物理 / 剛体のつり合い

腕の長さが違う天秤で正しい質量を出す

★★★★ 難関てこ天秤系統誤差

問題

左右の腕の長さがわずかに違う天秤がある。ある品物の質量を測るのに、次の2回の測定を行った。

  • 1回目: 品物を左の皿に、分銅を右の皿に載せてつり合わせると、分銅は だった。
  • 2回目: 品物を右の皿に、分銅を左の皿に載せてつり合わせると、分銅は だった。

皿と腕自身の重さは左右で等しく、つり合いに影響しないものとする。

(1) 2回の測定値が違ってしまう理由を述べよ。

(2) 品物の本当の質量を求めよ。

(3) 左右の腕の長さの比を求めよ。

(4) 2回の測定値の平均 を答えとすると、本当の値より大きいか小さいか。理由とともに答えよ。

品物分銅腕 a腕 b左右の腕の長さがわずかに違う
腕の長さが違う天秤。1回目は品物を左に、2回目は左右を入れかえて測る
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2回の測定を式にすると、腕の比がどちらの式にも入る。2つの式をどう組み合わせれば、その比を消せるか。

解答・解説

方針

つり合いの条件は「質量 × 腕」が左右で等しいこと。左右を入れかえて2回測ると、腕の比がそれぞれ逆向きに効く。2つの式を掛け合わせると腕の比が消え、割り算すると腕の比が残る。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 天秤がつり合うのは「質量が等しいとき」ではない。正しくは 「質量 × 腕の長さ」が左右で等しいとき である。腕が違えば、読みは腕の比だけずれる。

大事なのは、左右を入れかえると、そのずれが逆向きに出る ことである。1回目は本当の値より小さく、2回目は大きく出る。

ずれが逆向きなら、2つを組み合わせて消せるはずである。掛けるか、割るか。掛ければ腕の比が消えて質量が残り、割れば質量が消えて腕の比が残る。ほしいものに応じて掛け算と割り算を使い分ける のがこの問題の骨である。

① 測定値が違う理由。 左の腕を 、右の腕を 、品物の本当の質量を とする。

1回目(品物が左、分銅 が右):

2回目(品物が右、分銅 が左):

なら である。一方は本当の値より小さく、他方は大きい。

重要天秤がつり合う条件は「質量 × 腕」。腕が等しいときだけ、読みがそのまま質量になる

② 本当の質量。 2つの式を掛ける。

腕の比がきれいに消えた。

腕の長さを知らなくても、本当の質量が出る。 測定器の欠点を、測り方の工夫だけで打ち消したことになる。

品物 m5.0 kg1回目7.2 kg品物 m2回目(入れかえ)掛けると腕の比が消える
左右を入れかえた2回の測定。ずれが逆向きに出るので、掛け合わせると打ち消し合う

③ 腕の比。 こんどは2つの式を割る。

左の腕(1回目に品物を載せた側)のほうが短い。短い腕に品物を載せると、必要な分銅は少なくてすむので、 という小さい読みになったわけである。

④ 平均を使うと。 単純に平均すると

本当の値 より 大きい。これは偶然ではない。

は相加平均と相乗平均の関係で、等号は のとき、つまり腕が等しいときだけである。平均を使うと必ず大きめに出る。

と書くと、括弧の中が 以上であることからも同じ結論が出る。

まとめ 道具に欠点があるとき、道具を直す以外に 測り方で打ち消す 手がある。左右を入れかえて2回測り、掛け合わせる。この「入れかえて2回」は、系統的なずれを消す一般的な作戦である。

発展 — 一歩先へ。 同じ考えは、光学の実験で像の位置を測るとき、装置を左右反転して2回測る といった場面にも現れる。向きを変えても変わらない量(ここでは本当の質量)と、向きで符号が変わるずれ(腕の比)を分けるのが要点である。

もう1つの手として、置換法 がある。まず品物を左の皿に載せてつり合う分銅を右に置く。次に品物だけを下ろし、同じ皿に別の分銅を載せて同じつり合いを再現する。この2つ目の分銅の合計が、腕の長さによらず本当の質量である。同じ場所・同じつり合いで比べれば、道具の癖は最初から入ってこない。

(1) つり合うのは「質量 × 腕の長さ」なので、腕が違うと読みが腕の比だけずれるから (2) (3) (短いほうが品物を載せた側) (4) 平均は で本当の値より大きい。相加平均は相乗平均以上だから

別解

腕の比を先に求めるルート。 質量を先に消すのでなく、腕の比を先に出してから代入することもできる。

の比を作る。

腕の比が と分かった。あとは1回目の式に戻す。

2回目の式で確かめても

同じ値である。2つの式のどちらに戻しても同じ答えになる ことが、計算の正しさの確認になる。

がちょうど の2乗だと気づけるかどうかが分かれ目である。 を平方数に整えるのと、 を平方数に整えるのは、同じ計算を別の順で行っているにすぎない。掛けて質量、割って腕の比 という組み合わせを覚えておくと、どちらからでも入れる。

ポイント

  • 天秤のつり合いは「質量 × 腕」。腕が違うと読みは腕の比だけずれる
  • 左右を入れかえて2回測り、掛け合わせると腕の比が消える。真の質量は
  • 2つを割れば腕の比が出る。平均を使うと相加相乗の関係で必ず大きめになる

よくある間違い

  • 2回の測定値の平均を答えにしてしまう。正しいのは相乗平均(掛けて平方根)
  • どちらか一方の測定を「正しいほう」と決めてしまう。どちらも腕の比だけずれている
  • 腕の比を そのものとしてしまう。比は2乗の形で入るので平方根が要る