物理 / 円運動と万有引力

空気抵抗で衛星が速くなるパラドックス

最難関編万有引力円運動エネルギー

問題

地球()のまわりの半径 の円軌道を回る質量 の人工衛星がある。ごく薄い大気からわずかな空気抵抗を受けると、衛星は長い時間をかけて円軌道を保ったまま少しずつ高度を下げる(各瞬間はほぼ円軌道とみなせる)。

(1) 円軌道の速さ 、運動エネルギー 、位置エネルギー 、全エネルギー を、それぞれ を使って表せ。

(2) 空気抵抗は負の仕事をして全エネルギーを減らすのに、衛星の速さはむしろ増える。この一見矛盾する現象の理由を、(1) の関係を使って説明せよ。

(3) 高度が下がって半径が 1.0% 減ったとき、速さは何%増えるか。有効数字2桁で求めよ。

ヒントを見る

まず円軌道の K・U・E を r だけで書く。すると K は r が小さいほど大きい、E は r が小さいほど小さい(より負)という逆向きの関係が見える。抵抗が奪うのは「全」エネルギー。位置エネルギーがそれ以上に下がるので、運動エネルギー(=速さ)は増える。速さは r の -1/2 乗に比例することから増加率を出す。

解答・解説

方針

円軌道の各量を r で表す。K=-E、U=2E というビリアルの関係が肝。抵抗で E が減る(r が減る)と、K は逆に増える。速さの変化率は v∝r^(-1/2) の微小変化で。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「抵抗で減速するはず」という直感が、この問題では裏切られる。カギは 運動エネルギーと全エネルギーが逆に動く ことにある。

まず円軌道の だけで書く。すると という関係(ビリアル定理)が現れる。抵抗が奪うのは「全」エネルギー だが、その分 が減り、 は逆に増える。ここを数式で押さえる。

① 円軌道の各量。 円軌道は「向心力=万有引力」から 。よって

ここで の関係(ビリアル)が読み取れる。

② パラドックスの説明。 抵抗は全エネルギー を減らす。 が減る(より負になる)とは、小さくなる こと。

すると は逆に 大きく なる。位置エネルギー 分、つまり全エネルギーの減少の2倍のペースで下がる。

差し引き、抵抗が を奪っても、 下がるので、運動エネルギーは 増える。だから速さは増す。抵抗がした負の仕事より大きなエネルギーが、重力の位置エネルギーから運動エネルギーへ回された、というのが正体である。

③ 速さの増加率。 なので、 減ると

すなわち速さは約 増える

まとめ 束縛された重力系では 。だから全エネルギーが減るほど運動エネルギーは増える。空気抵抗で衛星が加速するのはこのためで、「負の熱容量」とも呼ばれる、重力系に特有の直感に反する性質である。

が減ると 増・ 減。速さは約 0.50% 増

別解

具体数値で確かめるルート。 半径 で速さを比べる。

確かに約 増。全エネルギーの比は で、(負)は ほど大きさが増す(より負になる)。微分で出した近似 と数値がぴたり合う。

ポイント

  • 円軌道では K=GMm/2r、E=-GMm/2r、よって K=-E、U=2E
  • 抵抗で E 減=r 減、すると K は増える(だから速くなる)
  • v∝r^(-1/2)、r が1%減ると速さは約0.5%増

よくある間違い

  • 抵抗=減速と即断する(全エネルギーは減るが運動エネルギーは増える)
  • E=K+U で U の符号(負)を落とし、E を正にしてしまう
  • 増加率で v∝r^(-1/2) の指数 -1/2 を -1 と誤り、1%と答える