物理 / 原子
原子はなぜつぶれないか
問題
古典的に考えると、原子核のまわりを回る電子は電磁波を出してエネルギーを失い、原子核に落ちこんでしまう。しかし実際の原子はつぶれない。その理由を、次のような見積もりで考える。
電子を大きさ の範囲に閉じこめると、不確定性関係から運動量の大きさは 程度になる。そこで、水素原子のエネルギーを
と見積もる。第 項が運動エネルギー、第 項が電気的な位置エネルギーである。
、、、、 とする。
(1) を最小にする を、 で表せ。
(2) その値を計算し、水素原子の大きさ(約 )と比べよ。
(3) そのときのエネルギーを eV で求め、水素原子のイオン化エネルギー()と比べよ。
(4) この計算から、原子がつぶれない理由を説明せよ。
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つの項は に対してどんな増え方・減り方をするか。両者のせめぎ合いから何が決まるか。
解答・解説
方針
は が小さいと第 項が急に大きくなり、 が大きいと第 項が に近づく。したがって途中に最小値がある。微分して とおけばその位置が決まる。出てきた値を実際の水素原子と比べるのがこの問題の眼目である。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 古典物理では、電子は原子核に落ちこんでしまう。落ちこむほど位置エネルギーが下がるので、それを止めるものがないからである。
量子論では事情が変わる。狭い範囲に閉じこめるほど運動量の不確定さが大きくなり、運動エネルギーが増える。閉じこめには「代償」があるのである。
だから「下がろうとする位置エネルギー」と「上がろうとする運動エネルギー」がつり合う大きさで、原子は安定する。あとはその最小値を探すだけの計算になる。
① 最小をとる 。 (、)とおいて微分する。
両辺に を掛けて
② 大きさの計算。
分子は 、分母は だから
実際の水素原子の大きさとほぼ一致する。これはボーア半径とよばれる値である。
③ エネルギー。 を に入れる。
数値を入れると
水素原子のイオン化エネルギー とほぼ一致する。負号は「無限に離した状態より 低い」ことを表し、そのぶんのエネルギーを与えれば電子を引きはがせる。
④ つぶれない理由。 を小さくしていくと、位置エネルギーは で下がるが、運動エネルギーは で上がる。
乗のほうが速いので、ある大きさより小さくすると、合計はかえって増えてしまう。だから電子は落ちこみ続けられない。
言いかえれば、原子の大きさは「閉じこめの代償」と「引力の得」がつり合う点で決まっている。
まとめ 不確定性関係とクーロン力だけを使った 行の見積もりで、原子の大きさとイオン化エネルギーの両方が正しく出る。原子が安定に存在できる理由が、この計算に凝縮されている。
発展 — 一歩先へ。 ③ の途中で を出したが、このとき運動エネルギーは 、位置エネルギーは である。つまり
という関係になっている。これはビリアル定理とよばれ、逆 乗の引力で束縛された系につねに成り立つ。
万有引力で回る惑星でも同じ比が成り立つ。原子と太陽系という、大きさが 桁以上も違う つの系が、力の形が同じというだけで同じ関係を共有している。
、 で実際の水素原子とほぼ一致、 でイオン化エネルギーとほぼ一致、狭く閉じこめるほど運動エネルギーが で増えるため
別解
グラフの形から先に読み取るルート。 微分の計算をする前に、 つの項の形だけで結論の見当がつく。
は が小さいほど急激に大きくなり、 が大きいと速やかに に近づく。 はつねに負で、 が小さいほど深い。
では が に勝つので、合計は に発散する。 では両方 に近づく。
したがって合計は「小さいところで正の壁、遠くで 」の形をしており、途中に必ず谷底がある。この谷底が原子の大きさである。
での競り合いを「 が勝つ」と見抜けるかどうかが要点で、これが分かれば「原子はつぶれない」という結論は微分の前に決まる。
グラフの 本の曲線と、その和の谷は図に示したとおりである。数値計算は、谷の位置と深さを求める作業にすぎない。
ポイント
- 狭く閉じこめるほど運動エネルギーが増える(1/r²)
- 位置エネルギーの下がり方(1/r)より速いので、途中に最小値がある
- 最小の位置は 5.3×10⁻¹¹ m でボーア半径、深さは −13.7 eV でイオン化エネルギー
- 運動エネルギーと位置エネルギーの比は 1:−2(ビリアル定理)
よくある間違い
- 位置エネルギーだけを見て「落ちこむほど安定」と結論する
- 最小値を求めるのに r→0 を考えてしまう(そこは発散する)
- エネルギーの符号を落として +13.7 eV としてしまう