物理 / 原子
電子でつくる干渉縞
問題
電子を電圧 で加速し、間隔 の二重スリットに当てる。スリットから 離れたスクリーンで、到達した電子の分布を調べる。
、電子の質量 、電気量の大きさ とする。加速後の電子は非相対論的に扱ってよい。
(1) 加速された電子の運動量と、ド・ブロイ波長を求めよ。
(2) スクリーンにできる縞の間隔を求めよ。
(3) 加速電圧を 倍の にすると、縞の間隔はどうなるか。
(4) 電子を 個ずつ、十分に間隔をあけて送りこんでも、多数の電子が到達したあとには同じ縞ができる。この事実は何を意味するか述べよ。
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加速で得るエネルギーはいくらか。そこから運動量へどうつなぐか。縞の間隔の式は、光のときと同じものが使えるだろうか。
解答・解説
方針
加速で得た運動エネルギーから運動量を出し、ド・ブロイの関係で波長にする。干渉縞の間隔は光のヤングの実験と同じ式でよい。最後は、粒子と波の二重性をどう受け取るかを言葉にする問題である。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 電子は粒子である。しかし波長をもつなら、光と同じように干渉するはずである。
計算の流れは決まっている。加速電圧 → 運動エネルギー → 運動量 → 波長、そして波長 → 縞の間隔。それぞれの段はどれも既知の式でつながる。
最後の (4) だけは計算ではない。「 個ずつ送っても縞ができる」という実験事実が何を意味するのかを、正面から考える必要がある。
① 運動量と波長。 加速で得る運動エネルギーは である。
可視光の 分の ほどの波長である。原子の大きさと同じくらいで、これが電子顕微鏡が光学顕微鏡よりはるかに細かいものを見られる理由でもある。
② 縞の間隔。 波長が分かれば、あとは光の二重スリットと同じ式でよい。
十分に測れる大きさである。
③ 電圧を 倍にすると。 だから、波長は に反比例する。電圧が 倍なら波長は になる。
縞は狭くなる。速い電子ほど波長が短く、波らしさが見えにくくなる。
④ 個ずつ送る実験の意味。 電子を 個ずつ、前の電子が到達してから次を送るようにしても、点が積み重なるにつれて同じ縞が現れる。
もし「電子はどちらか一方のスリットを通る粒子」だとすると、多数を集めた分布は つの山を重ねたものになるはずで、縞にはならない。
したがってこの結果は、 個の電子が両方のスリットを通り、自分自身と干渉していると考えざるをえないことを意味する。
さらに、どちらのスリットを通ったかを測る装置を置くと、縞は消えてしまう。「通り道を知ること」と「干渉すること」は同時に成り立たない。
まとめ 物質波の波長は で、干渉の計算は光とまったく同じ式で進む。違うのは解釈のほうで、 個ずつでも縞ができるという事実が、粒子と波の二重性を最も鮮明に示している。
発展 — 一歩先へ。 ド・ブロイ波長は なので、質量が大きいほど短い。
たとえば質量 の玉が で動くとき、波長は である。原子核よりはるかに小さく、どんなスリットでも干渉は観測できない。
日常の物体で波の性質が見えないのは、法則が違うからではなく、 が小さすぎるからである。同じ式が、量子の世界と日常の世界を連続的につないでいる。
・、縞の間隔 、 では半分の 、 個の電子が両方のスリットを通る(粒子が自分自身と干渉する)
別解
波長の便利な形を使うルート。 ① の計算は、電圧だけの式にまとめておくと速い。
に数値を入れてまとめると
という形になる。 なら と暗算できる。
この形にしておくと ③ も即答できる。 が 倍なら分母が 倍で、波長は半分。縞の間隔も半分である。
電子顕微鏡の分解能を見積もるときも、この式が役に立つ。加速電圧 なら となり、原子を分解できる見込みが立つ。
公式を「よく使う量だけの式」に整理しておくと、計算が速くなるだけでなく、依存の仕方( に反比例)がひと目で分かる。
ポイント
- 加速電圧から λ=h/√(2meV)。波長は √V に反比例
- 干渉縞の間隔は光と同じ Δx=Lλ/d
- 100 V の電子の波長は約 1.2×10⁻¹⁰ m(原子の大きさ)
- 1 個ずつ送っても縞ができる = 1 個の電子が両方のスリットを通る
よくある間違い
- 加速電圧から速さを出すときに相対論が要ると思い込む(100 V ではまだ非相対論でよい)
- λ=h/(mv) の v を光速としてしまう(電子の速さを使う)
- 1 個ずつ送れば縞は消えると考える(実験では現れる)