物理 / 原子
エネルギー準位を電子でたたいて測る
問題
水銀の蒸気を封入した管の中で電子を加速し、通り抜けた電子による電流を測る。加速電圧を から少しずつ上げていくと、電流はいったん増えたあと で急に落ち、また増えて で落ち、 でも落ちる。
、、電子の質量 、 とする。
(1) この結果から、水銀原子について何が分かるか。また電子が水銀原子にエネルギーを渡すために必要な最小のエネルギーを J で求めよ。
(2) そのエネルギーをもつ電子の速さを求めよ。
(3) エネルギーを受け取った水銀原子が、もとの状態にもどるときに出す光の波長を求めよ。それは可視光か。
(4) 加速電圧を にしたとき、 個の電子は最大で何回まで水銀原子にエネルギーを渡せるか。
ヒントを見る
電流が落ちるのは、電子が何を失ったときか。どんな電圧でも落ちるのではなく、決まった電圧でだけ落ちるのはなぜか。
解答・解説
方針
電流が落ちるのは、電子が原子にエネルギーを渡して速度を失うからである。特定の電圧でだけ落ちるという事実が、原子の受け取れるエネルギーがとびとびであることを示す。あとは を J に直し、速さや光の波長に翻訳していく。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 スペクトルの観測は「原子が出す光」を見る間接的な方法である。この実験はそうではなく、電子を直接ぶつけて原子のエネルギー準位を測っている。
もし原子がどんなエネルギーでも受け取れるなら、電流はなめらかに変化するはずである。ところが決まった電圧でだけ急に落ちる。
これは「原子が受け取れるエネルギーが決まった値だけ」であることの、直接の証拠になる。
① 分かること。 で加速された電子は、 の運動エネルギーをもつ。ちょうどこの値で電流が落ちるのは、電子がこのエネルギーを水銀原子に渡して、自分はほとんど止まってしまうからである。
それより低い電圧では、電子はエネルギーを渡せない。渡せる値が決まっているからである。
つまり水銀原子のエネルギー準位はとびとびで、基底状態からいちばん近い状態までの間隔が である。
② 電子の速さ。
光速の ほどで、非相対論で扱ってよい速さである。
③ 出る光の波長。 励起された原子がもとにもどるとき、受け取った を光として放出する。
で、可視光( 〜 )より短い紫外線である。実際この実験では、管から の紫外線が出ることが確かめられている。
電流の落ちこみという電気的な測定と、放出される光の波長という光学的な測定が、同じ を指し示す。これがこの実験の説得力である。
④ 何回まで渡せるか。 で加速された電子は をもつ。 回のやりとりで を失うから
回渡すと しか残らず、 回目は渡せない。よって最大 回である。
まとめ とびとびの準位は、光のスペクトルだけでなく、電子をぶつけることでも測れる。 ごとに電流が落ちるという簡単な観測が、量子論の直接の証拠になっている。
発展 — 一歩先へ。 この実験はフランクとヘルツによって 年に行われ、ボーアの原子模型を裏づける決定的な証拠となった。
面白いのは、 より小さいエネルギーの電子は、水銀原子と何度ぶつかってもエネルギーを失わないことである(弾性衝突しか起きない)。相手が受け取れる値をもっていないと、渡すことすらできない。
「エネルギーは連続には渡せない」という量子の性質が、電流計の針の動きとして目に見える形になった実験である。
エネルギー準位がとびとびで、最小の間隔が 、電子の速さ 、波長 で紫外線、最大 回
別解
エネルギーの単位を eV のまま通すルート。 ① 〜 ④ を J に直さずに進めると、計算がずっと軽くなる。
加速電圧 ボルトで加速された電子のエネルギーは、そのまま 電子ボルトである。だから「 で落ちる」は「準位の間隔が 」と読み替えるだけでよい。
③ の波長も、次の関係を覚えておくと暗算できる。
④ も の整数部分を見るだけである。
この という数は を の単位で表したもので、原子分野ではくり返し使う。 と という「原子のサイズに合った単位」で通すと、 の何乗という指数を追いかけずに済む。
ポイント
- 決まった電圧でだけ電流が落ちる = 原子の準位がとびとび
- 落ちる電圧の間隔がそのまま準位の間隔(4.9 eV)
- 同じ 4.9 eV が、放出される紫外線(253 nm)としても確かめられる
- eV と nm で通すと λ[nm]≈1240/E[eV] で計算が軽い
よくある間違い
- 電流が落ちるのは電子が原子に吸収されるからだと考える(失うのはエネルギーで、電子自体は残る)
- 4.9 eV より小さいエネルギーでも少しずつ渡せると思う(渡せる値が決まっている)
- 15 V で 3.06 回と答える(渡せるのは整数回)