物理 / 剛体のつり合い
箱はどの角度で引くのが楽か
問題
重さ の箱を、水平な床の上でひもを使って引く。ひもは水平から角 だけ上向きにする。箱と床の動摩擦係数は で、箱は一定の速さで動いているものとする。
(1) 垂直抗力 と、必要な力 を、 を用いて表せ。
(2) (水平に引く)のときに必要な力を求めよ。
(3) を最小にする角 を求めよ。 とする。
(4) そのときの を求め、水平に引く場合と比べよ。
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上向きに引くと何が減るか。引く向きを上げすぎると何が損になるか。分母の形をよく見ると、合成できないか。
解答・解説
方針
斜めに引くと、上向きの成分が垂直抗力を減らし、摩擦力も減る。ただし水平成分も減るので、両方の兼ね合いで最適な角がある。分母を合成すると最大値が読める。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 水平に引くのがいちばん効率がよさそうに思えるが、そうではない。
斜め上に引くと、上向きの成分のぶん箱が床を押す力が減る。垂直抗力が減れば摩擦力も減るので、必要な力が小さくなる。
しかし角度を上げすぎると、今度は水平方向の成分が足りなくなる。この兼ね合いで最適な角度がある。
式にすると、分母に という形が現れる。三角関数の合成の出番である。
① 式を立てる。 鉛直方向のつり合い(箱は浮かない)。
水平方向は等速なのでつり合う。摩擦力は である。
について解く。
② 水平に引く場合。 なら
③ 最小にする角。 が最小になるのは分母が最大のときである。分母を合成する。
最大値は で、そのとき である。 だったので、 については
④ 最小の力。
水平に引く場合の と比べると
も少ない力で済む。荷物を引くとき、少し上向きに引くほうが楽なのは気のせいではない。
まとめ 「上向きに引くと摩擦が減るが、水平成分も減る」という兼ね合いが、合成によって という簡潔な条件にまとまる。
発展 — 一歩先へ。 を満たす角は摩擦角とよばれ、「その角度まで斜面を傾けると物が滑り出す」角度と同じである。
引くときの最適角と、滑り出す斜面の角が一致するのは偶然ではない。どちらも「垂直抗力と摩擦力の合力の向き」で決まっているからである。
なお、押す場合は逆になる。斜め下に押すと垂直抗力が増えて摩擦が増えるので、同じ で押すと必要な力は
引く場合の 倍にもなる。「重い荷物は押すより引くほうが楽」という経験則が、この式の差として現れている。
・、水平なら 、最小は すなわち 、そのとき で 減る
別解
摩擦角を使って作図で解くルート。 合成の計算をせずに、力のつり合いの図から答えを出せる。
箱にはたらく力は つ、重力 、床からの力(垂直抗力と摩擦力の合力)、そしてひもの張力 である。 力のつり合いなので、これらは三角形をつくる。
ここで、床からの力の向きに注目する。箱が滑っているとき、摩擦力は なので、床からの力は鉛直から だけ傾いている。この角は によらずつねに一定である。
つまり力の三角形は、「 の長さと向きが決まっている」「床からの力の向きが決まっている」ので、 の向きだけが自由である。
三角形の 辺()と、 つの角(床の力の向き)が固定されているとき、 の長さが最小になるのは、 が床からの力に垂直なときである。点から直線への最短距離が垂線であるのと同じ理屈である。
床の力が鉛直から 傾いているので、それに垂直な向きは水平から 傾いた向きである。
そして最小値は ✓
三角関数の合成を知らなくても、「垂線が最短」という幾何だけで答えが出る。
ポイント
- 斜め上に引くと垂直抗力が減り、摩擦も減る
- F=μW/(cosθ+μsinθ)。分母の最大を探す
- 最小は tanθ=μ(摩擦角と同じ)で F=μW/√(1+μ²)
- 押す場合は分母が cosθ−μsinθ になり、はるかに不利
よくある間違い
- 垂直抗力を W のままにしてしまう(引く力の鉛直成分を引く)
- 水平に引くのが最も楽だと思い込む
- 分母の最小を探してしまう(F を最小にするのは分母の最大)