物理 / 剛体のつり合い
2本の指を近づけると、なぜ必ず重心で出会うのか
問題
長さ の一様でない棒を、両手の人さし指を左端と右端に当てて水平に支える。重心 G は左端から のところにある。棒と指のあいだの静止摩擦係数を 、動摩擦係数を とする。
この状態から、2本の指をゆっくり近づけていく。
(1) 最初、左右の指が棒から受ける垂直抗力の比を求めよ。
(2) 先にすべり始めるのはどちらの指か。理由とともに答えよ。
(3) すべる指が入れかわるのは、その指が G からどれだけの距離まで来たときか。
(4) 指を近づけ続けると、2本の指は最後にどこで出会うか。理由とともに答えよ。
ヒントを見る
2本で支えるとき、どちらの指に大きな力がかかるか。すべり出すかどうかを決めるのは、摩擦力の上限と何の比べ合いか。
解答・解説
方針
2本で支えるときの垂直抗力は、重心からの距離の逆比になる。摩擦の上限は垂直抗力に比例するので、遠い側の指ほどすべりやすい。すべっている指には動摩擦、止まっている指には静止摩擦がはたらき、その大小が入れかわるところで役が交代する。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 誰でも一度は試したことがある現象である。棒のどこを持っても、指を近づけていくと 必ず重心で出会う 。棒が一様でなくても、目をつぶっていても、重心が当てられる。
なぜそうなるのかは、2つの事実の組み合わせで説明できる。1つ目、2本で支えるときの垂直抗力は重心からの距離の逆比 になる。2つ目、摩擦の上限は垂直抗力に比例する 。
この2つから「遠いほうの指がすべる」が出る。すべった指が近づくと立場が入れかわり、こんどはもう一方がすべる。これをくり返すと、どちらも重心へ追い込まれていく。
① 垂直抗力の比。 棒にはたらく力は、重力 (G にはたらく)と、2本の指からの垂直抗力 、 である。G から左の指までを 、右の指までを とする。
G のまわりのモーメントのつり合いから
いまは 、 だから
② 先にすべるのはどちらか。 指がすべり出さないためには、必要な摩擦力が静止摩擦の上限 を超えないことが要る。 が小さいほど上限は小さい。
いま のほうが小さいのだから、右の指のほうが先に限界に達する 。つまり G から遠いほうの指がすべる 。
指を動かすと棒は指の上をすべるが、棒自身は静止したままである。棒にはたらく水平方向の力は左右の摩擦力だけで、それらはつり合っていなければならない。
③ 役が入れかわる位置。 右の指がすべっているあいだ、その指にはたらくのは動摩擦で である。左の指は止まっているので、静止摩擦がこれとつり合っている。左がすべり出さない条件は
右の指が近づくと が小さくなり、 は大きくなっていく。等号が成り立った瞬間に、こんどは左がすべり始める。
垂直抗力を距離で書きかえる。、 だったから
右の指が G から の位置まで来たところで、役が交代する。
④ 最後はどこで出会うか。 交代のたびに、いまの式が左右を入れかえて成り立つ。次は左の指が
まで進んで交代する。以下同じことのくり返しで、交代のたびに G からの距離が 倍になる。
どちらの距離も に近づくから、2本の指は 重心 G で出会う 。
重心の位置を知らなくても、どこから始めても、指は勝手にそこへ集まる。棒が一様でなくてもよい ところがこの現象の面白さである。
まとめ 「支える力は距離の逆比」と「摩擦の上限は垂直抗力に比例」の2つを並べると、遠いほうがすべるという結論が出る。あとは交代がくり返され、幾何数列で重心へ収束する。身のまわりの現象が、つり合いの2本の式で説明できる。
発展 — 一歩先へ。 交代の比 は、静止摩擦と動摩擦の差そのものである。もし (差がない)なら、比が になって交代は起こらず、片方の指だけがすべり続けて G に達する。それでも最後に出会うのは G である。
つまり この現象は摩擦係数の値によらない。 指が乾いていても濡れていても、手袋をしていても、出会う場所は重心である。実験で確かめやすいのに、結論が材質によらないという意味で、なかなか気持ちのよい現象である。
(1) 左:右 (G からの距離の逆比) (2) 右の指。G から遠く、垂直抗力が小さいので静止摩擦の上限が先に足りなくなる (3) 右の指が G から の位置まで来たとき( 倍) (4) 重心 G。すべりが交代するたびに距離が 倍になり、両方とも G に近づいていくから
別解
「必ず G で出会う」だけを示すルート。 交代の位置を追いかけなくても、結論だけなら背理法で言える。
指が出会った点を X としよう。もし X が G と違う点なら、そこは G の左か右にある。仮に X が G より左だとする。
すると、2本の指はどちらも G より左にあることになる。棒にはたらく力は、この2本の垂直抗力(どちらも上向き)と重力である。上向きの力の作用点がどちらも G より左にあるのだから、G のまわりのモーメントは打ち消し合えない。
つまり棒は G のまわりに回り出してしまい、水平を保てない。X が G より右にあるとしても同じである。
したがって 2本の指が出会える点は G しかない。 途中でどうすべるかを追わなくても、「棒が水平のまま支えられている」という条件だけから場所が決まってしまう。
本文の解き方が「どうやってそこへ行くか」を追う道なら、こちらは「行き先はそこしかない」と先に決める道である。過程を追う解き方と、条件から行き先を絞る解き方 の両方を持っておくと、見通しがよくなる。
ポイント
- 2点で支える力は重心からの距離の逆比。近いほうが多く支える
- 摩擦の上限は垂直抗力に比例するので、遠い側の指が先にすべる
- すべりの交代がくり返され、G からの距離が 倍ずつ縮んで重心に収束する
よくある間違い
- 重心に近い指のほうが大きな力を受けるから先にすべる、と考えてしまう。すべるのは力が小さいほう
- すべっている指と止まっている指で、同じ摩擦係数を使ってしまう。動いている側は動摩擦
- 棒が一様な場合しか成り立たないと思ってしまう。重心がどこにあっても、指はそこへ集まる