物理 / 原子

X 線で結晶をのぞく(ブラッグ反射)

最難関編X線干渉結晶

問題

結晶の中では原子が規則正しく並び、平行な原子の面が間隔 でならんでいる。この結晶に波長 の X 線を、原子面と角 をなす向きから当てる。

強い反射が観測される条件(ブラッグの条件)は

である。 とする。

原子面θd
2 つの原子面で反射した X 線。下の面で反射した波(赤)は、余分に 2d sinθ だけ進む。

(1) 隣り合う原子面で反射した X 線の行路差が になることを、図を用いて説明せよ。

(2) に対する を求めよ。 とする。

(3) この波長では何次の反射まで観測できるか。

(4) X 線管の加速電圧を にしたときに出る X 線の最短波長を求めよ。その波長では何次まで観測できるか。

ヒントを見る

つの面で反射した波が、どれだけ余分に進むかを図で追う。次数はいくらでも大きくできるだろうか。

解答・解説

方針

行路差は、隣の面まで往復する分の長さである。図の中に直角三角形を見つけると が現れ、往復で 倍になる。次数の上限は から決まる。最短波長は、電子の運動エネルギーがすべて 個の光子になる場合である。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 結晶による X 線の反射は、鏡の反射とは違う。原子の面が何層も重なっていて、それぞれで反射した波が重なり合う。

強め合うのは、隣り合う面からの波の行路差が波長の整数倍になるときである。だから行路差を幾何で書き切ることが第一歩になる。

行路差さえ出れば、あとは干渉の条件と、 という制約だけで答えが決まる。

① 行路差。 上の面で反射する波と、 つ下の面で反射する波を比べる。下の面まで潜って戻る分だけ、余分に進む。

図のように垂線を下ろすと、余分な経路は つの直角三角形の辺として現れ、それぞれ である。往復で

これが波長の整数倍のとき、 つの波は強め合う。

定理ブラッグの条件

次と 次の角。

のとき だから

のとき だから

③ 何次まで見えるか。 でなければならない。

したがって 次までである。一般には

で、波長が面の間隔の 倍を超えると、 次の反射さえ起きない。X 線を使う理由がここにある。可視光では波長が長すぎて、結晶の面の間隔を測れない。

④ 最短波長と次数。 加速された電子の運動エネルギーが、すべて 個の光子になったときが最短波長である。

この波長では

次まで観測できる。波長が短いほど、より高い次数まで見える。

まとめ ブラッグの条件は、行路差 という幾何と、干渉の条件だけでできている。観測できる次数の上限は で、これが「結晶を調べるには X 線が要る」理由になっている。

発展 — 一歩先へ。 ブラッグの条件は、逆向きにも使える。波長の分かっている X 線を当てて角度を測れば、原子面の間隔 が求まる。これが X 線結晶構造解析で、物質の中の原子の並びを知る主要な方法になっている。

DNA の二重らせんが見つかったのも、この方法によるものである。

さらに、電子線でも同じことができる。電子のド・ブロイ波長は加速電圧で調整できるので、 程度に落とせば結晶の間隔と同じくらいの波長になり、回折像が現れる。デビッソンとガーマーはこれを観測して、電子が波でもあることを示した。

行路差は 次まで、最短波長 次まで

別解

波長のほうを未知にして読み替えるルート。 ② では波長を与えて角度を求めたが、実際の測定では逆に使うことが多い。

角度を連続的に変えながら反射の強さを測ると、いくつかの角度で鋭いピークが現れる。 番目のピークの角度を とすると

だから、 に比例する。つまり測定値 が等間隔に並ぶ。

この性質は検算に使える。今回の値なら とちょうど 倍で、確かに等間隔である。もし測定値が等間隔にならなければ、面の間隔が 種類ではない(別の向きの面も反射している)ことを意味する。

そして間隔の刻み から が読めるので、 が既知なら波長が、 が既知なら が求まる。 本のグラフから未知の量を取り出す、実験的な使い方である。

ポイント

  • 行路差は隣の面まで潜って戻る 2d sinθ
  • 強め合う条件は 2d sinθ=nλ
  • 観測できる次数の上限は n ≤ 2d/λ(波長が長すぎると反射しない)
  • X 線管の最短波長は λ=hc/(eV)

よくある間違い

  • 行路差を d sinθ としてしまう(往復なので 2 倍)
  • 角 θ を面の法線からの角と取り違える(ブラッグの θ は面からの角)
  • 次数はいくらでも大きくとれると考える(sinθ≤1 の制約がある)