物理 / 円運動と万有引力

バンクした道路を曲がれる速さの範囲

★★★★ 難関向心力摩擦斜面

問題

半径 の円形のカーブがある。路面は内側が低くなるように、水平から 傾けてある(バンク)。タイヤと路面のあいだの静止摩擦係数を 、重力加速度の大きさを とする。車は傾いた面の上を、半径 の水平な円を描いて走る。

(1) 摩擦がまったくはたらかなくても曲がれる速さ を求めよ。

(2) 内側へずり落ちずに曲がれる最小の速さ を求めよ。

(3) 外側へ飛び出さずに曲がれる最大の速さ を求めよ。

(4) で決まる角 (摩擦角)を使うと、(2)(3) の答えがどのような形に書けるか述べよ。

θ回転軸半径 r外側
バンクした路面の断面。車は傾いた面の上を、半径 r の水平な円を描いて走る
ヒントを見る

力を斜面に平行・垂直へ分けたくなるが、ここでは水平と鉛直へ分けるほうが速い。加速度が水平だからである。摩擦の向きは「この速さだと車はどちらへ滑り出そうとするか」を先に決めてから書きこむ。

解答・解説

方針

バンクした路面では、面が車を押す力(垂直抗力)が内向きの成分をもつ。摩擦がなくても曲がれるのはそのためである。摩擦が加わると、遅すぎるときは斜面を上る向き、速すぎるときは下る向きにはたらき、曲がれる速さに幅ができる。加速度は水平で中心を向いているので、力は水平と鉛直に分けて2本の式を立て、垂直抗力を消去する。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 水平な道路なら、曲がるための向心力は摩擦だけが担う。路面を傾けると、面が車を押す力そのものが内向きの成分をもち、摩擦の助けなしでも曲がれるようになる。まずその「ちょうどよい速さ」を押さえるのが出発点である。

そのうえで摩擦を足す。遅すぎれば内側へずり落ちようとするので摩擦は斜面を上る向き、速すぎれば外へ飛び出そうとするので下る向き。向きが逆になるだけで式の形は変わらない。だから2つの答えは符号違いの双子になる。

分解の向きに注意したい。加速度は水平で中心を向いているので、力は水平と鉛直に分けるのが素直である。

① まず摩擦なしの場合。 路面から受ける垂直抗力を とする。鉛直方向はつり合い、水平方向が円運動の運動方程式になる。

辺々を割ると が同時に消える。

公式バンク角の関係 。摩擦なしで曲がれる速さは、半径とバンク角だけで決まり、車の重さによらない

だから

② 最小の速さ。 これより遅いと、必要な向心力より のほうが大きくなり、車は内側(斜面の下)へずり落ちようとする。それを止める摩擦力 は斜面を上る向きにはたらく。滑り出す直前では である。

θmgNf中心はこちら
遅すぎて内側へずり落ちようとするとき。摩擦 f は斜面を上る向きにはたらく(最小の速さ)

斜面を上る向きは、水平成分が外向き、鉛直成分が上向きである。中心向きを正として2本の式を書く。

を代入して辺々割ると、 が消えて

数値を入れると

③ 最大の速さ。 今度は速すぎて外へ飛び出そうとするので、摩擦は斜面を下る向きになる。 の符号を逆にすればよい。

θmgNf中心はこちら
速すぎて外側へ飛び出そうとするとき。摩擦 f は斜面を下る向きになる(最大の速さ)

安全に曲がれるのは から まで。ちょうど3倍の幅がある。

④ 摩擦角で書き直す。 とおくと、②③に現れた分数はどちらも正接の加法定理そのものである。

したがって

なら で、正接はそれぞれ 。②③の値がそのまま出てくる。

まとめ バンク角 に摩擦角 を足し引きした角が、そのまま曲がれる速さの上限と下限を決める。摩擦は「バンク角を だけ動かせる余裕」として効いている、と読める。

発展 — 一歩先へ。 に近づくと が発散し、上限速度がいくらでも大きくなる。競輪場のバンクが 近くまで傾けてあるのはこのためである。

逆に なら となり、下限が消える。これは「止まっていても滑り落ちない」ことを意味する。一般道のカーブでバンクを摩擦角より緩くしてあるのは、停止した車が横滑りしないようにするためである。

(1) (2) (3) (4)

別解

見かけの重力と摩擦円錐で見るルート。 車と一緒に回る立場に立つと、外向きに遠心力 がはたらき、車は静止して見える。重力 と合わせた「見かけの重力」は、鉛直から外向きに

だけ傾いた向きになる。速いほど外へ倒れる。

車が滑らない条件は、この見かけの重力を路面が受け止めきれることである。ところが面が出せる力の向きには限りがある。摩擦が最大でも、面からの力は 面に垂直な向きから摩擦角 以内 にしか傾けられない(摩擦円錐)。

面に垂直遅いとき速いとき
面が出せる力の向きは、面に垂直な向きから摩擦角 φ 以内に限られる(摩擦円錐)。車が必要とする力の向きがこの範囲に収まる速さが v1 から v2 まで

面の法線は鉛直から 傾いているから、条件は

から で増加するので、そのまま

連立方程式を解かずに、角の大小を比べるだけで上限と下限が出た。④の形が「なぜ足し引きなのか」も、この図なら一目で分かる。

ポイント

  • 加速度は水平で中心向き。だから力は水平と鉛直に分けるのが素直
  • 摩擦なしの適正速度は で、半径とバンク角だけで決まる
  • 上限と下限は 。摩擦角ぶんだけバンク角に幅ができる

よくある間違い

  • 静止した立場の図に遠心力まで描きこみ、そのうえで運動方程式も立てて二重に数えてしまう。遠心力を使うなら「つり合いの式」にする
  • 垂直抗力を としてしまう。斜面に静止しているのではなく水平な円を描いているので、摩擦なしなら と大きくなる
  • 最大の速さのときに摩擦が斜面を上る向きだと思ってしまう。速すぎる車は斜面を上ろうとするので、摩擦はそれを止める下る向きである