物理 / 波の伝わり方と音
音を音で消す — 打ち消しの限界
問題
騒音と同じ振幅で位相が ずれた音波を出して、騒音を打ち消す装置がある。
音速を とする。振動数 の騒音を、位相を ずらした同じ振幅の音で打ち消す。
耳の位置が「完全に打ち消される点」から だけずれると、 つの音の経路差が だけ生じる。このとき合成波の振幅は、 つの音の振幅を として
となる。
(1) の音の波長を求めよ。
(2) のときの合成波の振幅を求めよ。打ち消しになっているか。
(3) 合成波の振幅を 以下に保つには、位置のずれをどれだけ以内にする必要があるか。 とする。
(4) の低い音では、(3) の範囲はどうなるか。ヘッドホンでない「空間の騒音制御」が低い音にしか使えない理由を述べよ。
ヒントを見る
位置がずれると、位相のずれは からどれだけ変わるか。許される範囲は波長のどれくらいの割合か。
解答・解説
方針
打ち消しが成り立つのは、位相が ずれ、かつ経路差がない点だけである。少しでもずれると与えられた式で振幅が復活する。許される範囲は波長に比例するので、低い音ほど広くなる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「逆位相の音を出せば消える」というのは、 点だけの話である。
耳が少し動けば経路差ができ、位相のずれが からずれる。すると打ち消しが崩れる。どこまで崩れるかを、与えられた式で評価するのがこの問題である。
そして許される「ずれの範囲」は波長に比例する。ここから「低い音のほうが制御しやすい」という実用上の結論が出る。
① 波長。
② ずれた場合。
打ち消されるどころか、もとの音()より大きくなっている。
ずれると位相差は になり、完全な逆位相からも完全な同位相からも外れる。中途半端な重なりなので、打ち消しにも強め合いにもならない。
③ 許される範囲。 振幅を 以下にしたい。
約 である。頭を少し動かしただけで打ち消しは崩れてしまう。
④ 低い音の場合。 では で、波長が 倍になる。③ の範囲も波長に比例するので 倍、つまり約 になる。
範囲が広がるので、耳の位置が多少動いても打ち消しが保てる。だから空間全体を静かにしようとする装置は、低い音(エンジン音や空調のうなりなど)にしか使えない。
高い音を消したいなら、耳のすぐ近くにスピーカーを置いて位置関係を固定するしかない。これがノイズキャンセリングヘッドホンの形をしている理由である。
まとめ 打ち消しが成り立つのは、位相と位置の両方がそろった点だけである。許容範囲は波長に比例するので、低い音ほど扱いやすい。
発展 — 一歩先へ。 ② で見たように、打ち消しに失敗すると音はむしろ大きくなる。エネルギーの視点で見ると、これは当然である。
つの音源が出すエネルギーの合計は決まっているので、ある場所で打ち消したぶんは、別の場所で強め合っている。音を「消した」のではなく「配り直した」だけである。
だから騒音制御では、「どこを静かにして、どこを犠牲にするか」を設計することになる。ヘッドホンなら耳の位置だけを静かにすればよいので、この配り直しがうまくいく。
、 では で逆に大きくなる、 以下は約 以内、 では 倍の約
別解
位相差の合成として見るルート。 与えられた式を使わず、 つの波の合成から出すこともできる。
同じ振幅 、位相差 の つの波を重ねると、合成波の振幅は
になる。装置は位相を ずらしているので、経路差 による分を加えて
与えられた式が出た。
この形で書いておくと、「位相をぴったり にできない」場合も同じ式で扱える。たとえば装置の遅れで位相が しかずれていなければ、 でも が残る。
つの誤差要因(位相の精度と位置のずれ)が、同じ の中で足し算されることが見える。どちらを優先して改善すべきかも、この式で比べられる。
ポイント
- 打ち消しが成り立つのは、位相と位置の両方がそろった点だけ
- λ/4 ずれると振幅は 1.4A で、むしろ大きくなる
- 許される位置のずれは波長に比例する
- 低い音ほど範囲が広い(空間の騒音制御が低音に限られる理由)
よくある間違い
- 逆位相にすれば空間のどこでも消えると考える
- ずれても少し小さくなるだけだと思う(λ/4 では逆に大きくなる)
- エネルギーが消えると考える(別の場所で強め合っている)