物理 / 電磁誘導と交流
磁場の領域を落ちるコイル
問題
一辺 の正方形のコイル(質量 、抵抗 )を、鉛直面内に置いて静かに落とす。下方には磁束密度 の一様な磁場の領域(紙面に垂直)があり、その上端の境界は水平である。磁場の領域は十分に広い。 とする。
(1) コイルの下辺が磁場に入り、上辺がまだ外にあるとき、コイルに生じる起電力と電流を、速さ を用いて表せ。
(2) この状態でコイルにはたらく力を求め、運動方程式を書け。
(3) 十分に時間が経ったときの速さ(終端速度)を求めよ。
(4) コイル全体が磁場の中に入りきったあと、コイルの運動はどうなるか。理由とともに答えよ。
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起電力を生むのはどの辺か。上辺と下辺の両方が磁場の中にあるとき、 つの起電力はどうなるか。
解答・解説
方針
磁場を横切る辺だけが起電力を生む。境界をまたいでいるあいだは下辺だけが磁場の中にあるので、起電力は である。速さが増すほど制動力が増えるので、重力とつり合ったところで速さが一定になる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 電磁誘導の問題では「磁束が変化しているか」をまず確かめる。
境界をまたいでいるあいだは、磁場の中にあるコイルの面積が増えていくので磁束が変化する。だから起電力が生じる。
ところが全体が入りきると、面積が変わらないので磁束も変わらない。起電力は生じない。この「境目で起こることが変わる」のがこの問題の要点である。
① 起電力と電流。 下辺だけが磁場の中にあるので、磁場を横切る辺は下辺だけである。
レンツの法則から、電流は磁束の増加を妨げる向き、つまり磁場と逆向きの磁場をコイルの内側につくる向きに流れる。
② 力と運動方程式。 電流が流れている下辺が磁場から受ける力は
向きは上向き(落下を妨げる向き)である。これもレンツの法則の帰結で、もし下向きだったら落ちるほど加速し、エネルギーが無から生まれてしまう。
③ 終端速度。 加速度が になったときの速さである。
④ 入りきったあと。 上辺も下辺も磁場の中にあるので、両方に起電力が生じる。しかしコイルを一周する向きに見ると、この つは逆向きで、たがいに打ち消し合う。
磁束の側から見ても同じである。磁場の中にある面積が変わらないので 、したがって起電力は である。
電流が流れないので力もはたらかず、自由落下に戻る。加速度は である。
まとめ 起電力を生むのは「磁束の変化」であって「磁場の中にあること」ではない。境界をまたいでいるあいだだけブレーキがかかり、入りきると何も起こらない。
発展 — 一歩先へ。 磁石を銅のパイプに落とすとゆっくり落ちる実験は、これと同じ原理である。パイプを薄い輪の集まりと考えると、磁石が近づく輪では磁束が増え、離れる輪では減るので、どちらの輪にも磁石の運動を妨げる向きの電流が流れる。
この現象を渦電流という。電磁調理器(IH)や、金属探知機、新幹線の渦電流ブレーキにも使われている。
逆に、変圧器の鉄心では渦電流が損失になるので、薄い鉄板を絶縁して重ねる(成層鉄心)ことで電流の通り道を断ち切っている。同じ現象を「使う」場面と「防ぐ」場面がある。
起電力 ・電流 、力は で上向き、終端速度 、入りきると起電力が生じないので自由落下に戻る
別解
エネルギーの収支で終端速度を出すルート。 ③ は力を使わずに、エネルギーの流れからも求められる。
終端速度では速さが変わらないので、運動エネルギーは増えていない。したがって重力がする仕事は、そっくりそのまま抵抗での発熱になっているはずである。
秒あたりで考える。重力がする仕事(仕事率)は
抵抗での発熱は
つが等しいとおく。
③ と一致する。 が両辺から つずつ消えるのが気持ちよい。
このルートの利点は、「発電した電力はどこへ行くのか」がはっきり見えることである。コイルが落ちるとき、重力の位置エネルギーが電気を経由して熱に変わっている。
電磁ブレーキが「摩擦を使わずに止められる」のは、運動エネルギーをこの経路で熱に捨てているからである。ブレーキパッドが摩耗しないという利点があるが、止まってしまうと( で起電力が )効かなくなるという弱点もある。
ポイント
- 起電力を生むのは磁束の変化。磁場の中にあるだけでは生じない
- 制動力は速さに比例(B²a²v/R)。空気抵抗と同じ形
- 終端速度は v=mgR/(B²a²)
- 入りきると起電力が消えて自由落下に戻る
よくある間違い
- 入りきったあとも制動力がはたらくと考える
- 上辺と下辺の起電力を足してしまう(一周すると打ち消し合う)
- 力の向きを下向きとしてしまう(エネルギー保存に反する)