物理 / 電流と磁場
導線が受ける力はどう伝わるか
問題
断面が一辺 の正方形(断面積 )、長さ のまっすぐな銅線に、電流 を流す。この銅線を、電流に垂直な一様磁場(磁束密度 )の中に置く。
銅の自由電子の数密度を 、電気量の大きさを とする。
(1) 自由電子の平均の速さを求めよ。
(2) 銅線内のすべての自由電子が磁場から受ける力の合計を求め、 と一致することを確かめよ。
(3) 電子は銅線の外へは出られないので、磁場から力を受けた電子は断面の片側に寄る。電子の流れが定常になったとき、断面内に生じている電場(ホール電場)の強さを求めよ。
(4) (3) の電場が、銅線内の正電荷(金属イオン)を押す力を求めよ。その結果をもとに、電子が受けた力が銅線全体にどのように伝わるかを説明せよ。
ヒントを見る
磁場から力を受けているのは何か。その力を受けた電子は、導線の中でどうなるか。電子が片側に寄ったあと、残された側には何ができるか。
解答・解説
方針
は導線が受ける力の式だが、磁場が直接押しているのは動いている電子だけである。電子の数と 1 個あたりの力から合計を出し、それが に一致することを確かめる。次に、その力が電子から導線全体へどう渡るかを、ホール電場を仲立ちにして追う。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 は導線全体が受ける力の式である。しかし磁場が力を及ぼす相手は、電流を担う電子である。金属イオン(格子)は動いていないので、磁場から直接の力を受けない。
では、電子が受けた力はどうやって導線全体を動かすのか。ここを追うのがこの問題である。
電子は導線の外へ出られないので、力を受けると断面の片側に寄る。寄れば電荷のかたよりができ、電場が生まれる。その電場が、こんどはイオンを押す。これが力の受け渡しの経路である。
① 電子の平均の速さ。 電流は「1 秒間に断面を通る電気量」である。
進むのに約 秒かかる速さである。信号は光に近い速さで伝わるのに、担い手はこれほど遅い。
② 電子が受ける力の合計。 電子 1 個が受けるローレンツ力は である。銅線内の電子の数は
合計すると
がきれいに約分で消える。数値は
ミクロな量(電子の数や速さ)は答えに残らない。だから は、材料によらずに成り立つ。
③ ホール電場。 電子は磁場から断面の片側へ押され、そちら側に寄る。反対側では電子が足りなくなり、正に帯電する。
こうして断面を横切る向きの電場ができる。電子がそれ以上寄らなくなった定常状態では、電場から受ける力と磁場から受ける力がつり合う。
断面の幅 に生じる電圧は で、きわめて小さい。
④ 力の受け渡し。 この電場は、電子だけでなく金属イオンにも力を及ぼす。銅線内のイオンの正電荷の総量は、自由電子の総電荷と大きさが等しく
イオンが電場から受ける力は
② で求めた とぴったり一致する。
つまり力は次の順に渡っている。磁場が電子を押す → 電子がかたよってホール電場ができる → その電場がイオン(格子)を押す。 イオンが押される向きは、磁場が電子を押した向きと同じである。
電子のほうは、電場から受ける力と磁場から受ける力がつり合っているので、正味の力を受けていない。だから力はすべて格子が受け取ることになる。導線が動くのはこのためである。
まとめ は結果の帳尻を合わせた式で、その中身は「磁場 → 電子 → ホール電場 → 格子」という力のバケツリレーである。ミクロな量が最後に消えるのは、電流という 1 つの量にまとめられているからである。
発展 — 一歩先へ。 ③ のホール電圧が極端に小さいのは、銅の電子密度 が大きいからである。担い手が多いと、少し寄っただけで十分な電場ができてしまう。
半導体では が から 分の 1 ほどしかない。同じ電流を流すと電子の速さがそれだけ大きくなり、ホール電圧も同じ比で大きくなる。磁気センサーに半導体が使われるのはこのためである。
いっぽう導線が受ける力 のほうは、 が消えているので材料によらない。「力は同じでも、電圧はまるで違う」という対比が、この現象の面白いところである。
、合計 、、イオンが受ける力も で、ホール電場が電子から格子へ力を渡している
別解
単位長さあたりの電荷で見るルート。 約分の様子を、もっと見やすくする書き方がある。
導線 あたりに含まれる自由電子の電気量を とおく。すると電流の式は
と、線密度と速さの積というシンプルな形になる。
電子全体が受ける力は、電荷の総量 に を掛けたものだから
が 1 行で消える。「どんな導体を使っても、電流さえ同じなら力は同じ」ということが、この 1 行に凝縮されている。
同じ で ③ を書くと となり、こちらは が残る。ホール電圧が材料によって大きく変わるのは、まさにこの残った のせいである。
「消える量」と「残る量」を見分けると、どの現象が材料に依存するのかが一目で分かる。
ポイント
- 磁場が直接押しているのは電子だけで、格子は押されていない
- 電子が受ける力の合計は、ミクロな量が約分で消えて IBL になる
- ホール電場は eE=evB のつり合いで決まり、E=vB
- その電場が格子を押すことで、力が導線全体に伝わる
よくある間違い
- 磁場が導線そのものを直接押していると考える(押されるのは動いている電荷)
- 電子の平均の速さを光速に近い値だと思う(実際は 1 秒に 1 mm 以下)
- ホール電場を電流をつくる電場と混同する(電流方向の電場とは別に、断面を横切る向きに生じる)