数学B / 統計的な推測

どちらが長持ちするか(正規分布の差)

最難関編正規分布差の分布標準化

問題

A社の電池の寿命 (時間)は正規分布 に、B社の電池の寿命 は正規分布 に従い、 は独立であるとする。

独立な正規分布に従う確率変数の差もまた正規分布に従うこと、および正規分布表の値

を用いてよい( は標準正規分布に従う)。

(1) の平均と標準偏差を求めよ。

(2) A社の電池がB社の電池より長持ちする確率 を求めよ。

(3) A社が製造を改良し、寿命の平均を にした(標準偏差は のまま)。 とするための の最小値を求めよ。

ヒントを見る

「A のほうが長持ち」を、1つの確率変数についての不等式に言い換えよ。

差の分散はどうなるか。引き算だから引く、ではない。

解答・解説

方針

2つの分布を別々に眺めていても答えは出ない。差 を1つの確率変数と見て、その分布(正規分布)を作る。平均は差、分散は和である(引き算でも分散は足す)。あとは標準化して表を引くだけ。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「A が B より長持ちする確率」は、2つの分布を別々に眺めていても求まらない。

差を1つの確率変数と見るのだ。 が「A のほうが長い」ということ。 の分布さえ分かれば、あとは標準化して表を引くだけである。

独立な正規分布の差は、また正規分布になる。平均は差、分散は和だ。ここが落とし穴で、 である。マイナスが2乗されて消えるからだ。もし引き算にしてしまうと となり、標準偏差が定義できない — その時点で誤りに気づける。

(3)は逆算だ。確率を にするために平均をどこまで上げればよいか。標準化した値が境目にくる、という形で方程式にする。

公式独立なら (分散は引き算でも足す)
定理独立な正規分布の差 は正規分布 に従う

① (1) 差の分布を作る。 平均は

分散は

よって標準偏差は である。 に従う。

② (2) 標準化して表を引く。 求める確率は

とおくと は標準正規分布に従い、

と書き直せる。よって

(標準正規分布は原点対称だから 。)

である。平均で 時間の差があっても、ばらつきが 時間もあるので、 回に1回はB社が勝ってしまう。

X-YyO6-2030
差 X-Y の分布 N(6, 10^2)。A が B より長持ちする確率は、0 より右の面積(青)。平均が 6 だけ右にずれているぶん、半分より大きい 0.7257 になる。0 は平均から左へ 0.6 標準偏差の位置

③ (3) 逆算する。 平均を にすると に従う(A の標準偏差は のままなので、差の分散はやはり )。よって

これが 以上であればよい。表より だから、条件は

(境目が左へ動くほど、右側の面積は大きくなる。)整理して

よって の最小値は 時間である。

まとめ: 2つを比べるときは「差」を作る。平均は引き、分散は足す。あとは標準化して表を引くだけだ。

発展 — 一歩先へ。 「差を1つの変数と見る」という発想は、統計的検定そのものである。2つのグループの平均に差があるかを調べるとき、まさに差の分布を作り、その中で がどのあたりに位置するかを見る。 が分布のはしのほうにあれば「差がある」と判断するのだ。

本問の(3)は、その逆問題を解いたことになる。「 を十分に端へ追いやるには、平均をどれだけ動かせばよいか」。製品開発の目標設定は、実際にこうして決められる。「B社より 時間長い」では足りない。 の確率で勝ちたいなら、 時間の差が要る — ばらつきが大きいほど、確実に勝つには大きな差が必要になるのだ。

(1) 平均 、標準偏差 () (2) (3) より、最小値は 時間

別解

標準化を「安全余裕」として読む(苦手な人向け)。 この計算は、次のように読むと意味がはっきりする。

の平均は 、標準偏差は 。つまり「A は平均して 時間ぶん有利だが、そのばらつきは 時間ぶんある」ということだ。そこで比をとる。

この は「有利さが、ばらつき何個ぶんか」を表している。大きいほどA が勝つ確率は高い。いまは 個ぶんしか余裕がないので、勝率は 程度にとどまる。

もし平均の差が 時間(ばらつき 個ぶん)なら で、ほぼ確実にA が勝つ。逆に平均の差が なら 、つまり五分五分だ。

(3)はこの逆算にほかならない。勝率 に必要な余裕は 個ぶん。だから平均の差を 時間にすればよい。B の平均が だから、A は 時間である。

「差 ばらつき」という比を見る目 — これが統計の実践でもっとも役に立つ。 値や 値と呼ばれる量は、すべてこの形をしている。数値を丸暗記するのではなく、「ばらつき何個ぶんの差か」と読む習慣をつけたい。

ポイント

  • 「A が長持ち」 。差を1つの変数に。
  • (引き算でも足す)。
  • 標準化して

よくある間違い

  • としてしまう。分散は引き算でも足す()。マイナスは2乗されて消える。 では負になり、標準偏差が定義できない時点で気づける。
  • (B の平均と比べる)としてしまう。B の寿命も確率変数で、ばらつきがある。両方のばらつきを取り込むために「差」を作る。
  • (3)の標準化で、A の標準偏差 で割ってしまう。使うのは「差の標準偏差」 である。