜で遠くの音の聞こえ方が違う理由を説明せよ。

ヒントを見る

音が速い層へ進むとき、角はどう変わるか。 に達したら何が起こるか。

解答・解説

方針

温度から音速を出し、屈折の法則 一定 を層ごとに適用する。速い層へ進むと が大きくなり水平に近づく。 に達すると全反射して戻る。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 音が遠くまで届くかどうかは、音の強さだけでなく「音線がどちらへ曲がるか」で決まる。

大気は温度が高さで変わるので、音速も変わる。速さが場所で変わる媒質では、光と同じく音の道すじが曲がる。

曲がる向きを決めるのは屈折の法則である。速い層へ進むと水平に近づき、遅い層へ進むと鉛直に近づく——この 点で昼夜の違いが説明できる。

① 音速。

暖かいほうが速い。

② 昼の音線。 昼は上空が冷たいので、上空ほど音速が小さい。屈折の法則から

上へ行くほど が小さいので も小さくなる。 は鉛直からの角だから、 が小さい = 鉛直に近い。

つまり音線は上へ向かって立ち上がり、空へ逃げていく。地表付近には音が残らないので、遠くでは聞こえにくい。

③ 夜の全反射。 夜は上空のほうが暖かく、音速が大きい。上へ行くほど が大きくなり、音線は水平に寝てくる。

に達すると音線は水平になり、そこから先は下向きに折り返す(全反射)。その条件は、地表での角を として

鉛直から 、つまり水平から測ると である。これより水平に近い角で出た音は、上空で折り返して地表へもどってくる。

音源昼(上へ逃げる)夜(戻ってくる)遠くでも聞こえる
夜(青)は音線が上空で折り返して地表へ戻る。昼(赤の破線)は上へ逃げてしまう。

④ 昼と夜の違い。 昼は音線が上へ逃げるので、少し離れると音が届かない「影の領域」ができる。

夜は音線が曲がって戻ってくるので、地表付近に音が閉じこめられる。遠くの列車の音や話し声が夜によく聞こえるのは、このためである。

音が大きくなったのではなく、逃げるはずの音が戻ってきているのである。

まとめ 音線の曲がる向きは、音速が高さとともに増えるか減るかで決まる。温度分布が音の届き方を左右する。

発展 — 一歩先へ。 海の中でも同じことが起きる。海水中の音速は、深さとともに水温が下がる影響で一度小さくなり、さらに深くなると水圧の影響で再び大きくなる。

その結果、音速が最小になる深さ( 前後)が「音のチャンネル」になる。そこから出た音は上下どちらへ逸れても屈折で引き戻されるので、減衰せずに何千 km も伝わる。SOFAR チャンネルとよばれ、クジラの声が大洋を横断できる理由になっている。

一定 という 本の式が、夜の静けさから海洋音響までを説明している。

、昼は鉛直に近づく(上へ逃げる)、夜は水平から約 以内なら全反射してもどる、だから夜のほうが遠くまで届く

別解

波面の傾きで見るルート。 屈折の法則を使わずに、波面の動きで直感的に理解する方法もある。

音の波面は、音線に垂直な面である。波面の各部分は、その場所の音速で進む。

夜(上空のほうが速い)を考える。斜め上に進む波面では、上のほうが速く進むので、波面はだんだん傾いていく。上端が先に進み、下端が遅れるので、波面は「前のめり」になる。

波面に垂直な向きが音線だから、波面が前のめりになると音線は下を向く。つまり音は地面のほうへ曲げられる。

昼はその逆で、上のほうが遅いので波面は「のけぞる」。音線は上を向き、空へ逃げる。

戦車のキャタピラが、片側だけ遅く回すと曲がるのと同じ仕組みである。「速い側が外側になるように曲がる」と覚えておくと、屈折の向きを間違えない。

同じ理屈で、風があるときも音は曲がる。風下では上空ほど風速が大きく、実質的な音速が大きくなるので、音は下向きに曲がって遠くまで届く。

ポイント

  • 音速は温度で変わり、v=331+0.6t
  • sinθ/v=一定。速い層へ進むと水平に近づく
  • 昼は上空が遅く音線が上へ逃げる、夜は逆で戻ってくる
  • 夜に遠くの音が聞こえるのは、音が閉じこめられるため

よくある間違い

  • 夜は静かだから遠くの音が聞こえると考える(音線の屈折が主な理由)
  • 速い層へ進むと鉛直に近づくと逆に覚える
  • 全反射の角を鉛直からの角と水平からの角で取り違える