物理 / 剛体のつり合い
天秤はどうすれば感度が上がるか
問題
天秤のはり(棒)は支点で支えられ、その重心は支点より だけ下にある。はりの質量は 、支点から皿までの腕の長さは左右とも である。
左右の皿に載せた質量に の差があるとき、はりは角 だけ傾いてつり合う。
、、 とする。
(1) 傾いた状態でのモーメントのつり合いから、 を で表せ。
(2) ()のときの傾く角を求めよ。 とする。
(3) 感度(同じ に対する傾きの大きさ)を上げるには、 をどうすればよいか。
(4) 重心を支点と同じ高さ()にすると何が起こるか。また支点より上にするとどうなるか。
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傾いたとき、質量差はどんなモーメントを生むか。はり自身の重さはどうか。 つの腕の長さは、傾きとともにどう変わるか。
解答・解説
方針
傾いた状態で、質量差によるモーメントと、はり自身の重さによる復元モーメントがつり合う。前者は 、後者は に比例するので、比をとると が出る。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 天秤が「つり合う角度」で止まるのは、傾くほど戻そうとするモーメントが生まれるからである。
その復元モーメントを生んでいるのは、はり自身の重さである。重心が支点より下にあるので、傾くと重心が横にずれ、戻す向きのモーメントが生じる。
つまり「質量差が傾けようとする」対「はりの重さが戻そうとする」の勝負である。 つのモーメントを書いて等しいとおけば、傾く角が決まる。
① つり合いの式。 角 傾いたとき、質量差 による力 の、支点まわりの腕の長さは である。
いっぽう、はりの重心は支点の真下 から横に ずれる。
つが等しいとおく。
が両辺から消える。
② 数値。
の差で 傾く。目盛りを読めば十分に検出できる。
③ 感度を上げるには。 が大きいほど感度がよい。式を見ると
なので、 を長く、 を小さく、 を小さくすればよい。特に は という小さな値なので、ここを調整するのが実際の設計になる。精密天秤では、支点のすぐ下に重心が来るように微調整するねじがついている。
④ 重心の位置を変えると。 (重心が支点と同じ高さ)にすると、戻すモーメントが生じない。どんなに小さな でも、はりは止まらずに傾き続ける。角度が決まらないので、測定器としては使えない(中立のつり合い)。
(重心が支点より上)にすると、傾いたときに重心がさらに外へずれ、傾きを大きくする向きのモーメントが生まれる。これは不安定なつり合いで、少しの乱れでひっくり返ってしまう。
まとめ 感度と安定性は、重心と支点の距離 で決まる。 を小さくすれば感度は上がるが、 に近づけすぎると安定性を失う。
発展 — 一歩先へ。 ③ で「 を小さく」とあるが、はりを軽くしすぎると変形しやすくなり、腕の長さが荷重で変わってしまう。 を長くすると、今度は自重によるたわみが問題になる。
現代の精密な質量測定では、そもそも天秤の傾きを読まない。電磁力でつり合いの位置に戻し、そのとき必要な電流から質量を求める(電磁力平衡方式)。傾きを に保つので、 をめぐる感度と安定性の綱引きから解放される。
「測定量を読む」のではなく「もとの状態に戻す力を測る」という発想の転換は、電位差計(電流を流さずに起電力を測る)とも共通している。
、、 を長く・ を小さく・ を小さくする、 では中立で角が決まらず、(重心が上)では不安定でひっくり返る
別解
位置エネルギーの最小として見るルート。 つり合いの角は、系全体の位置エネルギーが最小になる角としても求められる。
はりが 傾くと、はりの重心は だけ持ち上がる。いっぽう、重いほうの皿は 下がり、軽いほうは同じだけ上がる。
質量差 のぶんだけ、下がる側が勝つので、位置エネルギーの変化は
で微分して とおく。
① と一致する。
この見方の利点は、④ の安定性がそのまま読めることである。 なら は下に凸で最小値をもつ(安定)。 なら は について単調で最小値がない(中立から不安定へ)。 なら最小でなく最大になり、そこから離れる向きに動く(不安定)。
「つり合い = 力のつり合い」と「つり合い = エネルギーの停留」は同じことだが、安定性まで見たいときは後者が便利である。
ポイント
- tanθ=ΔmL/(Mh)。g は消える
- 傾ける側は cosθ、戻す側は sinθ に比例する
- 感度は L に比例、M と h に反比例
- h=0 で中立、h<0 で不安定。感度と安定性は h の取り合い
よくある間違い
- 腕の長さを傾いても L のままとする(cosθ が要る)
- はりの重さによる復元モーメントを忘れる(それがないと角が決まらない)
- 感度を上げるために h を 0 にしようとする(安定性を失う)