数学B / 統計的な推測
二項分布の和はまた二項分布(再生性)
問題
は二項分布 に、 は二項分布 に従い、 と は独立であるとする( とおく)。
(1) 二項定理を用いて、次の等式(ヴァンデルモンドの畳み込み)を示せ。
(2) は二項分布 に従うことを示せ。
(3) (2)から と を求め、、 と一致することを確かめよ。
ヒントを見る
(1) を2通りに展開してみよ。
(2) となるのは、 がいくつのときか。すべての場合を足す。
解答・解説
方針
独立だから、和の確率は「 かつ 」を について全部足せばよい。 と のべきは が消えてまとまり、二項係数の積の和だけが残る。それを片づけるのが(1)のヴァンデルモンドの畳み込みで、二項定理の係数比較から出る。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 二項分布は「 回の試行での成功回数」だ。 回やって、さらに 回やれば合計 回。成功回数の和が に従うのは、当たり前に思える。
その「当たり前」を、確率の計算だけで確かめるのがこの問題である。 を求めるには、 と の場合を について全部足せばよい(独立だから積で書ける)。
すると二項係数の積の和 が現れる。これがヴァンデルモンドの畳み込みで、 の係数比較から出る。
と のべきのほうは、 がきれいに消えて にまとまる。ここが計算の気持ちよいところだ。
① (1) 係数を比較する。 恒等式 の両辺を二項定理で展開する。
左辺は
で、 の項は すなわち となる組から出る。よって の係数は
右辺の の係数は 。両者は等しいから(1)が示された。
② (2) たたみこみを計算する。 となるのは、 かつ ()のときである。独立だから
のべきは 、 のべきは で、どちらも が消える。よって を外にくくり出せて
最後に(1)を使った。これは二項分布 の確率そのものである。
③ (3) 期待値と分散。 (2)より は に従うから
一方
で、確かに一致する(期待値は線形性から、分散は独立性から、それぞれ足せる)。
まとめ: 「 回 回 回」という当たり前の事実が、二項係数の恒等式(ヴァンデルモンドの畳み込み)として現れる。確率の計算は、しばしば組合せの恒等式の別の顔である。
発展 — 一歩先へ。 期待値や分散が足せることは、分布の形を知らなくても言える。だが「和がまた二項分布になる」という主張は、それよりずっと強い。分布の形そのものが保たれるからだ。この性質を再生性という。
正規分布も再生性を持つ( と の和は )。ポアソン分布もそうである。
ところが一様分布は再生性を持たない。一様分布どうしの和は三角形の分布になってしまうからだ。「足しても形が変わらない」というのは、実は特別な性質なのである。そして、形が変わっていった先の行き着く果てが正規分布(中心極限定理)だ、というのがこの分野のいちばん深い定理である。
(1) の の係数を比較する (2) を計算すると (3) 、
別解
試行の意味に戻る(高い視点)。 計算を1行もせずに(2)を示すこともできる。
は「成功確率 の独立な試行を 回行ったときの成功回数」と解釈できる。 は「同じ試行を 回行ったときの成功回数」だ。しかも と は独立だから、これらは互いに影響しない別々の試行列と見てよい。
2つを並べれば、「成功確率 の独立な試行を 回行った」ことになる。その成功回数がまさに である。したがって は に従う。
これで証明は終わりだ。ただし、この議論が許されるのは「独立な試行の繰り返し」という解釈をしてよい場合に限る。答案としては、本解のように確率を直接計算するほうが安全である。とはいえ、この見方を持っていれば「答えは になるはずだ」と先に確信でき、計算の見通しが立つ。
そしてこの見方は、なぜヴァンデルモンドの畳み込みが現れるのかも教えてくれる。 人から 人を選ぶとき、前半 人から 人、後半 人から 人を選ぶ、と場合分けする — それが の意味である。確率の計算と組合せの数え上げが、同じ構造を共有しているのだ。
ポイント
- の係数比較でヴァンデルモンド。
- たたみこみで 、 も が消える。
- 分布の形が保たれる(再生性)。期待値・分散が足せることより強い主張。
よくある間違い
- としてしまう。和の分布は、すべての組合せを足し上げたもの(たたみこみ)であって、確率の単純な和ではない。
- たたみこみの計算で、 や のべきに が残ると思い込む。、 で は消える。ここが計算の山場である。
- 成功確率が違う場合にも「和は二項分布」と当てはめる。 と ()の和は二項分布にならない。 が共通であることが決定的に効いている。