物理 / 剛体のつり合い

糸巻きはどちらへ転がるか

★★★★ 難関力のモーメント転がり接触点

問題

外側の半径が 、糸を巻いた内側の軸の半径が の糸巻きが、水平な床の上に置かれている。糸は内側の軸の 下側 から出ていて、その先を手で引く。糸巻きは床の上をすべらずに転がるものとする。

(1) 糸を水平に引いたとき、糸巻きは手のほうへ転がるか、手から遠ざかるか。床との接触点のまわりのモーメントで判断せよ。

(2) 糸を真上に引いたときはどうか。

(3) 引く向きを水平から少しずつ立てていくと、あるところで糸巻きは転がらなくなる。その角 (水平から測る)を求めよ。

(4) (1) のように水平に引くとき、糸を 引き込むあいだに糸巻きは何 m 進むか。

OPFR = 0.20 mr = 0.12 m
糸巻きの断面。糸は内側の軸の下側から出ていて、その先を引く
ヒントを見る

床から受ける2つの力を計算から消したい。どの点のまわりでモーメントを考えれば、その2つがまとめて消えるか。

解答・解説

方針

すべらずに転がる物体では、床との接触点が瞬間的な回転の中心になる。そこを支点にとると、床からの力(垂直抗力も摩擦力も)は腕が でモーメントに効かない。残るのは引く力だけで、その作用線が接触点のどちら側を通るかで向きが決まる。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 糸巻きには、引く力・重力・垂直抗力・摩擦力の4つがはたらく。摩擦力は大きさも向きも分からない ので、これを含んだままでは手が出ない。

そこで、床との接触点 P を支点にとる 。垂直抗力も摩擦力も接触点にはたらくから、この点のまわりでは腕が で、モーメントに一切効かない。重力は鉛直で、中心の真下が P だから、これも腕が である。

残るのは引く力ただ1つになる。その作用線が P のどちら側を通るか で、転がる向きが決まってしまう。分からない力を消せる支点を選ぶ、これがモーメントの使いどころである。

① 水平に引く。 糸は内側の軸の下側、つまり床から高さ のところから水平に出ている。この作用線と接触点 P との距離、すなわち腕は

引く力は P より上を通るので、糸巻きを 引く側へ転がす向き のモーメントを与える。力を とすれば、その大きさは である。

つまり糸巻きは 手のほうへ転がってくる 。糸を引けば糸巻きは逃げていきそうに思えるが、逆である。

OPF腕 R − r転がる向き
接触点 P のまわりでは、床からの2つの力は腕が 0 で消える。残る引く力の腕は P から作用線までの距離
重要すべらずに転がるとき、**床との接触点を支点にとる** と垂直抗力・摩擦力がまとめて消える。残った力の作用線がその点のどちら側を通るかが答えを決める

② 真上に引く。 このときは糸が軸の横から出ることになり、作用線は鉛直で、P からの距離は である。

作用線は P に対して 反対側 を通るので、モーメントの向きも逆になる。糸巻きは 手から遠ざかる向き に転がる。

③ 転がらない角。 転がらないのは、引く力のモーメントが になるとき、つまり 作用線がちょうど接触点 P を通るとき である。

糸は内側の円に接する向きに出るから、作用線と中心 O との距離はつねに である。この作用線が P を通るとすると、 を斜辺、 を1辺とする直角三角形ができる。 は鉛直、作用線は水平から だから、 と作用線のなす角は である。

これより浅く引けば手のほうへ、これより立てて引けば向こうへ転がる。同じ糸巻きが、引く角ひとつで進む向きを変える。

OFθr
作用線がちょうど接触点を通るとき、モーメントは 0 になって転がらない。中心から作用線までの距離はつねに r

④ 糸の長さと進む距離。 すべらずに転がるので、回転角を とすると糸巻きの中心は 進む。一方、糸が繰り出される(引き込まれる)長さは、内側の軸で測って

である。糸巻きが進むぶんだけ糸も巻き取られるので、手もとに来る糸はその差になる。

糸を 引くと、糸巻きは 進む。手の動きより速く近づいてくる わけである。

まとめ 分からない力があるときは、その力が消える点を支点に選ぶ。転がる物体では接触点がその点になる。あとは「作用線が支点のどちら側か」を見るだけで、向きが決まる。

発展 — 一歩先へ。 ③の という条件は、 に近いほど が小さくなることを意味する。軸が太い糸巻きは、少し引く角を立てただけで向こうへ転がってしまう。

逆に (糸が中心から出る細い軸)では となり、真上に引く以外はすべて手前に転がる。極端な場合を考えて式の意味を確かめる、この習慣は答えの検算にもなる。

(1) 手のほうへ転がる(接触点まわりの腕は ) (2) 手から遠ざかる(腕は で向きが逆) (3) (4) 倍の

別解

中心のまわりで考えるルート。 接触点を使わず、中心 O のまわりのモーメントで考えることもできる。こちらは摩擦力を消せないので、代わりに 摩擦力を未知数として残し、並進の式と連立 することになる。

糸巻きの質量を 、慣性の効果は考えず「転がり出す向き」だけを見る。中心まわりのモーメントは、引く力から 、摩擦力 から である。水平方向の運動は で決まる。

すべらずに転がる条件を課すと、この2式から が決まる。水平に引く場合を計算すると

のように、 の符号がそのまま向きを決めることが分かる。結局 が正か負かという同じ判定 に行き着く。

こうして比べてみると、接触点を支点に選ぶ解き方が、いかに手数を減らしているかが分かる。未知の力を消す支点を選ぶ という一手だけで、連立方程式が1本の判定に化けている。

なお、実際に糸巻きが転がるには摩擦が十分にあることが必要である。つるつるの床では、糸巻きは回るだけで進まない。判定そのものは接触点で決まるが、その前提として「すべらない」ことが要る 点は忘れないようにしたい。

ポイント

  • すべらずに転がる物体は、床との接触点を支点にとると垂直抗力と摩擦力が消える
  • 引く力の作用線が接触点のどちら側を通るかで、転がる向きが決まる
  • が転がらない角。これより浅ければ手前、立てれば向こうへ

よくある間違い

  • 糸を引けば糸巻きは向こうへ逃げると決めてかかる。水平に引くかぎり手前に転がってくる
  • 中心のまわりでモーメントを考えて、摩擦力が分からず行きづまる。接触点を選べばその未知数は消える
  • 「引いた糸の長さだけ糸巻きが進む」と考えてしまう。転がりながら巻き取るので、進む距離は 倍になる