物理 / 剛体のつり合い

自動車の重心はどこにあるか

★★★★ 難関重心反力測定

問題

前輪と後輪の間隔(ホイールベース)が の自動車を、水平な床に置いた台ばかりに乗せて測ったところ、前輪にかかる力の合計が 、後輪が であった。

次に、後輪だけをジャッキで 持ち上げて車体を傾け、前輪にかかる力をもう一度測ると になった。前輪は水平な台ばかりの上にあり、車は動かないように止めてある。

(1) 車の重さと、重心の前後方向の位置を求めよ。

(2) 傾けたとき、前輪にかかる力が増えるのはなぜか。

(3) 重心の高さを求めよ。ただし傾きは、 の角である。

(4) 左右の車輪の間隔(トレッド)が のとき、この車が横向きの坂で横転し始める傾きの を求めよ。重心の高さが の車と比べよ。

前輪 9000 N後輪 6000 N2.5 m
水平な床で前後の車輪にかかる力を測る。前輪が右側にある
ヒントを見る

水平のときの軸重の比は何を教えるか。傾けたとき、重心の水平位置は重心の高さとどう関係して動くか。

解答・解説

方針

水平な状態では、前後の軸重の比が重心からの距離の逆比になる。傾けると重心の水平位置が高さに応じてずれるので、軸重の変化から高さが逆算できる。横転は、重心の真下が接地の外へ出るかどうかで決まる。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 台ばかり2つの読みから分かるのは、重心の前後の位置 である。前が重ければ重心は前寄り、というだけのことで、これは距離の逆比で出る。

しかし 高さは、水平に置いたままでは絶対に分からない。 車を持ち上げても傾けなければ、前後の分担は変わらないからである。

そこで 傾ける 。傾けると重心は、その高さに応じて水平方向にずれる。高い位置にある重心ほど大きくずれ、前輪の負担が大きく増える。軸重の変化が高さを教えてくれる。 高さを直接測れないものを、測れる量の変化から引き出す — これが測定の工夫である。

① 重さと前後の位置。 全重量は

重心から前軸までを 、後軸までを とすると、軸重の比は距離の逆比だから

と合わせて

重心は前軸から の位置にある。前が重い車である。

重要2点で支える力は距離の逆比。**軸重を測れば重心の前後位置が分かる**

② 傾けると前が重くなる理由。 重力はいつでも鉛直に、重心を通ってはたらく。傾けると、その 重心の位置が車体ごと動く

車体を後ろ上がりに角 だけ傾けると、車体に固定された重心は、後軸から見て水平方向に

のところへ来る。第2項がみそである。重心が高いほど、傾けたときに前へ大きくずれる。 前へずれれば、その分だけ前輪の負担が増える。

後輪(持ち上げた)前輪重心重心の高さ高いほど前へずれる
後輪を持ち上げて傾けた図。重心を通る鉛直線が前輪側へ寄るので、前輪の負担が増える

③ 重心の高さ。 後輪の接地点のまわりでモーメントのつり合いを書く。前輪の力 は鉛直上向き、水平距離は である。

両辺を で割ると、 だけの式になる。

数値を入れる。 だから

重心の高さは である。 とすれば に戻ることも確かめられる。

④ 横転のしやすさ。 横向きの坂に止めた車が横転し始めるのは、重心を通る鉛直線が、山側の車輪の接地点の外へ出るとき である。

重心は左右の中央にあるとすれば、接地点までの水平距離はトレッドの半分 、重心の高さは である。傾きが のとき、限界の条件は

なら

の車なら

重心が高い車ほど、浅い傾きで横転する。 車高の高い車が横転しやすいと言われるのは、この式そのものである。

まとめ 測れない量は、測れる量が変化する仕組み を通して引き出す。傾けるという操作が、重心の高さを軸重の変化に翻訳してくれた。測定とは、そういう翻訳の設計である。

発展 — 一歩先へ。 重心が低いほど横転しにくいのは、車に限らない。同じ理屈で、荷物は下のほうに積むほうがよく、背の高い家具は上に重い物を置かないほうがよい。

という式には、幅と高さの2つしか入っていない。倒れにくさは「広く・低く」だけで決まる 。重さは入っていないので、重くしても倒れにくくはならない。

(1) 、重心は前軸から (後軸から ) (2) 傾けると重心が前輪側へ だけずれるから (3) (4) (約 )。重心が なら (約 )で、高いほど横転しやすい

別解

重心のずれを直接みるルート。 モーメントの式を立てずに、①で得た結果を使い回すこともできる。

①から、前軸の力は重心から後軸までの水平距離に比例する と分かっている。水平のときはその距離が で、前軸の力は だった。

傾けたあとの前軸の力は で、 倍になっている。比例するのだから、重心から後軸までの水平距離も になったはずである。

ただしホイールベースの水平方向の見かけの長さも 倍に縮んでいるので、そろえて考える必要がある。 で割り戻して比べると、増えたぶんは

と少し込み入る。そこで、はじめから で割った量、つまり 車体に沿って測った距離 で考えるとよい。

車体に沿って測れば、重心の位置は のまま動かない。動くのは「鉛直線がどこを通るか」で、そのずれが である。

同じ答えになった。 倍という比だけで進めるので、途中の数値が小さくてすむ。比で考えると、共通の因子()が最初から消える のが利点である。

ポイント

  • 水平での軸重の比は、重心からの距離の逆比。前後位置がそれで決まる
  • 傾けると重心の水平位置が だけずれる。その変化が高さを教える
  • 横転の限界は 。重さは入らない

よくある間違い

  • 水平に置いたままの測定だけで重心の高さも出せると考えてしまう。傾けなければ高さの情報は現れない
  • 傾けたときに全重量が変わると考えてしまう。変わるのは前後の分担だけで、合計は のまま
  • 横転の条件に車の重さを持ち込んでしまう。倒れにくさは幅と重心の高さの比だけで決まる