数学B / 統計的な推測
戻さずに取り出すと何が変わるか(有限母集団修正)
問題
大きさ の母集団( 個の値からなる)の母平均を 、母分散を とする。この母集団から 個()を非復元(取り出したら戻さない)で無作為に取り出し、その値を 、平均を とする。
(1) どの についても 、 である理由を説明せよ。
(2) のとき、 と の共分散が であることを示せ(ヒント: として全部取り出すと、 は定数である)。
(3) を示せ。
(4) 母集団 から 個を取り出すときの を求めよ。
ヒントを見る
戻さないと、先に引いた値が次に引ける値に影響する。 と は独立か。
(2) 全部取り出したときの和は何か。その分散は。
解答・解説
方針
非復元では どうしが独立でないので、共分散の項が効く。その共分散は「全部取り出せば和は定数(分散 )」という事実から逆算できる。あとは の展開に代入するだけ。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 復元抽出なら である。では戻さない場合はどうなるか。
直感的には、戻さないほうがばらつきは小さくなるはずだ。極端な話、(全部取る)なら標本平均は必ず母平均に一致し、ばらつきは になる。
その「 になる」という事実こそが、共分散を求める鍵である。全部取り出したときの和は定数()だから、その分散は 。分散を分解すれば、共分散が負の値として決まってしまう。
意味を考えれば当然だ。1つ大きい値を引けば、残りには小さい値が多く残る。だから と は互いに引っぱり合う — 共分散が負になるのである。
① (1) どの1つも母集団と同じ分布。 番目に取り出される値を考える。無作為に取り出すのだから、母集団のどの値も、 番目に来る確率は等しく である( が何番目かによらない)。
したがって の分布は母集団の分布そのもので
② (2) 全部取ると和は定数。 とすると、取り出した値の集まりは母集団そのものだから、和は必ず
これは定数である。定数の分散は だから
左辺を分解する。対称性からどの2つの共分散も同じ値 をとる。 が 個、共分散の項は の順序対の個数 個あるので
負である。1つ大きい値を引けば、残りは小さい値に偏る — その引っぱり合いが、この負の共分散だ。
③ (3) 標本平均の分散。 だから
( 個の中の順序対は 個ある。) でくくると
④ (4) 数値で確かめる。 母集団 の母平均は 、母分散は
だから
復元抽出なら だったので、戻さないほうがばらつきは小さい。
まとめ: 非復元抽出では、取り出した値どうしがわずかに負の相関を持つ。そのぶん標本平均のばらつきは小さくなる。 という因子(有限母集団修正)が、それを表している。検算もしやすい。 なら 、 なら で、どちらも当然の値になる。
発展 — 一歩先へ。 世論調査を考えよう。 億人の有権者から 人を選ぶとき、 はほとんど である。だから修正因子は効かず、 になる。
つまり、精度を決めるのは標本の大きさ だけで、母集団の大きさ はほとんど関係がない。「 億人を調べるのに 人で足りるのか」という素朴な疑問への答えがここにある。 億人だろうが 万人だろうが、 人調べたときの精度はほぼ同じなのだ。
逆に、 が に近い調査ではこの修正が大きく効く。 人のクラスから 人を選ぶなら で、ばらつきは復元抽出の 割ほどにまで縮む。ほとんど全員に聞いているのだから、当然といえば当然である。
(1) 番目に取り出される値は、どの値も等しく確率 でとるから、分布は母集団と同じ (2) を分解する (3) (4)
別解
小さい例を総当たりして確かめる(苦手な人向け)。 (4)の場合を、公式を使わずに全部書き出してみよう。
から 個を選ぶ方法は 通り。それぞれの平均は
である(順に に対応する)。
この 個の平均は で、確かに母平均 に一致する(不偏性)。分散は
公式の値 と一致した。
ついでに復元抽出と比べてみる。復元なら だから、非復元の より大きい。理由もはっきりしている。復元だと や のような極端な組が起こりうるが、非復元では同じ値を2回引けないので、平均が極端になりにくいのだ。
公式が本当かどうか怪しいときは、小さい例で総当たりする。手は動くが、確信が得られる。複雑な公式ほど、この習慣が効いてくる。
ポイント
- 非復元では どうしが独立でない。共分散の項が要る。
- 全部取ると和は定数()。ここから共分散 が逆算できる。
- 。 で 、 で 。
よくある間違い
- 非復元でも だと思ってしまう。これは復元抽出(または母集団が非常に大きい場合)の式である。有限の母集団から戻さずに取るときは を掛ける。
- (2)で「 と は独立だ」と思い込む。戻さないのだから、先に引いた値は次に引ける値に影響する。独立ではないし、共分散も ではない。
- を求めるときに を掛け忘れる。 だから である。