物理 / 円運動と万有引力

月へ向かうのに必要な最小の速さ

★★★★ 難関万有引力エネルギー保存位置エネルギー

問題

地球の質量を 、月の質量をその とし、中心間の距離を とする。地球の半径は 、地表での重力加速度の大きさは である。地球と月は静止しているとみなし、他の天体の影響と空気抵抗は無視する。

(1) 地球と月を結ぶ線上で、両者から受ける万有引力がつり合う点は、地球の中心から測ってどこか。

(2) 地表からロケットを打ち上げ、(1) の点にちょうど速さ0で到達させたい。必要な最小の初速を求めよ。ただし万有引力による位置エネルギーは、無限遠を基準として である。

(3) (2) で求めた速さを、地球の脱出速度と比べよ。

(4) (1) の点を通り過ぎたロケットはどうなるか、理由とともに述べよ。

地球質量 M質量 M/81d
地球と月(大きさは誇張してある)。中心間の距離が d
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まず「どこまで登れば下り坂に変わるか」を決める。そこが目標地点である。質量が与えられていなくても、地表の重力加速度が分かっていれば万有引力定数と質量の積は書き直せる。

解答・解説

方針

引力がつり合う点を越えれば、あとは月に引かれて勝手に落ちていく。だからその点にかろうじて届くのが最小条件になる。 は与えられていないが、 から と置き換えられる。位置エネルギーは地球のぶんと月のぶんを足し、出発点と到達点で比べる。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 月へ行くのに必要なエネルギーを見積もる問題である。

いちばんの関門は、どこまで登れば楽になるかを決めること。地球と月の引力がつり合う点を越えれば、あとは月に引かれて勝手に落ちていく。だからその点に「かろうじて届く」のが最小条件になる。

計算では が与えられていないが、 から と置き換えられる。この置換は万有引力の計算の常套手段である。

① つり合う点。 地球の中心から距離 の点で、両者の引力が等しいとする。

整理すると

重要引力が距離の2乗に反比例するので、つり合う点までの距離の比は **質量の平方根の比** になる

よって

Oつり合う点0.9地球の引力月の引力
地球からの距離を d を単位として測ったときの、地球の引力(青)と月の引力(赤)。2曲線が交わる点が引力のつり合う点で、地球から 0.9d のところにある

質量は81倍も違うのに、つり合う点は月から のところ。 がそのまま効いている。

② 必要な初速。 地表(、月からは )から、つり合う点(、月からは )へ、速さ0で届く条件をエネルギー保存で書く。両辺を で割ると質量が消える。

を使って各項を計算すると

したがって

である。

③ 脱出速度と比べる。 地球の脱出速度は

比を取ると

わずか しか小さくない。 月まで行くのは、地球の重力から完全に逃げ出すのとほとんど同じ手間だということである。

理由は①の位置にある。つり合う点は月のすぐ近くにあり、そこまで来ると地球の重力の井戸はもう十分に浅い。深い井戸をほとんど登りきったところで、ようやく月の助けが得られる。実際、上の計算で月の引力が助けてくれたぶんは 程度しかない。

④ その先。 つり合う点を越えると、月の引力のほうが強くなる。位置エネルギーで言えば、この点は2つの井戸のあいだの にあたる。

O0.9地球の井戸月の井戸
位置エネルギーの地形(横軸は地球からの距離を d を単位に、縦軸は GM/d を単位に測った値)。深い地球の井戸と浅い月の井戸のあいだに峠があり、0.9d の位置にある

峠を越えたら下り坂だから、ロケットは速さを増しながら月へ落ちていく。逆に少しでも手前で止まれば、地球へ引き戻される。つり合ってはいるが不安定な点である。

まとめ 引力がつり合う点は「距離の比が質量の平方根の比」で決まり、大きく月側に寄る。そこまで登り切るのに要るエネルギーは脱出速度とほとんど変わらない。位置エネルギーの地形を「2つの井戸と、そのあいだの峠」として描くと、話の全体が1枚の絵になる。

発展 — 一歩先へ。 実際の地球と月は共通の重心のまわりを回っている。すると回る立場での遠心力も加えた「有効な位置エネルギー」を考える必要が出てくる。その地形では峠が5か所に増え、ラグランジュ点と呼ばれる。

ラグランジュ点では物体が地球と月に対して位置を保てるので、観測装置の置き場として便利である。地球と太陽の系の 点に置かれた宇宙望遠鏡が、その代表例である。

(1) 地球の中心から (2) 約 (3) 脱出速度 の約 でほとんど変わらない (4) 月の引力のほうが強くなるので、加速しながら月へ落ちていく

別解

大きい項と小さい項を見分けて、暗算で見通すルート。 ②の計算では、月に関する項が地球の項よりずっと小さかった。そこで思い切って月を無視し、「地球の重力だけで まで登る」として見積もってみる。

きちんと計算した値と しか違わない。

さらに の項も に比べれば小さいので、これも落としてしまうと

となり、そのまま脱出速度の式になる。「月へ行く速さはほぼ脱出速度」という③の結論が、計算するまでもなく見えていた ことになる。

どの項が効いてどの項が効かないかを先に見分けておくと、答えの姿を計算前に描ける。物理の見積もりでは、この感覚が細かい計算より役に立つことも多い。

ポイント

  • つり合う点は 。距離の比は質量の平方根の比になる
  • の置換が万有引力の計算の常套手段
  • 必要な初速は脱出速度の約 。月の引力の助けは 程度でしかない

よくある間違い

  • つり合う点を質量の比 に内分する点としてしまう。引力は距離の2乗に反比例するので、比になるのは平方根の である
  • が与えられていないので解けないと思ってしまう。 に書き直せばよい
  • つり合う点で速度0になったロケットが、そのまま静止し続けると考えてしまう。このつり合いは不安定で、わずかでも月側へずれれば月へ落ちる