物理 / 剛体のつり合い
腕の長さが違う天秤で正しい質量を出す
問題
左右の腕の長さがわずかに違う天秤がある。ある品物の質量を測るのに、次の2回の測定を行った。
- 1回目: 品物を左の皿に、分銅を右の皿に載せてつり合わせると、分銅は だった。
- 2回目: 品物を右の皿に、分銅を左の皿に載せてつり合わせると、分銅は だった。
皿と腕自身の重さは左右で等しく、つり合いに影響しないものとする。
(1) 2回の測定値が違ってしまう理由を述べよ。
(2) 品物の本当の質量を求めよ。
(3) 左右の腕の長さの比を求めよ。
(4) 2回の測定値の平均 を答えとすると、本当の値より大きいか小さいか。理由とともに答えよ。
ヒントを見る
2回の測定を式にすると、腕の比がどちらの式にも入る。2つの式をどう組み合わせれば、その比を消せるか。
解答・解説
方針
つり合いの条件は「質量 × 腕」が左右で等しいこと。左右を入れかえて2回測ると、腕の比がそれぞれ逆向きに効く。2つの式を掛け合わせると腕の比が消え、割り算すると腕の比が残る。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 天秤がつり合うのは「質量が等しいとき」ではない。正しくは 「質量 × 腕の長さ」が左右で等しいとき である。腕が違えば、読みは腕の比だけずれる。
大事なのは、左右を入れかえると、そのずれが逆向きに出る ことである。1回目は本当の値より小さく、2回目は大きく出る。
ずれが逆向きなら、2つを組み合わせて消せるはずである。掛けるか、割るか。掛ければ腕の比が消えて質量が残り、割れば質量が消えて腕の比が残る。ほしいものに応じて掛け算と割り算を使い分ける のがこの問題の骨である。
① 測定値が違う理由。 左の腕を 、右の腕を 、品物の本当の質量を とする。
1回目(品物が左、分銅 が右):
2回目(品物が右、分銅 が左):
なら である。一方は本当の値より小さく、他方は大きい。
② 本当の質量。 2つの式を掛ける。
腕の比がきれいに消えた。
腕の長さを知らなくても、本当の質量が出る。 測定器の欠点を、測り方の工夫だけで打ち消したことになる。
③ 腕の比。 こんどは2つの式を割る。
左の腕(1回目に品物を載せた側)のほうが短い。短い腕に品物を載せると、必要な分銅は少なくてすむので、 という小さい読みになったわけである。
④ 平均を使うと。 単純に平均すると
本当の値 より 大きい。これは偶然ではない。
は相加平均と相乗平均の関係で、等号は のとき、つまり腕が等しいときだけである。平均を使うと必ず大きめに出る。
と書くと、括弧の中が 以上であることからも同じ結論が出る。
まとめ 道具に欠点があるとき、道具を直す以外に 測り方で打ち消す 手がある。左右を入れかえて2回測り、掛け合わせる。この「入れかえて2回」は、系統的なずれを消す一般的な作戦である。
発展 — 一歩先へ。 同じ考えは、光学の実験で像の位置を測るとき、装置を左右反転して2回測る といった場面にも現れる。向きを変えても変わらない量(ここでは本当の質量)と、向きで符号が変わるずれ(腕の比)を分けるのが要点である。
もう1つの手として、置換法 がある。まず品物を左の皿に載せてつり合う分銅を右に置く。次に品物だけを下ろし、同じ皿に別の分銅を載せて同じつり合いを再現する。この2つ目の分銅の合計が、腕の長さによらず本当の質量である。同じ場所・同じつり合いで比べれば、道具の癖は最初から入ってこない。
(1) つり合うのは「質量 × 腕の長さ」なので、腕が違うと読みが腕の比だけずれるから (2) (3) (短いほうが品物を載せた側) (4) 平均は で本当の値より大きい。相加平均は相乗平均以上だから
別解
腕の比を先に求めるルート。 質量を先に消すのでなく、腕の比を先に出してから代入することもできる。
、 の比を作る。
腕の比が と分かった。あとは1回目の式に戻す。
2回目の式で確かめても
同じ値である。2つの式のどちらに戻しても同じ答えになる ことが、計算の正しさの確認になる。
がちょうど の2乗だと気づけるかどうかが分かれ目である。 を平方数に整えるのと、 を平方数に整えるのは、同じ計算を別の順で行っているにすぎない。掛けて質量、割って腕の比 という組み合わせを覚えておくと、どちらからでも入れる。
ポイント
- 天秤のつり合いは「質量 × 腕」。腕が違うと読みは腕の比だけずれる
- 左右を入れかえて2回測り、掛け合わせると腕の比が消える。真の質量は
- 2つを割れば腕の比が出る。平均を使うと相加相乗の関係で必ず大きめになる
よくある間違い
- 2回の測定値の平均を答えにしてしまう。正しいのは相乗平均(掛けて平方根)
- どちらか一方の測定を「正しいほう」と決めてしまう。どちらも腕の比だけずれている
- 腕の比を そのものとしてしまう。比は2乗の形で入るので平方根が要る