物理 / 電磁誘導と交流
変圧器は抵抗の値も変える
問題
巻数比 の理想的な変圧器がある。 次側に の抵抗(スピーカーだと思ってよい)をつなぎ、 次側に実効値 の交流電源をつないだ。変圧器での損失はないものとする。
(1) 次側の電圧と電流を求めよ。
(2) 次側に流れる電流を求めよ。
(3) 次側から見ると、この変圧器と抵抗の組はいくらの抵抗に見えるか。巻数比 と で一般式も示せ。
(4) 内部抵抗 の交流電源から の抵抗へ最大の電力を送りたい。直結した場合とこの変圧器を入れた場合で、抵抗が受け取る電力を比べよ。
ヒントを見る
次側から見た抵抗とは、 次側の電圧と電流の比のことである。それぞれ何倍になっているか。
解答・解説
方針
電圧は巻数比で下がり、電流は逆に上がる。 次側から見た抵抗は「 次側の電圧÷ 次側の電流」で計算する。電圧が 分の 、電流が 倍なので、比は 倍になる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 変圧器は電圧を変える装置だと習うが、電流も同時に変わる。
すると「電圧÷電流」、つまり回路から見た抵抗の値も変わることになる。電圧が 倍、電流が 倍なら、比は 倍である。
この 倍という性質は、電圧の変換より応用が広い。「大きすぎる/小さすぎる抵抗を、都合のよい値に見せかける」道具として使える。
① 次側。 電圧は巻数比で決まる。
② 次側の電流。 損失がないので、両側の電力は等しい。
電流は 倍、つまり である。
③ 次側から見た抵抗。
一般式を作る。、 だから
④ 電力の比較。 まず直結した場合。回路の全抵抗は である。
ほとんど電力が届いていない。電源の内部抵抗が大きすぎて、電圧のほとんどが内部で落ちてしまうからである。
次に変圧器を入れた場合。 次側から見ると なので、内部抵抗とちょうど等しい。
約 倍の電力が届く。抵抗の値そのものは のままなのに、変圧器を挟むだけでこれだけ変わる。
まとめ 変圧器は電圧・電流だけでなく、抵抗の見え方も 倍に変える。この性質を使うと、電源と負荷の抵抗を一致させて(整合させて)最大の電力を送れる。
発展 — 一歩先へ。 最大の電力が取り出せるのは負荷抵抗が内部抵抗に等しいときである、という結果は直流回路で学んだとおりである。ところが実際には、 のスピーカーと の増幅器のように、値が大きく食い違うことが多い。
そこで変圧器を挟んで見かけの抵抗を合わせる。これをインピーダンス整合という。真空管アンプに大きな出力トランスが載っているのは、まさにこの理由である。
整合の考え方は電気だけのものではない。楽器のホーン(細い管から広い開口へ)、望遠鏡のレンズのコーティング(空気とガラスの中間の屈折率)、聴診器や中耳の耳小骨(空気と液体のあいだ)も、すべて「性質の違う つをつなぐときに中間の段を入れる」という同じ発想である。反射防止膜の という条件は、この 倍の話と数学的に同じ形をしている。
・、、 で一般に 、直結では だが変圧器を入れると で約 倍
別解
エネルギーの側から確かめるルート。 ③ の結果は、消費電力が変わらないことからも導ける。
抵抗が実際に消費する電力は
変圧器に損失がないので、 次側から見ても同じ が消費されているはずである。 次側の電圧は だから、見かけの抵抗を とすると
③ と一致する。
文字で書くと
このルートは「変圧器の向こう側で何が起きているか」を知らなくても、消費電力さえ同じなら見かけの抵抗が決まる、という点が明快である。
回路を箱として扱い、外から見た振る舞い(電圧・電流・電力)だけで特徴づける、という考え方は等価回路の基本でもある。中身がどうであれ、外から見て同じなら同じものとして扱ってよい。
ポイント
- 電圧は 1/n 倍、電流は n 倍になる
- 見かけの抵抗は電圧÷電流なので n² 倍
- 整合させると最大の電力が送れる
- 整合の発想は光の反射防止膜や中耳にも共通
よくある間違い
- 見かけの抵抗を n 倍としてしまう(2 乗)
- 2 次側の抵抗が変わったと考える(抵抗自体は 8.0 Ω のまま)
- 直流でも変圧器が働くと考える(磁束が変化しないと働かない)