数学B / 統計的な推測
二項分布の期待値
問題
当たる確率が のくじを、毎回もとに戻しながら 回引く。当たる回数を とするとき、 の期待値 を求めよ。
ヒントを見る
毎回同じ確率で独立に引く 回のうちの成功回数 — この設定の分布には名前がある。その分布の期待値は と から一発で出せる。
解答・解説
方針
毎回同じ確率 で当たる試行を 回くり返すので、 は二項分布 。二項分布の期待値は 。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 まず、状況を確認しよう。
- 毎回、同じ確率 で当たる(もとに戻すから、確率は変わらない)
- 回くり返す
- 知りたいのは、当たった回数
この 点がそろったら、二項分布だ。
二項分布と見抜ければ、期待値は公式一発である。
直感でも答えは見える。 回に 回当たるくじを 回引くのだから、当たるのは 回くらいだろう。
その直感が、そのまま公式になっている。
「反復試行 成功回数」を見たら、二項分布。 この型の判定が第一歩だ。
毎回確率 で当たる試行を 回くり返すので、 は二項分布 。
まとめ:「 回の試行で当たりが出る回数」は二項分布。期待値は で一発。 回で確率 なら平均 回、という自然な結果だ。
発展 — 一歩先へ。 の証明を、真正面からやるとどうなるか。
定義に従えば、こう書ける。
項の和だ。 二項係数と累乗が入り混じった、見るからに面倒な式である。
これを計算すると、確かに になる。 だが、その計算は簡単ではない( という変形を使う)。
一方、別解の「 回ずつに分ける」方法なら、 行で終わった。
同じ答えなのに、労力が桁違いだ。
なぜ、これほど差がつくのか。
真正面の計算は、「 の分布」を経由している。 「ちょうど 回当たる確率」をすべて求めてから、重みをつけて足す。
分ける方法は、分布をまったく使わない。 がどんな分布かを知らなくても、「 回あたりの期待値」さえ分かれば足せる。
これが期待値の線形性の威力である。
独立でなくてもよい。分布を知らなくてもよい。ただ足せる。
この道具は、応用の場で繰り返し使われる。
- クーポン収集: 全 種を集めるまでの回数の期待値
- 記録の回数: ランダムな列で「過去最高」が何回出るか
- ネットワーク: ランダムなグラフに三角形がいくつあるか
どれも「全体の分布」は複雑怪奇だが、「 つずつに分けて期待値を足す」だけで答えが出る。
難しい問題を、簡単な問題の"和"に分解する。 数学の常套手段が、確率でも同じように効く。
別解
という公式が「なぜ成り立つか」を、 回ずつに分けて見る。
回引くごとに、 つの確率変数を用意する。
この を、 回分の「当たり点」と思えばいい。 当たれば 点、はずれれば 点。
全部の当たり回数は、点数の合計だ。
回分の期待値を出す。
「 か の確率変数の期待値は、 になる確率そのもの」 — これは覚えておくと便利だ。
期待値の加法性で、足す。
これが の正体だ。
回あたりの期待値 を、 回分足しただけである。
この見方の恐ろしい強さ。
期待値の加法性 は、独立でなくても成り立つ。 だから、「独立でない」問題にもそのまま使える。
例: 帽子の問題。
人がパーティーで帽子を預け、帰りにランダムに つずつ受け取る。自分の帽子を取り戻せる人数の期待値は?
取り方の総数は 通り。 真正面から数えると大変だ( 人も一致しない場合、 人だけ一致する場合 )。
だが、 人ずつに分ければ一瞬である。
答えは 人。 しかも 人でも 人でも、答えは常に 人だ。
ここで は独立ではない( 人目が自分の帽子を取ると、他の人の確率が変わる)。それでも、期待値は足せる。
「分けて、足す」 — 期待値の加法性は、確率の世界でいちばん使い勝手のいい道具である。
ポイント
- 反復試行の回数 は二項分布 。
- 。
よくある間違い
- の と を取り違え、 のような計算をする。 は回数、 は 回あたりの確率
- 「もとに戻す」を見落として、引くたびに確率が変わると考える。もとに戻すからこそ毎回 で、二項分布になる
- 期待値 を「必ず 回当たる」と解釈する。 はあくまで平均で、実際は 回や 回にもなる