物理 / 円運動と万有引力

糸を引くと速くなる

★★★★ 難関面積速度向心力仕事

問題

なめらかな水平面の中央に小さな穴があいており、そこに軽い糸を通してある。面の上では糸の先に質量 の小球が結んであり、面の下では糸を手で持っている。

はじめ、小球は穴を中心とする半径 の円周上を、速さ で等速円運動している。ここから糸をゆっくり引き下げ、半径を にした。

(1) 糸が小球に及ぼす力の向きに注目して、半径が変わるあいだ変わらない量を1つ挙げよ。

(2) 半径が になったときの小球の速さを求めよ。

(3) 半径が のときと のときの糸の張力を、それぞれ求めよ。

(4) 手が糸を引くためにした仕事を求めよ。

小球v1r1
上から見た図。なめらかな水平面の中央にあいた穴に糸を通し、下へ引く
ヒントを見る

力の向きが1点を向いたままのとき、その点のまわりで保たれる量がある。円運動に近い形なら、その量は半径と速さの積で書ける。エネルギー保存を先に使ってはいけない理由も、力の向きと動く向きの関係を見れば分かる。

解答・解説

方針

糸の力はつねに穴(中心)を向いている。中心を向く力しかはたらかないとき、面積速度は一定になる。惑星の運動でケプラーの第2法則が成り立つのとまったく同じ理屈である。一方でエネルギーは保存しない。糸を引くあいだ、力の向きと動く向きがそろうので手が仕事をするからだ。速さは面積速度から、仕事はエネルギーの差から、と役割を分ける。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 引いただけなのに速くなる。その理由を押さえたい。

糸の力はいつでも穴(中心)を向いている。中心を向く力は、中心のまわりに回す働きをもたない。だから回転の勢いにあたる量が変わらない。これはケプラーの第2法則(面積速度一定)とまったく同じ理屈である。惑星に働く引力が太陽を向いているから面積速度が一定になる、あの話がそのまま使える。

一方でエネルギーは変わる。糸を引くと力の向きと動く向きに共通の成分が生まれるので、手は仕事をしている。したがって速さをエネルギー保存から出すことはできない。まず面積速度から速さを出し、そのあとで仕事を求める、という順序がここで決まる。

① 変わらない量。 糸が小球を引く力は、つねに穴を向いている。中心を向く力だけを受ける物体では、面積速度が一定に保たれる。

定理面積速度一定(ケプラーの第2法則) 中心を向く力だけを受ける物体は、中心のまわりに掃く面積の速さが一定である。速度が半径に垂直な瞬間には と書ける

いまは速度がつねに半径に垂直なので、 が一定に保たれる。

半径 r1半径 r1/2同じ時間に掃く面積は等しい
中心を向く力しかはたらかないと、同じ時間に掃く面積が等しくなる。半径が半分なら角度は4倍、弧の長さは2倍。つまり速さが2倍になる

② 引いたあとの速さ。

半径が半分になると速さは2倍になる。

③ 張力。 円運動をしているあいだ、糸の張力が向心力である。

倍になった。 が一定であることを使って を代入すると

張力は半径の3乗に反比例する。 半径を半分にすれば 倍、というのがこの式の意味である。

④ 手がした仕事。 面がなめらかなので、小球の運動エネルギーを変えたのは手の仕事だけである。

まとめ 中心を向く力は回す働きをもたないので が保たれ、半径を縮めると速さが上がる。一方で張力は で急激に大きくなり、それを引くぶんだけ手が仕事をする。速さの答えは面積速度から、エネルギーの答えは仕事から。役割を分けるのがこの問題の骨である。

発展 — 一歩先へ。 力が中心を向いているのに仕事をするのは、変位に「中心へ近づく成分」があるからである。半径が変わらない等速円運動では力と変位が直角で仕事が0、という事実と矛盾しない。

フィギュアスケートのスピンで腕を縮めると回転が速くなるのも同じ原理である。選手は腕を引き寄せる仕事をしており、そのぶんだけ回転のエネルギーが増えている。回転が速くなるぶんのエネルギーは、どこからか湧いてくるのではなく、筋肉から供給されている。

(1) (言いかえれば面積速度)が一定 (2) (3) (4)

別解

張力の仕事を直接足し上げるルート。 ④の答えは、力と距離から直接求めることもできる。③で得た

を、半径が から まで縮むあいだで足し合わせればよい。

rTO5.0 N40 N0.200.40
張力は半径の3乗に反比例する。0.20 m から 0.40 m のあいだの、曲線の下の面積が手のした仕事 3.0 J にあたる

を足し上げると の差になるから

を代入して

エネルギーの差から求めた値と一致した。

力の変化を1歩ずつ追う道と、始めと終わりだけを見る道の、どちらからも同じ答えが出る。グラフでいえば、曲線の下の面積を数えるか、両端の値の差を取るかの違いである。数値が合ったことで、③で導いた の形も裏づけられた。

ポイント

  • 中心を向く力しかないとき面積速度が一定。ここでは が一定に保たれる
  • 速さは 、張力は
  • 速さは面積速度から、仕事はエネルギーの差から。順序を逆にすると解けない

よくある間違い

  • エネルギー保存を使って としてしまう。手が仕事をしているので運動エネルギーは保存しない
  • 張力が半径に反比例すると思ってしまう。速さも同時に変わるので になる
  • 「中心を向く力は仕事をしない」を半径が変わる場合にも当てはめてしまう。仕事が0なのは半径が一定のときだけである