数学B / 統計的な推測
標本平均の期待値と標準偏差
問題
母平均 、母標準偏差 の母集団から、大きさ の標本を無作為に抽出する。標本平均 の期待値 と標準偏差 を求めよ。
ヒントを見る
標本平均の平均は母平均のまま。標準偏差だけが標本の大きさに応じて縮む — どう縮むのだったかを思い出そう。
解答・解説
方針
標本平均の期待値は母平均に等しい()。標準偏差は母標準偏差を で割る()。標本を大きくするほどバラつきが小さくなる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 母集団から 人選んで、その平均をとる。この「標本平均」 自体が、確率変数だ。
誰を選ぶかで値が変わるからである。
では、 はどんな性質をもつか。
中心は動かない。
偏りなく選んでいるのだから、平均的には母平均のあたりに落ち着く。 これは直感どおりだ。
バラつきは、小さくなる。
人だけ選べば も揺れるが、 人の平均なら しか揺れない。
「多くを平均すると、極端な人どうしが打ち消し合う」 — これが で割る理由の直感である。
中心はそのまま、幅だけ縮む。 これが推測統計のすべての土台になる。
① 期待値。 母平均に等しい。
② 標準偏差。 母標準偏差を で割る。。
まとめ:標本平均の平均は母平均そのもの。ただしバラつき(標準偏差)は に縮む。標本を多く取るほど、標本平均は母平均の近くに集中する、というのが推定の土台だ。
発展 — 一歩先へ。 という式は、世論調査の設計図そのものだ。
よくある疑問。
「 億人の国民の意見を、たった 人に聞いて分かるのか?」
答えは、分かる。 しかも、母集団の大きさは、ほとんど関係ない。
式を見てほしい。
分母にあるのは (標本の大きさ)だけ。 母集団の人数 は、どこにも出てこない。
億人でも 万人でも、 人に聞けば同じ精度。
これは直感に反する。 だが、正しい。
スープの味見に例えられる。 大鍋でも小鍋でも、よくかき混ぜてあれば、スプーン 杯で味は分かる。 鍋の大きさは関係ない。大事なのは「よくかき混ぜる」(無作為抽出)ことだけだ。
具体的に計算してみよう。
内閣支持率の調査。 支持する人の割合 を推定する。 人あたりの分散は 。
人なら
の幅で見れば、誤差は約 。
「支持率 ()」 — ニュースで見るこの数字は、まさにこの計算から出ている。
人に増やしたら?
倍の人数をかけて、誤差は 分の 。 費用対効果が急激に悪くなる。
だから、多くの調査が 〜 人で止まる。 の精度があれば、実用上は十分だからだ。
ただし、絶対に外してはいけない前提がある。
「無作為抽出」である。
スープをかき混ぜずに、上澄みだけすくったら? 味は分からない。
歴史的な大失敗がある。 年のアメリカ大統領選で、ある雑誌は 万人という巨大な調査を行い、ランドンの勝利を予測した。結果はルーズベルトの圧勝。
原因は、電話帳と自動車登録名簿から標本を選んだこと。 当時、電話と車を持てたのは富裕層だけだった。標本が偏っていたのだ。
同じ年、ギャラップは、わずか 万人の"正しく選ばれた"標本で、勝者を的中させた。
万の偏った標本より、 万の無作為な標本のほうが正確。
を増やしても、偏りは消えない。 という式が保証するのは、「正しく選んだ場合の」精度だけなのだ。
、
別解
なぜ で割るのか。分散の性質から導いてみる。
「 で割る」は覚えにくい。だが、導いてしまえば忘れない。
標本平均を、式で書く。
は、 番目に選ばれた人の値。 どれも母集団から無作為に選ぶので、それぞれが 、 をもつ。
まず期待値。 期待値は足し算を素通りする。
に関係なく、 のまま。
次が本題の分散だ。 ここで つの性質を使う。
性質 : ( 倍すると、分散は 倍)
性質 : 独立なら (分散は足せる)
が出てくる理由が見えた。 分散が になるので、その平方根である標準偏差は になる。
この問題に当てはめる。
サイコロで確かめてみよう。
個の目の分散は 。
個振って平均をとると、その平均の分散は — 通りすべてを調べると、ちょうど
きっちり半分になる。 理論どおりだ。
この式が意味すること。
精度を 倍にしたい( を半分にしたい)なら、 を 倍にする必要がある。
標本を 倍集めて、やっと精度は 倍。
倍の精度が欲しければ、 倍のデータが要る。
これが統計調査のコストを決めている。 世論調査で誤差を半分にするには、費用が 倍かかるのだ。
「たくさん集めれば精度は上がる。ただし、上がり方はゆっくり」 — の法則は、恩恵と制約を同時に語っている。
ポイント
- (母平均に一致)。
- (標本が大きいほど小さい)。
よくある間違い
- を としてしまう。割るのは ではなく
- 標本平均の期待値も で割って としてしまう。中心は母平均のまま変わらない
- 「標本を増やすと母標準偏差 が小さくなる」と考える。小さくなるのは標本平均のバラつきであって、母集団自体は変わらない